THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

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自動運転実用化を前に心がけたいこと

2020年最初のブログになります。本年もTHINK MOBILITYをよろしくお願いいたします。今年は日本政府が毎年発表している官民ITS構想・ロードマップの2019年版で、自家用車の高速道路での自動運転レベル3、移動サービスでは限定地域での無人自動運転レベル4の市場化・サービス実現のシナリオを描いています(自動運転レベルはいずれもSAE Internationalの定義に基づきます)。

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これに先がけて国土交通省では昨年5月、安全な自動運転車の開発・実用化・普及を図るため、道路運送車両の保安基準の対象装置に「自動運行装置」の項目を追加するなど、道路運送車両法の一部を改正する法律を公布しました。ただ施行するには保安基準の内容を詰めて行く必要があるので、細目を定める告示の改正を検討しており、現在パブリックコメントを募集しています。



内容が膨大なので、ここで全部を記すことは避けます。くわしくは国交省の資料を見ていただきたいのですが、今回は自家用車の高速道路レベル3導入に際しての内容がメインで、自動運行装置作動中に条件を満たさなくなる場合、人間のドライバーに運転操作の引継ぎを促す警報を発し、引き継がれない場合は停止するようにしたり、自動運行装置に関する各種情報を記録できる作動状態記録装置の用意、自動運行装置を備えている車両外部にその旨を示すステッカー貼付を求めたりしています。

パブリックコメントは1月 24 日必着となっており、結果を踏まえて法律が施行される見通しです。すでに自動車メーカーの中には、法改正を見越してレベル3対応の車両を発売予定という報道もあります。その前にもう一度、このレベル分けをおさらいしておきたいと思います。

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下に掲げた表は、官民ITS構想・ロードマップに掲載していたものです。0から5までの自動運転のレベルの内容を見ると、条件がないのは自動化がまったく存在しないレベル0と、完全自動化のレベル5だけで、それ以外はすべて「限定領域」という言葉が入っていることがわかります。つまりレベル3やレベル4はいつでもどこでもというわけではありません。実際、高速道路でのレベル3は当面は渋滞時のみと言われています。

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加えてレベル3は、安全運転に関わる監視・対応主体はシステム(AI)としつつ、作動継続が困難な場合は運転者(人間のドライバー)という微妙な立ち位置になっています。このレベルだけ2つの限定領域が存在しているわけです。以前から一部の関係者はこの曖昧な点に懸念を示しており、自動車メーカーの中にもレベル3はスキップしてレベル4を目指すというところが出てきました。

日本を含めた世界各地で実験走行が行われている無人運転シャトルは、乗用車のようにレベル1〜2〜3とステップアップしたものではなく、最初からレベル4相当の技術を搭載しており、現在はオペレーターが乗務し限定領域で低速走行するレベル3にレベルダウンさせて走っています。こうした技術展開のほうが安心できると思う人もいるのではないかと思います。

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すべての道ですべての人が運転から解放される世界こそ理想。そう思う人は多いでしょう。しかしWHO(世界保健機関)の2018年の統計によると、世界では24秒にひとりの割合で交通事故で命を落としているそうです。完璧な自動運転の実現には、こうした事例を逐一フォローしていく必要があります。普通の人がマイカーで運転せずに好きな場所まで行けるというのは遠い未来の話であり、決められたルートを低速で走行する無人運転移動サービスのほうが、はるかに現実的であることが想像できます。

いずれにしても今年は、順調に行けば自家用車の高速道路での自動運転レベル3と、限定地域でのレベル4無人運転移動サービスが実用に移される予定です。その状況を見つめながら、ひとりでも多くの人に正しい情報を理解してもらうべく、分かりやすい言葉での説明を心がけていきたいと思っています。

TOKYO 2020の年を迎えて

今年最後のブログなので、来年開催される東京オリンピック・パラリンピック関連の話題を取り上げます。東京五輪ではマラソンと競歩が札幌開催に変わるという波乱もありましたが、先日新国立競技場が完成するなど、パラリンピックを含めて準備は着々と進んでいるようです。それとともに会期中の交通対策の検討も進んでいることが、TOKYO 2020のオフィシャルサイトを見ると分かります。

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その内容について、世界を代表するメガシティでの開催という点で共通する2012年ロンドン大会と比較をまじえながら、自動車メディアMOTAで執筆しました。詳しくは記事を見ていただきたいのですが、ロンドンの公共交通は他の多くの欧州都市と同じようにロンドン交通局が一括して運営しているうえに、同じ組織が道路交通も管轄するという優位性はあります。またロンドン大会では観戦チケットに公共交通の1日乗車券が付いていました。これは東京でも実現してほしいサービスです。

一方で東京にも強みはあります。そのひとつが首都高速道路です。欧州の都市は一般的に首都高速のような道路は持たないので、ロンドンでは一般道路の一部をオリンピック・ルート・ネットワークに指定し、専用レーンや優先レーンなどを用意して対処したそうです。首都高速は有料であり、交差点がなく、歩行者や自転車が通らないので、交通のコントロールがはるかにしやすいことは誰でも予想できます。個人的にも首都高速の活用には賛成します。

組織委員会では一般道路で大会前の交通量の10%減、首都高速は競技会場が集中したり通過交通が多く混雑したりする重点取組地区とともに30%減を目指しているそうです。ところが今年の夏に行った実験では、一部の入口閉鎖や料金所ゲート制限、環状7号線内側の一般道の通行制限などの規制を行ったうえに、企業などに混雑緩和に向けた取り組みのお願いをしたにもかかわらず、結果は約7%減に留まりました。

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この数字、移動者のほうにも原因があると思っています。今年、関東地方を相次いで襲った台風で、交通事業者が計画運休を発表したのに、出勤しようとする人々で各地の駅が大混雑しました。事前に運休が分かっているのに会社に行く。あるいは出社を命じる。こうした考え方が来年も引き続き残るようでは、どんな素晴らしい対策を行っても混乱は間違いないでしょう。

ロンドン大会のモビリティマネジメントは多くの人が評価していますが、資料を調べると、1日乗車券の用意や自転車レーンの整備などに加え、多くの住民がオリンピック・ロード・ネットワークの存在を理解し、約150万人がテレワークに切り替えたという記録が残っています。多くの人々が、選手や関係者とは違う形で大会に参加しようという気持ちだったのではないでしょうか。東京大会のモビリティシーンもこのような雰囲気になってほしいと願っています。

*次回は2020年1月11日更新予定です。良いお年をお迎えください。

顔認証とモビリティの相性

12月10日から大阪メトロで、日本の鉄道では初めて顔認証を用いた次世代改札機の実証実験が始まりました。実験期間は2020年9月30日までの予定で、長堀鶴見緑地線ドーム前千代崎駅、中央線森ノ宮駅、堺筋線動物園前駅、御堂筋線大国町駅の一部の改札口付近で、大阪メトロ社員を対象としたものです。

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大阪メトロでは2024年度に全駅で顔認証によるチケットレス改札の導入を目指しているそうで、今回は実用化に向けた課題抽出や検討基礎データを取得するとのことです。4駅としたのは、協力企業が4社あるからで、4駅それぞれで異なる改札機を試験導入することで、機能性や利便性でデザインについて比較検証していくとしています。

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導入目標時期から考えても、2025年の万博開催を視野に入れていることはあるかと思いますが、大阪は日本で初めて自動改札機を導入した地でもあります。交通分野に関して先進的な考えを持っている人が多いのかもしれません。

私はまだ実験現場を見たことがなく、そもそも大阪メトロ社員ではないので利用できないですが、11月27〜29日に千葉県の幕張メッセで開催された鉄道技術展に、今回大阪メトロの実験に協力した企業を含め、いくつかの企業が顔認証の展示を行っていたので、展示物を見るとともに担当者に話を伺いました。

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顔認証は米国や中国などが進んでいるようですが、わが国でも近年、オフィスや空港のセキュリティゲートで導入が進んでいます。今回の大阪メトロの実証実験は、こうした場での経験を応用したもので、改札口をオフィスや空港のゲートのに見立てて稼働させるものです。

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個人情報漏洩が気になる人もいるでしょう。実際わが国でも、大手タクシー配車アプリが乗客の顔を無断で撮影し、広告配信に利用していたうえに、政府の個人情報保護委員会からの指導に迅速に対応しなかったために、再度指導を受けるという事例がありました。顔認証先進国と言える米国や中国でも、情報漏洩による問題が起きており、日本はデータセンターの信頼性やハッカー対策で弱い面があるので、心配はしています。

しかしながら、私たちが家から一歩外に出ただけでも顔情報は外部に漏洩しており、スマートフォンでアプリを使用すればその情報は通信会社が把握しています。現代社会で一般的な生活を送る限り、何かしらの情報が流出するのは当然のことと考えるべきでしょう。大切なのは、パブリックな情報とプライベートな情報を線引きし、後者については厳重に保護をしたうえで、パブリックな情報は利便性や快適性のために活用していくことではないでしょうか。

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個人的には現在使っているiPhoneが顔認証なので、抵抗感はありません。むしろ利便性を感じています。指操作なしに操作できるのは便利だからです。鉄道の改札口についても、従来は切符やIC乗車券などを取り出す必要がありましたが、顔を見せるだけで通過できるようになれば、両手に荷物を持っている際など便利に感じるでしょう。車いすやベビーカー、松葉づえなどの利用者にとっては大きなバリアを除去する働きがあることも見逃せないと思っています。