THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

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数年前に鉄道専門誌に記事を書いたこともある、石川県の北陸鉄道の鉄道路線。金沢市から北へ伸びる浅野線と、南へ向かう石川線があります。このうち石川線については少し前から、鉄道のまま残すか、BRT(バス高速輸送システム)に転換するかという議論が続けられていましたが、先月末に沿線自治体などが出席した会議で、鉄道として存続させるという方針が出されました。

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理由として挙がっているのが、運転士不足です。BRTに転換したほうがコストが抑えられるそうですが、ドライバーがいないのです。鉄道での存続が難しければバスに転換、という解決策が常識だと思っている人にとっては、意外な結果だったかもしれません。

最近の地域鉄道のBRTへの切り替え事例としては、災害で不通となっていたJR九州日田彦山線の一部区間を転換した「BRTひこぼしライン」があります。ただしここは、線路を復旧させるのに多大な費用が掛かるうえに、運休前の2016年度の輸送密度が1日あたり299人にすぎなかったので、バスでも問題なく運べそうという想像ができます。

しかし石川線は災害で被害を受けたわけではなく、線路や駅は残っています。しかも昨年度は1年間で97万8000人の利用がありました。1日平均で2679人を運んでいるわけで、昨年話題になった1日1000人のボーターダインは余裕でクリアしています。路線バスの乗車定員は大型でも85人ぐらい、石川線を走る2両編成の電車の定員は250人なので、単純計算でも運転手が3倍必要になります。

現在、全国でバスの運転手が不足しており、そのために減便等が行われているという話はよく聞きます。石川線の利用者数を見れば、運転士不足のために運転本数を減らしたりすると、ただでさえ鉄道より輸送力が小さいので、たちまち交通混乱を引き起こす可能性があります。これは石川線に限った話ではなく、相応の利用者がいる鉄道に共通したことです。鉄道が厳しいからバスにする、という単純な図式ではなくなっているのです。

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こうした背景から鉄道の存続が決まったわけですが、何もしなければ数年後に同じ議論が再発し、鉄道もBRTも無理ということで、この地域を走る公共交通の柱が消える可能性もあります。つまり残ったレールの活用が大事になります。ここで提案として上がったのが、ひとつは以前から計画のある、金沢側の起点である野町駅(上の写真)から線路を延ばし、繁華街の香林坊を通り、金沢駅を抜けて金沢港へ達するものです。もうひとつは、JR西日本北陸本線との接続駅である新西金沢駅(下の写真)からJRに乗り入れて金沢駅に向かうというものです。

たしかに以前利用したとき、新西金沢駅でJR(西金沢駅)に乗り換える人が予想以上に多いことに驚きました。しかもここで接続する路線は、現在はJR西日本ですが、来年3月の北陸新幹線敦賀延伸にともない、第3セクターのIRいしかわ鉄道に転換することが決まっています。石川線と北陸本線では、車両規格や電化方式、最高速度などいろいろな面が違うので、すぐに乗り入れできるわけではないですが、第3セクターは自治体が運営に関わるので、歩み寄りが期待できます。

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いずれにしても重要なのは、公共交通がこれまで不得手としており、マイカーの長所のひとつでもあった、シームレスな移動です。とりわけ石川線の沿線にある野々市市は、人口増加が続いており、若年層が多く暮らしているので、金沢駅や香林坊に直通で行けるとなれば、マイカーではなく公共交通で移動するようになる可能性もあります。それを含めたレールの有効活用が、これからの石川線に求められていると考えています。

今週火曜日、警察庁が悪質な交通違反をした自転車利用者に青切符(交通反則切符)を交付するなどの検討に入ったというニュースがありました。たしかに警察庁のオフィシャルサイトを見ると、「良好な自転車交通秩序を実現させるための方策に関する有識者検討会」の第1回が開催されたことが、内容とともに紹介されています。

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これも警察庁のサイトに出ている、今年7月末時点での交通事故発生状況は、前年同期と比較すると、発生件数、死者数、負傷者数のいずれも増加しています。コロナ禍が一段落したあとの行動制限緩和が原因と言われていますが、深刻に考えなければいけない状況です。ただその中で、歩行中、自動車乗車中、二輪車乗車中の死者はいずれも増えているのに対し、自転車乗車中は唯一減少しています。4月からのヘルメットの着用努力義務化が効果を発揮しているのかもしれません。

ではなぜヘルメット着用義務を導入した直後に、こうした話が出てきたのでしょうか。このブログでも以前書いたとおり、ヘルメットを着用しても悪質な違反がなくなるわけではないからでしょう。たしかに検討会で配られた資料によると、近年自転車関連の事故件数は微増、自転車対歩行者(第1・第2当事者の合算)の事故件数については急増と言っていい状況です。しかも自転車乗用中の死亡・重傷事故件数のうち、約4分の3は自転車側にも法令違反があったという結果も出ています。

警察庁でもこれを受けて、5月30日に全国一斉の指導取り締まりを行ったりしています。今回の検討会はその流れの上にあると考えています。個人的には賛同すべき動きです。自転車のルールがここまで守られない理由は、以前も書いたように自転車が一部の歩道を走っても良いという世界的にも珍しいルールがあるために、車道も歩道も走っていいという「なんでもあり」状態になっていることが大きいと感じています。こうした状況を変えていくために、取り締まりを始めていくのは妥当です。

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警察庁の有識者会議を紹介するページはこちら

ただしもちろん、これですべてが解決するとは考えていません。検討会の資料でも、国民へのアンケート結果として、もっとも多かったのは悪質な違反者への指導・取り締まりでしたが、これだけが突出しているわけではなく、自転車の走行空間の整備、交通ルール自体の広報啓発という意見も多く出されているからです。個人的にもインフラと教育は取り締まりと同じぐらい、あるいはそれ以上に重要だと思います。 これも何度か書いてきたことですが、

インフラについては自転車専用の走行空間の整備を急ピッチで進めてほしいものです。道路を管轄する国土交通省は、「ほこみち」など歩行者空間の充実については熱心なので、ぜひとも自転車をはじめとするパーソナルモビリティについても、「おそみち」などのような形で急ピッチで整備を進めていってほしいものです。

もう一つの教育は、以前このブログで紹介したフランスの実例を参考にしてほしいと考えています。つまり運転免許を2段階にして、第1段階は義務教育レベルで取得してもらうという仕組みを作ることです。そうすればこのルールの中で取り締まりや青切符などの運用ができます。

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令和4年度交通安全フォーラム開催結果のページはこちら

今年1月、内閣府が主催する「交通安全フォーラム」に、パネリストのひとりとして出席したことは前にも触れましたが、そこに参加した神奈川県の高校生たちが、電動キックボードを安全に利用するために大事なことととして多かった意見が、専用レーンの整備と学校などでの安全教育でした。現役の高校生から「勉強したい」という声が出たことは驚きでもあり、喜びでもありました。ぜひともこの声を、自転車環境整備にも生かしていってほしいと思います。

芳賀・宇都宮LRTが今日開業しました。私は現場に行きませんでしたが、10年以上前から何度か現地に足を運び、国内外の状況を見てきた経験を踏まえたうえで、「鉄道ではなく、路面電車でもない、これがLRT」という表現が的確だと思っています。ちなみにこの言葉、長年にわたり広島電鉄に勤務し、現在は運行事業者である宇都宮ライトレール常務の中尾正俊氏が、以前お会いしたときにお聞きしたもので、共感したので使わせていただきました。

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軌道系公共交通を表す言葉としては、LRT以外に路面電車やトラムなどがあります。ただ路面電車は昔からある路線や車両がベースであり、欧州のトラムは新規路線もありますが、以前からある軌道をベースに車両や運営などをアップデートしたものも多数あります。これに対してLRTは、今の時代の都市型公共交通を考えたとき、既存の鉄道より小回りのきく軽量車両をひんぱんに、こまめに停車させながら走らせるという考えから出てきたもので、結果は似ていますが出発点は違うと思っています。

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LRTが英語であり、北米で生まれた概念であることは、以前もブログで紹介しました。日本以上のクルマ社会である北米で、行きすぎたクルマ社会によって生まれた課題に対処するために生まれた都市交通だと認識しています。ということもあり、自分が見てきた海外の事例の中では、MAXライトレールと名乗っている米国オレゴン州ポートランドのそれが、宇都宮ライトレールに近いと感じています。

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MAXライトレールは現在5路線で総延長100km弱と、規模はかなり大きいですが、まちづくりのためのツールとして新規に走り始め、都市と郊外を結び、路面以外を走る区間も多く、大学やスポーツ施設、企業施設の近くを通り、トランジットセンターでバスとの接続を行うなど、共通点は多々あります。ポートランドにはこれ以外に、都心を巡るストリートカーもあって、こちらが路面電車に近いので、ライトレールはもっと広い意味での都市交通であることが伝わってきます。


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ノスタルジーが入り込む要素がないことも、LRTと路面電車の違いです。なので路面電車の新設路線としては75年ぶりという報道より、首都圏で18年ぶりの新規事業者による路線開業というニュースのほうが、実体を捉えているような気がします。ちなみに18年前に開業したのはつくばエクスプレスであり、宇都宮ライトレールはつくばエクスプレスをダウンサイジングしたような感じがします。その点でもLRTという新しいワードが似合っています。

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最近になって新しいモビリティサービスが続々登場していることを含めて考えれば、すべての都市にLRTがふさわしいとは思いません。ただ世界的にもハイペースで人口減少と高齢化が進んでいることを考えれば、宇都宮市も提唱しているコンパクトシティ、つまり一定の場所に人を集めて生活することが行政サービスなどの点から重要です。それに適したモビリティツールとしてLRTは有効であり、すでに動き始めているまちづくりが今後どうなるか注目しています。

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