THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

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正着性の重要性

先月、日野自動車が安全・自動運転技術の説明会を開きました。今回は大型バスの衝突被害軽減ブレーキとドライバー非常時対応システム、大型トラックの隊列走行、路線バスの正着制御を見学あるいは試乗しました。当日の模様はモビリティメディア「ReVision Auto&Mobility」で報告しているので、興味のある方はご覧いただきたいのですが、中でも路線バスの正着制御技術が印象に残りました。

バス正着制御2
ReVision Auto&Mobilityの記事=https://rev-m.com/self_driving/hino20180618/

正着という言葉はさまざまな分野で使われますが、モビリティの世界ではバスの停留所に車両を隙間なく停めることで、日野では路面に描いた2本の点線を車体前部のカメラで認識して自動操舵、自動減速していました。フランスのルーアンなどで以前から実用化されている操舵技術に、自社の制動技術を組み合わせたそうで、当日の実演では車いすがそのまま乗り降りできました。

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バス運行事業者の多くが経営に苦しみ、運転士不足に悩んでいることは以前も書きました。このうち後者については、多くの人の命を預かる仕事であるうえに、路線バスでは信号が続く都市部や狭隘な山道などを走り、停留所では車体を路肩に寄せ乗客対応を行うという業務内容を大変に思う人もいるようです。正着制御があれば、このうちのひとつが解消されることになり、運転士というハードルは少し下がるのではないかと期待しています。

もちろん正着性はユーザーにもメリットがあります。車いすやベビーカーの利用者でもライトレール並みに楽に乗り降りでき、ユニバーサル性が高まります。高齢ドライバーからは、公共交通での移動は上下移動も多く、足腰が弱った身には辛いので自動車を運転し続けているという声も聞きます。高齢者の移動を公共交通に転換してもらうためにも、正着性は重要な技術と言えるでしょう。

正着制御と車いす

我が国ではソフトバンク・グループのSBドライブも、独自技術で正着制御の開発を進めていますが、それに加えてバスメーカーの日野がこの技術に取り組み、実用化一歩手前のレベルにまで仕上げたことは、世界屈指の高齢化社会を持つ我が国のモビリティシーンにとって朗報だと思います。もちろん技術ですべてを解決できるわけではありませんが、社会問題に真摯に取り組み迅速に対応する姿勢に好感を抱きました。

地方鉄道の「見せる力」に期待する

先月仕事で関西を訪れた際には、今年3月から京都市の叡山電鉄で走り始めた「ひえい」も見てきました。ひえいは叡山電鉄が属する京阪グループが比叡山・琵琶湖への観光ルート活性化の一環として製作した車両で、特別料金は取らず、他の車両に混じって出町柳〜八瀬比叡山口間を走っています。

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外観は何と言っても前面の金色の楕円形が目を引きます。沿線の神聖な空気感や大地の気などをイメージしたそうです。ただ車体の緑を含めて派手ではなく、実車は想像以上に落ち着きがありました。横の窓も楕円で統一してあり、こだわりが伝わってきました。車内のカラーコーディネートも外観と同様で、座席はひとり掛けとして座り心地にこだわり、優先スペースは色違いのヘッドレストと長めの吊り革で識別できます。ドアの上の乗り方案内や運賃表・路線図もスマートにまとめてありました。

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ところでこの車両を形式名ではなく「ひえい」という名前で紹介したのには理由があります。新型車ではなく改造車だからです。1987年に登場した700系をベースに1両だけ作られたもので、その700系は1950年代以前の旧型車の機器を用いて生まれました。700系になってから機器を入れ替え、今回車体を作り変えたという変遷を辿っているのです。

地方鉄道ではこうした形で新しい車両を生み出す例が多く見られます。JR九州の「或る列車」や「はやとの風」などののD&S(デザイン&ストーリー)列車は有名で、多くは特別料金を必要としますが、ひえいと同じように通常料金で乗れる車両も、猫の駅長たまをモチーフにした和歌山電鐵「たま電車」、0系新幹線をイメージしたJR四国「鉄道ホビートレイン」などがあります。

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なぜ新型車ではないのかは説明するまでもないでしょう。費用を出せないからです。欧州のように地方鉄道も自治体が運営主体となれば、税金などを投入して新型観光車両を導入できるでしょう。かつて訪れた南仏ニースのプロヴァンス鉄道はそうでした。それでも叡山電鉄は実績と経験のあるデザイン会社(GKデザイン総研広島)を起用しており、デザインにコストを掛けて良いものに仕上げようという姿勢は感心しますし、その気持ちは観光客に響くはずです。

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ただし現在の日本の観光車両は、多くが水戸岡鋭治氏のデザインであることも事実です。彼の作風を否定するわけではありませんが、似たような雰囲気の車両が増えているという印象を持つ人もいるでしょう。日本には数多くのデザイナーがいます。未知のクリエイターに形を委ねるのはたしかにリスクが伴うかもしれませんが、鉄道会社には勇気を出して新しい可能性に挑戦してもらいたいと思います。

高齢化社会を見据え小さな車の復権を

高齢者の移動にまつわる問題では、先月末に神奈川県茅ヶ崎市で起きた90歳女性運転の乗用車による死亡事故で、ふたたび議論が高まるようになりました。そんな中、私も会員になっている「日本福祉のまちづくり学会」の地域交通を専門とするメンバーが昨日集まり、他の組織とともに議論を行いました。

この席でまず話題になったのが超小型モビリティです。我が国では2013年に国土交通省が超小型モビリティ認定制度を発表しましたが、5年経った今も独自規格が作られず、伸び悩みという状況に陥っています。しかし超小型モビリティの小さく軽く遅いという特性は、20世紀の自動車の価値基準では短所でしたが、環境問題や高齢化問題などに直面する現在では逆に長所だと考えています。

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日本福祉のまちづくり学会ウェブサイト=http://www.fukumachi.net

現在の道路交通の流れに乗れることは、複数の車両に乗って確認済みです。しかし高速道路は走行できないので、過剰な力は備えていません。仮に操作ミスで暴走しても勢いはほどほどです。しかも重量は現在の軽自動車の半分以下なので、衝突時の衝撃も抑えられます。欧州では地方の高齢者が超小型モビリティを利用していますが、この特性を理解したうえでの選択であれば、素晴らしい見識だと思います。日本でも今一度このカテゴリーに注目すべきではないでしょうか。

もうひとつ、超小型モビリティは高速道路を走行しないので、衝突安全基準がさほど厳しくありません。ゆえに自由なデザインが可能となります。たとえばIT先進国エストニアで開発されたレトロデザインの三輪電気自動車「Nobe」は、デザイナーが欧州の昔の超小型モビリティをヒントにしたと言っており、このクラスを前提として作られたことが想像できます。

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Nobeのウェブサイト=https://www.mynobe.com

昨日の席では茅ヶ崎の死亡事故で女性が運転していた20年以上前の日産プリメーラも注目されました。このプリメーラは2Lエンジンを積みながら5ナンバーサイズに収まっています。最近の乗用車はモデルチェンジのたびに車体が大きくなるので、買い替えせずに乗り続ける高齢者が目立つという報告がありました。安全性を高めた車両を発売しても、もっとも必要とされる人々に行き渡らないという状況があるようです。

自転車やライトレールなど小さく軽く遅い乗り物が再評価され、旅客機や高速鉄道の速度競争も一段落している昨今。乗用車だけがより大きく、より速くを是とし続けているように見えます。社会状況の変化に即したビジョンを期待したいところです。もちろんこれ以外にも、高齢者の移動にまつわる問題は山積しています。日本福祉のまちづくり学会では、今年8月に神戸市で開催される全国大会をはじめ、各所でこのテーマについて提言していきたいと考えています。
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