THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

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人が主役の神戸都心まちづくり

先月は浜松、富山、そして神戸で講演があったので、短時間でしたが各都心を散策してきました。今回は12月8日まで開催されたグッドデザイン神戸展で訪れた神戸の都心・三宮に触れます。当日は神戸市役所の方々も多く来ていただき、情報交換の中で再整備を進めていることを教えていただきましたが、実際に三宮からウォーターフロントの会場に向かう道でも、いくつか発見がありました。

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まずはJR神戸線三ノ宮駅通路に掲げられていたイラストから紹介します。今は下の写真のように広い車道が交わる交差点を、歩行者中心の空間「三宮クロススクエア」に生まれ変わらせる計画があるようです。歩行者空間にはBRTあるいはLRTが乗り入れ、トランジットモールを形成する様子が描かれています。日本の大都市の中心部がここまで歩行者優先というのは例がなく、実現すれば画期的な場になることは間違いありません。

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一部の道ではすでに改革が実行されていました。メインストリートのフラワーロードに並行して三宮からウォーターフロントに伸びる「葺合南54号線」では、車線や停車帯を減らし、車道は細くカーブさせることで自動車の速度を落とす一方、新たに生まれた空間を歩行者のために配分していました。広がった歩行者空間にはベンチも置かれ、憩いの空間になっていました。

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グッドデザイン神戸展の会場だったデザイン・クリエイティブセンター神戸は「KIITO」という愛称が示しているように、1927年に輸出生糸の品質検査を行う施設として作られた建物を用いています。隣には同じ1927年に完成した神戸税関もあり、長い歴史を持つ港町らしい趣のある地域でした。いずれも三宮からは1km近い距離がありますが、だからこそ単なる歩道ではなく、休みながら目的地を目指すことができるこのような道はありがたいと思いました。

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三宮へ乗り入れる既存の鉄道にも動きがあります。新幹線新神戸駅と六甲山北側の神戸電鉄谷上駅を結ぶ北神急行電鉄が、来年から神戸市営地下鉄と一体化されます。これまでも列車の乗り入れはしてきましたが、来年からは運賃も一体となるので、谷上〜三宮駅間は大幅値下げになります。さらに阪急電鉄の神戸三宮駅周辺が地下化され、地下鉄と乗り入れる構想もあります。実現すれば市北西部のニュータウンから大阪まで乗り換えなしで行けることになりそうです。

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神戸市は近年人口減少に悩んでおり、2015年には福岡市、今年は川崎市に抜かれました。前述の交通網整備はそれが理由であることは明らかですが、一方で都心ではタワーマンションの規制に乗り出すなど、闇雲に発展を目指しているわけではないようです。むしろ三宮周辺の動きを見ると、暮らしやすさ、居心地のよさを第一に考えている感じを受けます。「人が主役のまち」を目指す神戸の動きに、これからも注目していきたいと思います。

イケバスに乗る

11月27日から東京都豊島区の池袋エリアで走り始めた低速電動バス「イケバス(IKEBUS)」に乗ってきました。イケバスは豊島区と高速バス運行で有名なWILLERの共同事業で、デザインは池袋近郊に事務所を構え、国内各地の観光鉄道のデザインでおなじみの水戸岡鋭治氏が担当し、以前このブログでも紹介した群馬県桐生市のシンクトゥギャザーが開発した車両をベースとしています。

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イケバスは単なる公共交通ではなく、豊島区がまちづくりの一環として導入したものです。同区ではこの秋、区役所旧庁舎・旧公会堂跡地を活用して複合施設「Hareza(ハレザ)池袋」を一部オープンしており、テレビドラマ「池袋ウエストゲートパーク」の舞台としても知られる池袋西口公園は「劇場公園」としてリニューアルしました。来年はサンシャインシティ裏の造幣局跡地に防災公園が開園します。イケバスはこれらの拠点をめぐるモビリティとして導入されたのです。路線バスとして使いつつ、保育園送迎などの貸切利用に対応している点も注目です。

運行ルートや時刻表は専用ウェブサイトに載っているので、それを頼りに平日乗りに行きました。特に調べもせずに池袋駅西口に降り立ったのですが、真っ赤なバス停のおかげで乗り場はすぐにわかりました。車体も同じ赤色で、遠くからでも識別可能でした。新しいモビリティでは大事なことです。車内はまさに水戸岡ワールドで、天然素材を多用し、手作り感にあふれた、凝った作りでした。また車体後部には車いす用リフトを用意しているので、車いすでのアクセスは既存の多くの路線バスよりもスムーズにこなせそうです。

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イケバスは国土交通省が制定したグリーンスローモビリティの車両を使っており、最高速度は時速19キロとなります。東京都内の道でこのスピードが他の交通の邪魔にならないか気になりましたが、そもそも駅前や繁華街の狭い道では、時速20キロ以上出せるような状況ではありませんでした。むしろ電動なので静かに進めるメリットの方が印象に残りました。

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一方大通りは、多くの場所が複数の車線を持つので追い越し可能であり、グリーンスローモビリティが走っていることが知られれば、問題にはならなそうでした。ひとつ気になったのは池袋駅東口と西口を結ぶ陸橋で、片側1車線なので後方に車列を作りがちでしたが、この道路の制限速度は30キロであり、近くに大きな陸橋があるので、急ぐ人はそちらを使えば良いと思いました。

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料金は大人200円、子供・高齢者・障害者は100円で、多くのコミュニティバスが大人100円で乗れることを考えると割高に感じる人がいるでしょう。水戸岡デザインの特別仕立てのバスであることを、もっとアピールする必要がありそうです。さらに各種経路案内でのルートで紹介されれば、池袋駅から歩いて10分ほどかかるサンシャインシティに行く人の利用が増えるでしょう。

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池袋は、今年4月に起きた高齢ドライバーによる暴走死亡事故が起こった場でもあります。イケバスも事故現場の交差点がルートに含まれています。計画時点では想定しなかったことですが、あの事故が起きたことで、ゆっくり走る乗り物、高齢者の移動を補助する乗り物に対する好感度が増していることが予想されますし、そうであれば池袋はイケバスのような低速電動モビリティ導入の舞台としてふさわしいと感じました。

日本のモータウン再興に期待

前回の富山と順序が逆になりましたが、今回は2週間前に特別講座のために伺った浜松について感じたことを書きます。特別講座の会場は静岡文化芸術大学。浜松駅から1.2kmほどの場所なので、前回訪れたときは徒歩で向かいましたが、今回は路線バスを使い、帰りは大学の先生方と歩いて駅を目指しました。

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そのときに気付いたのは、歩道の広さでした。浜松市は以前からユニバーサルデザインに注力しており、大学周辺は2000年の開学に先駆けて区画整理事業が行われたためもありますが、車道に対して歩道が広く取ってあり、土地勘がない自分のような人間でも安心して歩くことができました。

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今回の特別講座では隣の磐田市に本社があるヤマハ発動機デザイン本部長の長屋明浩氏に同席していただきました。また浜松市に本拠を置くスズキの方々にも参加していただきました。この2社は、先月から今月にかけて開催された第46回東京モーターショーで、ともに歩道領域の電動パーソナルモビリティを展示したことでも共通しています。

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新しいモビリティを導入するためには、一定条件での実証実験が必要です。もちろんその後、本格的な導入につなげていくことが大切ではありますが、車両の製造企業が地元にあり、ふさわしい道路もある浜松は、歩道領域の電動パーソナルモビリティの実証実験を進めるのに最適なフィールドではないかと思います。

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この種のモビリティは個人所有のほか、たとえば東京や名古屋から静岡文化芸術大学に行きたいが足腰が弱く歩く自信がないという人などのために、シェアリングの可能性も考えられます。幸いにして浜松市などで鉄道やバスを運行している遠州鉄道は、小田急電鉄が今秋サービス開始したMaaSアプリ「EMot」を導入しました。これのサービス範囲をパーソナルモビリティにも広げれば、浜松市内での行動範囲がさらに広がることでしょう。

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もちろんこれは大手メーカーに限った話ではありません。浜松市は第二次世界大戦直後、多くの二輪車メーカーが誕生したことから日本のモータウンと言われています。現在も関連企業が多く存在しており、技術力を生かして車いすの製造などを行っています。スモール&スローなモビリティに注目が集まる今だからこそ、豊富なものづくり経験を持ち、走らせる場にも恵まれた浜松で、普及に向け先陣を切ってほしいと、久々にこの街を訪れて感じました。