THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

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電動化、自動化、そして低速化

新型コロナウイルスの感染拡大で、自動車業界も販売台数の減少、工場の操業停止など、さまざまな影響を受けています。そんな中でも電動化や自動化の流れは着実に進んでおり、この2つに関連した新たな流れも生まれつつあります。

まずは電動化です。ACEA(欧州自動車工業会)が今月12日に発表した今年1〜3月の乗用車登録台数によると、多くの国で3月から外出規制などが導入され、大部分の販売店が閉鎖されたこともあり、ディーゼル車は前年同期に比べて32.6%、ガソリン車は32.2%減少しました。ところが電気自動車(EV)は68.4%、プラグインハイブリッド車(PHV)は161.7%と、ともに大幅に増加しているのです。通常のハイブリッド車も45.1%の伸びを示しています。

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ACEA = https://www.acea.be(グラフではEV+PHV=ECVとして表しています)

英仏両国をはじめいくつかの国で、将来エンジンのみで走る自動車の走行を禁止する予定があることに加え、外出規制によって大気汚染が緩和されたこと、EVやPHVであれば給油のために外出せず自宅でエネルギー補給ができることなど、いくつかの要因が考えられます。

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自動運転については以前から国内外で実験が続いており、タクシーを使った商用化はグーグルから独立したウェイモが2018年に実現。昨年は運転手がいない無人運転も導入していますが、自家用車については今年4月1日、自動運転レベル3の車両が公道を合法的に走れる法律が日本で施行されました。交通ルールについては欧米に比べて遅れているという部分が多い我が国だけに、意外に思った人も多かったようです。

ウェブサイト「FORZA STYLE」で記事にもしたこちらは、高速道路の渋滞時に限られているので、一部の地域でまだ緊急事態宣言が継続している現状にマッチしたものではありませんが、我が国の公道で合法的に自動運転レベル3の自家用車が走るということは、レベル4の移動サービスなど他の分野の自動運転普及にも役立つはずです。



ちなみにその移動サービスについては今月12日、国土交通省と経済産業省が同時に「自動走行の実現に向けた取組報告と方針」Version4.0をまとめています。そこでは低速の生活道路やBRTなどの専用道路で遠隔による操作・監視、中速の道路ではオペレーター同乗での自動運転サービスを始め、前者については遠隔監視のみに進化したうえで、2025年度に複数の場所での展開を目指しているそうです。

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そんな中、今週20日にはスウェーデンのボルボ・カーズが、今後販売するすべての新車に時速180kmの最高速度制限を導入するとともに、最高速度をさらに低く設定できるケア・キーを導入すると発表しました。技術は昨年発表済みで、そのときに「東洋経済オンライン」で記事にしましたが、EVは高速時の電力消費量が大きくなり、自動運転は基本的に制限速度に沿って走ることを考えれば、ボルボがこだわる安全性向上以外にも納得できる部分が多いと思っています。



そしてもうひとつ、この時期に発表されたこのニュースからは、今が移動を変える好機であるという空気感も伝わってきます。とりわけ欧州は少し前のブログで紹介したパリの自転車政策もそうですが、これを機に安全と環境にこだわった移動に転換していこうという意志を感じます。電動化や自動化もその道に沿ったものであり、コロナと共存しながら地道に準備や整備を行っていくことは、収束後に心地よいモビリティを実現するうえで重要だと思っています。

今が一極集中是正の好機

新型コロナウイルス対策の非常事態宣言が39県で解除になり、今なお非常事態宣言が続くのは北海道と首都圏1都3県、関西圏2府1県になりました。このうち北海道は今週末、札幌市などが位置する石狩振興局以外で法令に基づかない商業施設や飲食店の休業要請を解除し、大阪府でも「大阪モデル」と名付けた独自の指針に基づき、同様の解除や緩和に踏み切りました。

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東京都も昨日ロードマップを発表しており、近々具体的な動きが出てくる可能性もあります。ただ先月欧米の事例を紹介した時にも書きましたが、収束や出口には程遠く、「コロナとの共存」がしばらく続くと認識しています。また今回は多くのことがまだ解明されておらず、現時点で正解とはなく、自粛緩和についても賛否両論があるのは当然です。それでも感染が始まった頃に比べると対策のノウハウは確立しつつあるので、それらを参考に各自が対策していくのが最善の策だと思います。

もっとも現時点で分かっていることもあります。収束後の大都市の生活がかなり変わることはそのひとつです。多くの職場でリモートワークが進んでおり、それに対応してオフィスの縮小や撤去を進めた企業もあります。大幅な経費節減ができるのですから当然でしょう。つまり「会社に行くことが仕事」というスタイルは通用しにくくなっているのです。ゆえに都心の商業施設や飲食店は、コロナ前の需要を取り戻すのは難しく、高い土地代が負担になりそうです。

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住む場所についてもそうで、テレワークがメインになれば都心に近い必要はありません。2拠点生活(デュアルライフ)も同じで、この言葉自体すっかり見なくなりました。逆に書斎が必要になったりすることを考えると、手頃な予算で広い住居が手に入る郊外や地方に住む人が増えるでしょう。すでにニュースではいち早く生活を変えた人のレポートも目にします。

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ではどこに住むか。個人的に思い浮かぶのはやはり「まちづくりに熱心な場所」です。大都市のトレンドに影響されることなく、その土地ならではの個性を尊重し、公共交通などを使って誰でも楽に移動しやすく、まちなかに個性的な飲食店やリラックスできる広場などがあると、ここなら住みたいと思わせてくれますし、新たにお店を開くときの可能性も感じます。

さらに観光については、リモートワークの普及で郊外や地方への移住が進むことに加え、首都圏や関西、海外から飛行機や新幹線を使って訪れるタイプの観光は回復まで時間が掛かりそうであり、同じ県内のスポットを訪れる「近場観光」が注目されるのではないかと考えています。こうした部分を見据えた地域交通やまちづくりの整備もまた大切になると予想しています。

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一極集中是正は国レベルでもメリットがあります。今の日本は学校の再開ひとつとってもバラバラであり、それがさまざまな支障を及ぼしています。地域ごとの人口密度の差が小さくなれば、全国一斉での動きを取りやすくなるのではないでしょうか。リモートワーク同様、一極集中是正も、普及によるメリットは計り知れないと考えています。

コロナとの共存を見据えた道路再配分

新型コロナウイルス感染拡大防止のために厳しい外出規制を実施していた欧米諸国が、ここへきて規制緩和の動きを始めています。感染をある程度抑え込めているというのが理由ですが、それでも1日の死者数は米国が1200人以上、英国が600人以上です。民族性の違いを実感するとともに、約2か月規制しても収束不可能なので経済対策との共存を目指したとも考えられ、出口戦略には程遠いと理解しています。

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注目はその中で、いくつかの都市が道路の再配分に乗り出していることです。最初の3枚のイラストは以前このブログでも紹介した米国オレゴン州ポートランドの交通局が発表した「スローストリート/セーフストリート・イニシアチブ」です。現時点でオレゴン州は外出規制を続けていますが、今後の市民の交通行動の変化を見据え、いくつかのプランを提示しています。

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生活道路では市民の憩いの場を提供すべく、一時的にバリケードを設置して地元住民以外の自動車の通行を制限し、比較的にぎやかな通りでは感染防止のために歩道を拡大。イラストにはないですが自転車レーンの設置も進めていくとのことです。そしてビジネス街では交差点近くの歩道を拡大して歩行者間の距離を維持するとともに、物流のための専用ゾーンを設けていくとのことです。

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一方フランスでは、パリを中心とするイル・ド・フランス地域圏で、RER Vと名付けた広域自転車レーンネットワークの整備が決まりました。もともとこの地域圏で運行していた近郊電車ネットワークRERをモデルに、自転車を意味するveloの頭文字を加えたものです。現地の自転車愛好家からは「コロナピスト」(ピストは日本では自転車の種類として使われますが本来はトラック/競技場という意味です)と呼ばれています。
 
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この動きに対応するように、パリでは5月11日に予定される国の規制緩和に合わせ、ルーヴル美術館の北側を走るリヴォリ通りを歩行者・自転車専用道に切り替える予定です。リヴォリ通りは自分も何度も通ったことがある道なので大胆な決断に驚きましたが、パリではここを含めて50 kmの自転車レーンを新たに追加し、市境のパーク&ライド駐車場を2倍に増やすなどの対策を進めていくとのことです。

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これ以外にもポートランドと同じ米国のニューヨークでは公園の混雑緩和のために市内約100マイルの道路を歩道化するそうで、イタリアのミラノでは約35kmの道路の自動車用車線を減少し、その分を歩道の拡幅や自転車レーン設置に活用していくとのことです。
 
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公共交通での感染を警戒してマイカー移動が増えるという予想があります。しかしそれは、都心の荒廃や大気汚染を防ぐべく公共交通回帰を進めた欧米の都市にとっては後戻りになるわけで、それだけは避けたいという気持ちが、短距離移動を徒歩や自転車に移行してもらいたいという姿勢になっているのでしょう。さらに自転車については、欧米でも電動アシスト(e-bike)が増えて長距離移動が楽になったことも関係していると思っています。