THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

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グリーンスローモビリティは根付くか

今週月曜日、国土交通省の主催で、グリーンスローモビリティシンポジウムが東京で開かれました。グリーンスローモビリティというのは国交省が考え出した言葉のようで、従来は低速電動車などと呼ばれていた、最高速度20km/h未満の電気自動車のことです。また移動者本人が運転するのではなく、公共交通としての位置付けとなっています。

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国交省では、地域が抱える様々な交通の課題解決と、地域での低炭素型モビリティの導入を同時に進められることから、今年度にいくつかの地域で実証実験を行うべく、シンポジウムを開催したとのことです。講演や発表、パネルディスカッションが行われただけでなく、会場には以前ここでも紹介した石川県輪島市の電動カート、群馬県桐生市などで運行中の電動バス「eCOM」などが展示されていました。

なぜ20km/h未満かというと、道路交通法には最高速度20km/h未満の自動車について、保安基準の緩和を認めているからです。現在新車で販売される乗用車には、50km/hでの前面衝突試験などをパスしなければ販売できませんが、グリーンスローモビリティの最高速度はその半分にも満たないわけですから、当然この基準はありません。

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たしかに幹線道路では流れに乗れないでしょう。しかし生活道路では制限速度20km/hの場所もあります。観光地は景観を楽しむために、ゆっくり走る車両もあります。こうした場であれば問題ありません。低速なので衝突時の相手のダメージが抑えられ、高齢者がドライバーの場合のリスクは小さくなり、自動運転、無人運転が導入しやすいというメリットもあります。昨年紹介したスイスのシオンを走る無人小型電動バスも20km/h以下でした。

国交省では今年度、グリーンスローモビリティを用いた実証調査の企画提案を地方公共団体から募集して5件前後を採択し、車両の無償提供などの支援をしていくとのことで、8月3日12時まで応募を受け付けるそうです。ただし継続的な活動が想定できる企画であるとしつつ、実証調査期間が2週間であることなど、普及に向けて気になる点がないとは言えません。

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何度もここで書いてきたことですが、我が国の公共交通は他の事業と同じように黒字経営が求められ、赤字になれば減便・廃止という道を辿ります。当然ながら新規に車両を導入するための資金は限られています。これでは少子高齢化と過疎化が悩む地域で新規の公共交通を構築するのは困難です。欧米のように公で支える仕組みが、グリーンスローモビリティにも必要であると痛感しました。

グリーンスローモビリティというコンセプトには個人的に好感を抱いています。なので周囲の人々がこの考えを理解し、動きを後押しするよう、必要に応じて法整備を行うなどして、苦境に立たされている地域公共交通を救う存在になってほしいところです。

正着性の重要性

先月、日野自動車が安全・自動運転技術の説明会を開きました。今回は大型バスの衝突被害軽減ブレーキとドライバー非常時対応システム、大型トラックの隊列走行、路線バスの正着制御を見学あるいは試乗しました。当日の模様はモビリティメディア「ReVision Auto&Mobility」で報告しているので、興味のある方はご覧いただきたいのですが、中でも路線バスの正着制御技術が印象に残りました。

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ReVision Auto&Mobilityの記事=https://rev-m.com/self_driving/hino20180618/

正着という言葉はさまざまな分野で使われますが、モビリティの世界ではバスの停留所に車両を隙間なく停めることで、日野では路面に描いた2本の点線を車体前部のカメラで認識して自動操舵、自動減速していました。フランスのルーアンなどで以前から実用化されている操舵技術に、自社の制動技術を組み合わせたそうで、当日の実演では車いすがそのまま乗り降りできました。

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バス運行事業者の多くが経営に苦しみ、運転士不足に悩んでいることは以前も書きました。このうち後者については、多くの人の命を預かる仕事であるうえに、路線バスでは信号が続く都市部や狭隘な山道などを走り、停留所では車体を路肩に寄せ乗客対応を行うという業務内容を大変に思う人もいるようです。正着制御があれば、このうちのひとつが解消されることになり、運転士というハードルは少し下がるのではないかと期待しています。

もちろん正着性はユーザーにもメリットがあります。車いすやベビーカーの利用者でもライトレール並みに楽に乗り降りでき、ユニバーサル性が高まります。高齢ドライバーからは、公共交通での移動は上下移動も多く、足腰が弱った身には辛いので自動車を運転し続けているという声も聞きます。高齢者の移動を公共交通に転換してもらうためにも、正着性は重要な技術と言えるでしょう。

正着制御と車いす

我が国ではソフトバンク・グループのSBドライブも、独自技術で正着制御の開発を進めていますが、それに加えてバスメーカーの日野がこの技術に取り組み、実用化一歩手前のレベルにまで仕上げたことは、世界屈指の高齢化社会を持つ我が国のモビリティシーンにとって朗報だと思います。もちろん技術ですべてを解決できるわけではありませんが、社会問題に真摯に取り組み迅速に対応する姿勢に好感を抱きました。

地方鉄道の「見せる力」に期待する

先月仕事で関西を訪れた際には、今年3月から京都市の叡山電鉄で走り始めた「ひえい」も見てきました。ひえいは叡山電鉄が属する京阪グループが比叡山・琵琶湖への観光ルート活性化の一環として製作した車両で、特別料金は取らず、他の車両に混じって出町柳〜八瀬比叡山口間を走っています。

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外観は何と言っても前面の金色の楕円形が目を引きます。沿線の神聖な空気感や大地の気などをイメージしたそうです。ただ車体の緑を含めて派手ではなく、実車は想像以上に落ち着きがありました。横の窓も楕円で統一してあり、こだわりが伝わってきました。車内のカラーコーディネートも外観と同様で、座席はひとり掛けとして座り心地にこだわり、優先スペースは色違いのヘッドレストと長めの吊り革で識別できます。ドアの上の乗り方案内や運賃表・路線図もスマートにまとめてありました。

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ところでこの車両を形式名ではなく「ひえい」という名前で紹介したのには理由があります。新型車ではなく改造車だからです。1987年に登場した700系をベースに1両だけ作られたもので、その700系は1950年代以前の旧型車の機器を用いて生まれました。700系になってから機器を入れ替え、今回車体を作り変えたという変遷を辿っているのです。

地方鉄道ではこうした形で新しい車両を生み出す例が多く見られます。JR九州の「或る列車」や「はやとの風」などののD&S(デザイン&ストーリー)列車は有名で、多くは特別料金を必要としますが、ひえいと同じように通常料金で乗れる車両も、猫の駅長たまをモチーフにした和歌山電鐵「たま電車」、0系新幹線をイメージしたJR四国「鉄道ホビートレイン」などがあります。

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なぜ新型車ではないのかは説明するまでもないでしょう。費用を出せないからです。欧州のように地方鉄道も自治体が運営主体となれば、税金などを投入して新型観光車両を導入できるでしょう。かつて訪れた南仏ニースのプロヴァンス鉄道はそうでした。それでも叡山電鉄は実績と経験のあるデザイン会社(GKデザイン総研広島)を起用しており、デザインにコストを掛けて良いものに仕上げようという姿勢は感心しますし、その気持ちは観光客に響くはずです。

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ただし現在の日本の観光車両は、多くが水戸岡鋭治氏のデザインであることも事実です。彼の作風を否定するわけではありませんが、似たような雰囲気の車両が増えているという印象を持つ人もいるでしょう。日本には数多くのデザイナーがいます。未知のクリエイターに形を委ねるのはたしかにリスクが伴うかもしれませんが、鉄道会社には勇気を出して新しい可能性に挑戦してもらいたいと思います。
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