THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

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以前もお伝えしたとおり、今週は石川県金沢市の北國銀行本店でセミナーを担当させていただきました。参加者および関係者の皆様には、この場を借りてお礼を申し上げます。今回はセミナーの前後に、関係者の方々と何度か意見交換をする機会にも恵まれました。ここではその意見交換の中で出てきた、この言葉を取り上げたいと思います。

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交通分野ではこの言葉は、2000・2001年に福井県を走る京福電気鉄道越前本線が相次いで正面衝突事故が起こったことを受け、国土交通省から運行停止や事業改善が命じられたことを指します。京福電鉄は改善の余力がないとして、三国芦原線ともども廃止届を提出します。当時の福井では、鉄道はなくてもいいという考えの人もおり、反対意見はさほど目立ちませんでした。

ところが実際に鉄道が止まると、代行バスでは通勤通学客を運びきれないうえに、移動をマイカーに切り替えた人もいて、自転車が使えない冬季には道路はマヒ状態となり、多大な社会損失を招きました。福井駅周辺にはJR西日本以外に福井鉄道福武線も走っており、こちらは運行を継続していたので、多くの住民が鉄道の有無による明確な差を痛感したようです。

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そこで県では鉄道再生に向けて舵を切りました。京福電鉄の県内路線は第3セクターのえちぜん鉄道勝山永平寺線および三国芦原線として生まれ変わり、その後経営が厳しくなった福井鉄道も、同様の体制で再出発を図りました。さらに両鉄道ともに新設計の低床型車両が投入され、相互乗り入れも始まりました。おかげで減少が続いていた利用者は底を打ち、上昇に転じました。

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一連の話は福井の方からは聞いていましたが、金沢で耳にするとは思いませんでした。言葉の奥に、金沢を同じ状況に陥らせてはいけないという危機意識を感じました。この地域の鉄道やバスを運行する北陸鉄道は、北陸新幹線開業後の観光客増加で黒字経営が続いていたものの、新型コロナウイルス流行で状況が一変。現在の状況が続けば運行に支障をきたす恐れもあると危惧していたようでした。

負の社会実験を経験した福井、コンパクトシティの軸として公共交通を整備した富山と比べると、金沢はマイカーがあれば充分と考える人が多いとのことです。しかし高校生や高齢者など、公共交通を使う人は少なくないはずです。加えてコロナ禍が収束すれば増えるであろう国内観光客は、多くが鉄道や飛行機で石川県入りするので、そこから先は地域交通が頼りです。

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今回のセミナーには、こうした状況も関係していると感じました。理想を言えばやはり欧米のように、税金や補助金を主体とした運営体制への移行でしょう。しかし国のルールが急に変わることは望めないわけで、さまざまな知恵を絞って支えることが急務であり、そのひとつとしてMaaSを位置付けたことに好感を抱きました。北陸最大の都市が交通改革に目覚めるか。これからも興味を持って見守っていきたいと思っています。

千葉市の幕張メッセで明日13日まで開催されている、ジャパンキャンピングカーショー2022に行ってきました。このイベントに足を運ぶのは久しぶりで、新しい発見がいろいろありました。なによりも目を引いたのは、キャンピングという本来の目的以外の使い方を提案した車両があったことです。具体的にはテレワークやワーケーション、災害対策に対応した車両がいくつか見られました。

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業界団体である日本RV協会によれば、新型コロナウイルスの感染が拡大するにつれて、テレワークの場としてキャンピングカーを考え、問い合わせてくる人が増えたそうです。一方、気候変動の影響で災害が増えたことを受けて、災害対応の車両も展示されていました。防災のためにキャンピングカーを買う人もいるとのことで、協会と自治体との間で車両提供の協定を結ぶ例もあるそうです。

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今の日本は景気は良いとは言えませんが、その中でキャンピングカーの販売台数は新車・中古車ともに順調に増えています。コロナ禍や多発する災害という状況を受けて、ユーザーがキャンピングのために生まれた車両に違う可能性を見出した結果であり、このカテゴリーに注目するユーザーは日本人としては柔軟な発想の人が多いことに好感を抱きました。

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日本RV協会のウェブサイトはこちら

こうした状況もあるのでしょう、今年はイタリアのフィアットプロフェッショナルが生産する「デュカト」の正規輸入が発表されました。欧州小型商用車のベストセラーで、ボディはやや大柄ですが、日本の多くの商用車とは異なる前輪駆動方式なので床が低く、平均的日本人であれば立って歩けるスペースが魅力です。キャンピングカーだけでなく宅配や送迎の用途も考えているそうで、こちらも幅広い用途での展開が期待できそうです。

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もうひとつ感じたのは、昔に比べて架装のセンスが格段に洗練されたことです。最近のリビングルームやオフィスを思わせる仕立てで、これなら生活をともにしてみようかという人が多いのではないでしょうか。日本RV協会公認の車中泊施設「RVパーク」など環境整備も進んでいるとのこと。作り手も乗り手も柔軟な発想で、モビリティの世界をさらに広げていってほしいと思っています。

今週は石川県小松市の公立小松大学でオンラインセミナーを担当しました。企画を担当した大学の先生、参加していただいた学生や市役所職員、地域住民、自動車メーカーの方々に、この場を借りてお礼を申し上げます。今回はこのセミナーで提供した話題のひとつでもある、1月28日に総務省が発表した 2021年の住民基本台帳人口移動報告を取り上げます。

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内容は総務省のウェブサイトで閲覧可能なので、興味がある方はご覧いただければと思いますが、すでにニュースで概要を知っている人もいるでしょう。もっとも注目されたのは、東京23区が集計を開始した2014年以降、初めて転出超過となったことでした。最近また感染が拡大している新型コロナウイルスが後押ししている地方移住の動きが、またも数字として立証されたことになります。

この報告では東京23区とは逆に、転入超過数の多い市町村も挙げてあります。トップはさいたま市で、以下6位までは道府県庁所在地が並んでいますが、それ以降は茨城県つくば市、神奈川県藤沢市、千葉県流山市、神奈川県相模原市となっています。年齢別の順位も示してあって、14歳以下では東京都町田市や千葉県柏市、65歳以上では東京都八王子市や群馬県高崎市などがベスト10に入っています。

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総務省のホームページはこちら

このランキングを見て気づいたのは、東京23区に比べれば自然が豊かである一方、鉄道で東京都心に直結している都市が多いことです。つくば市や流山市はつくばエクスプレス、藤沢市はJR東日本東海道線(上野東京ライン・湘南新宿ライン)や小田急電鉄江ノ島線があり、京王電鉄相模原線が乗り入れる相模原市はリニア中央新幹線の駅も開設予定です。

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この結果には納得しています。私を含めて東京に住む人たちは、マイカーは必ずしも便利なだけではないと認識しているからです。自宅や外出先の駐車場代は高いし、渋滞にもひんぱんに遭遇します。とくに地方に出かける際の行き帰りの渋滞はひどく、自分はこれがモビリティにおける無駄のひとつだと思っているので、鉄道とカーシェアリングの組み合わせなどを選んでいます。

鉄道と同じ公共交通ではありますが、高速バスもこの渋滞には巻き込まれるので、ここは鉄道とバスは分けて考えるべきでしょう。自動運転に言及する人がいるかもしれません。しかし将来マイカーの自動運転が実現したとしても、運転という行為から解放されるぐらいであり、渋滞の中で長い時間を過ごすことは変わらないはずです。

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もちろん地域によってはマイカーは日常生活に不可欠かもしれませんが、最近は地方都市にもカーシェアリングが普及しているので、テレワークで毎日外出する必要がないなら、これで移動を賄えると考えるでしょう。仮にマイカーを所有することになっても、近場の移動に用途を限定するなら、ベーシックな車種を選べるので、車両価格や維持費を抑えることが可能になります。

昔から地方に住んでいる人は、いつでもどこでもマイカーというライフスタイルが当然かもしれません。しかし大都市で暮らしてきた人の多くは、公共交通や自転車などとの使い分けをしてきました。それが住まい選びでも重視されていると言えそうです。コロナ禍で経営が厳しいから鉄道は逆風と判断するのは早計であり、地方移住という流れの中ではむしろ地域活性化のツールになりうると思っています。

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