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モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

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排出ガス規制か公共交通整備か

先週のブログでも紹介した全国地方銀行協会での講座では「地方の交通インフラ」というテーマで話をしました。 今、地方で働く人たちの間で話題になっているのは、少子高齢化に加えて東京への一極集中による人口減少に歯止めがかからず、都市そのものが消滅の危機に直面していることです。 この話は昨年、元総務大臣の増田寛也氏が発表した「消滅可能性都市」で話題になりました。

多くの地方都市で急激な人口流出から公共交通が廃止されたり、本数が減少したりしてきました。今回参加した銀行員たちからも、そのような声を多く聞きました。しかし私が訪れた欧州の地方都市では、急激な人口流出は発生しておらず、公共交通の利便性が維持されています。講座ではその理由についても触れました。

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第二次世界大戦後、高度経済成長時代に突入したのは、日本も欧州も同じです。多くの国民が大都市に職場を持ち、郊外に住むようになったことも似ています。 その結果1960年代に入ると、交通渋滞による大気汚染が問題になりはじめました。 しかしここで欧州と日米が取った政策は異なっていました。日米がまず自動車の排出ガス規制を実施したのに対し、欧州は公共交通再整備を行ったのです。

自動車にくわしい人の中には、欧州車の排出ガス規制が日米車に比べて遅れていた時期があることを知っているでしょう。 ゆえに1970年代に日本に輸入された欧州車は、主として米国向けと同じエンジンを積んでおり、欧州仕様より性能が低下していました。その間欧州は、公共交通へのテコ入れを行うことで、大気汚染を食い止めようとしたのです。

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いち早く行動を起こした国のひとつがドイツ(当時は西ドイツ)です。 1960年代に、ガソリンなどに掛かるエネルギー税(当時は鉱油税)の税収の一部を公共交通に振り分けはじめ、1971年にはこれをGVGFとして法制化しました。税収の55%を道路、45%を公共交通に配分するという内容でした。 比率はその後変更され、連邦政府と州政府の関係も変わりましたが、 エネルギー税で公共交通を支える姿勢は続いています。

その後オイルショックもあり、フランスなど他の欧州主要国や、一部の米国都市も同様の手法を取り入れました。逆に欧州では排出ガス規制を強化し、今では日米と同等レベルにまで達しています。しかし日本では依然として、公共交通は運賃収入を原資として経営し、赤字になれば減便・廃止というスタンスから脱していません。 


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地方で人口減少が続いている理由はさまざまですが、そのひとつに居住地の郊外拡散が関係していると思っています。結果、郊外に大規模な商業施設が生まれ、中心部の商店街は寂れていきました。 しかし大規模商業施設の多くは効率を重視したチェーン店であり、品揃えは画一的で、その土地ならではの個性は失われました。地方に残るか、東京に出るか悩んでいる人にとって、都市の個性は判断材料のひとつになるでしょう。生まれ育った都市の個性が失われてしまったとなれば、東京に向かうのは仕方がないかもしれません。

地方都市の消滅危機というテーマの中で、交通のことはあまり触れられません。しかし私が見てきた欧州の地方都市は、公共交通の維持が街のにぎわいの維持、都市の維持につながっていると感じました。地方消滅を食い止めるためにも、公共交通への公費投入というシステムをいち早く導入し、街のにぎわいを取り戻してほしいと思います。

より良い国立競技場のためにすべきこと

昨日、全国地方銀行協会で、融資担当者を相手に、地方交通についての講座を行いました。国内外の地方交通事情を紹介したあと、参加者に地元の街の交通改革を考えてもらうワークショップを行いました。こちらの説明をすぐに理解し、展開につなげていく能力に感心しました。

同時に、坂道の移動にエスカレーターを用い、既存の鉄道をベースとしたループ線を考えるなど、限られた予算で有効な対策を施そうとする考え方にも好印象を受け、同時に地方の財政状況が恵まれていないことを改めて教えられました。そして対照的な立場にある、今週7日に決まった新国立競技場の建設計画を思い出しました。

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日本スポーツ振興会=http://www.jpnsport.go.jp/

ニュースなどでご存知のとおり、総工費は以前の計画より約900億円も増えて、2520億円に上っています。しかもこの数字には当初予定されていた開閉式屋根は含まれず、観客席の一部は仮設となるそうです。 確定している予算は600億円ほどと言われており、残りは未定だそうです。デザインについては納得していた人も、この数字を見て多くが反対に転じたのではないでしょうか。しかし大切なのは、反論することよりも、その先だと思います。

国内外の地方交通改革の成功例で目立つのは、技術力よりも政治力です。交通に限らず、新しい政策の導入には、当然ながら反対意見もあります。それを論理的な説明と根強い対話によって説得し、合意形成を築いていく能力が、改革成功に結び付いている例が多いのです。私が書籍にまとめたパリ市や富山市も例外ではありません。

今回の議論についても、まず対案を出すこと、そして対案の方が現案よりも優れていることを論理的に説明していき、合意形成を確立し、多数派に育てていくことが大事だと考えています。個々の人々がただ反対の声を上げたり、各自がバラバラの対案を出すという、我が国の野党政治のような手法は、ほとんど効力はないと思っています。

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国立競技場に関しては、建築家の槇文彦氏の対案が知られています。現行案の最大の特徴であり高コストの原因にもなっているキールアーチを廃し、屋根も設置しない結果、建築費は約1000億円、工期は42か月(3年半)程度と算出しています。建築の専門家ではないので厳正な判断はできませんが、費用や工期は妥当ではないかと思えます。

槇氏の案についても不満を持つ人がいるでしょう。しかし反論があれば対案を出すべきであり、なければこの案に賛同するのが自然に思えます。反対を唱える多くの人間がその方向に動けば、多数派になり、事態が動くのではないでしょうか。それが政治力ではないかと考えます。
 

福祉車両について研究発表をします

昨年に続き、私が所属している「日本福祉のまちづくり学会」の全国大会で、研究発表を行うことになりました。今年の全国大会は8月7日から9日まで、千葉県柏市の東京大学柏キャンパス環境棟および柏の葉カンファレンスセンターで開催されます。私の発表は8日午後で、テーマは「福祉車両」とさせていただきました。

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日本では軽自動車から大型ワンボックスまで、自動車メーカー自らが福祉車両を設計し販売しています。その歴史と現状について報告するとともに、世界的にはこの状況は異例であり、欧米では下のカタログで紹介しているイタリアのグイドシンプレックスなど、専門業者が改造を施す例が一般的であることに触れ、なぜ欧米と日本でこのような違いが発生したのか、自動運転が実用化されると福祉車両はどう変わるかについても言及する予定です。

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*日本福祉のまちづくり学会=http://www.fukumachi.net/

福祉車両の導入を考えている方はもちろん、この大会では建築、防災、教育など、福祉やまちづくりに関して現在社会が抱える諸問題をテーマとした多種多様な研究発表や見学会、討論会などが用意されているので、興味がある方はぜひ足をお運びください。スケジュールや参加費用については、日本福祉のまちづくり学会オフィシャルサイトを参照してください。よろしくお願いいたします。

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