THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

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かつては新しいモビリティをことごとく拒絶してきた印象がある日本ですが、近年は流れが変わりつつあるようです。そのひとつである宅配ロボットを今回は取り上げます。インターネットメディア「ビジネス+ IT」で記事も公開しておりますので、そちらもご覧ください。
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宅配ロボットというと、新型コロナウイルス感染症での接触防止という観点から注目されていますが、実際はそれより前から存在しています。このブログでも以前、インターネットショッピングの急増で宅配業者の労働環境が過酷になっていることを取り上げましたが、なにかと人手に頼る傾向が大きかった物流業界改革のために開発されたものです。

この分野のパイオニアといえるのは電子国家として有名なエストニアのスターシップ・テクノロジーズですが、日本では2019年9月に「自動走行ロボットを活用した配送の実現に向けた官民協議会」が設立され、翌年度からは「自動走行ロボットを活用した新たな配送サービス実現に向けた技術開発事業」をスタート。各地で実証実験が始まりました。

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記事では官民協議会の構成員に名を連ね、昨年から今年にかけて2度の実証実験を行ったパナソニックを取材しており、ここでも同社の写真を使用させていただいています。くわしくは記事を参照していただきたいのですが、あわせて約2か月にわたり、遠隔監視で公道を移動する複数のロボットを問題なく制御し、処方箋医薬品や冷蔵品の弁当を薬局や商業施設から注文者の自宅まで配送したそうです。

なので個人的には技術面は問題がないと思っており、宅配業者の労働環境改善など社会的なメリットも期待できるので、政府が宅配ロボットによる無人配送を2021年度中にも解禁する方針を固めたという報道には納得しています。



コロナ禍が終息すれば宅配ロボットなど不要ではないか、歩行者や自転車などに混じって移動するのは危険ではないかと思う人がいるかもしれません。しかしこれらはいずれも、大都市視点の考えであると思っています。

地方に住んでいる人は感じていると思いますが、中心市街地を外れると、歩道を歩いてる人はほとんどいません。マイカー移動が主流であるためですが、宅配ロボットの走行が危険という意識さえ抱かないでしょう。それよりも近年高齢ドライバーの事故が目立っており、運転免許を返納し、公共交通を含めた徒歩での買い物に切り替える人が増えていることに配慮すべきではないでしょうか。

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パナソニックのプレスリリース https://news.panasonic.com/jp/press/data/2021/03/jn210304-1/jn210304-1.html

商店までの距離が近ければ良いですが、そうでない場合は買い物そのものがひと仕事になってしまいます。外出することは健康維持のためには大事ですが、毎日買い物に行くのはおっくう、体調や気分がすぐれるときに出かけたいという人もいるでしょう。そういう人にとっての買い物のアシスト役として、宅配ロボットは重要だと考えています。

これは宅配ロボットに限った話ではありません。自動運転による移動サービスやドローンによる配送サービスも、交通集中で渋滞が頻発している大都市よりも、地方のほうが向いています。問題は財源をどう確保するかですが、ここは国が、地方を支えるにはモビリティの維持が大前提という観点に立って、補助や支援をしていってほしいと思っています。

大型連休が始まりました。昨年は日本全国に緊急事態宣言が出ていましたが、今年は現時点で東京都、大阪府、京都府、兵庫県にとどまっています。そんな中、JR東日本は首都圏の一部路線について、大型連休期間中のうち、平日ダイヤで運転する日の通勤時間帯の列車を削減すると発表しました。最初の実施日だった今週金曜日には、各所で混雑していたという報告がありました。

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同社のニュースリリースを見ると、今回の削減は発表が4月27日と実施の直前であり、国や関係自治体からの要請を踏まえたものとあります。しかしここまで直前での発表となると、それに合わせて仕事などの予定を変えるのは、自分の経験からしても難しいことです。しかも国や自治体よりJR東日本のほうが、公共交通の何たるかははるかに熟知しているはずです。それを考えれば要請に異議を唱えたうえで、通常のダイヤでの運行を続けるべきだったと思っています。

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東京都のテレワーク導入率調査結果 = https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2021/04/02/11.html

とはいえ利用者側を全面的に擁護する気持ちにはなれません。東京都の毎月1日現在の推計人口は、今年4月は前月比で久しぶりに増加となりましたが、それまでは8ヶ月連続で減少していました。一方で都が発表している従業員30人以上の都内企業のテレワーク導入率は、昨年4月以降は60%前後で大きく変わっていません。にもかかわらず最近の報道を見ると、首都圏の鉄道の乗車率は上がっているという報告をよく目にするからです。

テレワーク調査に対して虚偽の申告をしている会社、不要不急の外出をしている人が一定数いることを示しているような内容です。すでに多くの方が認識していることとは思いますが、感染防止の最高の対策は人との接触をできるだけ避けることです。もちろんそれは義務ではありませんが、社会を良くしようという行動を特に起こさず、国や自治体に責任を押し付ける人や会社が一定数いることになるわけで、これでは収束は当分先であろうと思ってしまいます。

一部の人は、交通事業者が前もって発表する減便についても異議を唱えていますが、こちらはその道の専門家が直近の需要をもとに作成するものであり、納得できる内容だと思っています。JR東日本が終電繰り上げなどを盛り込んだ今年3月のダイヤ改正はもちろん、地方の交通事業者についても言えることです。

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現在販売している鉄道専門誌「鉄道ジャーナル」最新号では、石川県を走る北陸鉄道をレポートしていますが、同社でも直近の需要の変化をもとにダイヤ改正を行なっており、バスについては増便もありますが、鉄道は2つの路線とも減便になっています。実際に話を聞くと、減便の理由は明確であり、事業者の回答として説得力のあるものでした。



乗客を逃がしてしまう可能性もある減便に交通事業者が踏み切るのは、多くのニュースで報じられているとおり、大幅な減収で厳しい立場に置かれているからです。カーボンニュートラルや高齢者の運転免許返納などにより、公共交通の重要性は今まで以上に増しています。こうした中で国や自治体が行うべきは減便の要請ではなく、補助や支援であることは明らかでしょう。

2002年に合併前の旧富山市長選挙で初当選して以来、合併後を合わせて19年間、市政を司ってきた森雅志氏が23日に退任しました。私は2011年、「富山から拡がる交通革命」(交通新聞社新書)の取材のために富山を訪れ、前市長を直接取材して以来、ほぼ毎年現地を訪れ、進展を見てきました。そうした立場から、19年間の足跡をここで振り返りたいと思います。

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森前市長というと、就任翌年に「公共交通を軸としたコンパクトなまちづくり」を掲げ、廃止が議論されていたJR西日本富山港線を国内初の本格的 LRTとして生まれ変わらせ、まちなかのにぎわい創出のために市内電車環状線を復活させるなど、公共交通の実績が取り上げられがちですが、それはまちづくりのための手段であり、LRTを走らせることが目的ではなかったことは、改めて記しておく必要があります。

それよりも評価したいのは、まちづくりに経営の考え方を取り入れたことです。具体的には中心市街地の公共交通を整備し、沿線に文化施設や商業施設、集合住宅を建設し、広場や公園なども用意してまちなか移住を誘致し、資産価値を向上させて税収増につなげ、それを郊外に分配していく手法です。富山県の面積の約3割、人口の約4割を占める広大な地方都市にふさわしい運営だと思います。

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その結果、かつては減少の一途だった都心の一部で人口が反転し、富山県の多くの自治体で地価下落が続く中、富山市の地価は5年連続で増加。税収は2003年度の552億円から15年後の2018年度は749億円へ増加しています。たしかに公共交通への投資は巨額で、そこだけを取り上げて批判する人もいますが、まちなか居住の進展や税収増という結果は出ているわけで、長い目で見て判断すべきだと考えています。

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2011年の取材は、自分の進む道をも変えました。ひとつは外国が良くて日本はダメという論調からの脱却です。コロナ禍でもそうですが、こういう論調はウケます。しかし富山市のように実績を出している地域には失礼であり、そもそも日本にとってあまり役に立ちません。富山市の取材を経験して、日本の素晴らしい事例を積極的に発信しようと努めるようになりました。



もうひとつは、東京の目で地方を褒めることです。地方を訪ねて感じるのは、自分たちの土地の良さに気づいていない人が多いことです。そして東京には敵わないと口にします。しかし東京で生まれ、今も東京に住む自分から見れば、悪いところは数え切れないほどあります。その一部がコロナ禍で露呈しています。なので地方に移住したりせず、東京人として地方の良さを伝え続けることにしました。

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富山市の公共交通整備は、昨年春の路面電車南北接続による直通運転開始で一段落した感があります。前市長も当時のそのような発言をしており、同年夏に次の市長選に出馬しないことを宣言し、今回に至りました。では富山市のまちづくりも一段落なのでしょうか。先月、富山市役所で取材をすると、新たな一歩を踏み出そうとしていることがわかりました。

ひとことで言えば、LRTに代表されるハードウェアから、ソフトウェアへ重点を移しつつありますす。2004年から発行している、高齢者が公共交通をお得に利用できる「おでかけ定期券」に続き、2018年度には「歩くライフスタイル戦略」を策定。その一環とスマートフォンアプリの「とほ活(富山を歩く生活という意味)」を導入するなど新しい取り組みを始めているのです。

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こうしたソフトウェア政策を担っているのが、若手中堅職員です。前市長が旗振り役となって始めたまちづくりの精神が、職員たちに浸透し、発展していることを感じました。今後は先日行われた市長選で初当選した藤井裕久氏が、市政のかじ取りを担うことになりますが、これからも富山市のまちづくりには注目していきたいと思っています。

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