THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

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今や日本でも各所で見かけるサイクルシェアリング。私自身、事務所がある東京以外でも利用したことがあります。今週は山口県山口市で2020年9月から実証事業していたものを何度か使いました。いずれも片道1kmほどの移動だったので重宝しました。なおこの種のサービスはいろいろな呼び名がありますが、ここではサイクルシェアリングで統一します。

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現在日本で展開しているサイクルシェアの運営事業者はいくつかありますが、登録方法は似ています。スマートフォンで専用アプリをダウンロードし、個人情報や決済情報などを入力して登録したあと、同じアプリを使って自転車にアクセスし利用します。山口市のものはecobikeというサービスを使っています。

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気になったのはecobikeの展開地域です。山口市以外にも、少し前にブログで紹介した群馬県前橋市や福岡県福津市など、いくつかの地域に導入されていますが、その中に東京都が入っていました。山口市はサイクルシェアの事業者はひとつですが、東京都には最初に導入したNTTドコモのコミュニティサイクルをはじめ、数社が参入しています。東京は鉄道やバスの事業者も数多くありますが、その構図と似ています。

比較的新しいモビリティサービスであることに加え、最近は新型コロナウイルス感染予防という理由から注目されているので、新規参入が相次ぐのは理解できますが、鉄道やバスはひとつのICカード乗車券ですべて乗れるのに、サイクルシェアはアプリも自転車もポートもすべて独自で、互換性はありません。しかも展開地域が微妙に違っているので、23区内でもサイクルシェアでは行けない区間は数多くあります。

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アプリを使って無人のポートにある自転車を予約し、QRコードを読み取ったりして利用するスタイル自体は新しさを感じますが、高度経済成長時代ならいざ知らず、今は人口減少や高齢化が進んでいることに加え、MaaSの登場でモビリティの統合がトレンドになっていることを考えると、実は時流に沿ったサービスとは言えないのではないか?という印象を持ちます。

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理想を言えばこのブログで何度も書いているように、欧米のような1都市1事業者としてほしいですが、無理なら鉄道のような乗り入れを認めてほしいものです。乗り継ぎ料金を支払うことで、違う事業者のポートに返却できるようにはできないでしょうか。これだけでも利用者目線で見れば、はるかに使いやすいモビリティサービスになると思います。

今年に入って自動車の自動運転に関する話題がまた多くなってきました。中でも目立つのは自家用乗用車に関するもので、本田技研工業(ホンダ)が先月、最高級セダン「レジェンド」に、公道を走れる市販乗用車としては世界で初めて自動運転レベル3を実行できる車種を発売。一方今週はトヨタ自動車が一部車種について、レベル2ではあるものの高度なシステムを搭載して市販すると発表しました。 

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自動運転のレベル分けについては以前もブログで触れたことがあったと記憶していますが、最近はレベル2を高度先進運転支援システム(ADAS)と呼び、自動運転という言葉はレベル3より上を指すのが主流になっています。運転の主体が人間のドライバーであるか、人工知能(AI)などのシステムになるかという大きな違いが両者の間に存在しているからです。

しかしながらレベル2でも、ドライバーの監視下ではありますが、多くの先進運転支援機能はシステムが動かしています。しかも最近では、レベル3に必要不可欠な技術と言われる高精度地図を搭載した車種が出てきており、ハンズオフと呼ばれる手放し運転が可能になるなど、レベル2の範囲が広がっています。日産自動車「スカイライン」は代表格で、今回のトヨタの発表もこれに近い内容です。

一方のレベル3は、常にシステムが運転してくれるわけではありません。それはひとつ上のレベル4です。システムがなんらかの理由で運転の交代を依頼してきたときには、人間のドライバーがすぐに代わらなければいけません。なので居眠り運転は許されず、飲酒運転は道路交通法違反になります。さらにレジェンドの場合、レベル3は高速道路や自動車専用道路の渋滞時の同一車線内走行としており、条件がかなり限られています。

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私は先日、レベル3を実現したレジェンドで東京都内の首都高速道路などを走ってきました。その模様はインターネットメディア「マイナビニュース」に詳しく記しましたが、技術的にはともかく体感的には、以前体験したスカイラインの高度なレベル2との違いはわずかであり、レベル0から5までの6段階の中で、1段階上に移行するほどの劇的な差は感じませんでした。



前述のようにレベル2でも、高速道路などでハンズオフが可能な車種はあります。もちろんそれは、ドライバーが常に監視するという義務はありますが、レベル3でもドライバーがすぐに運転を代われる準備をしていなければいけないので、スマートフォンを見るために下を見続けていると居眠りとみなされ解除されます。監視という部分で両者の間に大きな違いはあるのだろうかという気持ちになりました。

自動運転は自家用乗用車だけではなく、バスなどの移動サービスやトラックなどの物流サービスへの導入も期待されています。私は前者について、今年に入ってからも茨城県境町や群馬県前橋市などで体験しましたが、こうした分野に関わる事業者や研究者からよく出てくるのが、現在実証実験中のレベル2の次は、レベル3をスキップしてレベル4を目指すという言葉です。乗用車メーカーではスウェーデンのボルボが同様のアナウンスをしています。

移動サービスは最終的には運転手のいない無人運転を目指す方向性なので、いざという時に運転を代われるオペレーターを用意すること自体想定していないと思いますが、自家用車のドライバーにとっても、非常時に運転を代わる義務があるレベル3は、ドライバーが運転主体であるレベル2の発展形という意識を与えるほうが、過剰な期待を抱かせず安全ではないかと感じました。

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技術者にとっては、たとえ一部であっても運転主体がドライバーからシステムに移行することは画期的なのかもしれませんが、モビリティはやはり、移動者の気持ちを第一に考えるべきではないでしょうか。それを基準とすれば、現状の自動運転レベル3の定義は曖昧であり、レベル2の次はレベル4という進み方のほうが、移動者にとって理解しやすい自動運転社会を構築できるのではないかと思いつつあります。

4月1日から、熊本市と岡山市の乗合バスに、新しい法律が適用されることとなりました。人口減少などで持続的なサービス提供が難しい乗合バス事業者と地域銀行について、合併や共同経営などについて独占禁止法(独禁法)の特例を定める法律が2020年11月に施行されたことを受けて、2つの地域で適用されたのです。

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具体的には熊本が九州産交バス、産交バス、熊本電気鉄道、熊本バス、熊本都市バスの5社による熊本市内4区間の55系統について、岡山では岡山電気軌道と両備ホールディングスの2社による岡山市内1区間の13系統において共同経営を行うもので、熊本では待ち時間の平準化や一部路線の延伸、岡山では等間隔運行や停留所の統一などが行われます。群馬県前橋市など他のいくつかの自治体でも同法の適用を検討しているようです。

日本では似たような動きが第二次世界大戦中にもありました。あのときは乱立する公共交通事業者を整理統合し、経営の安定化を図る観点から「陸上交通事業調整法」が制定され、地域鉄道・バスの経営統合がなされました。富山県の富山地方鉄道や香川県の高松琴平電気鉄道など、いくつかの地域では枠組みがそのまま残っていますが、戦後になって独禁法が制定され、こうした枠組みは逆に禁止されることになりました。

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*熊本の共同経営推進室のオフィシャルサイトはこちら

以前ここで紹介した青森県八戸市では、八戸駅と市の中心部を結ぶ路線で市交通部と南部バス、十鉄バスがわかりやすいダイヤや運賃体系を共同で実現し、減少傾向であったバス利用者を増加させる効果を上げましたが、 公正取引委員会(公取委)に事前相談を行ったにもかかわらず、運賃額や減便数について協議することはカルテルに該当するなどの指摘があったそうです。

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利用者減少や運転士不足に加えて新型コロナウイルス感染症で、地方のバス事業者は厳しい状況に置かれています。多くの民間事業者が同一の都市内で競争しつつ、運賃収入を原資として収益を上げ、赤字になれば路線や駅・停留所の廃止などを行う日本流の公共交通運営は、コロナ禍で限界にきていると感じています。利用者にとってもダイヤや運賃などがわかりやすくなるわけで、歓迎すべき動きだと思っています。

ただし合併や経営統合をするとはいえ民間企業のままであり、公的組織が管轄し、税金や補助金を運営の軸とする欧米流の運輸連合とはまだ違いがあります。一例を挙げれば、MaaS発祥の地であるフィンランドの首都ヘルシンキの公共交通では、実際に運行を司る事業者は複数存在するものの、周辺都市を含めてHSLという単一の組織が管轄し、営業収入の半分近くは政府や自治体からの補助金で賄われているのです。

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日本の公共交通にも補助金は充当されていますが、車両購入など個別の投資に対するもの、赤字の穴埋めに相当するものが主体であり、経営の基盤となるものではありません。ベースとしての資金が安定していれば車両やインフラのバージョンアップ、自動運転やMaaSなどのテクノロジーの導入がスムーズにいくはずで、乗務員の待遇改善もできるでしょう。今回の法改正を契機に、鉄軌道を含めた地方の公共交通が欧米流に転換していける枠組みの整備を望みます。

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