THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

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富士山の山梨県側にLRTが導入されるというニュースが今週ありました。現在5合目までを結んでいる有料道路の富士スバルラインを軌道に転換し、LRTを走らせるというものです。

この話は突然降って沸いたものではなく、山梨県では2019年から富士山登山鉄道構想検討会の理事会や総会を何度か開いてきました。今年2月8日の総会で「富士山登山鉄道構想案」が決定されたことを受け、今回の発表になったものです。検討会の議論内容は県のウェブサイトでも見ることができます。このブログもサイトの情報をもとに紹介していきます。

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LRT導入の最大の理由はもちろん環境対策です。富士スバルラインは近年は夏季にマイカー規制を実施しているので、普通車の通行は減っていますが、代わりに大型バスは増加しており、車両重量や排出ガスが環境に悪影響及ぼしているという調査結果も出ています。この点は8年前に富士山を世界遺産に認定したユネスコも指摘していたそうです。

検討会では参考例として富山県の立山黒部アルペンルートやスイスのユングフラウ鉄道などを挙げており、システムについては富士スバルラインのルートを使ったものとして普通鉄道、大井川鐵道や黒部峡谷鉄道に使われるラックレール式鉄道、LRTの3種と、5合目までを短絡ルートで結ぶケーブルカー及びロープウェーの5つを比較。その結果LRTが選ばれました。

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富士山登山鉄道構想検討会のウェブサイト https://www.pref.yamanashi.jp/chosa/fujisan_railway/fujisan_railway_study_committee.html

普通鉄道では既存の橋が重さに耐えられないこと、ラックレール式では低床型車両を作りにくいこと、ケーブルカーやロープウェイでは樹木の伐採など自然への影響が大きく、ロープウェイは強風に弱いという課題もあり、LRTに落ち着いたようです。またLRTにすれば、アスファルトの路面をそのまま残すことで、緊急車両の通行も可能というメリットにも触れています。

試算によれば所要時間は上りが約52分、下りは最高速度を40km/hから25km/hに落とすために約74分となっています。これまでの日本の発想から考えれば、所要時間が短いケーブルカーやロープウェイを選択しそうですが、そうではなくLRTに落ち着いたのは、欧州に本拠を置くユネスコの存在が大きかったのかもしれません。

スバルラインは急勾配や急カーブが多く、そのままレールを敷くのは難しいと考える人もいるかもしれませんが、現状でも最大勾配、最小曲線半径ともに箱根登山鉄道と同程度とのことです。LRTではさらなる小回りが可能ですし、ポルトガルの首都リスボンの路面電車はそれ以上の坂道を上り下りしており、この面の問題はないでしょう。

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また5合目周辺はライフラインの整備が遅れており、電気については施設ごとに発電、上水道は給水車で供給という状況だそうです。このあたりは線路に沿って水道管を敷設したユングフラウ鉄道などの例を参考に改善していく予定とのことで、それ以外もLRT導入に合わせて環境に配慮した拠点整備を進めていきたいとしています。

報道では運賃が往復で大人1万円という数字も出ており、高すぎるという意見もあるようです。とはいえ立山黒部アルペンルートを全区間利用すると8430円、ユングフラウ鉄道は現在の為替レートで往復約2万5000円です。建設費用の回収、環境対策、夏の混雑緩和、世界的に有名な観光地ということを考えれば、1万円は妥当だと思っています。検討会でも運賃を安くして多くの人に利用してもらうのではなく、利用者にも相応の負担をしてもらうスタンスを取っています。

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今後の検討事項としては、電力の供給方法、雪崩や落石の対策、噴火時の避難計画、運営方式などを挙げていますが、それとともに既存の鉄道との連携も考慮してほしいと思います。富士急行からダイレクトにLRTに乗り換えできれば、利用者にとってありがたい交通手段に映るはずです。デザインを含めて、誰もが利用したくなる山岳LRT実現を目指してほしいと思います。

日本で新型コロナウィルスの感染者が確認されてから1年が経過しました。多くの方が生活や仕事などに影響を受けたことでしょう。私も例外ではなく、とりわけ多くの方にひとつの場所に集まっていただき開催する講演、フォーラム、セミナーはキャンセルとなったり、オンラインイベントに切り替わったりということの繰り返しでした。

しかしながらウィズコロナに対応した新しい形でのイベント実施も各所で模索されています。そのひとつが、群馬県の前橋市まちづくり公社主催で年に2回行われている「まちづくり講演会」で、3月11日に第5回を開催することになりました。その場でひさしぶりに、みなさまの前でお話させていただく機会をいただきました。

まちづくり講演会チラシ

テーマはパンフレットにあるとおり「MaaSで地域は変われるか」です。コロナ禍で移動そのものが制限を受ける中、MaaSも一段落と思っている人も多いかと思います。たしかにテレワークの普及で移動者が激減した大都市、インバウンド需要が皆無に近くなった観光分野については当てはまりますが、地方においてはむしろ逆ではないかと考えています。

地方は第一次・第二次産業の比率が高くテレワークが難しいという事情もあり、移動者はさほど減っていません。しかも高齢化社会の中で運転免許返納は進んでおり、マイカーに代わる移動手段の確保は急務です。さらに東京から脱出し、地方に移住する人が現実に増えており、受け皿となる地方都市にとって安全で便利な移動を提供することが重要になっています。

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また移動そのものを制限するという感染初期から、現在は経済活動との両立という観点から、感染に気を付けながら移動するという段階に入っており、公共交通や商業施設などの混雑状況を利用者に伝えて移動の分散化を促すという、新しい役目もMaaSには加わりつつあります。

こうした状況は自分自身も感じているところで、各地の地方型MaaSの最新状況をオンラインで収集するとともに、感染に気を付けながら現地に足を運んでもいます。このあと自動運転バスの実証実験を行う前橋にも事前視察に行きます。講演会ではこうした事例を取り上げながら、ウィズコロナ、アフターコロナでの地域社会にはどのようなモビリティサービスが必要かを紹介したいと考えています。

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申し込み方法などはこちらをご覧ください→https://www.maebashi-cc.or.jp/machinaka/

今回の講演会は、感染拡大防止の観点から、会場定員は40名に限定し、それ以外に100名の方がオンラインで参加していただく形を取っています。もちろん今後、感染状況に応じて開催手法を見直す可能性はあります。そのためにも感染拡大が抑えられ、参加を希望する方々と直接お会いすることができればとと願っているところです。 

毎年1月は前年の統計がいろいろ発表されます。それを見ると、新型コロナウイルス感染拡大でモビリティシーンにもさまざまな変化が訪れたことを実感します。そのひとつに、二輪車の増加が挙げられます。東京の道を見ていても目にすることが増えたと感じていますが、数字にもそれは現れています。

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日本自動車工業会、日本自動車販売協会連合会、全日本軽自動車協会連合会が発表した2020年の新車販売台数を前年と比べると、軽自動車を除く乗用車は87.8%、軽乗用車は90.0%なのに対し、軽二輪車(125〜250cc)は127.5%、小型二輪車(251cc以上)は101.4%と伸びています。原付(原動機付自転車)の出荷台数は一種(〜50cc)が92.7%、二種(51〜125cc)が96.5%でともに減っていますが、自動車に比べると落ち込み幅は小さくなっています。

コロナ禍でパーソナルモビリティの需要が高まったことは各所で報じられていますが、自動車は車両価格や維持費が高く、すぐに買えるような乗り物ではありません。それに比べれば二輪車は敷居が低く、速達性は自転車はもちろん自動車より上です。軽二輪がとりわけ人気なのは、車検がないのに高速道路に乗れるカテゴリーであるうえに、魅力的な新型車が登場したことが大きいでしょう。

感染防止という観点でも二輪車は有利です。そもそも密室ではありませんし、シールド付きヘルメットはフェイスシールドに近い効果があります。フルフェイスのヘルメットならマスクに近い状況ではないでしょうか。さらに二人乗りの場合は前後に座り、会話にはインカムなどを使うため、自動車より安全と言えます。

とはいえ二輪車にはネガティブな要素もあります。それが表に出たのが昨年の交通事故統計です。警察庁の発表によれば、2020年の交通事故死者数は2,839人で、前年より376人少なく、統計開始から初めて3,000人を下回りました。しかし都道府県別で見ると、前年より増えた地域がいくつかあります。特に目立つのは東京都で、22人も増えて155人になり、ひさしぶりにワースト1になりました。

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警視庁のウェブサイト = https://www.keishicho.metro.tokyo.jp/about_mpd/jokyo_tokei/tokei_jokyo/index.html

そこで警視庁の統計で死者が大きく増えている項目を見ると、歩行中が10人、自動二輪車運転中が8人、原付運転中が4人プラスとなっていました。歩行中の事故死者が増えたのは、テレワークでいつもとは違う場所を歩く人が増えたためと想像します。原付を含む二輪車運転中の犠牲者が増加したのも、コロナ対策で二輪車で移動する機会が増えた人が多かったからではないかと推測しています。

ではどうすればいいのでしょうか。長年ライダーとして過ごしてきた自分の意見は、まず不要不急の外出は避けることです。現在は病床が逼迫している地域もあるのでなおさらです。また二輪車は天候に大きく左右されます。タイヤの接地面積が小さいので、雨の日はもちろん、同じ道でも路面やタイヤが冷えているとグリップ力が落ちます。横断歩道などのペイント、マンホールの蓋を含め、注意して運転することが大事です。

体がむき出しなので、天候にも左右されます。寒い時期はどうしても体が冷え、動きが悪くなりがちです。昔と比べると今は耐寒性に優れたウェアが多く出ているので、そういうものを身につけ、車体にスクリーンやガードなどを追加すれば、快適性はかなりアップするはずで、それが安全性にもつながると思っています。そして機会があればライディングスクールで自分の技術を見直すこともお勧めします。

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以前にも書きましたが、日本は世界有数の二輪車生産国でありながら、欧州やアジアと比べると普及は今ひとつです。たしかにリスクもありますが、機動性に優れ、操る楽しさが満喫できるだけでなく、環境対策や渋滞緩和にも貢献するうえに、モビリティで重要になる「自由」をもっとも満喫できる乗り物のひとつです。コロナを機にこの世界を知った方々は、安全に留意しつつ、魅力的な移動手段を体験していってほしいと思います。

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