THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

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宇都宮LRT、つまり栃木県宇都宮市および芳賀町で建設が進んでいるLRTについては、雑誌やウェブサイトでこれまで何度も記事にしてきたこともあり、最近も何度か現地を訪れています。先月もいくつかの場所を視察してきました。今回はそのときの様子を、いつもと違う角度から紹介します。

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まずは宇都宮市東部のテクノポリス地区。ここは現在の宇都宮市長がLRT導入を公約に市長選挙に当選した翌年になる2013年から開発がスタートした地区で、現在は7000人以上が暮らしています。今回この地を訪れると、小学校の建設が進んでいました。

我が国の少子化は全国的な傾向であり、東京都渋谷区の当事務所の近くでも、数年前に3つの小中学校の統合が行われました。それを考えれば、新規に小学校が生まれること自体が異例の出来事です。宇都宮市のウェブサイトにも紹介があり、4年前に学校開設の基本計画が承認され、来年4月に開校予定とのことです。開設の理由のひとつに、LRT整備で今後も人口増加が予想されることが書かれています。

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たしかにテクノポリス地区は、いまもなお宅地開発が進んでいます。このように大手の住宅メーカーが参入している場所もあり、すでに買い手がついたところもあることがわかります。これもまた人口減少に悩む地方から見ればうらやましい状況でしょう。ちなみにこの場所は停留場予定地からは300mほどです。

近くにある私立大学も紹介します。付属高校が高校野球で活躍していることでも有名な大学で、設立は1989年。現在はJR宇都宮駅からスクールバスを運行していますが、学校名を冠したLRTの停留場が隣接する道路に作られる予定で、学生側にとっても大学側にとっても開通の期待は大きいのではないかと思われます。

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LRTが乗り入れる宇都宮駅東口は以前は駐車場と飲食店があるだけでしたが、現在は再開発が始まっており、フェンスで覆われています。ここにはホテル、コンベンション施設、シェアオフィス、商業施設などが入るそうです。フェンスには来年春に車両の導入が始まることも書いてありました。

LRTも含めた公共交通は導入それ自体が目的ではなく、まちづくりのための手段のひとつ。欧米の主要都市や我が国の富山市などが掲げ、このブログでも何度か書いてきたことを、宇都宮市は忠実に実現しようとしていることがわかります。当初は工業団地の通勤路線として計画されたものを、住民の声を受け入れて生活路線に転換した結果、住民の理解も深まっていることが伝わってきます。

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たしかに実際にLRTを利用する人は、市民のうちの一部にすぎないでしょう。しかし居住者や通勤通学者の増加は税収増につながり、広い目で見れば地域全体の発展に寄与するプロジェクトになります。まして昨今は高齢ドライバーの事故が問題となり、公共交通整備が重視されているうえに、コロナ禍で東京からの転出者が増え、地方移住が伸びています。そこまで考えたまちづくりが求められています。

明日、その宇都宮市で市長選挙の投開票が行われます。今回も前回と同じように、LRT推進派とLRT凍結派の争いとなっています。これまで書いてきたように、これは公共交通の是非ではなく、まちづくりの是非という話です。まちづくり推進か、まちづくり凍結か、を選ぶ場であると考えています。

先週に続いて富山県西部のモビリティの話題です。2種類の電動3輪車に乗りに行く際には、JR西日本氷見線、加越能バス、万葉線を使いましたが、このうち高岡駅と氷見駅を結ぶ氷見線は、高岡駅から新高岡駅を経由して城端駅に至る城端線ともども、今年1月にJR西日本がLRT化など新しい交通体系への転換を検討していることが明らかになっています。今回はこの話題を取り上げます。

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JR西日本では富山港線(富山ライトレールを経て現在は富山地方鉄道)、吉備線に続いて3路線目のLRT検討になります。以前訪れた吉備線と共通しているのは、キハ40系という旧式のディーゼルカーを使い続けていることです。富山港線LRT化による成功事例を体験していることもあり、相次いでLRTによる近代化を検討しているのではないかと思っています。

ただ今回利用した氷見線側で見ると、いくつか課題があると感じました。そもそも氷見駅が、漁港や番屋街などがある市の中心部から離れています。氷見線から氷見港までは1km、番屋街までは2kmほどあるのです。しかも富山駅から射水市新湊地区を経由して氷見に向かうバスは、駅を通らず漁港や番屋街に直行します。地域を走る加越能バスでさえ氷見駅には立ち寄らず、近くの国道に最寄りのバス停があります。

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高岡市も、北陸新幹線は高岡駅のひとつ隣にある新高岡駅に乗り入れており、駅周辺にはショッピングモールがある一方、高岡駅近くの百貨店は閉店するなど、主役の座が入れ替わりつつあることを実感します。ただこちらは城端線が両駅を結んでいます。氷見線を氷見港付近まで延長するという手法を含め、交通結節点の一元化を図らないと、LRT化の効果は発揮されにくいと思っています。

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もうひとつ気になるのは高岡駅から射水市新湊地区に伸びる万葉線の扱いです。氷見線と万葉線は高岡駅から能町駅付近まで並行していますが、万葉線は停留場が多く、交差点で信号停止することもあり、所要時間は3倍近く掛かります。なので新湊地区から氷見線経由で高岡・新高岡駅に乗り入れることで、スピードアップを図れないかと考えるようになりました。

実はこの地域には、氷見線から分岐して万葉線に沿って走る貨物線があり、かつては旅客営業をしていたものの、万葉線の開通で貨物線に専念するようになったという経緯があります。時計の針を巻き戻すような形にはなりますが、2つの路線が並行するのであれば、線路をつなげることで速達性を高めるという選択肢があっても良いのではないでしょうか。

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残る高岡市内の路面電車は単独で残すことになりますが、利用状況次第では氷見線に駅を増やしたうえで統合という結論になるかもしれません。いずれにしても地域の生活や観光にとってプラスになることが第一であり、そのために有効な投資を行ってほしいと考えています。

第2次世界大戦前から戦後にかけて、「オート3輪」の呼び名とともに日本の物流を支えた3輪自動車が、ここへきて地域輸送に投入されはじめています。タイのトゥクトゥクなど東南アジアや南アジアで見られる3輪タクシーを電動化したような成り立ちで、グリーンスローモビリティへの登録を見据えているのか、最高速度を20km/h未満としていることも特徴です。

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先日乗りに行ったのは、富山県の氷見市まちなか回遊促進モビリティ「ヒミカ(HIMICA)」と射水市新湊地区の新たな地域公共交通「べいぐるん」です。富山がモビリティ感度の高い地域であることを改めて教えられます。電動3輪車を使うことは同じですが、ヒミカは観光客向けレンタカー、べいぐるんは平日は地域住民向けオンデマンド交通、休日は主として観光客向け定時定路線運行とした点が異なります。

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ヒミカの車両は富山市の光岡自動車が販売している物流用電動3輪車「Like-T3」を乗用にコンバート、べいぐるんの「立山」はインドの3輪タクシーをベースに富山市のアール&スポーツ ディベロップメントが電動化したもので、いずれも地産地消型モビリティと言えます。なお立山のほうは、実証運行終了後は車体を延長して乗車定員を3人から4人(運転手を除く)に改造するそうです。

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ヒミカは自分で運転、べいぐるんは乗客として利用という違いはありましたが、共通して言えるのは、狭い道が多い市街地を巡るのに超小型の3輪自動車はとても適していることです。Like-T3のボディサイズは2485x1075x1575mmと軽乗用車よりさらにひとまわり小柄で、最小回転半径は2.3mと軽乗用車の約半分にすぎません。

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4輪車に比べればたしかに安定性は劣ります。とはいえ最高速度が20km/h未満に抑えられているうえに、前面窓や屋根、シートベルトが装備してあるので、トライクに比べれば安全と言えます。逆に20km/h未満しか出ないことを気にする人がいるかもしれませんが、幹線道路を避ければ交通の妨げにはならず、狭い路地ではむしろ遅いことに好感を持たれるのではないかと感じました。

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一方車両の開発や運行を担当する側のメリットとしては、開発費や維持費の安さがあります。道路運送車両法ではどちらも側車付2輪車(ヒミカは軽2輪、べいぐるんは小型2輪)登録であり、保安基準は軽自動車ほど厳しくはなく、税金も安くなります。電動車両なのでランニングコストも抑えられます。それでいて道路交通法では普通自動車となるので、2輪免許がなくても運転できます。

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3輪車が4輪車より優遇されるのは日本に限ったことではありませんが、我が国は乗り物全般について厳しいルールがある中で3輪車は例外的であり、安全面で問題がないなら再注目して良いと考えています。気になる方は海の幸を味わうついでに乗りに行ってはいかがでしょうか。ただしヒミカは12月~3月初旬は冬季休業、べいぐるんの実証運行期間は11月29日までですのでご注意ください。

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