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モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

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自動運転のレベル分けは正しいか

日本福祉のまちづくり学会で交流のある方から自動運転の勉強会の案内をいただいたので、昨日参加してきました。交通関係の研究者や事業者など約20名が集まる中で、国の自動運転関連の検討会で重要なポジションを務め、自動車メーカー技術者との交流も深い大学の先生の講義を拝聴した後、意見交換を行いました。

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個人的にもっとも印象に残ったのは、自動車技術者の間では最近、自動運転レベル3をスルーし、ダイレクトにレベル4を目指す考えが主流になりつつあるということでした。

自動運転のレベルについては下の表を見ていただきたいのですが、わが国では米国SAE(ソサエティ・オブ・オートモーティブ・エンジニアズ)という団体の指標を参考にしており、レベル0から5まで6段階に分かれています。現在市販化されている運転支援システムはレベル2で、レベル3になると人間の代わりにAI (人工知能)が運転を担当することが大きな違いになります。

しかしその上のレベル4では、領域を限定するとはいえAIがすべての運転を担当するのに対し、レベル3はAIが運転を代わってほしいと要請した際には人間が代行する義務があります。裏を返せばAIの運転技術が完璧ではないことを示しています。一方で人間の役割も、基本はAIに任せつつAIが要請した際には運転を担当するというファジーな内容です。

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日本学術会議のウェブサイト=http://www.scj.go.jp

この問題を解消するためのステップとして、車両側はレベル4の水準を達成しつつ、それをまず人間が運転し、AIに任せても問題がないという結論が出た暁に初めて移行するという手法があるようです。つまりレベル2の範囲を広げる代わりにレベル3はスキップし、直接レベル4に到達するというものです。

そもそもSAEの自動運転レベル分けは、自動車メーカーを基準として作られたものです。先月ソフトバンク・グループのSBドライブなどが東京で実験走行を行った仏ナビヤ・アルマ(写真)や、DeNAが日本各地で走行を重ねているイージーマイルEZ10は、ペダルもハンドルもなく、当初からレベル4としてカテゴライズされています。自動車メーカーのロジックでは判断できない動きが生まれているのです。

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SAEが制定した自動運転のレベル分けは、現在の私たちが自動運転の性能を理解するうえでは有効でしょう。しかしそれは過去の経験に基づいて制定されたものであり、未来永劫遵守すべきものではありません。ルールは時代の要請によって柔軟に変えていくべきものであり、それは自動運転においても当てはまります。つまり絶対的なものではありません。

そもそも自動運転は交通事故を減らすとともに、すべての人に安全快適な移動を提供するために生まれた技術です。レベル3相当の技術を他に先駆けて市販化することは、企業成長の論理では重要かもしれませんが、前述したように曖昧な基準を曖昧な説明のまま販売することの危険性を孕んでいます。その点で車両側の技術をレベル4相当まで高めたうえで人間からAIへの移行を進めていくという解釈は、説得力のあるものでした。

交通と政治の関係

このブログでも何度か紹介した栃木県宇都宮市・芳賀町のLRT計画(以下宇都宮LRT)について、鉄道ジャーナル9月号に記事を掲載させていただきました。5年前からこの地に何度か通い、さまざまな関係者に話を伺いつつ沿線となる地域を訪ね歩いた記録をまとめたものです。
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宇都宮LRTのこれまでの道のりは雑誌にくわしく書いたので、ご興味のある方は読んでいただきたいのですが、 2012年の宇都宮市長選挙で現職の佐藤栄一氏が、以前から計画にあったLRT導入を争点に掲げて大差で三選。まず宇都宮駅東側の優先整備と芳賀町への延伸、公設型上下分離方式の導入を決めました。

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ところがその直後から反対派の声が目立つようになりました。当初は260億円としていた宇都宮駅東側の整備費が450億円以上に増大したことを問題視したのです。昨年の市長選でも佐藤氏は当選したものの、LRT反対を訴えた対立候補との票差は僅差と呼べる状況になっていました。

自治体の首長を決める選挙で交通が争点になることは良くあります。それ自体は問題ではありません。しかし昨年の選挙では、対立候補がLRT整備費用1000億円という数字を掲げました。実際には宇都宮駅西側を含めても整備費は700億円以内で収まり、すべてが宇都宮市の支出ではありません。一方対立候補のウェブサイトに1000億円の内訳についての説明はなく、「一説には」という表現に留めていました。

1000億円というインパクトのある数字が効いたとも言えますが、逆に現職側がLRTのメリットをしっかり説明しなかったことも辛勝につながったと見ています。

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そもそも宇都宮LRTは市の東部や芳賀町などに展開する工業地帯への通勤輸送として計画されました。当初の予定ルート図を見れば一目瞭然です。当時の宇都宮市の関係者は、通勤輸送だけで黒字になると説明し、沿線への公共施設誘致や住宅整備などには言及していませんでした。これでは多くの市民の支持はもちろん、興味も得られないはずです。

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しかし昨年から風向きが変わり始めました。ウェブサイトにLRTを説明するパンフレットや動画を相次いでアップし、6月に現地を訪れた際には県庁でLRTのオープンハウスを開催していました。市長選での辛勝を受けて、工業団地への通勤輸送から市民のための路線へ考えを改めたのでしょう。最新の予定ルート図から工業団地が消えていることでも、それは伝わってきます。

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宇都宮LRTは政治に揺り動かされつつ、結果的にはその揺れによって、市民路線という好ましい方向に絞り込まれつつあると感じています。交通と政治は密接な関係にあることを、今回の事例は教えてくれました。しかしそこに党利党略を持ち込むべきではないと考えます。すべての人に安全快適な移動を提供すること。これが交通分野における政治の使命だと思っています。

座席指定通勤列車をどう活かすか

今週は京王電鉄の新型車両5000系の報道向け撮影会がありました。1963年に生まれた名車の数字を受け継ぐこの車両は、進行方向に向いて座るクロスシートと車体中央に向いて座るロングシートの両方に転換できる座席を採用することで、京王としては初めての座席指定列車でありながら、通常の通勤列車としても運行できることが特徴となっています。

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新型5000系は、運転席のガラスを傾斜させたスマートな先頭部、高尾山の木々の色や繊維の街・八王子の絹糸の感触をモチーフにしたシートなど、既存の同社の車両とは一線を画した個性的なデザインとなっています。ユニバーサルスペースをはじめ、無料公衆無線LAN、空気清浄機、電源コンセント、防犯カメラ、ステレオスピーカーなど装備も充実しています。

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また省エネ性能向上のために、やはり京王として初めて蓄電池を搭載。ブレーキ時の回生エネルギーを充電し、走行時に用いるとともに、停電時にはこの電力を使って近くの駅など安全な場所まで自力で移動する能力も備えています。この新型5000系、今年の9月からまず通常の列車として走り始め、来年春から座席指定列車としての運行を始めるということです。

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同様の車両はすでに東武鉄道や西武鉄道で走っており、以前からクロスシート車両を持っていた京浜急行は一部列車を同社初の座席指定とするなど、座って通勤できる列車が最近増えつつあります。もちろん「痛勤」とまで言われた過酷な通勤ラッシュを緩和するためです。

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今月は別の角度から同じ問題に向けたアクションも始まりました。東京都が通勤ラッシュ回避の働き方改革のひとつとして打ち出した「時差Biz」です。参加企業はフレックスタイムやテレワーク導入、シェアオフィス活用などを行い、鉄道事業者では東急電鉄が早朝に停車駅の少ない「時差Bizライナー」を走らせるなどの取り組みを行っています。

残念なのはこの時差Biz、7月25日までの期間限定政策となっていることです。前述したように新型5000系が座席指定サービスを始めるのは来年であり、東京都と企業・鉄道事業者の足並みが揃うには相応の時間が必要でしょう。粘り強く進めてこそ効果がある政策だと思っています。

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さらに以前のブログで書いたように、企業の地方移転への働きかけも希望します。大企業がここまで一都市に集中するのは先進国では珍しく、少子化問題などの原因になっていることは改めて書くまでもありません。通勤需要を抑えられれば座席指定通勤列車の活用範囲が広がり、多くの人が快適な移動を享受できます。東京都にとっては税収減につながるだけに気が進まないかもしれませんが、日本の中の東京という視点で考えてほしいところです。
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