THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

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自転車と共存する街

2週間前のブログで取り上げたポートランドを再び紹介します。今回のテーマは自転車です。下の写真は、国際空港からダウンタウン(旧市街)を抜けて西部の新興住宅地へ至る MAXライトレールのレッドラインです。ドアの脇の空間に自転車が立て掛けてあります。

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車内に車いすやベビーカー利用者のためのユニバーサルスペースを設け、そこに自転車も置く作りはヨーロッパで何度か見てきましたが、自転車を縦に置く方式はあまり目にしたことがありません。自転車利用者にとっては固定がひと手間になりますが、限りある車内空間を節約できるし、乗車中は座って過ごせるので、 個人的にはこの方式のほうが良いと感じました。

ユニバーサルスペースにはスーツケースのアイコンもあります。レッドラインは国際空港へ向かうので、大きな荷物を持った乗客もいます。そういう人たちのためのスペースでもあるのです。見方を変えれば、空港アクセス鉄道の荷物置き場に自転車も置けるようにした、と言えるかもしれません。

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一方路線バスは、車体の前方にキャリアが付いており、ここに自転車を載せることが可能です。写真で見る限り2台の積載ができるようです。 バスは電車より狭いので外側に置くという判断をしたのでしょう。ちなみにこちらでは、車いすやベビーカーは中央の扉から出入りします。つまり車いすやベビーカーと自転車を分けて扱っているのです。

ポートランドでも自転車は、道路上では車両として見なされますが、鉄道の車内では車いすやベビーカーと同列に扱われ、バスではそれとも異なる対応がなされます。状況に応じて柔軟に対処しているのです。まるで大昔からこのスタイルを続けているのではないかと思うぐらい自然に映りました。

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もうひとつ、自転車置き場も紹介しましょう。ポートランドの自転車置き場はこのように、パイプを使った簡単な作りが主流です。ダウンタウンを含めて駐輪料金はないようです。もちろんロックはないので盗難対策は自己責任になります。シンプルかつスマートで、自転車に似合う作りだと思いました。

法律に縛られず利用者を第一に考えた臨機応変な対応と、複数の交通を組み合わせてより良いモビリティを構築していく姿勢、そして利用者の判断を尊重した必要十分な設備が、とても心地よく映りました。ポートランドの人口は約60万人。同等の規模を持つ日本の地方都市なら十分に導入可能な手法ではないでしょうか。

踏切を危険不便という前に

国土交通省が昨日、昨年春に改正された踏切道改良促進法に基づいて選んだ全国1479か所の「課題のある踏切」のうち、改良すべき踏切として529か所を指定しました。昨年の58か所に続く指定で、ピーク時1時間に40分以上遮断している「開かずの踏切」のほか、交通量の多い場所、事故が起こった場所などが選ばれています。

同省はこれらについて、改正法の趣旨を踏まえ、立体交差化や拡幅等だけではなく、必要に応じて当面の 対策や踏切道の周辺対策等、地域の実情にあわせた改良計画の検討を行っていきたいとしています。

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この発表を見て、ちょっと不思議な気持ちになりました。開かずの踏切と踏切事故は、本来相反するものではないかと思ったからです。それがともに問題となっているのは、遮断時間が長いので待ちきれずに踏切を渡る人がいるからでしょう。現にテレビのニュースでは地元住民が同様のエピソードを挙げていました。

予想どおり、529か所の約8割は首都圏、中京圏、関西圏に位置しています。やはり一極集中(この場合は三極ですが)が影響を及ぼしているようです。 この問題を解決するのに、いままでどおりの手法で取り組んでも限界があると考えています。高架化や地下化は、高齢者や身障者にとって鉄道を使いにくいものとしてしまいます。建物が密集した都市の道路の拡幅も簡単にはできません。

2か月前「東京の通勤電車をどうするか」というテーマでブログを書いたとき、東京都の小池百合子知事が打ち出した「満員電車ゼロ」実現のために、勤労者の在宅勤務や事業所の地方移転を進めることを提案しました。この提案は踏切問題を解消していくためにも効果があると考えています。そしてもうひとつ、歩車分離を提案します。

下の写真は今月訪れたポートランドのライトレール停留場です。車道には信号があるのに対し、歩道はホーム間の連絡通路と共用としており、待つことはほとんどありません。警報機や遮断機はないので、各自が安全確認する必要がありますが、個人的には危険だとは感じず、むしろ安全意識が高まって良いと感じました。

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ポートランドのライトレールは郊外では高速で走り、駅間も長く、踏切には遮断機が付いています。一方、都心では短い駅間をゆっくり走り、道路との交差部分はこういう構造が多くなっています。欧州ではトラムトレインと呼ばれる形態で、日本でも広島や福井などで走っています。

日本の都市部の鉄道駅も昔はこういう構造が多かったようですが、安全対策の名の下に跨線橋や地下道に切り替わりました。歩行者専用道路に路面電車を走らせるトランジットモールが認められないのも、この安全思想が影響しているのでしょう。しかしその結果、駅の利用者にとっても、踏切の通過者にとっても、不便なものとなっているのです。

優等列車が高速で疾走する昼間は遮断機は必要かもしれません。しかし朝のラッシュ時は多くの路線がノロノロ運転なので、こうした構造が適用できるのではないでしょうか。

たしかにこの場合、利用者一人ひとりが安全を確保する割合が高くなります。しかしそれは移動においてもっとも大切な心得です。信号がないのは危険と言われたラウンドアバウトが、実際には信号付き交差点より事故が少ないというデータもあります。個人の安全意識を高める方向でのインフラ作りを希望します。

ポートランドが注目される理由

ドナルド・トランプ氏が米国大統領に就任しました。就任演説でも「米国第一主義」をはじめ、選挙戦中に掲げていた方針をほぼ実行すると明言しており、大統領選でヒラリー・クリントン氏が勝った州を中心に賛否両論が巻き起こっています。そのひとつが昔からリベラルな気風で知られているオレゴン州です。

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2週前のブログで書いたCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)取材を終えた私は、そのオレゴン州で最大の都市であり、日本のまちづくり関係者から注目されているポートランドに向かいました。ポートランドについては、実際に同市開発局に勤務する山崎満広氏が書いた「ポートランド 世界で一番住みたい街を作る」がくわしく、自分も同書を参考にモビリティ視点で街を巡りました。

ポートランド国際空港を降りると、ターミナルの端からライトレール(通称MAX)が出ています。これに乗るとダイレクトで市の中心部(ダウンタウン)に行けます。ダウンタウンでは他のライトレールや、ひとまわり小柄な車両を使ったストリートカーと交差しており、乗り換えることで市内の主要地域に行くことができます。日本で言えば、都心部を巡るストリートカーは広島電鉄の市内線、郊外へ直通するライトレールは宮島線に近い印象です。

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ライトレールの郊外部分には、◯◯トランジットセンターという駅がいくつかあります。これらは駅前にバスターミナルが併設された駅です。電車もバスも低床で駅やバス停には階段がないので、車いすやベビーカーの利用者を含め、多くの人が楽に乗り換えできそうです。一方都心部には地元の大企業ナイキがスポンサードしたサイクルシェアリングがあり、ダウンタウン脇を流れるウィラメット川沿いの再開発地区を筆頭に、自転車レーンも各所に整備されていました。

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まるで欧州の都市を見るようなモビリティ環境でした。おかげでラスベガスでお世話になったライドシェアやタクシーを、一度も使う必要がありませんでした。しかしモダンなビルが建ち並び、ハイウェイの高架橋が続く光景は米国そのもので、メインストリートにカジュアルでクリエイティブな店舗が並ぶ景色も欧州とは違うところです。米国らしさを消さずに、うまく欧州流モビリティを組み込んだ感じです。

ランチタイムのレストランは客も店員も若い人がメインでした。一方でライトレールやストリートカーは高齢者の利用が目立ちます。あらゆる世代にとって住みやすい街になっているようです。レストランやショップはライトレールやストリートカーの沿線に集中しているおり利用しやすそうでした。裏通りは荒廃した箇所もありましたが、メインストリートは一部の米国のダウンタウンのような危険な雰囲気とも、日本のシャッター通りのような寂れた感じとも無縁でした。

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山崎氏の著作によれば、このまちづくりは都市が明確なビジョンとプランを持ち、住民が積極的にバックアップする形で作り上げていっただそうです。行政任せでも、市民任せでも、この街はできなかったでしょう。クルマ社会の典型と言われた米国で、こんな都市が構築できたことは驚きです。日本の地方都市もクルマ社会から脱却する可能性はある、やればできるということを、ポートランドは示しているようでした。