THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

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2018年の自分のモビリティ分野の活動を振り返ってみると、2つのキーワードが思い浮かびました。ひとつは6月に国土交通省が提案したGSM(グリーンスローモビリティ)、もうひとつは9月にフィンランドの首都ヘルシンキで説明を受けるとともに議論を重ねたMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)です。

その前段階として、1月には石川県輪島市の電動カートを使った一部自動運転による移動サービスを体験しました。5か月後にこれがGSMの代表例として紹介されるとは思いませんでしたが、そこではさらに、群馬県桐生市などで走行している低速電動バスeCOMも取り上げていたので、機会を見つけて桐生に足を運びました。

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10月には愛知県春日井市の高蔵寺ニュータウンを訪れ、かつてニュータウンとして開発された街こそGSMが必要であると痛感し、11月には横浜市金沢区の電動カート実証実験を見に行って、坂の多い街での電動車両の有効性を教えられました。GSMが必要とされる舞台は予想以上に多いことを思い知らされました。

ところでGSMで使われる乗り物は、電動カートにしても低速電動バスにしても、横の窓を持たずエアコンがないなどシンプルな構造です。実はこれがタイトルでMaaSと結びつけた理由です。

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従来の考え方では、安全装備や快適装備は上級の乗り物ほど充実しており、それを理由にして利用者に上級の乗り物を選んでもらうというヒエラルキーが存在してました。しかしMaaSはすべてのモビリティをシームレスにつないで快適な移動を提供する概念であり、MaaSのもとでは自転車、鉄道、バス、タクシーなど、すべての乗り物が平等となります。

GSMで使われる乗り物もMaaSに組み込まれれば、既存の鉄道やバス、タクシーと同等の移動手段として活用が期待できます。そうなれば車両価格や維持費の安さはメリットになり、自動運転に積極的に取り組んでいることは、運転手不足や高齢化などの問題解決で有利になるでしょう。

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GSMは大都市ではなく、郊外や農村などでの移動手段として期待されているようです。一方のMaaSはビジネス視点で考えるとどうしても需要の多い大都市偏重になりがちです。フィンランドやヘルシンキのように、国や自治体が主導してMaaSを考え、そこにGSMを結びつけることで、シンプルかつエコな移動環境を構築し、地方の移動問題解決につなげていくことを期待しています。

*次回は2019年1月5日公開予定です。

軽トラックの荷台を店舗に見立て、運んできた地場産の新鮮野菜などを対面販売する特設の朝市、軽トラ市。先月、栃木県宇都宮市のオリオン通りで第5回全国軽トラ市が開催されたので覗いてきました。東洋経済オンラインで記事にしているので、気になる方は見ていただきたいですが、自分自身、軽トラ市を実際に見たのは初めてであり、いろいろ感心する部分がありました。

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東洋経済オンラインの記事 = https://toyokeizai.net/articles/-/253995

軽トラはもともと荷物を積んで運ぶための乗り物です。その荷台を店舗に仕立て、60台以上を一列に並べて商店街を作ったシーンにまず圧倒されました。軽トラの荷台が買い物に最適な高さであることにも気づきました。自作の棚でディスプレイを工夫したり、アルミでボックスを作ったり、楽しみながら店を営んでいることも伝わってきました。

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現在はさまざまな形態の移動販売車を目にしますが、多くは販売専用に設計された車両で、それ以外の用途に使うのは難しそうです。しかし軽トラ市に参加した車両は、終わったら残った商品やディスプレイを積んで帰り、翌日からは本来の作業に従事することができます。本業に支障を与えず、新たな役目を持たせているわけで、2005年に最初に軽トラ市を開催した岩手県雫石町の人々の発想に感心しました。

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しかも軽トラ市は地方のにぎわいを創出しています。宇都宮市は人口50万人以上の県庁所在地ですが、以前、平日昼間に訪れたオリオン通りは閑散としていました。それだけに集客力には驚きました。軽トラのみならず、両側に並ぶ商店を覗く人も多く見られました。一方の参加者は軽トラの機動力を活かし、県外からのエントリーも目につきました。過疎化に悩む地域こそ効果が大きいのではないかと感じています。

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気になるのは軽トラ所有者の高齢化と後継者不足です。農村部に共通する悩みですが、軽トラは運転という行為が加わるので、よりシビアな問題になります。ただ生産者と消費者が直接顔を合わせて買い物をすることも軽トラ市の魅力であり、無人運転車ではこの雰囲気は表現できないでしょう。近年は若者がフリーマーケット的に趣味の品物を販売する例も増えているそうなので、今のにぎわいを保ったまま世代交代していってほしいと思っています。

トヨタ自動車が来年から、サブスクリプションサービス「KINTO」を始めると発表しました。サブスクリプションを日本語に直せば「定額制」となるでしょう。携帯電話料金や音楽配信サービスでは以前から一般的でしたが、モビリティの世界では最近になって注目が集まっているようで、今週ラジオ番組で紹介したほか、インターネットメディアで記事にもしました。そこで今回はこのテーマを取り上げたいと思います。
新車購入やカーシェアリングなどとの違い
ReVision Auto & Mobilityのサブスクリプションの記事=https://rev-m.com/mobility/subscription20181205/

交通の世界で定額というと、鉄道やバスの定期券を思い出す人がいるかもしれません。しかし定期券は1日の利用機会が行き帰りぐらいであり区間も決まっています。現在サブスクリプションと呼ばれるものは、もっと範囲が広く自由に使えるものを指すものであると認識しています。

モビリティの分野ではこのブログでも紹介したフィンランドのMaaSアプリ「Whim(ウィム)」が代表格でしょう。Whimは経路検索や事前決済といった、それ以前から一部で実現していたスマートモビリティのサービスに加え、1か月ごとの定額メニューを用意したことが斬新で、現時点でMaaSアプリの最高ランクに位置付けられています。

Whim3つのメニュー

一方自動車の分野ではトヨタに先駆けて、中古車買取のガリバーで有名なIDOM(いどむ)が中古車を用いたサブスクリプションサービス「NOREL」をWhimと同じ2016年からスタート。今年からは新車のBMWとミニもラインナップに加えました。米国ではいくつかのブランドが新車で展開を行なっており、今年ドイツのプレミアムブランド、ポルシェが参入した際には話題になりました。

ポルシェパスポート

どちらも多種多様な選択肢の中から、ユーザーが自由に選んで自由に使えることが魅力となっているようです。ただし公共交通と自動車とではプロセスが違います。前者はルートが選択肢となり、速さ重視か環境重視かなどによって結果が異なってきます。後者は目的や用途に合わせてどんなクルマを選ぶかが分かれ目になります。さらに新車サブスクリプションでは魅力的な新車を短期間で乗り換えできることも魅力に数えられるでしょう。

ただこれは他の業界のサブスクリプションにも言えることですが、自分にとって得か損かは冷静に判断したほうが良いと思います。Whim Unlimitedは月額499ユーロ、ポルシェは安いほうでも2000ドルです。ヘビーユーザーでなければ元は取れないでしょう。インターネットメディアに数字の比較を載せてありますが、週1回レベルならWhimであれば一時利用(Whim To Go)、自動車ではカーシェアリングのほうが妥当だと考えます。

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サブスクリプションメニューがない時代、自動車においては所有かシェアかの比較をよく見かけました。カーシェアリング大手タイムズカープラスのウェブサイトには料金シミュレーションがあるので、気になる方は試していただければと思いますが、月20回・1回4時間利用で所有と同等になり、それ以下ならカーシェアリングのほうが割安になるそうです。

IDOMではサブスクリプションについて、自家用車とカーシェアリングの中間的存在としています。そのとおりだと思います。他のモビリティにも言えることですが、トレンドだからと安易に飛び付くのではなく、自分の移動をしっかり見つめたうえで、もっとも適したサービスを選んでほしいと思います。サービスが多様化しているからこそ、ユーザーの選ぶ目が大事になってきていると考えています。

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