THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2015年02月

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ピケティ・ブームから考える移動格差

いま経済界でもっとも注目の人物が、フランスの経済学者トマ・ピケティ氏でしょう。2013年に母国で、そして昨年日本で発売された著書「21世紀の資本」は、約700ページというボリューム、6000円近い価格(いずれも日本版)にもかかわらず、世界的なベストセラーになっています。私も読者のひとりです。

彼の主張については、すでに多くのメディアで紹介されているので、著作を読む必要はないと考える人がいるかもしれません。また「◯分でわかる」などの参考書に目を通せば良いと思っている人も多いようです。安易に結果を求めたがる最近の日本らしい風潮です。

capital

この本の肝は、結果よりも過程にあるのではないかと思っています。産業革命から現在までの主要国の経済状況を、当時は存在しなかったコンピュータを活用して統計化し、結論を導き出したのです。つまり憶測や願望でモノを言っているのではなく、主張に裏付けがあるのです。それが世界中から評価を受けている理由でしょう。

そこから導かれた主張である「資本主義が発展すると格差は大きくなる」は、現在の我が国のモビリティの世界にも、ある程度当てはまります。JR九州の超豪華寝台列車「ななつ星」は予約が殺到し、料金値上げが実施されたのに対し、地方住民の足である鉄道やバスは廃止や減便が相次いでいます。自動車の世界では、新車で販売された4割が軽自動車でありながら、1000万円以上の超高級車も売れ行きを伸ばしています。

格差が小さくなれば、超豪華列車や超高級車は、一時的に需要が低下するかもしれません。しかしクオリティを大きく落とさない範囲で価格を下げれば、すぐに挽回するはずです。逆に格差が大きくなっても、同じ列車に乗る回数を増やしたり、同じ車種を何台も手に入れたりすることは、マニアでない限り稀有でしょう。そこで料金や価格の値上げとなります。逆に低所得者層では、所得がさらに減少し、移動に支障をきたす人が増える可能性があります。移動の格差もさらに拡大することになります。

格差を完全になくすことは不可能であり、すべきでもありません。背が高い、絵が上手、運動神経に優れるなど、人は生まれた時点で格差を持っているわけですし、ある程度の競争がなければ、たぶん人は怠けてしまって、新しい技術やデザインが登場しなくなり、やがては人間以外の生物に地球の主役を奪われてしまうでしょう。しかし我が国でも近年、格差が過大になりつつあるのは事実であり、どこかで歯止めをかけるべきではないかと考えます。


bentley

日本ではあまり話題になりませんが、彼は20世紀の100年間で格差が小さくなった時期として、二度の世界大戦を挙げています。戦争が起これば格差は縮小する。これが歴史の真実なのです。21世紀は戦争以外の手段で格差縮小をすべき。それが「世界的な資本税」という提案をしたピケティ氏の真意ではないかという気がしています。

格差拡大を人のせいにして放っておけば、過去のオウム真理教や現在の中東地域のような過激派が台頭し、やがて戦争に結び付くのではないかと危惧しています。そうならないためにも、1人ひとりが真剣にこの問題を考え、動くことに尽きるのではないかと思っています。

駅前広場は仲良く使いましょう

今週水曜日、熊本市の大西一史市長が、2018年度完成予定のJR熊本駅新駅舎に、市電を引き込むことを断念すると表明しました。市議会の一般質問に対する答弁で明らかにしたもので、歩行者や自転車の安全確保などに解決策が見出せないので、駅前広場への乗り入れを諦め、計画を見直すそうです。

アムス中央駅

ヨーロッパのターミナル駅では、駅前広場に路面電車が乗り入れるのは当たり前の光景です。日本でもいくつかの都市で、既存の線路を延伸することで、駅舎や駅前広場への乗り入れを実現しています。来月開業する北陸新幹線富山駅も、路面電車が駅の直下に入る予定になっています。そんな流れに異を唱えるような熊本市長の判断には疑問を持ちます。

日本の行政関係者や交通専門家の中には、交通の流れを細かく区分し、それぞれに専用道を与えることがベストであるという論調が見られます。たしかにそのほうが安全かもしれません。しかし駅前はスペースに限りがあるうえに、そこに集う人々の行動は多様であり、厳格なルールで規則するのは無理があると個人的には考えています。

リヨン

写真は上がアムステルダム中央駅、下がリヨンのパール・デュー駅です。これがモビリティ先進地域と言われるヨーロッパの現状です。歩行者が電車の動きに注意しながら自由に歩いています。日本に求められるのはこういうシーンです。1人ひとりが自分の安全に気をつけながら行動すれば、どんな交通も自在に乗り入れできるでしょう。自分の身は自分で守る、を心掛けてほしいのです。 

鉄道からは社会が見える

2月13日、週刊東洋経済の臨時増刊「鉄道完全解明2015」が発売されました。私もLRT(次世代型路面電車システム)について記事を書かせていただいたのですが、誌面を通して見て改めて感じるのは、鉄道と社会の深いつながりです。

東洋経済なので、当然ながら経済面には大きな比重を置いているのですが、それ以外にも政治、生活、環境などといった要素が、新幹線からローカル線まで 、あらゆる鉄道にくまなく関与していることを教えられます。

toyokeizai

これは鉄道が線路を走ることと関係あるような気がします。自転車や自動車は道路という、すでに用意された場所を走ります。航空機は空、船舶は川や海と、おおむね自然の中を移動します。車両と道をセットで導入する交通機関は鉄道だけです。ゆえに社会的視点が大事になるのでしょう。

「ソーシャル」という言葉が多用されることで分かるように、最近は若者を中心に、社会のことを考えて行動する人が多くなりました。近年、鉄道に注目が集まっているのは、社会とリンクしているという立ち位置が、現代人のマインドに響いているのかもしれません。

逆に自動車は、密室に収まって移動するために、社会とのつながりを深刻に考える人は少ないような気がします。「若者のクルマ離れ」は、もしかするとソーシャル感の薄さが関係しているのかもしれません。よって自分は自動車の記事に、社会的な視点をなるべく入れるようにしています。

utsunomiya

この本では専門家による報告記事だけでなく、「ホリエモン」こと堀江貴文氏のインタビューなども掲載しています。「乗って残そう運動は疑問」「コンパクトシティ化は不可欠」など、外野の経営者目線での意見はとても参考になるものでした。 

趣味性を前面に押し出した一般的な鉄道メディアとは異なり、鉄道の社会的役割にスポットを当てたこのシリーズは好評らしく、5年前から毎年発行しています。今回その制作のお手伝いをすることで、評価の理由が理解できました。内容を考えれば1000円という価格も安いと思います。 

なぜドコモがサイクルシェアなのか

今週月曜日、携帯電話の通信事業者であるNTTドコモがNTT都市開発、NTTデータ、NTTファシリティーズとともに、サイクルシェアリング事業の提供を行う合弁会社「ドコモ・バイクシェア」を設立しました。

なぜドコモがサイクルシェアリングを?と思った人がいるかもしれません。実はドコモ、2009年に札幌市のサイクルシェアリング事業に参画(その後別会社に移管)したあと、現在は仙台市、東京都江東区・千代田区・港区、横浜市で事業あるいは実証実験を行い、広島市でも2月22日からサービス開始予定という、我が国におけるサイクルシェアリング事業の第一人者的存在なのです。

江東区


サイクルシェアリングやカーシェアリングは、情報通信技術があって初めて車両やステーションの管理が可能になります。この面に豊富な経験を持つドコモが事業を行うことは、理に叶っています。


一方、世界的にも有名なパリの「ヴェリブ」は、JCドゥコーというフランスの広告会社が運営しています。パリ市内の広告板の管理権を同社が取得し、収入を運営費に充てるという手法を取っています。自転車の製造会社が関与しないのは、むしろ一般的なのです。

アップルが自動運転を研究中というニュースが入りました。ひと足先に自動運転の研究を始めたグーグルは、数年内に小規模な実験を始めると表明しています。小規模での運用となればカーシェアリング方式となる可能性もあるわけで、これも異業種からの参入となるでしょう。

一方ドコモ・バイクシェアでは、マンション等でのサイクルシェアリング提供、他のサイクルシェアリング運営事業者へのシステム提供などを推進予定で、車両についてはすでに電動アシスト化を進め、車体広告掲出による収益向上も実施しています。

自動車会社も情報通信技術の開発に積極的で、一部は自らカーシェアリングを運営しています。彼らはたしかに、乗り物を作って売ることは得意です。しかしインフラサービス提供では、情報通信事業者に一日の長があります。2つの業種が今後、どのような関係でシェアリングを発展させていくのか、注目です。

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