THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2015年06月

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たま駅長を通して考える動物と交通の関係

和歌山電鐵貴志川線貴志駅で駅長を務めていたネコのたまが24日、亡くなりました。享年16歳、人間で言えば80歳に相当する大往生でした。昨年2度この鉄道を訪問し、たま駅長に会ったひとりとして、いろいろ思うところがあり、記すことにしました。

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和歌山電鐵は、廃止が検討されていた南海電鉄貴志川線を、岡山に本拠を持つ両備グループの岡山電気軌道が引き取り、2006年に再出発させたものです。再生に際してはまず地元住民が熱心な存続活動を始め、沿線自治体も支援を行うようになりました。それを知った岡山電気軌道の小嶋光信社長が、経営を引き受けることを決断したのです。

再生に際しては同じ岡山生まれで、すでにJR九州の車両や施設のデザインで注目を集めており、2002年に岡山電気軌道の新型路面電車「MOMO」のデザインを手掛けた水戸岡鋭治氏を起用し、「いちご電車」や「おもちゃ電車」などを走らせ、当初から話題を集めていました。

でもこのときは、まだ全国的な知名度ではなかったと回想します。火がついたのは翌年、駅に隣接した商店で飼われていたネコのたまが駅長に就任してからではないでしょうか。その後水戸岡氏デザインによる「たま電車」や貴志駅の新駅舎、さまざまな関連商品が登場したこともあり、和歌山電鐵は一気に知られる存在になりました。

特に増えたのは海外からの観光客です。昨年乗った「たま電車」の乗客の多くは中国系の旅行客で、日本ではないような雰囲気でした。鉄道ファンというわけではなく、たま駅長に惹かれて足を運んできたことは一目瞭然でした。現地ではたま駅長に会うとご利益があるとの噂も広まっているそうです。関西国際空港から近いことも有利に働いているでしょう。

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貴志駅の商店でネコが飼われていたのは偶然ですが、そのたまを駅長に任命し、たま電車や関連商品を出していったのは小嶋社長の判断であり、それがここまでの人気の原動力になったわけですから、小嶋社長の経営手腕は賞賛すべきでしょう。

ただし一部の人による「たまは過労だったのではないか」という意見には反論します。そもそもこの種の意見には根拠や対案が示されていないので議論の対象にはなりませんが、現在2匹のネコと暮らし、過去に2匹ネコを飼ったことがある経験からも、そう思っています。

ネコが幸せかどうかはネコのみぞ知ることであり、我々が口を挟むことではありません。しかしネコを飼っているほとんどの人は、ネコの暮らしやすいようにライフスタイルを構築しているはずです。ネコは賢い動物なので、そんな人間側の愛情にすぐに気付き、愛情で応えてくれることも知っているはずです。たまと和歌山電鐵の関係に、それに近いものを感じたのです。

私が訪れた昨年は、一度目はガラス張りの駅長室の中で昼寝をしており、2度目は姿がありませんでした。平日の4日間、10〜16時という時短出勤を実践していたからです。16歳という長寿を全うし、うち半分を駅長として過ごしたことや、野良ネコの平均寿命が2〜3歳であることを考えれば、激務を強いられていたわけではなく、あくまで飼いネコのペースの中で任に当たっていたと想像できるのです。

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意図的に作り出したアイドルではなく、自然体で振る舞う飼いネコだったからこそ、たま駅長はここまでの人気を得たような気がします。現在、さまざまな動物が鉄道の世界で活躍していますが、たま駅長は動物と鉄道の関係を考えるうえで理想的だったと考えていますし、世を去った今後も、好ましい扱い方をされていくのではないかと期待しています。

とにかく、一時は廃止寸前だった貴志川線を国際的に有名な鉄道にまで押し上げた功績は、どんな賛辞の言葉を使っても言い尽くせないものです。たま駅長、長い間お疲れさまでした。ご冥福をお祈りいたします。

UNI-CUBに乗りながら考えたこと

東京ビッグサイトで昨日まで開催されていた展示会、スマートコミュニティJapan2015で、本田技研工業(ホンダ)が出展していたパーソナルモビリティ「UNI-CUB」に乗ることができました。前身であるU3-Xや先代UNI-CUBに続いて3度目の試乗でしたが、今回は専用の敷地内だけでなく、展示会場の通路を歩行者に混じっての走行もしました。

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UNI-CUBはホンダの製品らしく、セグウェイやトヨタ・ウィングレットとは構造がかなり異なります。乗員の体重移動によって動くことは同じですが、大小2輪のオムニホイールをT字型に組み合わせた車輪は大きく異なります。オムニホイールとは、大径車輪のタイヤに相当する部分を、多数の小径車輪で構成したもので、このブログで何度か紹介している電動車いすWHILL Model Aも同様の車輪を持ちます。

立ち姿勢で乗るのではなく、シートに座り、ステップに足を掛けて乗るところも、他の多くのパーソナルモビリティとの違いです。試乗時にはステップに足を乗せたあと、両足のくるぶしでボディを挟むようにアドバイスされました。モーターサイクルに乗るときの姿勢に似ており、2輪車からスタートしたホンダらしさを感じました。両手がフリーで荷物を持ちながら乗れるのは、両足で車両をホールドするこの乗車姿勢によるところが大きそうです。

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発進停止はスムーズです。この点はセグウェイやウィングレットも同じですが、逆にタイのモーターショーで試した中国製品は動きが唐突で乗りこなすのが難しく、電子制御技術の良し悪しが出来を大きく左右する乗り物であることを教えられました。昔のUNI-CUBは真横への移動は可能だったものの、旋回は難しかったのですが、最新型はスムーズにカーブを曲がっていくことができました。会場内の小さな段差もまったく問題なく通過できました。

最高速度は電動車いすと同じ6km/hになっています。昔、広い部屋で乗ったときは、もっとスピードが出ても良いと思いましたが、今回のような雑踏の中では6km/hは妥当だと思いました。将来的には電動車いすを含め、車両と道路にセンサーを付け、歩道や屋内では自動的に速度制限となる仕組みができれば良いでしょう。また将来的に台数が多くなった場合には、すれ違い時のルールなどを確立する必要がありそうです。技術的にはほぼ完成しているので、あとはインフラ整備が必要です。

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この種の展示会場やショッピングモールはどうしても歩行距離が多くなります。健常者の自分でさえ疲れるのですから、足腰が弱い人は大変でしょう。欧州では以前紹介したように、ショップモビリティというサービスがありますが、日本では車いすの代わりにUNI-CUBのようなパーソナルモビリティで行うのが、先進技術を持ちつつ高齢化社会に直面している日本らしいのではないかと思います。

飲酒暴走自動車とイヤホン自転車の共通点

先週6日、北海道で合わせて4人が死亡した自動車事故と、今週10日に千葉県で、横断歩道を渡っていた女性が自転車にはねられ死亡した事故。立て続けに起こった悲惨な事故を前に、いろいろなことを考えさせられました。

北海道のひき逃げ事故は、スピード違反と信号無視、ひき逃げ、飲酒運転。千葉県の自転車事故も信号無視で、事故を起こした少年がイヤホンを着け、理由は不明ですが下を向いて運転していたことも明らかになっています。どちらも複数の違反を同時に犯していたわけで、凶悪犯と呼んで差し支えないでしょう。

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*写真の自転車は事故とは関係ありません

このうち自転車事故で特筆すべきは、イヤホン着用がクローズアップされたことです。今月1日に自転車取り締まり厳格化が始まった当初、片耳イヤホンが合法か違法かが議論になりました。それを受けて話題になったのかもしれません。これに対して、事故の主因は自転車の信号無視と前方不注意であり、イヤホン着用は関係ないという意見も出ました。

北海道の事故も、直接の原因は信号無視やスピード違反だったようです。しかし飲酒によって注意力が散漫になったことも関係しているでしょう。その点では今回の自転車事故のイヤホンも共通だと考えます。大事なのは片耳か両耳かではなく、周囲の音をしっかり聞き取れるかどうかであるはずです。

北海道の事故を起こしたドライバーは、報道によれば100km/hを超える高速で交差点に侵入したそうです。これでは相手が命を落としてしまうでしょう。一方千葉県の自転車事故の運転者は、車道左側を走行していたようですが、それでも信号無視をして歩行者に衝突すれば、相手は死亡してしまうのです。自転車も乗り方次第で走る凶器になることを示した一例です。

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*写真はイメージです

2つの事故は、道路を走るという行為が危険と隣り合わせであることを示しています。運転という行為に五感を集中させ、信号などのルールを守って、初めて無事故でいられるのではないかという気がします。飲酒や薬物服用はもちろんのこと、大音量の音楽、スマートフォンなど、運転に集中できない状態では運転しない。これが鉄則でしょう。

さまざまな立場で道路を移動することもお勧めしておきます。相手の立場が理解しやすくなり、事故防止に役立つからです。私も自動車、2輪車、自転車を状況に応じて乗り分け、バスや路面電車などの公共交通も使います。もちろん歩くこともあります。道路は自動車だけのものでも、自転車だけのものでもありません。ひとつの乗り物を極めるのではなく、さまざまな視点で道路を見つめることが大切だと思っています。

パリが導入する新たなエコモビリティとは?

地下鉄、バスレーン、LRTに加え、サイクルシェアリング「ヴェリブ」や電気自動車シェアリング「オートリブ」と、環境に優しい公共交通サービスの種類では世界一充実しているのではないかと思われるパリで、今月から新しい交通サービスが導入されます。世界初の電動スクーターのシェアリングサービス「シティスクート(Cityscoot)」です。

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*シティスクートのウェブサイト=http://www.cityscoot.eu/

ヴェリブのように自治体が手掛けたわけではなく、同名のベンチャー企業が駐車場サービスのヴァンシ(Vinci)などの協力を得て実施するそうです。ワンウェイ式ではなくフリーフローティング式を採用したことも特徴です。ダイムラーの「car2go」が導入している方式で、ワンウェイ式のように特定のステーションを持たず、 駐車場に置かれた車両をスマートフォンで探し、会員カードをタッチしてロックを解除し、シート下に格納されたヘルメットを着用して利用となります。

パリはスクーターに乗る人が予想以上に目立ちます。自動車より時間に正確で、自転車より快適に移動できることが理由だそうです。用途に応じて最適の乗り物を選択するという合理主義が根付いているのでしょう。最近はとくに長距離移動も楽にこなせるビッグスクーターが人気で、フランスは日本製ビッグスクーターのメインマーケットとなっているほどです(写真はリヨン駅前駐車場)。

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シティスクートに使われる車両は小型の50ccクラスで、料金は15分3ユーロ。4か月間のテストでチェックを行ったあと本格始動し、2016年には1000台の稼働を目指すそうです。サービスが軌道に乗るかどうかは分かりません。しかし新しいエコモビリティを導入しようという挑戦の気持ちには拍手を送りたいし、それを受け入れるパリの先進性と実行力には、世界一のモビリティ実験都市という称号を送りたくなりました。
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