THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2015年08月

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i-ROADと暮らす1か月

今日から1か月間、トヨタ自動車の超小型モビリティ「i-ROAD」に乗ることになりました。トヨタでは7月から、i-ROADを使った「OPEN ROAD PROJECT」という新しいトライを始めています。都市生活者に自由な移動を提供するために、プロダクトだけでなく、サービスを含めて新しい移動体験の開発に取り組むプロジェクトです。このたび第2期試乗パイロットに選ばれ、今日からこの革新的なモビリティと生活を共にすることになりました。

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i-ROADは、一昨年のグッドデザイン賞の審査会場で乗って以来、もっとも気になるモビリティの1台であり続けてきました。ゆえにパイロットに応募したわけですが、ただ乗るだけでは物足りないとも思っていました。しかし今月中旬に行われた講習会に参加して、トヨタが本気でこの種のモビリティの普及を考えていることが理解できました。

そのひとつがスマートフォンに入っているパーキングアプリです。今回の試乗パイロットの活動拠点である東京都港区および渋谷区に、約200か所の駐車場を用意しており、アプリを使って検索だけでなく予約もできるようになっています。一部の駐車場には充電施設も用意されています。これだけで心理的な活動範囲がぐっと広がりました。

以前紹介したDesign DOOアクティビティ「ヒューマンモードを考える」では、東京お台場のメガウェブで9月17日17時から開催する第1回で、私が使用中のi-ROADを会場に持ち込み、 デモ走行とともに、このOPEN ROAD PROJECTについても説明を行う予定です。当日はパーソナルモビリティ「ウィングレット」の試乗もできます。ご興味がある方はDesign DOO事務局メールアドレス:designdoo@voice-of-design.comからお申し込みください。

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Design DOO Facebookページ=https://www.facebook.com/Design.DOO.JD

それにしても驚いたのはi-ROADに対する注目度です。自動車に乗っていてこんなに注目されたのはひさしぶりです。ただこちらを見るだけでなく、多くの人が「カッコイイ」という言葉を掛けてくれます。かつてはパワーやステイタスを誇示する乗り物に贈られた賞賛の言葉が、今はスモール&スマートなモビリティに与えられるのは興味深いことです。そんな時代の変化も体感しながら、これからのひと月を過ごしていきたいと思っています。

日本だからできる、人とロボットの好ましい関係

ロボットのモビリティ化が進んでいます。工場で使われる産業用ロボットは多くが定置式なのでモビリティとは呼べませんが、自動運転車をロボットカーと呼ぶように、移動を支援するロボットは確実に増えています。そんな中で今週は、もう少し静的な存在である生活支援ロボットについて、大和ハウス工業から説明をいただく機会がありました。

大和ハウス工業では自社開発製品のほか、他社が開発生産を行うロボットの販売も手掛けています。アザラシ型ロボット「PARO」もそのひとつです。諸事情によりペットが飼えない人たちのパートナーとしてだけでなく、医療福祉施設などでセラピーやトレーニングのツールとしても使われていて、多くの人を元気づけ、安らぎを与えています。

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注目すべきは海外での評価です。ドイツやデンマークなど多くの国で福祉介護施設への導入が進んでおり、米国では医療機器として承認を受けています。2002年には「世界でもっともセラピー効果のあるロボット」としてギネス世界記録に認定されています。

欧米と日本でのロボットの立ち位置の違いが、こうした評価につながっているような気がします。欧米ではロボットの出現を脅威と考え、人間に従属する存在として位置付けています。しかし日本では、人間とロボットは友だちのような関係を築いています。かつてのソニーのAIBO、現在のソフトバンクのPepperもそうです。

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この立ち位置は日本のロボットにとって強みになりそうです。パロに匹敵する知名度を誇るロボットスーツHALにも似たようなことが言えます。ロボットスーツは海外では主として軍用として開発されていて、民生用として販売しているのは日本ぐらいです。HALはその代表で、足腰などが弱った人の生活をサポートするだけでなく、リハビリにも役立っているそうです。

他にも大和ハウス工業では、昨年度のグッドデザイン・ベスト100にも選定された卓上型対話支援システム「コミューン」、自動排泄処理ロボット「マインレット爽」など、生活支援ロボットをいくつも揃えています。なぜ住宅メーカーがロボットなのか、気付いた人もいるでしょう。高齢化社会に対処するには家作りだけでは無理だと考え、ロボットとともに生活支援を進めることにしたようです。

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自社開発生産ロボット「モーグル」は、住宅の床下など狭小空間の点検のためのロボットで、生活支援ではないように感じられます。しかし点検業者も他の多くの業界同様、高齢化が進んでおり、床下の狭い場所に潜っての作業は辛くなっています。こうした現状を踏まえたロボットでもあるのです。

大和ハウス工業は、警備会社と提携してセキュリティ賃貸住宅を展開するなど、日本の大企業としては仕組み作りが得意そうです。だからロボットにもスッと入り込めたのでしょう。今後はセンサー技術をロボットに組み込んで、見守り機能を提供するなどすれば、サービス事業としての可能性も期待できます。日本だからできる人とロボットの好ましい関係、さまざまな分野で生かしてほしいものです。

歩行者以上・自動車未満を考えるアクティビティ開催

このブログで何度か紹介したように、私が所属している日本デザイン機構では、昨年からDesign DOOという新しい活動を始めました。この第2弾として9月から11月にかけて、「ヒューマンモードを考える」というテーマでアクティビティを3回開催します。

ヒューマンモードとは、歩行者と自動車の間にある、車いす、ベビーカー、自転車などの乗り物を総称する言葉です。近年は立ち乗り型パーソナルモビリティをはじめとする新種が加わり、自転車や車いすでは電動化も進んでいます。これだけ状況が変化しているのに、今の日本では、歩道あるいは車道という既存のルールに無理に当てはめようとしています。その結果、さまざまな部分で無理が生じています。

ウィングレット

Design DOOではこうした状況を考え、トヨタ自動車、NPOまちづくり大井、東京モーターショーなどの協力をいただき、トヨタWingletやi-ROADなど、最新のヒューマンモード・モビリティに触れながら、ヒューマンモードにとってふさわしい道路交通をいっしょに探っていきたいと考えています。日程、参加費、申込方法は以下のとおりです。

アイロード
写真協力=トヨタ自動車 http://www.toyota.co.jp/

【日程】 
1「メーカーとともに体験&議論」9月17日(木)17時〜19時@お台場メガウェブ
パーソナルモビリティ「ウィングレット」、超小型モビリティ「i-ROAD」について、エンジニアの説明を受けたあと試乗や見学。その体験をもとにトヨタ側と意見交換をします。 
2「街を舞台に動かし方を考える」10月14日(水)16時〜18時30分@大井町MICAN
大井町駅前を舞台に、地元のまちづくりNPOから説明を受けたあと、駅前周辺をフィールドワーク。その後NPOの方とともに繁華街のヒューマンモードについて議論を進めます。
3「モーターショーでワークショップ」11月2日(月)9時〜11時30分@東京ビッグサイト
東京モーターショーで次世代型モビリティを展示する「スマートモビリティシティ」を舞台に複数のモビリティを体験後、参加者の地元でヒューマンモードをどう展開するかを考えます。
【参加費】
3回セット:一般5,000円 日本デザイン機構会員4,000円
1回につき:一般2,000円 日本デザイン機構会員1,500円
・東京モーターショー入場料は参加費に含まれます。 
・3回セットの参加費は事前振込となります。お申し込み後、メールにて振込口座等をお知らせ致します。ご入金を確認しだいお申し込み完了のお知らせと受講票をお送りします。 
・各回のみ受講の場合は当日会場で参加費を受け付けます。 
【申込方法】 
タイトル「ヒューマンモードを考える」・氏名・住所勤務先あるいは学校名・メールアドレス・電話番号を明記の上、下記メールアドレスまでお申し込みください。
Design DOO事務局/designdoo@voice-of-design.com

ひとりでも多くの方の参加をお待ちしております。よろしくお願いいたします。

技術は先進国 仕組みは後進国

以前のブログで紹介したように、今週末は「日本福祉のまちづくり学会」の全国大会で東京大学柏キャンパスに来ています。自分の研究発表を挟んで、移動や外出をテーマとした同じグループの他の方の発表を聞いたり、知人と情報交換をしたりしていたのですが、多くの人が問題だと考えるポイントが見事に共通していて驚かされました。

私は福祉車両についての発表をしました。これも以前のブログで書いたように、日本は自動車メーカーの手になる「介護式」(助手席や後部空間に身障者を乗せるタイプ)車両がバリエーション豊富で作りもきめ細かく使いやすいのに対し、 ヨーロッパは改造メーカーの手になる「自操式」(身障者が自分で運転するタイプ)が多く、それ以外の移動は自治体などがSTS(スペシャル・トランスポート・サービス)など公共交通に近い形で提供しているので、介護式車両の必要がないことを紹介しました。

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その理由について 、ヨーロッパ人は自分の力で動くことを好み、「移動権」という言葉が象徴するように誰でも、いつでも、どこでも安全快適に移動できる権利が保障されていることが大きいと説明しました。だからSTSなど社会で移動を支える仕組みがしっかり確立しているのでしょう。これは鉄道、バス、タクシーなどの公共交通にも言えることです。福祉の世界には技術だけではどうにもならない部分があることに気付き、新しい仕組みを生み出すことで対応しているのです。

こうした思想が根付いているのはヨーロッパだけではありません。日本以外の東アジアや東南アジアの中にも、ヨーロッパの福祉の仕組みを取り入れ、誰もが移動しやすい社会を作り上げている国があります。今回は台湾の公共交通について別の方が、段差解消の取り組みや豊富な車いすスペースなどを紹介していましたが、自分も昨年秋にタイのバンコクに行き、高齢者や妊娠中の女性などへの配慮が日本より進んでいてショックを受けた記憶があります。

バンコク

日本はたしかに技術については素晴らしいものを持っていますが、それを使いこなすための仕組み作りについては決定的に遅れています。モビリティの分野に限ったことではありません。私たちの生活に関わる多くの分野で同じことが言えるのではないでしょうか。 急速な少子高齢化が進み、地方消滅が叫ばれるなど、課題だらけのこの国を立て直すには、技術よりも仕組みが大切であることに気付くべきです。

明日へ向かって走るナローゲージ

「ナローゲージ」という鉄道をご存知でしょうか。通常の鉄道では1067mm〜1435mmとなっている2本のレールの幅が762mmで、それに合わせて車両も小型になっています。輸送力やスピードが求められない地域で、建設費用を安く抑えるために作られた規格で、かつては軽便鉄道と呼ばれていました。自動車の世界における軽自動車に近い存在と言えるでしょう。

日本ではローカル私鉄と呼ばれるもののひとつであり、多くの路線が廃止されましたが、生き残っている路線もあります。そのひとつ、三重県四日市市を走る四日市あすなろう鉄道内部(うつべ)線・八王子線について、今週金曜日に開催されたフォーラム「交通政策基本法の展開」で取り上げることになったので、参加してきました。先日、四日市を訪れた時に、あすなろう鉄道に乗ってきていたからです。

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もともとここは近鉄(近畿日本鉄道)の路線でした。それが今年4月から、車両や施設は四日市市が保有し、運行業者は市25%、近鉄75%の出資による四日市あすなろう鉄道になったわけですが、講師を務めた四日市市都市整備部理事の山本勝久氏から、現在の形に行き着くまでには想像以上の紆余曲折があったことを教えられました。

最初に近鉄から支援の申し出があったのは2007年。年間約3億円の赤字が慢性的に続いていたことが理由でした。このときは大手私鉄でもある近鉄への支援は難しいという結論になったものの、2年後に「都市総合交通戦略」の協議会を発足させたことから内部線・八王子線の維持を決め、2011年に車両の更新や駅前広場の整備などの援助を行うことを伝えました。しかし近鉄は翌年、公設民営方式導入などの運営費補助がなければ事業継続は困難と表明し、BRTへの転換を提案してきたそうです。

これに対して市では鉄道存続の姿勢は崩さず、20回近い協議を実施。その間、地域公共活性化及び再生に関する法律が改正されたことを契機に、「地域公共交通網形成計画」を国へ提出するとともに、許認可や予算・税制などで特例が受けられる「鉄道事業再構築実施計画」を申請します。これが大臣認定を受けたことが、公設民営として再出発を果たすことに大きく貢献したそうです。

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四日市あすなろう鉄道に乗ると、たしかに車両の長さは約10〜15m、幅は2.1m(東京の山手線は長さ20m、幅2.95m)と小さく、スピードは遅いものの、沿線には住宅が建ち並び、平日の夕方だったこともあって乗客は多く、都市交通としてのポテンシャルはあると感じました。車両の色や駅の看板のデザインが洗練されていたことも好感を持ちました。昔の軽自動車と今の軽自動車が違うように、ナローゲージという言葉だけでノスタルジックな判断をしてはいけないと思いました。

だからこそ気になったのは、車両に冷房が付いていないことです。これについて山本氏は、近々導入される新型車を皮切りに、冷房化を進めていきたいと答えていました。 また富山市のように沿線の住宅建築や居住に補助金を用意して乗客を誘致することもできるでしょう。これについても、以前は社宅だった建物を一般向けの集合住宅に替え、移住を進めていくという具体策を進めているようです。沿線には公園や病院もあるので、その方面での振興策もできるでしょう。
 

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現在、四日市あすなろう鉄道では、さまざまな利用促進対策を行っています。そのひとつが上の写真にあるような駅の掃除や花植えで、ボランティアが中心になって行っているそうです。存続運動では沿線の高校に通学する家庭も署名運動を行ったとのことです。市民の支持は厚いと想像できます。だからこそ四日市市には、まちづくりの一環としてあすなろう鉄道をダイナミックに育てていってほしいものです。かつては昔の乗り物という扱いだった路面電車がLRTというモダンなモビリティに生まれ変わったように、ナローゲージのイメージを変えるぐらいの改革を希望しています。
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