THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2015年09月

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自動車会社の社会的責務

ドイツの自動車会社フォルクスワーゲン(以下VW)が、排出ガス試験時にNOx(窒素酸化物)排出を抑えるソフトウェアを使用して規制をクリアしつつ、公道上では性能を優先し、最大で規制値の数十倍ものNOxを排出していることが米国の試験で明らかになりました。その後ドイツ国内向け車両でも同様の不正が発覚。VWは全世界で1100万台に不正ソフトを搭載したと表明しています。

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この不正で最大の被害者はVWのユーザーでしょう。VWはドイツ車の代表として、信頼性の高さ、技術力の高さをアピールポイントとしてきました。ユーザーはそれを信じて愛車としてきたわけです。またディーゼルエンジンそのものに対しての不信感も広まっており、不正行為をせずに環境基準に対応したディーゼル車を開発し販売している会社も影響を受けそうです。そしてもうひとつ、社会に及ぼした影響もあります。

自動車は20世紀の社会の発展に多大な貢献をしました。これについては多くの人が認めるでしょう。 しかしその反面、交通事故、大気汚染などの問題を引き起こしてもきました。ゆえに欧州など世界各地で、行き過ぎた自動車優先社会からの脱却を目指し、自転車や公共交通優先の政策が実施されています。また自動車に対しては、排出ガス規制や安全基準などにより、これ以上悪影響を及ぼさないためのルールが定められています。21世紀を生きる自動車会社は、このルールを遵守することが責務です。

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多くの国や都市が、より良い社会の実現に向けて、自転車環境や公共交通の整備を行い、排出ガス規制や安全基準などのルールを制定してきたわけです。VWの不正はこうした真摯な努力に水をさすような行為と言えるでしょう。しかも過失ではなく、故意に不正を行ったわけですから、とくに環境対策に熱心に取り組んできたモビリティ関係者は怒り心頭ではないでしょうか。

20世紀末にトヨタがプリウスを発売した後、欧州の自動車会社はハイブリッドよりディーゼルのほうが環境に優しいという戦略を打ち出しました。その先頭に立った会社のひとつがVWでした。現実には、ハイブリッドとディーゼルでは得意分野が異なります。ゆえにディーゼルハイブリッドというメカニズムが存在するわけですが、欧州の自動車業界は対立軸に仕立て上げてしまいました。

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さらにVWは21世紀に入ってから販売台数世界一という目標を掲げ邁進してきました。そのための戦略として、日本同様ハイブリッド車の普及が進む米国で、クリーンディーゼルという言葉とともにディーゼル車の拡販に務めました。しかしその車両には不正ソフトが使われ、ディーゼルは環境に優しいという発信元の欧州でも同じ不正を行っていたわけです。社会の秩序より企業の論理が優先されてしまったのです。

今後、米国を中心にユーザーが訴訟を起こし、社会的制裁も科されることが予想されます。VWはCEOの交代を発表し、信頼回復に全力で努めると表明しています。それには膨大な費用が必要になることが予想されますが、21世紀を生きる自動車会社としての社会的責務を果たしてほしいと思います。

ドイツが考えるニュー・モビリティとは

フランクフルト・モーターショーに行ってきました。今回のショーで個人的に興味があった展示のひとつに、初開催となる「ニュー・モビリティ・ワールド」がありました。大メーカーの新型車やコンセプトカーは他のメディアですでに報じられているので、このテーマ展示に絞って紹介したいと思います。

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最初に「ニュー・モビリティ・ワールド」というテーマを見て、東京モーターショーでは4年前から開催している「スマート・モビリティ・シティ」の真似だと思った人もいるでしょう。僕もそのひとりですが、会場に足を踏み入れてみると、スタンスの違いも発見しました。

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東京のように大メーカーが関わるようなことはなく、日本で言えば「人とくるまのテクノロジー展」のような場に出展する技術系企業や環境系団体などが主役でした。アピールのしかたも控えめで、同じドイツの自動車会社とは対照的でした。もちろん初回ということで慣れない面もあったのではないかと想像できます。次回以降に期待しましょう。それに初回ながら注目すべき部分もありました。

ひとつはスタートアップ企業に門戸を開いていたことです。会場にはスタートアップ向けのゾーンがあり、グループごとに小さなテーブルが与えられるとともに、中央にはステージがあり、自分たちのアイディアをプレゼンしていました。ここでつながりが築ければ、新しい事業に発展するでしょう。新しいデザインやテクノロジーが具現化できる可能性を秘めた、好ましい場でした。

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もうひとつは電動アシスト自転車の展示が多かったことです。東京のスマート・モビリティ・シティは超小型モビリティやパーソナルモビリティなど、フル電動の車両に限定されている印象ですが、フランクフルトではもっと広い視野でモビリティを扱っているようでした。走る場所が歩道か車道かという違いはあるものの、自動車より低速である点は共通ですから、自転車にも目を向けた判断には良識を感じます。

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出展されていた電動アシスト自転車は、日本よりスタイリッシュなものが多く、そのまま日本に持って帰りたくなる製品がいくつもありました。ものづくりという側面では、依然として高度な実力を持った国だと実感しました。だからこそ、自動車メーカーをはじめ多くの企業や団体がこの展示をバックアップして、ドイツ流ニュー・モビリティのビジョンを発信していってほしいと思いました。

個人間カーシェアが提案する新しい自動車生活

今年5月に自動車事業についての発表会を行ったIT企業DeNAが、将来の中核事業と位置づけるオートモーティブ領域の新事業として、今月9日より個人間カーシェアサービス「Anyca(エニカ)」の提供を開始しました。これまでタイムズなどの企業が行っていたカーシェアリングを、個人所有の車両により行うという異例のサービスです。

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具体的には、自動車を所有しているが使わない時も多いオーナーと、必要な時だけ自動車を使いたいドライバーとの間を、Anycaがマッチングさせることで、カーシェアリングを成立させるというものです。個人所有の家や部屋などを宿泊施設として貸し出すAirbnbに似ています。手続きはスマートフォンに専用アプリをインストールすることで行います。料金は車種によって異なりますが、1日3000円程度の車両もあるようです。

個人間の取り引きということで心配な安全性、信頼性については、1日単位の自動車保険への加入を原則としたほか、ドライバー登録時には運転免許証、電話番号、クレジットカードなどで個人認証を行い、シェアの際の参考になるドライバーやオーナーの評価・レビューシステムを用意。決済はすべてクレジットカード経由で、料金はAnycaからオーナーの銀行口座へ振り込まれる方式。メールや電話による相談窓口も設置しています。

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利用可能な車両は現時点で、東京都を中心に200台以上が登録されています。注目したいのはそのラインナップで、旧車やスポーツカー、痛車など個性的な車両も登録されており、その日のシチュエーションに合わせた選択が可能となっていることです。

既存のカーシェアリングは、環境対策という意味もあり、コンパクトカー中心という機能性重視の展開でした。Anycaは個人所有車を活用した結果、旧車や痛車などをラインナップし、遊びの要素を入れたことが新鮮です。クルマ好きはこれまで、自動車は所有するものという意識が強く、カーシェアリングには否定的な目を向ける人が多かったようですが、Anycaのようなサービスなら好意的に思うでしょう。逆にこの種の車両を運転したいが買えなかった人にとっては、願望を実現できるツールとなります。

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Anycaの登場によって、人と自動車の関わり方がまたひとつ増えました。将来的に自動運転が実用化されれば、今度はタクシーとカーシェアリングの一体化などの変化が起こるでしょう。IT技術の進化によって、自動車を取り巻く世界は変わることができる。国内外でIT企業による自動車事業展開が目立つのは、彼らがそう認識しているからであり、今回のAnycaもその一手だと思っています。

宇都宮LRT計画のその後

昨年末に雑誌「週刊東洋経済」の鉄道特集臨時増刊号で取材した宇都宮市と芳賀町のLRT計画(以下宇都宮LRTと記します)、その後も準備は着々と進んでいます。宇都宮市と芳賀町では、6月に運営主体事業者を公募。宇都宮市を中心にバスを運行する関東自動車一社が応募しました。それを踏まえ7月、行政と関東自動車など民間が約半分ずつ出資する第三セクター方式の新会社を設立することが発表されました。

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さらに今週は宇都宮市長と芳賀町副町長が、路面電車の運行実績がある広島電鉄と東京急行電鉄を訪れ、協力要請を行いました。これ以外にも富山地方鉄道など3社が協力の意向を示しており、すでに世田谷線を運行する東急は職員の派遣も行っているそうです。

当初はLRT反対派だった関東自動車が、運営への参加を表明したことは大きな転換と言えるでしょう。ただ鉄道事業者が協力という立場に留まり、応募は関東自動車だけだったことや、結果的に第三セクターでの運営となったことは、整備を行政、運営を民間で行う上下分離方式という当初の予定とはやや異なる結果でもあります。

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関東自動車は鉄道運行のノウハウがないことから、親会社で全国各地の鉄道バス事業者を子会社に持つみちのりホールディングスや、路面電車の運行実績がある他社の協力を受ける前提での応募だったようですが、他の鉄道事業者が応募しなかったのは、事業の成功性について全面的な信頼を寄せていないのかもしれません。今後は協力を表明している事業者が、資本参加を行うかどうかに興味が集まるでしょう。

さらには反対派の声も、いまだ根強いものがあるようです。個人的には、現市長が以前からLRT導入について市民を対象とした説明会などを何度も行い、市長選挙で争点のひとつに掲げて当選したわけですから、民意は得たと考えます。現にヨーロッパではこのようなプロセスでLRTの導入が進んでいます。しかし運営主体が当初の計画と変わろうとしていることもあり、さらなる理解を得るための行動も必要だと考えています。

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宇都宮LRTは、現状では市東部と芳賀町にある工業団地への通勤輸送が主眼となっており、富山市などが実施している、沿線のまちづくり政策などはあまり表に出てきていません。 たとえば東京で働く人向けとして、沿線への住宅建設・購入・賃貸についてのバックアップを行えば、工業団地への通勤客と逆方向の需要も期待できるでしょう。こうした政策が実施に結び付けば、他の鉄道事業者の資本参加という可能性が出てくるかもしれません。

宇都宮LRTは第三セクター方式での運行が決まりました。つまり整備のみならず運営についても税金が使われることになったわけですから、せっかく作るLRTを可能な限り有効活用する政策を、今以上に積極的に打ち出してほしいという気持ちを抱いています。
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