THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2015年10月

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モーターショーはユニバーサルデザインにも注目

第44回東京モーターショーが、昨日から東京ビッグサイトで始まりました。私は水・木曜日のプレスデーでひと足お先に見てきました。多くの車両が展示され、そこから発信するメッセージもさまざまでしたが、その中で目立った傾向のひとつが、ユニバーサルデザインを特別なものとせず、普通のものにしていこうという提案でした。

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まずはダイハツNORI ORI(ノリオリ)。その名のとおり、車いすやベビーカーを利用している人、重い荷物を持つ人など、どんな人でも快適に乗り降りができるようにした軽自動車のコンセプトです。 まるでLRT車両のような低いフロアと大きな窓が印象的で、見ただけでユニバーサルだと直感でき、デザインもクリーンで好感が持てます。近年の軽自動車が背の高さにこだわる中、逆に床の低さにこだわったところが斬新です。

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続いてはいすゞ自動車の大型路線バス、新型エルガです。こちらは今年8月に発売された市販車です。車いすの乗り降りで必要になるスロープはフロアを反転する方式として、時間を掛けずに対応できるようにした他、車内はフロアを可能な限り広く取り、簡単に固定できる車いす用ベルトを用意。手すりの位置も工夫してあって、さまざまな人が気軽に乗れる仕立てになっていました。

ヤナセやチェッカーモーターズといった輸入車ディーラーでの販売を始め、NTTドコモと組んでのシェアリング事業への進出を発表しているWHILLもモーターショーに出展しており、ブース内に坂道や砂利道を用意し、Model Aの走行性能の高さを試せるようになっています。高齢者や身障者だけでなく、健常者のためのパーソナルモビリティでもあるという同社のコンセプトを体現したスペースでした。

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世界屈指の高齢化社会であるにもかかわらず、日本はユニバーサルデザインの分野で大きく遅れを取っています。近年も公共交通車両にベビーカーを乗せる際のマナーで議論になっています。原因のひとつに「心のユニバーサルデザイン」が行き渡っていないことがあるのは確かですが、ハードウェアの側からこの問題を解決しようという動きがモーターショーで見られたのは歓迎できるところです。

ロマンスカーというブランド

仕事で厚木に行く用事があったので、約10年ぶりに小田急電鉄のロマンスカーに乗りました。行きは運良く展望席が取れたためもあって、心地よい移動ができました。乗ったのは1980年生まれのLSE車と呼ばれる車両だったので、乗り心地は快適というわけではありませんでしたが、それを上回る楽しさや心地よさを感じました。

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小田急は第2次世界大戦直後から、ロマンスカーの名前で特急を走らせています。しかしロマンスカーの名前を一躍有名にしたのは、1957年に登場したSE車でしょう。国鉄(現JR)の技術研究所の協力まで受けて、軽量、低重心、流線形という革新的な設計思想を盛り込んだSE車は、当時の日本で最速の鉄道車両でした。しかしその後、国鉄が逆にSE車の技術を参考にして特急「こだま」や新幹線を送り出したことで、最速の座は明け渡すことになります。

そこで小田急は、新幹線にはない価値を提供することにしました。新幹線が開通する1年前に登場したNSE車で、運転席を上に置き、展望車を実現したのです。高度経済成長真っ只中という時代に、移動の質に目を向けたことは特筆すべきでしょう。この流れは今回乗ったLSE車、1987年登場のHiSE車へと受け継がれました。

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ところがその9年後に登場したEXE車は一転して、通勤輸送も考慮した箱型車体になりました。今回の私のような利用客に配慮したわけですが、質から量への転換は、観光特急としてのロマンスカーのイメージを薄めてしまいます。見晴らしを良くすべく高床式としたHiSE車が、バリアフリー対応が難しいことから早々に引退という出来事も、この傾向に追い討ちを掛けました。

感心するのは、ここで小田急が原点に戻ったことです。2005年に登場したVSE車は、関西国際空港などを手掛けた建築家の岡部憲明氏を起用し、白を基調として、SE車やNSE車にも使われたオレンジをストライプに入れた新しいカラーを導入。技術面では以前から研究を進めてきた車体傾斜制御を採用するなど、先進的なデザインとテクノロジーで心地よい移動を提供するというロマンスカーの伝統を、21世紀基準で書き換えたものになっています。

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翌年は新宿駅に、やはり岡部氏がデザインしたロマンスカーカフェがオープン。オレンジで統一することで、車両以外でもロマンスカー・ブランドをアピールしています。その後登場したMSE車は、地下鉄乗り入れというコンセプトを表すべくブルーとなりましたが、一方で1980年代生まれのLSE車はデビュー当時のオレンジ基調のカラーに戻され、クラシック・ロマンスカーという位置付けで走り続けています。これもブランドイメージ構築のための戦略なのでしょう。

先進技術や斬新なデザインを積極的に取り入れながら、それを速さや使いやすさといった効率面だけに使うのではなく、数字に表しにくい心地よさや楽しさなど、移動の質を高めるために活用している小田急ロマンスカーは、ブランドの意味をしっかり理解した、日本では珍しい存在ではないかという思いに至りました。たった40分の移動がなぜここまで思い出に残るのか、理由が分かりました。

こんな自動運転もある

ここへきて自動運転車のニュースが再びメディアをにぎわすようになってきました。先週はトヨタ自動車が東京の首都高速道路でデモ走行を行い、今週は米国テスラモーターズが、アクセルやブレーキ、ステアリングを自動操作する高度な運転支援ソフトウェアを発表しました。テスラは自動運転対応ハードウェアを搭載した車両に、ソフトウェアのアップデートで機能を追加していくという、パソコンやスマートフォンのようなスタイルを取っています。

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しかしいずれも、自動車会社が開発と販売を手掛けている点は共通です。以前このブログで、現在の自動運転にはソーシャル型とマーケティング型の2つの大きな流れがあると書きました。最近話題になっているのはマーケティング型が多いようですが、ソーシャル型も世界各地で研究開発が進んでいます。その中から今回は、欧州の「CityMobil2」というプロジェクトを紹介しましょう。

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そもそもこのプロジェクトは、EUが研究開発の枠組みとして1984年に設置したフレームワークプログラムを活用しており、企業、自治体、大学、研究機関などがコンソーシアムを組み、EUから助成金提供を受けつつ研究開発を進めています。水平展開のプラットフォーム型プロジェクトであることがまず特徴と言えるでしょう。

CityMobilは2006年からまず第1段階が5年間進められ、第2段階のCityMobil2は2012年から4年間の予定で行われています。欧州での移動における4つの課題、渋滞、安全、環境、土地利用を、自動運転によって解決することを目的としています。ここだけでもソーシャル型であることが分かります。実に45もの組織が関わっていて、国別ではイタリア、フランス、スペインなどが多く、逆にドイツは1組織の参加に留まっています。

実証実験を行う都市は応募のあった12都市の中から5都市、車両は5種類の中から2種類を選び、ひとつの都市で約半年の実証実験を進めるそうです。車両については自動運転に10年以上の経験を持ち、公園などで実用化の実績もあるフランスのベンチャー企業、RobosoftとEasymileが選ばれました。すでにイタリアのオリスターノ、フランスのラ・ロシェル、スイスのローザンヌ、フィンランドのヴァンターなどで実際に走らせています。

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ラ・ロシェルでの実証実験を例に取ると、関係したのは自治体、専門学校、輸送事業者、車両開発会社など5つの組織で、10〜11人乗りの車両を6台用意し、昨年12月から今年4月に掛けて中心市街地の公道を走りました。フランスは現状では無人運転は認められないので、各車両にオペレーターが乗務し、1.5万人近くの乗客を運んだそうです。

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Citymobil2ウェブサイト=http://www.citymobil2.eu/en/

ここで紹介したCityMobil2以外にも、コンソーシアムを結成してのソーシャル型プロジェクトはいくつか存在します。車両側の技術は完成形に近づいており、今後は社会との整合性をどう取っていくかに注目が集まることを考えれば、自治体や研究機関がメンバーに名を連ねたこのような枠組みは価値があると考えます。自動車会社だけを見て自動運転の世界を判断するのは早計であり、さまざまな企業や団体がこの分野への参入を考えていることは知っておくべきでしょう。

チョイモビ終了で再認識した公共交通の危機

横浜市と日産自動車が2013年から実施していた、超小型モビリティによるワンウェイ型(借り出しと異なる場所への返却可能)カーシェアリングの実証実験「チョイモビヨコハマ」が、9月30日をもって終了しました。チョイモビはまず2013年10月から翌年9月まで第1期実験が行われ、終了前に第2期の実施を発表。こちらは2014年11月から今年9月まで続きました。しかし第3期の実施について、現時点ではアナウンスはありません。

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チョイモビヨコハマ=http://www.choi-mobi.com

チョイモビのオフィシャルサイトには、現在新たな展開へ向けて関係機関と調整を進めており、詳細が決まり次第改めてお知らせしますと書かれています。しかしながら2年にわたり続いてきた系譜が途絶えてしまったことは事実です。カーシェアリングやサイクルシェアリングは、自分で運転する公共交通であり、公共交通は継続性こそ重要です。それだけに終了のお知らせは残念です。

国内に存在していたこの種の車両の多くがミニカー(原付3/4輪)登録でひとり乗りだったのに対し、チョイモビは当時制定されたばかりの超小型モビリティ認定制度を活用し、利便性の高い2人乗りとしました。車両はルノーが開発した電気自動車トゥイジーを欧州から輸入して投入。当時はワンウェイ方式が認められなかったことから、充電時に所定の車庫に戻すことでこの問題をクリアしました。このようにかなり野心的なプロジェクトだったのです。

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車両は最大で70台、ステーション数は約60ヶ所に達し、会員数は1万人を超えていました。単一都市内のカーシェアリングとしては文句なく日本一でした。1960年代から都市デザインに取り組んできた横浜市と、電気自動車を環境型モビリティの中心に据えてきたルノー日産アライアンスのコラボだから実現できた実証実験かもしれません。

しかしながら財政面は厳しかったようで、横浜市の林文子市長は終了の理由にコストを挙げていました。日本の公共交通が抱える問題、つまり欧州のように税金で支える制度がなく、料金収入での運営を強いられ、赤字になれば廃止という負のスパイラルが、相応の利用者がある大都市のモビリティにも影響しているのです。カーシェアリングやサイクルシェアリングも公共交通と考え、公共交通は市民全員で維持していくという方向性に早急に切り替えるべきであると改めて感じました。

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それ以外にも、同じ横浜で展開するサイクルシェアリング「ベイバイク」のように交通系ICカードを使用可能としたり、欧州のcar2goやAutolib'のように講習を省略するなど、改良を望みたい点はありますが、大きな問題はなかったと認識しています。とくに車両のデザインと走りは、これに乗るためにチョイモビに登録したという人がいるほどで、トヨタi-ROADに匹敵する魅力を備えたものでした。もう一度あの姿を横浜で見たい。それが今の気持ちです。

エレベーターもまたモビリティ

2015年度グッドデザイン賞、グッドデザイン・ベスト100が9月29日に発表されました。私は今年もモビリティユニットの審査委員を担当しました。毎回、この審査では新鮮な発見がありますが、今回も例外ではありませんでした。なかでも印象に残っているのは、日立ビルシステムのエレベーターHF-1が応募してきたことです。

エレベーターがリストにあることを最初に知ったとき、これは建築や設備のユニットに属するのではないかと思いました。しかし間もなく、これもまたモビリティであるという考えに変わり、審査に挑むことにしました。

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HF-1のオフィシャルサイト=http://www.hbs.co.jp/human_friendly/index.html

モビリティと聞くと、どうしても水平移動を連想しがちです。しかし飛行体ではヘリコプターやドローンなど垂直型モビリティは存在します。さらに近年のメガシティでは超高層ビルや大深度地下施設が一般的になりつつあり、エレベーターの中である程度の時間を過ごすことになります。だからこそデザイン面で心地良さを織り込むことが大切になると思ったのです。

既存の多くのエレベーターは単なる箱であり、心地良さという概念が存在しない空間でした。日立ビルシステムもそのことに気付いたのでしょう。HF-1ではデザイナーを起用し、あらゆる角に丸みをつけ、しかもその丸みは人間の肩にフィットする曲率とするなど、徹底して心地良さにこだわっています。その結果、良い意味で存在を忘れるほど自然な存在になっていることを、実物に触れて痛感しました。

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ただしエレベーターに感動したのは、これが初めてではありません。フランスのパリ郊外ラ・デファンスにある新凱旋門のエレベーターは、透明なカプセル型で、外側もレールとワイヤーしかありません。カプセルに乗って空中を移動するような、未来的な体験はとにかく新鮮でした。25年以上前にエレベーターに移動の楽しさを盛り込んだ先進性は評価すべきでしょう。

エレベーターがモビリティであることは、LRT(次世代型路面電車システム)のことを「水平エレベーター」と呼ぶことからも認められると思います。LRTもエレベーターもバリアフリーという特徴を備えており、超高層・大深度社会の発展と合わせて、今後の社会における重要性がさらに増すでしょう。だからこそこれをモビリティと考え、心地よいデザインを与えていくことが必要だと考えています。
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