THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2015年12月

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ディーゼル騒動と超小型モビリティ体験から見えたもの

1年前の12月、仏パリのアンヌ・イダルゴ市長が、2020年までに市内へのディーゼルエンジン自動車の乗り入れを禁止するとともに、ルーブル美術館やノートルダム大聖堂などがある都心については、住民や観光バス、緊急車両などを除く自動車そのものの乗り入れを制限し、歩行者優先ゾーンの新設や自転車レーンの倍増を目指すという発表を行いました。

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理由については1年前のブログ「パリのディーゼル車乗り入れ禁止は妥当か?」で触れているのでそちらを見ていただくとして、当時はパリのディーゼル禁止発表に異論を唱える人が多かったという記憶があります。しかしあれから1年。ディーゼル車に対する見方は変わりました。フォルクスワーゲン(VW)の不正問題が明るみに出たからです。

この件についてVWは今月の記者会見で、特定の技術者だけが問題ではなく、それを許した会社全体の問題であることを認めるとともに、21世紀に入って販売台数世界一という目標を掲げ、米国で日本のハイブリッド車対抗としてディーゼル車の拡販に務めようとする中で、不正ソフトが使われ、それが欧州などにも波及したことを表明しました。おおむね9月に当ブログで予想したとおりの内容でした。

この2つの事例から分かるのは、VWなどがハイブリッド車よりも環境に優しいとアピールしていたディーゼル車は、実際は大都市の環境悪化を食い止める特効薬にはならず、一方でディーゼル車の環境性能をこれ以上良くすることは、とくにVWが得意とする小型車では難しいということです。それを考えれば、パリの決定は妥当ではないかと、あらためて思っています。

VWの衝撃的な発表があった頃、私はトヨタの「OPEN ROAD PROJECT」の試乗パイロットに選ばれ、超小型モビリティi-ROADに試乗していました。高速道路に乗れず、満充電での航続距離は限られていましたが、どこへ行くにも無意識に同じ乗り物に頼るのではなく、その移動に最適な乗り物を選ぶ習慣がつけば問題はありませんでした。むしろ環境負荷を抑えて移動できることに心地良さを感じました。

自動車の魅力のひとつにドアtoドア、つまり出発地から目的地まで乗り換えなしで移動できることがあります。しかしこれからの大都市生活者は、都市内の移動は公共交通機関や排出ガスの出ない電動車両に任せ、それ以外の自動車は都市間移動で活用するという使い分けを身につける時期に来ていると、この1年間にモビリティシーンに起こった出来事を前に思っています。



上のムービーは、i-ROADとトヨタ車体コムスがシェアリングとして導入されている、仏グルノーブルの都市交通システムの実証実験を紹介したものです。さまざまな立場の人が、スマートフォンのアプリを参考に、超小型モビリティや路面電車など、複数の乗り物を使い分けながら移動していくシーンは、上に書いた使い分けの精神をスマートに実践したものです。トヨタが単独で進める実験ではなく、自治体や電力公社、現地のシェアリング事業者などと共同で進める手法にも好感を抱きます。

来年以降、こうした都市交通システムが多くの都市で実用化されていくことを期待して、本年のブログを終えたいと思います。今年もお付き合いいただきありがとうございました。次回は2016年1月9日更新予定です。

2020年が後押しするサイクルシェア

今週火曜日、全国各地でサイクルシェアリングを展開するNTTドコモとドコモ・バイクシェアが、東京都千代田区・中央区・港区・江東区臨海部のサービスについて、4区や東京都と協力して、相互利用の実験を2016年2月1日から4月30日まで実施すると発表しました。

つまり中央区銀座で借りた自転車を港区青山で返したりすることが可能になるわけです。また区域内には110ヶ所以上のステーション(ドコモではサイクルポートと呼んでいます)、1100台以上の自転車が用意されているそうで、我が国で最大級のサイクルシェアリングになることは確実でしょう。料金は千代田区・中央区・江東区のそれが適用されるそうです。

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一応、期間限定の実験となっていますが、NTTドコモのニュースリリースでは、実験を通じて自転車の集中や偏りを緩和し、スムーズに貸出や返却ができる運営体制について検証を行い、本格的な相互利用への移行を検討していくとしているので、実験が順調に進めば本格導入となる可能性は高いでしょう。

以前も書いたとおり、サイクルシェアリングやカーシェアリングは、自分で運転する公共交通と考えています。日本の自治体は多くの場合、典型的な縦割り型であり、これまでは「越境」が難しい雰囲気がありました。今回のような4区合同実験が実現したのは、やはり2020年の東京でオリンピック・パラリンピック開催が大きいと思います。

自治体が主体となって運営するモビリティでは、敷設や展開には政治力が重要になります。オリンピックやパラリンピックといった国を挙げての行事は、異なる自治体の政治が同じ方向を目指す、絶好の機会なのです。今回の決定は、その追い風を上手に利用できた一例ではないでしょうか。さらに実験が成功すれば、東京以外の地域でも、同様のモビリティ運営について活路を開くことになりそうです。

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ドコモのサイクルシェアリングは、近年は電動アシスト自転車も配備し、交通系ICカード対応とするなど、利便性や快適性も向上しています。欧米に比べて遅れていると言われている走行環境も、少しずつではありますが進んでいるようです。都営地下鉄にサイクルシェアリングの広告を掲出するなど、知名度を高めるための努力も見受けられます。

全国的に見れば小さいニュースに捉えられるかもしれませんが、今後の日本の自治体主導のモビリティサービスに良い影響を及ぼしそうな、大きな一歩だと考えています。

大きなITSと小さなITS

先月から今月にかけて、ITS(Intelligent Transport Systems)関連の2つの催しに参加しました。11月は名古屋市のポートメッセなごやで開催された「あいちITSワールド」で講演をさせていただき、12月は東京都八王子市の首都大学東京で行われた「第13回ITSシンポジウム2015」の企画セッションに参加させていただきました。関係者の方々には大変お世話になりました。この場を借りてお礼申し上げます。

いずれの場でも次世代モビリティとITSを結びつけることがテーマのひとつとなっており、自分が経験してきた次世代型モビリティの経験を踏まえ、そこにITSをどう融合させるかというテーマで話をさせていただきました。そこでの話題提起のひとつに、スマートフォンを用いたICT(Information and Communication Technoloogy)がITS的な役目を担いつつあることがありました。

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たとえば私が本年夏に1ヶ月間試乗したトヨタi-ROADのような超小型モビリティでは、既存のITS情報を得るための車載端末を搭載すると高コストになってしまうことから、スマートフォンのアプリで駐車場の予約や充電時間の確認などをしています。これ以外にもUBERなど、スマートフォンを前提としたモビリティサービスは最近急速に増えています。

ITSこれまでこれから
*ITS Japanのオフィシャルサイト=http://www.its-jp.org/

スマートフォンを用いたICTが既存のITSに取って代わる時代が来るのか。そう考える人がいるかもしれませんが、私はそうはならないと考えます。ここでは既存のシステムを「大きなITS」スマートフォンを用いたサービスを「小さなITS」と名付けることにしますが、両者は規模も構造も異なっており、補完しながらより良いモビリティ社会を作っていくことが理想だと思うからです。

スマートフォンを活用した「小さなITS」の手軽さはとても重宝します。一方の「大きなITS」が持つビッグデータも大変価値があるものです。お互いが相手を敵視するのではなく、互いの得意分野を生かして役割分担を行いつつ全体で役立つシステムとなれば、それこそが次世代型ITSと言えるのではないでしょうか。このブログで何度も使うフレーズですが、やはり競争よりも共存が大切です。

ラウンドアバウトの事故が少ない理由

このブログでも2013年の春に取り上げたラウンドアバウト。その後わが国でも、環状交差点という日本名が与えられ、翌年9月から改正道路交通法の施行とともに本格的な導入が始まり、現在までに15道府県49ヶ所で導入されているそうです。警察庁では1年が経過したのを機に、状況を発表しました。その結果、さまざまなメリットがあることが分かりました。

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具体的には、死亡事故や重傷事故は1件も発生せず、9都府県36ヶ所を調べたところ、導入後1年間に起きた人身事故は、導入前3年間の平均と比べ約15%減少したそうです。さらに信号機に頼らないので、停電時でも混乱が起きなかったという副次的効果も報告されています。環状道内が空いていれば進入時の停止・発進がないラウンドアバウトは、渋滞解消にも効果があり、自動車は発進時にもっとも大きなエネルギーを必要とすることを含めて考えれば、環境に優しい道路システムでもあります。

ラウンドアバウトの事故が少ない理由はいくつかあります。ラウンドアバウトでは逆走をしない限り正面衝突は起こり得ず、進入時には速度を30km/h程度まで落とすので、衝突時の衝撃は小さくなります。また日本のような左側通行の場合、ドライバーは進入時は右側、その後は前方と左側を主に注視していれば良く、四方八方に目を配らなければならない通常の交差点より安全性で有利です。

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もうひとつ注目したいのは、ドライバーの判断に多くを委ねていることです。通常の交差点の場合は、信号などで車両の進行を制御しています。青信号だから安全という慢心が、右折車両などとの接触事故を起こす原因のひとつではないでしょうか。対するラウンドアバウトは、環状路に進入する際も、退出する際も、すべてドライバーの意思で判断します。ドライバーは常に適度の緊張感とともにラウンドアバウトに対峙します。これも事故を減らした理由ではないかと思っています。

ヨーロッパでは写真のように、ラウンドアバウトの内側に花を植えたりして、都市景観を美しくしようという取り組みも進めています。こうした取り組みは日本でも進めてほしいところです。逆にやってはいけないのは、広告看板などを置くことです。前にも書いたように、ラウンドアバウトを走るドライバーは主として前方と外側に注意を払って運転するので、内側に目を引くような情報を掲示することは、安全性の低下につながります。

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*写真はすべてヨーロッパ大陸(右側通行)のラウンドアバウトです

すべての交差点をラウンドアバウトにすべきとは思っていません。欧州でも空間に余裕がなく交通量が多い大都市内では、信号を用いた通常の交差点が主流です。 しかしそれ以外の地域では、環境に優しく、事故が少なく、災害に強いなどメリットが多いことに加え、将来的に自動運転が一般的になった場合も制御しやすく、積極的に展開すべき交通システムだと考えています。
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