THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2016年01月

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フォードが自動車をモビリティにした

自動車メーカーのフォード・モーターが今週、日本市場からの撤退を発表しました。フォードは第2次世界大戦前から我が国での生産も行っており、戦後も欧米、アジアからの輸入やマツダでの生産で、日本市場に存在し続けていました。なので今回の発表は驚きました。



撤退の理由やそれについての感想などは、ここでは書きません。ただフォードは数ある自動車メーカーの中でも、モビリティというテーマに真剣に取り組んできた存在であると認識しており、それについての評価は、日本市場での結果によって左右されるものではないと考えています。
 

なによりもフォードは、それまで富裕層の贅沢品だった自動車を、T型の大量生産によって民主化しました。モビリティの選択肢に自動車を組み入れたのは、ほかならぬフォードです。さらにT型は、クラッチ操作なしの2段トランスミッションを採用するなど、多くの人が簡単快適に運転できるという点でも、モビリティのひとつとして扱うにふさわしい存在でした。

日本では超小型モビリティと呼ばれるマイクロカーに対しても、フォードは早くから取り組んでいました。2000年に発表されたTH!NK Cityは、2人乗りの電気自動車で、環境問題や都市問題に対する回答と言える存在でした。残念ながらフォード自身はこれを製品化せず、ノルウェーのベンチャー企業が権利を取得し、4人乗りを加えるなどして生産を始めましたが(写真)、長続きはしませんでした。しかし取り組み自体は評価すべきでしょう。
 

既存の自動車についても、フォードは強烈な個性は持たないものの、扱いやすくて走りの性能も高い、人間が操る移動体としての本流を極めた存在だったと思っています。ただ日本においては、実用車については安価で信頼性に長けた国産車が有利であり、逆に輸入車としてみると特定の国籍に依存しない立ち位置が理解しにくい存在になっていたかもしれません。

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フォードはいわゆる「外車」とは一線を画した存在だと考えています。欧州フォードが北米フォードとは違う車種を販売していることがその象徴で、地域最適化を図った実用車という印象を抱いています。よって日本では、かつてマツダで生産していた車種が理想に近い存在ではないかと思っています。軽自動車をベースとしたフォードがあっても良かったでしょう。

我が国からの撤退を決めたフォードですが、フォードらしさは失っていません。昨年末に報じられたグーグルとの提携では、自動運転について他の自動車メーカーのような運転支援型ではなく、グーグルと同じ無人運転車の道を歩んでいるそうです。グーグル同様、高齢者や子供、障がい者の利用を前提にしているのかもしれません。移動体としての理想を追求し続けるブルーオーバルに、今後も海の向こうから注目していきたいと考えています。

新幹線にシートベルトがない理由

軽井沢のスキーバス転落事故から1週間が経ちました。複数の関係者に聞いた話によれば、今回の事故はバス業界の規制緩和、ツアー会社のダンピング、バス会社の管理不備、運転手の技量不足、乗員のシートベルト非装着と、複数の要因が重なった結果、大惨事に至ってしまったとのことです。近年の悪しき通例で、特定の組織や人物を取り上げて執拗に叩く傾向が目立ちますが、こういうテーマこそ広い視野で検証することが大切です。

他の乗り物の安全性にも目が向けられる動きも起こっています。広い視野で見るという点では良いことですが、「鉄道にシートベルトがないのは危険ではないか」という意見が出ているようなので、このテーマに触れることにしました。

北陸新幹線

鉄道とバスを含めた自動車とでは、そもそも安全性に対する考え方が大きく違います。 鉄道はレールの上を走っていることだけが特徴ではなく、高度な安全システムで守られた中で運行していることも特徴なのです。自動車は、道路上の安全が管理しきれないので、シートベルトを装着するなど、乗る人にも一定のルールを義務づけています。

道路の信号は自動車の流れを制御する程度ですが、鉄道の信号には、次の信号との間にひとつの列車しか入ってはいけないルールがあり、信号無視をすれば自動的にブレーキが掛かります。踏切を除けば線路内への進入も禁止されています。自動車を走らせるとき、公道よりサーキットのほうが安全と言われますが、鉄道はそのサーキットに速度制限を設け、信号を付け、信号の間には1台しか入ってはいけないなど、厳格なルールを施したものと言えるのです。

さらに新幹線は、信号機は視認性を高めるため車内に設置し、速度も自動的に調節されます。技術者に聞いたところ、明日からでも自動運転が可能なレベルだそうです。システムが正確に動いているかを確認するために運転士が乗っているという状況に近いのです。自動運転のレベルでも自動車の一歩先を行っています。システムに異常があった際には全列車が自動停止します。東日本大震災では最初の地震波を感知して非常ブレーキを掛けた結果、ケガ人ひとり出さなかったエピソードを覚えている人も多いでしょう。

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*写真のバスは今回の事故とは関係ありません

自動車には自分の意志で好きな場所に行けるという自由があります。その代わりある程度の安全性は自身で担保することになります。一方新幹線をはじめとする鉄道は、車両やインフラの安全性を高度に突き詰めることで、乗車中の自由をもたらすという違いがあります。安全性や定時制、速達性、利便性など、さまざまな性能を確保したうえで、移動の自由を感じさせる。このバランス感覚こそ重要ではないかと思っています。

新幹線にシートベルトを装備し、宇宙飛行士並みの重装備で乗れば、さらなる安全性を得られるかもしれませんが、自由さや便利さは失われます。そもそも新幹線は、50年間事故による死者がゼロであり、現状でも最高水準の安全性を実現していると言えます。一方バスは、今月だけで数件の事故を起こしています。運行会社の選択時から乗車中まで、利用者自身が安全性を真剣に考えることが必要になってくるのです。

なぜ信号無視の自転車が減らないのか

警察庁によれば、昨年6月1日に施行された改正道路交通法で新たに設けられた自転車運転の「危険行為」について、11月末までの半年間の結果をまとめたところ、全国の摘発件数は6521件に上ったそうです。項目別では信号無視が2790件でもっとも多く、続いて遮断踏切への立ち入りが1659件、イヤホンを付けたり傘を差したりの安全運転義務違反が715件、一時不停止が536件、ブレーキ不良312件などとなっています。

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読売新聞の記事=http://www.yomiuri.co.jp/national/20160112-OYT1T50105.html

このブログでも施行直前にお伝えしたとおり、警察庁が規定する自転車の「危険行為」は14項目で、3年以内に2回以上の危険行為を行った人には安全運転講習が義務づけられ、5700円の出費になります。半年間で安全講習を受けたのは4人だったそうです。

それにしても、危険行為の半分近くが信号無視で、遮断踏切への立ち入りを含めると7割近くに上ることには唖然とします。なぜなら赤信号の交差点や遮断機が降りている踏切に進入してはいけないことは、道路を通行するすべての人が知っていることであり、危険行為を犯した人でも歩行中や自動車運転中はルールを守っているはずだからです。自転車ならルール違反をしても良いという気持ちを持つ人が多いのではないでしょうか。

理由はいろいろ考えられますが、自転車の高速化によって止まるのが面倒になっているという心理があるかもしれません。いかなる乗り物も、発進時に最大のエネルギーが必要とされるので、人力でそれを賄う自転車は相応の労力になります。もちろん車いすやベビーカーも同様ですが、自転車ははるかに速度域が高いので、面倒だと思っているのではないかと想像するのです。ちなみに今回の結果を年齢別に見ると、体力に余裕があると思われる10〜30歳代で半数以上を占めており、高速化の現状と通じるような状況になっています。

さらに免許制度がなく、ナンバープレートもなく、2度の危険行為を犯しても数千円レベルの講習程度で済むのは、甘いと判断されているかもしれません。私も写真の交差点で信号無視の自転車はしばしば見かけ、危険な目にも遭っています。実際には数字以上の危険行為が頻発しているのではないかと想像できます。さらに厳しい対応が必要だと考えています。


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今回の道路交通法改正が報道された頃、自転車にも運転免許制度を導入してはどうかという議論がありました。私は基本的には反対ですが、2回以上の危険行為を犯した人限定として免許制度を設け、自動車と同等の取り締まりを行う制度はあって良いと思います。自転車はナンバープレートもないので、そこでの識別はできませんが、GPSを活用すれば、どういう乗り方をしているかはある程度把握できるはずで、それが抑止力にもなるでしょう。

東京都内を見る限り、自転車環境は少しずつではありますが良くなっています。しかし乗る側のレベルアップは追いついていません。まだまだ問題は山積しているという印象です。

交通事故死者15年ぶり増加の衝撃

年明け早々、衝撃的なニュースがありました。2015年の交通事故死者数が昨年より4人増え、4117人になったという警察庁の発表です。たった4人ではありますが、15年ぶりに前年を上回りました。このうち65歳以上の高齢者の死者数は54人増えて2247人になっており、全体の54%を占めています。 

自動車の安全性は年々向上しています。しかし死者は増加しました。車両側の対策だけでは不十分であることを、この数字は示しています。いくつかの都道府県の状況を見ると、公共交通が発達した東京都、絶対的な交通量が少ない青森県や福島県などでは減少しており、愛知県や静岡県など政令指定都市を抱え交通量もそれなりに多い都道府県で増加しているようです。

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歩行中(車いすやシニアカー移動中を含む)、自転車・二輪車・自動車運転中と、命を落とした状況はさまざまです。ただし高齢者が犠牲になったり、加害者になったりすることが多いのは報道を見ても明らかです。モータリゼーションが発展した高度経済成長時代にカーライフを謳歌した人たちは、ハンドルを手放さない傾向があるのかもしれません。しかし何の罪もない人々が犠牲になっているわけであり、対策は急務です。

昨年12月に開催されたITSシンポジウムでは、複数の研究者が「白質病変」について発表していました。くわしくは医学系の資料を見ていただきたいのですが、白質病変とは、認知症の原因のひとつと言われている症状で、認知能力の低下によって運転ミスを起こす可能性があるという研究結果が出ています。運転免許の適性については、年齢で区切ることを主張する人もいますが、人間の能力は年齢に応じて判断できるものではなく、こうした判断要素を活用したほうが望ましいと考えています。

では自動車を運転できなくなった人に快適な生活を送ってもらうにはどうすべきか。現時点ではやはりコンパクトシティが理想ではないかという考えに行き着きます。

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以前このブログでも提案しましたが、警察と自治体が協力して、運転免許更新の適正審査を厳格にする代わりに、更新ができない人には自治体が補助して鉄道駅や路面電車停留場の近くに住居を移してもらう制度を実施してはどうかと考えています。もちろんそのための前提として、富山市などが実践しているように公共交通を整備し、歩いて暮らせるまちづくりを進めることが必須です。

いずれにせよ、抜本的な解決が必要な時期にきていることは間違いありません。
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