THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2016年04月

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なぜ新幹線の復活が歓迎されたのか

今月14日に最初の地震が発生した熊本・大分両県を震源とする地震は、昨日も大分で震度5強を記録する余震が起こるなど、なかなか鎮まりません。被災地の皆様は、まだ避難所や車中で過ごしている方も多く、心労が重なっているのではないかと察しています。あらためてお見舞い申し上げます。

その一方で、復興への動きも進んでいます。交通関係では、19日に熊本空港が営業再開、21日にJR九州鹿児島本線が全線で運転再開し、九州新幹線は23日に博多〜熊本間の運転を再開すると、27日に全線開通。九州自動車道も29日に全線復旧しました。

九州新幹線

この中でひときわ大きなニュースとなったのが、九州新幹線の復活でした。九州自動車道より2日早かったこともあり、大動脈の復旧と大々的に報じられ、沿線住民だけでなく、被災地へ向かうボランティアや、被災地を励まそうという観光客など、多くの乗客を熊本へ運びました。その過程で、2011年に九州新幹線が全線開通した際に制作されたテレビCMも話題になりました。

なぜ新幹線の復活が大きく扱われたのか。そこには他の交通にはない「つながる」実感が大きいのではないかと考えています。飛行機や船には、道がありません。道路は見えますが、そこにバスが走っているとは限りません。運転免許を持っていない人は、誰かの助けを借りなければ遠距離移動が困難です。しかし鉄道は、線路や駅が営業していれば、確実に移動することができます。

これは新幹線に限らず、ローカル線を含めた鉄道すべてに言えることです。被災地の方々は、地震直後にはライフラインも寸断され、心細い思いをしてきたからこそ、新幹線によって多くの地域と「つながる」ことを心待ちにしたのでしょう。思えば東日本大震災後の三陸鉄道の運転再開のときもそうでした。

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移動とはそもそも、人間が本来持っている欲求のひとつであり、欧米ではそれを「移動権」として法制化している国もあるほどです。そして人は誰かと「つながる」ことで安心するものです。だからこそ今回のような災害時に、鉄道がありがたい存在になるのでしょう。
 
現在もなお、JR九州では熊本と大分を結ぶ豊肥本線の一部が運休しており、途中の立野を起点とする南阿蘇鉄道はいまも全線で運転を休止しています。また高速道路では、大分自動車道の日出ジャンクションと湯布院インターチェンジの間が通行止めとなっています。まだまだ余震が続く、予断を許さない状況ではありますが、1日も早く九州の交通が元通りになることを願っています。

乗って学ぼうローカル線

まもなく大型連休が始まります。そこで今回は、お出掛けしながらモビリティを考えることができる場のひとつとして、千葉県を走る第3セクター鉄道、いすみ鉄道を紹介します。この鉄道が次々に打ち出す革新的な経営手法に、モビリティのみならず、地方の問題解決のヒントが隠されていると感じており、体験する価値があると考えているからです。

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いすみ鉄道は廃止が議論されていたJR木原線を1988年に第3セクター化したもので、2009年に鳥塚亮氏が社長に就任後、さまざまな改革を行ってきたことで注目されています。

鳥塚氏は、他のローカル線で良く見かける「乗って残そう運動」だけでは存続は難しいと感じ、地域住民でない乗客、つまり観光客を呼び込もうと考えました。それによって鉄道の活性化を図り、地域の人に誇りを持ってもらえる鉄道に育て、駅の掃除や花の栽培などで鉄道に関わってもらい、活性化を図るという手法を考え、実行に移したのです。

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注目したいのは、国鉄時代から使われてきた旧型ディーゼルカーをJRから買い取って走らせることで鉄道マニアに注目してもらう一方で、世界的に有名なフィンランドのアニメーション「ムーミン」をメインキャラクターに起用し、女性観光客を取り込んだことです。さらに鉄道としては珍しく、自動車での観光客も誘致しています。首都圏中央連絡自動車道(圏央道)や東京アクアラインを使えば、鉄道よりも早く沿線にアクセスできる地域が多いからです。

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財政面の対策では、運転士の訓練費用を応募者に負担してもらう制度をはじめ、ディーゼルカーや線路を支える枕木のオーナー制度やサポーター制度、駅名へのネーミングライツ導入などを実施。途中の国吉駅はいすみ市の商工会議所との合同建築物として、中にムーミンショップを設置しています。地元の名産品を使った駅弁やイベント列車などの企画も積極的に打ち出しています。

こうした内容は鳥塚氏自身の著書をはじめ、テレビやインターネットなど、さまざまなメディアで報じられています。しかし百聞は一見に如かずという言葉は、いすみ鉄道にも当てはまります。老若男女を問わず多くの観光客がいすみ鉄道に乗りに来て、沿線住民や全国のファンがバックアップしている姿を実際に体験することは、モビリティを含めた地方問題を考えるうえでプラスになると信じています。

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もちろん全国には、このブログで紹介した和歌山電鐵や四日市あすなろう鉄道、ひたちなか海浜鉄道をはじめ、積極的な戦略で活性化を目指すローカル鉄道が数多くあります。連休を使って、まずは身近な場所から訪ねてみることをお勧めしておきます。

トヨタとJACの災害判断

4月14日の夜を発端とする熊本県および大分県の連続地震は、16日未明には午前1時25分のマグニチュード7.3をはじめ、大きな地震が連続して発生し、熊本県内ではこのブログを書いている時点で30人以上が亡くなり、建物の倒壊や土砂崩れなどが各所で発生しています。

現在もなお大きな地震が続いており、予断を許さない状況です。亡くなった方のご冥福をお祈りするとともに、被害に遭われた方にお見舞い申し上げます。いまはただ、少しでも早く地震が静まってほしいという気持ちでいっぱいです。

今回の地震では交通も大きな被害を受けました。九州新幹線は車両の脱線で運休が続いており、JR在来線も多くの区間で止まっています。高速道路は路面の亀裂、土砂崩れなどにより各所で寸断され、熊本空港も閉鎖となっています。こうした状況の中で、個人的に感心した動きを2つ取り上げます。

通れた道

ひとつはトヨタ自動車が提供している「通れた道マップ」です。G-BOOKと呼ばれる車載情報通信システム搭載車両から収集した情報による、道路の通行実績を参考情報として公開したもので、直近約24時間の通行実績情報を1時間ごとに更新しています。24時間のデータの他、最新1時間など直近の情報も確認できるようになっています。

注目は、開始を伝えるニュースリリースが、最初の地震が発生した約2時間後の23時30分に配信されたことです。非常事態であることを迅速に判断し、他社の同様のサービスに先駆けての公開を決断したのでしょう。

しかもこの情報はトヨタ車オーナー限定ではなく、 パソコンやスマートフォンがあれば誰でもアクセスできます。公共性の強い情報と判断し公開したことにも好感が持てます。被害が広がりつつある現状だからこそ、リアルタイムに近い情報は貴重です。

JAC

一方、今回の地震で大きな被害を受けた熊本市は、九州の北と南を結ぶ動脈の要に当たります。しかし前述のとおり陸上ルートが寸断されており、代替移動手段の確保が急務です。そんな中でいち早く動いたのが、福岡〜鹿児島間に飛行機を運航している日本エアコミューター(JAC)でした。

JACでは最初の地震が起こった翌日の15日10時から、通常1日2便を4便に増やして運航しています。小さな機体なので輸送能力には限りがありますが、新幹線や高速バスでの移動者の一部の代替輸送には貢献しているはずです。他のエアラインが午後からの増便を決める中、迅速な決断に感心します。

どちらのケースも、最初の地震が発生したとき、通常の業務は終了していたと思われます。緊急事態であるといち早く判断し、企業や分野の枠を超えた援助を行ったことは評価したいと思います。ただしもうひとつ大事なことがあります。どう使いこなすかです。緊急や救援のための輸送が優先であることは言うまでもありません。不要な外出は慎しんでほしいものです。

なぜフランスはモビリティ改革を進めるのか

前回に続きフランスでの話を書きます。今回の舞台はグルノーブル。1968年冬期五輪の舞台にもなった、フランス南東部の都市です。ここではトヨタ自動車とフランス電力公社、グルノーブル都市圏などが共同で実証実験中の、超小型モビリティを用いたカーシェアリング「Cité Lib by Ha:mo(シテリブbyハーモ)」を視察してきました。

シテリブbyハーモについては「第3の自動運転車」同様、「日経テクノロジーオンライン」に記事を書いています。ハーモは国内でも展開例はありますが、グルノーブルのそれはトヨタ主導ではなく地元の電力公社や都市圏などとコンソーシアムを組んでおり、大学で学生相手に講習会を行うなど利用促進のためのプロモーションも積極的で、欧州で超小型モビリティの規格が確立していることを生かし、先鋭的な取り組みを進めていることが理解できました。

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日経テクノロジーオンラインの記事(要登録)=http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/040401408/?ST=eleizing

グルノーブルには他にも環境対応型モビリティがあります。LRTはもちろん、サイクルシェアリングも用意しています。自転車レーンの整備も進んでおり、歩道が広く確保されているのも印象的でした。多くの道にゾーン30が導入され、前回紹介したように、自動車の速度低下をもたらすハンプも各所に設置しています。 現市長が移動に自転車を使用するなど、環境対策に熱心であることが推進力になっているようです。 しかしグルノーブルの交通改革はこれで終わりではないことを、関係者に教えられました。

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フランスは昨年6月、大気汚染防止のためのプラン、Villes respirables en 5 ans(5年で呼吸ができる都市へ)を発表しました。都市圏ごとに2020年までの環境政策を考えてもらい、優秀なプランに100万ユーロを出して改革を実行してもらうというものです。提案は9月初めに締め切られ 同月末に20が選ばれました。グルノーブル都市圏も入っています。さらに同時期に制定されたZCR(交通規制ゾーン)については、東部のストラスブール都市圏とともに、グルノーブル都市圏が他に先駆けて導入するなど、推進役的存在として認められています。
 
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国の資料に、グルノーブル都市圏の改革概要が紹介されていました。注目すべきは、他の分野に先駆けてモビリティ関連が記されており、内容の約半分を占めていることです。グルノーブル地域圏で排出されたNOxの59%、PM2.5の16%は交通が原因だそうですから、当然かもしれません。
 
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つまり今のフランスでは、環境対策を推し進めるためにコンペまで行っており、そこでもっとも大事とされているのはモビリティ改革であるということです。一方日本では、環境対応型モビリティを入れる際にも、赤字にならないかがもっとも重要な議論となります。モビリティを見る目に、ここまで大きな差があるのです。我が国で環境対応型モビリティを育むには、なによりもこの部分を変えていくことが大事ではないかという思いに至りました。

新年度を機に望みたいこと

新年度が始まりました。いままでとは違う道を使って職場や学校へ行くことになった人もいることでしょう。そこで思い出したのが、先月ヨーロッパに行ったときに、あちこちで見かけた写真の仕掛けです。横断歩道そのものや手前の路面を盛り上げることで、自動車の減速を促すものです。ハンプ(hump)という呼び名が一般的です。

日本でも住宅地の中の生活道路に設置している例を見かけますが、ヨーロッパでは都市内の至る場所で目にできます。写真は1枚目がフランスのニース中央駅前通り、2枚目は同じフランスのグルノーブルで、公園やロープウェイ乗り場が近くにある川沿いの道です。いずれもひんぱんに自動車が通る道ですが、ハンプを設置して減速を促しています。

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なぜ日本ではハンプがあまり使われないのか、ヨーロッパの都市の光景を見るたびに不思議に思います。スポーツ施設でのゴミ拾いなどに代表される、日本人の他を思いやる気持ちは海外でも知られるところですが、歩行者という交通弱者への思いやりは、大きく遅れを取っていると言わざるを得ないからです。

特に通学者に対しては、2012年4月に京都府や千葉県などで立て続けに死亡事故が発生したにもかかわらず、多くはスクールゾーンの点検やゾーン30の導入など、マナーを促すレベルの改善に留まっています。その後も事故は起こっているわけですから、海外で実績のあるハンプの導入など、より効果的な対策が必要となっていることは明らかです。

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強者にあたるのは自動車だけではありません。今週とある自転車利用者のブログで、「夜道の歩行者はライトを使ってほしい」という投稿があり話題になりました。接触しそうになったら自転車が減速するのが筋であるはずなのに、歩行者にも責任の一端があるという意見を、驚くことに一部の自転車利用者は支持しているようです。

新生活をスタートした人たちは、慣れない道を使っています。いつもより事故の可能性が高いということです。今の日本は残念ながら、こうした弱者に対する思いやりが失われつつあり、ハンプなどの強制処置の導入も止むなしと考えます。しかし本音を言えば、道路を使うひとりひとりが気をつければ、それで済むことなのです。
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