THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2016年08月

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公共交通が休まず走り続けるために

東京の都営地下鉄の駅などに、最近こんなポスターが貼ってあります。都営交通105周年を記念して、これまで以上に都営交通のことを知ってもらうべく、今月から始まった新たな情報発信プロジェクト、「PROJECT TOEI(プロジェクト トエイ)」の一環として用意されたポスターの1枚です。

1923年9月1日に発生した関東大震災で、東京市電(現・都電)は779両が焼失するという大きな被害を受けましたが、懸命な復旧作業を行い、震災からわずか5日後の9月6日に運転を再開。11日間の無料運転を実施し、復興の手助けをしたとのことです。写真は震災直後の上野公園付近で、車両には大小さまざまな紙が貼り付けてあります。市電の車両は伝言板としても使われていたようです。

都営ポスター

「PROJECT TOEI」のウェブサイトでも見ることができます=http://project-toei.jp

人にとってはショッキングに思える写真をあえて使った勇気と、そこに記された「終戦の日も。震災の日も。休まず走り続けています。」という明快なメッセージは、終戦記念日から防災の日にかけてという時期に貼り出されたこともあり、多くの人に強烈な印象を残したのではないでしょうか。

しかしすべての公共交通が迅速に復活できるわけではありません。2009年の台風で被害を受けたJR東海の名松線は、不通区間をバスに転換したいというJR側に対し、沿線自治体が山林や河川の整備を行うことを持ちかけ、今年3月ようやく運行を再開しました。でもこれは幸運な例であり、宮崎県の高千穂鉄道のように、災害が原因で廃止に追い込まれた公共交通もいくつかあります。

災害による被害から運転再開までの時間は、被害の内容だけでなく、利用者数や経営体力などによっても左右されるようです。しかし個々の利用者にとっては、同じ公共交通です。大都市と地方で復旧に差が生まれることは好ましくありません。タクシーをテーマとした前回も書きましたが、大都市と地方で異なる仕組みを用意することが、災害時の安定した復旧にもつながるのではないでしょうか。

バスタ
*写真はイメージです

そこには利用者の理解も必要です。たとえば高速バスでは「もっと安く」という声を聞くことがありますが、安全性や信頼性を考えれば、適正料金があって然るべきでしょう。度を超えて安価な料金は、安全性や信頼性をレベルダウンさせるだけでなく、災害からの復旧にも大きく影響するはずです。

公共交通はその字面が示しているように、学校や図書館と同じ公共物です。みんなで支えるものです。もちろん国や自治体や事業者も、日々努力を続けていますが、私たち利用者も安全快適な運行のためにはどうあるべきかを、考えていく必要があると思っています。

タクシー値下げより大切なこと

東京(23区および武蔵野・三鷹市)のタクシーの初乗り運賃を、これまでの730円から410円に引き下げようという動きが進んでいます。今月からは実施に先駆けた実証実験が、都内4か所のタクシー乗り場で始まりました。そのひとつ。新橋駅東口のタクシー乗り場に行ってみると、通常のタクシー乗り場と別に「410円タクシー」の乗り場が設けられ、何組か利用する姿がありました。

実証実験での運賃は、初乗りを2kmまで730円から1.059kmまで410円に引き下げ、その後は280mごと90円から237mごと80円とするものです(加算運賃は低速走行時には時間距離併用制運賃も導入/以下同)。つまり2kmまでは現行より安くなりますが、それを超えると割高となるケースもあるようです。ちなみに初乗りの距離を短くして割安感を出す設定は、名古屋市や福岡市などでも実施していて、東京が初めてではありません。

410円タクシー

その3か月前、京都府最北端に位置する京丹後市の丹後町地域では、日本で初めてスマートフォンを用いた自家用車(白ナンバー)による有償運送「ささえ合い交通」がスタートしました。丹後町は8年前にタクシー会社が撤退し、路線バスは国道中心で、デマンドバスは隔日運行など不便であり、しかも住民の約4割が65歳以上であることから、高齢者が気軽に利用できる公共交通が求められていました。

京丹後市のささえ合い交通は、ライドシェアという仕組みを考案した米国ウーバー・テクノロジーズのアプリを導入しています。現在の日本の法律では、ウーバー単独での展開は不可能なので、2008年設立のNPO法人が主体となり、ウーバーはシステム提供に専念するという形を取ります。ドライバーは19名以下で、2種免許取得者あるいは国土交通大臣認定講習会受講者に限られます。

運賃は最初の1.5kmまで480円、以降1kmごと120円で、近隣地域の小型タクシーの1.5kmまで620円、以降309mごと80円という料金体系と比べると、遠距離になるほど割安感が高まります。一連の動きについて、私はインターネットメディアで記事を書かせていただいた他、先週のブログでも触れた「日本福祉のまちづくり学会」全国大会でも取り上げました。いずれも多くの方々から関心を寄せていただきました。

ささえ合い交通

タクシー業界はライドシェアに反対しています。タクシー、ハイヤー、自動車教習所、観光バス労働者の組合である自交総連(全国自動車交通労働組合総連合会)では、ライドシェアを「危険な白タク」と称しています。しかし同会ウェブサイトの「タクシー走行キロあたり交通事故の推移」の最新データによると、100万km走行あたり事故件数は全自動車が0.9なのに対しタクシーは1.6と、事故率はむしろ多くなっています。

もっとも大切なことは、乗客を安全快適に、適正価格で目的地まで運ぶことです。東京では初乗り運賃引き下げができる余裕があるのに対し、丹後町では撤退するしかありませんでした。それほどまでに、今の日本の大都市と過疎地域の交通事情は大差があるわけですから、現状に即した対策を講じるべきであり、手法のひとつとしてライドシェアはありだと考えます。

噂によれば、すでにウーバーの技術を用いたライドシェア導入に向けて、国内のいくつかの地域が動き始めているそうです。こうした動きをやみくもに排除するのではなく、まずは利用者に体験してもらい、利用者がもっとも有難いと感じた交通を導入すべきではないでしょうか。モビリティとは「人の移動しやすさ」を示す言葉であり、人を基準にして物事を考えるべきだと思っています。

点字ブロックは正しいのか

先週末、私も所属している「日本福祉のまちづくり学会」の全国大会が行われました。今回は北海道函館市という、多くの方にとって遠い場所での開催ということもあり、このブログでの事前告知はしなかったのですが、多くの方に参加していただきました。この場を借りてお礼申し上げます。

毎年、全国大会ではさまざまな気付きがあるのですが、今回も例外ではありませんでした。その中から今週は、会場となった函館アリーナの床に貼られていた帯について紹介します。

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帯の名前は「HODOHKUN Guideway」で、松江市にあるトーワ株式会社が開発し、大阪府八尾市の錦城護謨(きんじょうゴム)株式会社が製造販売を行う、視覚障がい者向け誘導路です。両社は以前から同様の製品を「歩導くん」の名で商品化しており、デザイン性を高めた商品としてHODOHKUN Guidewayを送り出したそうです。

さまざまな色を選ぶことが可能で、非常時の誘導路を兼ねるべく蓄光素材を用いたり、写真のようにピクトグラムを入れたりすることもできます。そのデザインは国際的に評価されており、世界的に知られているデザイン賞のひとつ、ドイツのiFデザイン賞で金賞を受賞しました。プロダクト分野のパブリックデザインでは日本初の金賞受賞とのことです。

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視覚障がい者向け誘導路としては、いわゆる「点字ブロック」が良く知られています。しかし点字ブロックは、車いすやベビーカー、スーツケースの利用者および高齢者やハイヒールを履いた女性などにとっては、逆に通行しにくいものとなっています。黄色は弱視の方への配慮だそうですが、景観を考えればもう少し落ち着いた色が好ましいとも思えます。広い目で見ればユニバーサルデザインではないかもしれません。

視覚障がい者でもあるトーワ社の会長が、こうした現状を懸念し、スムーズな形状でありながら白杖や足裏で触れることで分かるソフトな素材を使った誘導路を考案しました。これが歩導くんシリーズです。おかげでスーツケースを持った自分もスムーズに通過することができました。しかし現状では屋内の使用に限られているそうです。屋外の誘導路はJIS規格に合致した点字ブロックに限られるためとのことです。

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では海外はどうなのでしょうか。今年訪れたフランスの写真をチェックすると、グルノーブルではいくつかの横断歩道の手前に点字ブロックが貼り付けられていました。しかし色は黄色ではなく、横断歩道と同じ白でした。景観を重視したのでしょう。しかし他の多くの都市では、点字ブロックのような誘導路はほとんど見掛けませんでした。

ただしニースでは、歩道と車道・軌道の境目に、材質も色も異なる石が埋め込まれていました。健常者の方ならどこまでが歩道か一目瞭然でしょうし、視覚障がい者の方も白杖や足裏の感触で境目を判別できるかもしれません。

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日本の点字ブロックは、視覚障がい者に対する配慮は素晴らしいかもしれませんが、その結果ユニバーサルデザインや都市景観の面では、好ましくない誘導路になっていることも事実です。東京パラリンピックが開催される2020年までに考え直しても良いのではないかと思っています。

バスの利用者が増加に転じる中で

少し前の話になりますが、今年3月、東京都武蔵野市で、この地を走るコミュニティバスのパイオニア「ムーバス」が20周年を迎えたことを記念して、私も所属している「日本福祉のまちづくり学会」主催のフォーラムが開催されました。このブログでも告知をしたので、ご参加された方もいるかと思います。

ムーバス

フォーラムでは、自治体やバス会社、タクシー会社など、さまざまな分野の方々が報告や討論を行いました。とても実のある内容だったと今も思っていますが、中でも印象に残っているのが、国土交通省総合政策局交通計画課長を務める海谷厚志氏の報告でした。

下のグラフにあるとおり、日本の乗合バスの利用者は5年ほど前に底を打ち、近年は増加に転じているそうです。その理由として、事業者の経営努力とともに、高齢者が運転免許を返納し、公共交通での利用に移行していることを挙げていました。しかし同氏はフォーラムの最後で、バスの運転士不足と高齢化が深刻であることも付け加えていました。重要があるのに供給が追いつかない恐れが出つつあるのです。

バス

千葉市の公園で今月1日から11日まで(6日を除く)、このブログで何度も紹介している仏EasyMile社製無人運転小型バス「EZ10」の実験走行が行われています。私は初日に参加し、記事にもしました。実験内容についてはそちらをご覧いただきたいのですが、この無人運転小型バスに乗りながら、ムーバスのフォーラムでの報告を思い出しました。

EZ10にはステアリングやペダルはないのでドライバーはいませんが、千葉市の実験ではオペレーターを乗務させ、非常時にはオペレーターが停止ボタンを押すことになっています。スイスのシオンという都市では、同様の車両が公道で実験走行しているそうですが、こちらでもオペレーターを乗せています。つまりNHTSA(米高速道路交通安全局)などが定義した自動運転レベルではレベル3に該当します。

ロボットシャトル
日経テクノロジーオンラインの記事=http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/080203369/?ST=ADAS

自動車メーカーが市販する自動運転技術も、現在のレベル2から今後、レベル3に移行すると言われています。しかし不特定多数のドライバーが、オペレーターとしての任務を確実に遂行するかどうか、不安視する意見も多く目にします。こうした状況を考えると、自動運転はまずバスやタクシー、トラックなどプロのドライバーが関わる分野からの導入が理に叶っているでしょう。

前に書いたように、バス業界は運転士不足と高齢化に悩んでいます。タクシーやトラックも同様の状況です。ドライブではなく、オペレーションであれば、現状の2種免許ほど厳しい基準は必要なくなり、幅広い人材を登用することができるでしょう。地域交通の未来のためにも、こうした技術は実現へ向けて進めていくべきだと思いました。 
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