THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2017年03月

東京都中央卸売市場築地市場の豊洲への移転が延期となったことで、2020年の東京オリンピック・パラリンピック(以下オリパラと称します)の関係者や観光客などの移動の動脈として考えられているBRTが、存続の危機に立たされています。

2014年に一部が開通した環状2号線を使い、東京都心とオリパラ選手村が作られる晴海および複数の競技場が整備される有明地区を結ぶオリパラBRTについては、以前もこのブログで取り上げました。そのときにも不安点をいくつか列記しましたが、それ以前の段階として、走るかどうかが不安になってきているのです。

京成連節バス

この件については東洋経済オンラインで記事を掲載しているので、興味がある方はご覧ください。そこにも記しましたが、昨年8月に移転延期が発表されてから、現在までにBRTに関する動きが2つ起こっています。ひとつは昨年11月、新橋と築地を結ぶ環状2号線のトンネルが、移転延期の影響で2020年の完成が難しくなり、地上ルートへの転換を模索しているということ。もうひとつは今月、東京都と京成バス(上の写真)によるBRT運行のための新会社設立が延期になったことです。

これも以前ブログで記したことですが、日本はBRTを誤解している人が多いようです。BRTとはバス高速輸送システムの略であり、バスに鉄道並みの定時制や速達性を盛り込んだものです。そのためには専用レーンの用意が必須です。連節バスやバスロケーションシステムを用意することがBRTだと思っている人もいるようですが、これらは利便性には寄与するものの、定時性や速達性にはさほど効果はありません。

豊洲大橋
東洋経済オンラインの記事=http://toyokeizai.net/articles/-/164494

築地と晴海を結ぶ築地大橋(記事参照)、晴海と豊洲を結ぶ豊洲大橋(上の写真)はいずれも基礎部分は完成しており、後者は工事車両に限り通行が許可されています。つまり新橋と築地の間だけが残されています。これに対して東京都では、現時点でも渋滞している新大橋通りや狭い市場内道路を活用し、信号システムを工夫するとしているようですが、これでBRTが成立するとは思えません。そもそも市場内道路にBRTを走らせれば、市場として機能させることは難しくなります。

昨日の都知事の定例会見では、都庁内に「市場のあり方戦略本部」の設置が明らかにされました。安全性だけでなく経済性などからも市場移転をじっくり検討していくとのことです。たしかに市場移転にタイムリミットはありません。しかしオリパラは開催時期が決まっています。BRTはそれ以前の整備が前提です。東京の交通は世界的に高い評価を受けています。その評価が一変する可能性もあります。移転か否か、とにかく早めの決断を望みます。

 1月に続いて米国に行ってきました。 今回はSXSW(サウスbyサウスウエスト)というイベントの取材のためにオースティンを訪れたほか、アトランタとロサンゼルスにも滞在しました。 1月にラスベガスとポートランドを訪問したので、3か月で5都市に足を運んだことになります。

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米国の都市と言えば治安が気になりますが、この5都市の中で、もっとも安心して過ごせたのがオースティンでした。 直前まで犯罪率が高いアトランタにいたこと、SXSWは街全体がイベント会場になっているので朝から晩まで賑わっていたこともありますが、まちづくりも関係しているのではないかと思いました。

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オースティンはコンパクトな街です。都心はテキサス州議会議事堂とハドソン川に挟まれた1km四方ほどで、歩いて回れます。昔ながらの街並みも残っており、飲食店も目に付きます。さらに議事堂の北にはテキサス大学オースティン校の広大なキャンパスが広がっています。そこにバス、カーシェアリング、サイクルシェアリング、自転車タクシーなど、さまざまな乗り物が走っています。こうした作りが賑わいを生み出していることは間違いありません。

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特にバスの充実ぶりは驚くほどで、ダウンタウンから周辺の住宅地へ向けて網の目のように路線が用意されており、都心部では10系統以上のバスが停まる場所がいくつもあります。基幹バスや急行バスは本数も多めです。しかも車内には上の写真にあるような路線図や系統ごとの時刻表が置いてあるので、初めて訪れた人でも使いこなせるでしょう。私自身、海外の都市でここまでバスを多用したのは初めてでした。

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一方オースティンは産学連携でIT企業を積極的に誘致しており、今ではシリコンバレーに次ぐ規模を誇るそうです。研究開発拠点は都市の北部にあり、急行バスが都心との間を結んでいるほか、2010年に鉄道も開通しました。既存の線路を活用したもので、架線がないのでディーゼルカーを走らせています。設備投資を抑えつつ利便性を確保した賢い手法だと思いました。

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アトランタも地下鉄やバスは走っていましたが、危険な香りが漂う地域を何か所も目にしました。その点オースティンは、街の中心部に州議会議事堂や大学があるという幸運はありますが、企業誘致や交通整備が目的ではなく、まちづくりという大きな枠の中で働く場所や乗り物を用意していったことが理解できます。それが安心して暮らせる都市に結実しているという点は、1月に紹介したポートランドに似ていました。

今月9日、タクシーなどの相乗りについて2つの発表がありました。ひとつは国土交通省が明らかにしたもので、来年度に相乗りや乗車時運賃確定についての実証実験を営業車両で行うというもの。もうひとつはNTTドコモと公立はこだて未来大学発ベンチャー企業・未来シェアが共同で、やはり来年度にAIを使った相乗り自動配車のサービス開始を目指すという動きです。

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アイディアそのものはライドシェアで実現済みですが、ご存知のとおり日本ではタクシー業者がライドシェアの本格導入に反対してきました。理由は一般ドライバーの有償輸送が「白タク」行為にあたり危険というものでしたが(以前書いたように実際にはタクシーのほうが一般ドライバーより事故率が高くなっています)、もうひとつのライドシェアの美点、相乗りや乗車時運賃確定については、業界側も導入を要望しているそうです。

ドコモと未来シェアの発表会では実際に乗車体験もできたので内容を紹介すると、事前にAIを活用して需要予測を行い、それに基づいてルートや車両の大きさ、台数などを決定。利用者がスマートフォンのアプリで乗車希望を送信すると、近くにいる車両が立ち寄り、名前で本人かどうかを確認をしたあと、目的地まで輸送するというものです。

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最初に乗る人にはあらかじめ到着時間を幅をもたせて伝え、相乗りを受け入れてもらうことにするそうです。AIはその範囲内で何人まで相乗り可能かを計算。料金についてもAIがルートを計算し事前に確定する形になるようです。途中で相乗りになった場合は、所要時間は長くなるものの、逆に料金は下がっていくことになります。

従来のデマンド交通は前日までに予約する例が一般的でしたが、AIを活用したこのサービスなら瞬時に予約が可能です。一方交通事業者にとっては運行効率を高められるので、その分をサービス向上に振り向けることができます。NTTドコモと未来シェアではこのサービスを、日々の移動に困っている交通空白地での移動に役立ててもらいたいとのことです。さらにNTTドコモでは、DeNAとともに実証実験を進めている無人運転バスの導入も考えているそうです。

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しかしまだ問題は残っています。日本ではタクシーは定員10名以下、バスは定員11名以上で、ここを境に法律が変わってくるからです。デマンド交通は乗客数が不確定で、状況によってタクシーとバスのどちらが良いかは変わってきます。タクシーの相乗りや乗車時運賃確定認可はもちろん好ましい動きですが、同時に両者の境目を考え直すことも必要だと思っています。

昨年後半から、自動運転とは別に、無人運転という言葉が使われるようになってきました。政府が発表した官民ITS構想・ロードマップ2016では自動走行システムの種類として「自動パイロット」と「無人自動走行移動サービス」を分けていますし、このブログで何度も紹介している仏イージーマイル「EZ10」を日本で走らせているDeNAはこのモビリティを無人運転バスと称しています。

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さらに先月末には、 自動車メーカーが無人運転への参入を明らかにしました。ルノー・日産アライアンスが世界各地で公共交通の運営を行う仏トランスデブ(Transdev)との間で、無人運転車を活用した公共交通およびオンデマンド型交通向けのモビリティサービスを共同開発すると合意したのです。まずはルノーの電気自動車「ゾエ(ZOE)」を使ったパリでの実証実験や、トランスデブのオンデマンド配車や運行管理・経路選択のためのプラットフォームなどの検証を行うそうです。

少し前まで、多くの人はこれらを自動運転車の一種として見なしていました。私は自動車メーカーが開発する車両とIT企業や研究機関が開発する車両では方向性が違うので分けて扱っていましたが、やはり自動運転車と総称していました。しかし自動車メーカーの自動運転車が、運転席に人間が乗っていることを前提とするのに対し、EZ10などの無人運転車はその名のとおり無人でも走ります。この違いを呼び名として使ったのは分かりやすいと感じています。

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両者は普及のプロセスも違ってきます。自動運転車は個人が買って乗ることを前提としていますが、無人運転車はバスやタクシーなど公共交通として走らせることを念頭に置いています。EZ10をはじめとして箱型車体が多いのはそのためです。公共交通の運営が厳しい過疎地や、自動車の運転が難しくなった高齢者の移動手段として自動運転を期待する声がありますが、その要望に応えるのは主に無人運転車になりそうです。

日本ではソフトバンクグループのSBドライブが、自動運転技術を活用して新しいモビリティサービスを提供するとアナウンスしており、いくつかの市町村と連携協定を締結しています。自治体では福井県永平寺町が鉄道の廃線跡を活用して来年度に実証実験を行うそうです。一方EZ10および同じシティモビル2プロジェクトから生まれた仏ナビヤ「アルマ(ARMA)」は、米国やニュージーランドなど世界各地で実験を進めています。最初の写真でお分かりのように米国のテストにはトランスデブも関与しています。

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自動運転の報道では、IT企業VS自動車メーカーという取り上げ方が続いてきました。しかし自動運転車と無人運転車は敵対関係にはありません。片やパーソナル、片やパブリックな移動手段になりますが、個人が自家用車を使って公共交通を担うライドシェアを見れば分かるように、モビリティにおいてパーソナルとパブリックを分けることは意味がなくなりつつあるのです。大切なのは、すべての人が安全快適に移動できること。新しい自動車として、新しい公共交通として、無人運転車の普及を望みます。

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