THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2017年05月

ライドシェアというサービスを考案した米国ウーバーのシステムを活用し、NPO法人「気張る!ふるさと丹後町」が運営する公共交通空白地有償運送(道路運送法施行規則第49条第1項第2号)として注目を集めた京都府京丹後市丹後町の「ささえ合い交通」が、5月26日で運行開始一周年を迎えました。

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ウーバーのウェブサイト=https://newsroom.uber.com/japan/kyotango-1yr-anniversary/

ささえ合い交通は、丹後町の住民がボランティアでドライバーを務め、自家用車を使って地域住民や観光客等を運ぶ公共交通です。スマートフォンやタブレットを用いて利用者が車両を呼んだり料金を支払ったりする公共交通空白地有償運送は、日本ではここが初めてとなります。

ウーバーによれば、毎月平均で60回以上の乗車があり、特に平日午前中の利用が多いそうです。約8割が地元住民の利用らしく、同じ京丹後市でスーパーや病院、役所などが集まる峰山町や網野町などへの利用がメインとなっているとのこと。ウーバーのアプリは世界共通であることから、海外からの観光客の乗車もあるようです。

地元の声に応えた改良も実施しています。昨年9月にはスマートフォンやタブレットを持たない人のために代理人に配車をしてもらえる「代理サポーター制度」を、12月にはクレジッドカードを持たない人のための「現金決済」を導入しています。日本の過疎地の事情に即した最適化と言えそうです。現在は代理サポーター制度を利用する人が全体の約7割、現金決済を利用する人が8割以上に上っているといいます。

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気張る!ふるさと京丹後のウェブサイト=http://kibaru-furusato-tango.org

問題もあります。ひとつは現在の公共交通空白地有償運送制度のルール上、丹後町外で降りることはできても乗ることはできない決まりとなっていることです。もうひとつは、ささえ合い交通の導入直前に、同市の網野町や久美浜町に、一度は撤退したタクシーが再参入したことです。ライドシェアを「白タク行為」として批判する気持ちが実力行使として表れたようです。

一方でウーバーは昨年8月からは、北海道中頓別町でもライドシェアの導入を始めています。こちらは実証実験のなる代わりにNPOなどを介さない形となっています。従来は国土交通大臣が各運輸支局長等に委任していた導入が、移譲を希望する地方自治体で行えるようになったことが大きいようです。首都圏の埼玉県でも導入に向けた検討を行っているほどです。

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埼玉県のウェブサイト=https://www.pref.saitama.lg.jp/a0109/zikayouyuusyou.html

以前ウーバーの関係者に聞いときは、将来は東京などの大都市でも展開していきたいそうですが、そのために正面からタクシー業界と対決せず、危機的状況にある過疎地域の移動を救うべく自治体やNPOと手を組んでじっくり導入を進めていくウーバーの姿勢は共感できるものです。住民のための最良の移動移動はどうあるべきかを、親身になって考えている感じを受けます。

今週はオートバイメーカーの方々と話をする機会がありました。同社では今後の二輪車マーケットが世界的に縮小していくのではないかと危惧しており、こうした状況に対処すべく、車両のみならずインフラを含めて斬新なコンセプトを提案したいとのことでした。そんな中、警察庁が125ccまでのオートバイを運転できる小型限定普通二輪免許の取得負担軽減に向けて動き始めたというニュースを目にしました。

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従来は普通自動車免許保持者がAT限定の小型限定二輪免許の教習を受ける場合、現在の法令では最短で3日が必要となっているところ、内容を見直すとともに設備を改善し、週末などの2日間で取得できるようにすることで、取得を容易にしようというものです。

ご存知の方もいるとは思いますが、原付の定義は道路交通法と道路運送車両法で異なります。前者では50cc以下が原付で51〜125ccが小型限定自動二輪なのに対し、後者では50cc以下が原付一種、51〜125ccが原付二種となります。今回のニュースの内容は、道路交通法の区分はそのままに、道路運送車両法での原付の主軸を50ccから125ccへ移行させるという目論見がありそうです。

現在の原付に問題があることは、昨年10月のブログで書きました。あのときは業界第1位の本田技研工業(ホンダ)と第2位のヤマハ発動機が50cc以下で協業検討開始という衝撃的なニュースが流れた直後でした。その後も今年3月の東京モーターサイクルショーで、ホンダが今年でデビュー50周年を迎える「モンキー」の生産終了を発表しました。厳しさを増す今後の排出ガス規制を50ccでクリアするのが技術的にもコスト的にも困難であるというのが理由でした。

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主要メーカーから相次いで50ccの将来を不安視する発表が出されるなかで、国もようやく危機感に気付き、欧州やアジアで主力となっている125ccへのシフトを進めていこうと決断したのかもしれません。従来の50ccのように自動車免許保持者に無条件で資格を与えるのではなく、独自の免許区分を維持したうえでハードルを下げるという手法も、安全面を考えれば納得できるものです。

昨年のブログでは二輪車が、経済性や環境性のみならず機動性にも優れていることを書きました。今後都市への人口集中が加速していくと、自転車より速く、四輪車より時間が正確で場所を取らないという二輪車のメリットはさらに生きると予想しています。四輪車が電気自動車などになれば、環境負荷は減るでしょう。しかしボディサイズが現状のままである限り渋滞はなくすことができず、少し前に紹介したシンガポールのように、都市部への四輪車流入を意図的に減らす法律が導入される可能性もあります。

国民が機動性を重視して二輪車を選択するというパターンもあるでしょう。タイではGDPは順調に増加し、人口もゆるやかに増え続いているにもかかわらず、四輪車の販売台数は伸び悩んでいます。3月に首都バンコクを訪れると、幹線道路の渋滞は相変わらずひどく、以前同様二輪車をひんぱんに目にしました。快適ではあるが時間が読めない四輪車を選ばず、定時性に勝る二輪車を愛用し続けている国民が多いのではないかと感じました。

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日本における二輪車は、高度経済成長時代は自転車から四輪車への橋渡し的存在に捉えられ、その後は暴走族の影響で不良の乗り物というイメージが根付くなど、良からぬ印象がついて回っていますが、世界的にはこの状況は異例と言えるものです。自転車が環境に優しく健康に役立つ乗り物として再評価されているように、二輪車も都市への人口集中が進むなかで欧州やアジアと同じように機動性を評価すべき時期にきていると考えます。そのために30km/h規制や二段階右折などがハードルになっている50ccから125ccへ主軸を移す動きは理解できることです。

大型連休を利用して群馬県と栃木県を日帰りで巡ってきました。その行程の中でローカル私鉄の上毛電鉄にも乗りました。西桐生駅から中央前橋駅まで通しで利用したので、いろいろな発見がありました。

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上毛電鉄は慢性的な利用客減少に悩んでいます。群馬県は人口当たりの自動車保有台数が日本一というクルマ社会であり、スバル(旧富士重工業)の開発現場や生産施設があるなど産業面でも自動車への依存度が大きい地域であることが関係しているのでしょう。

上毛電鉄はそんな中で多彩な対策を講じています。代表例がサイクルトレインです。平日は中央前橋発8時17分/西桐生発8時19分発以降終電まで、土日祝日は全列車で自転車の持ち込みができます。日本の多くの鉄道で自転車は分解あるいは折り畳んで袋に入れないと持ち込めない中、欧米流のルールを先取りした好ましい動きです。鉄道利用者のための無料レンタサイクルも一部の駅にあります。

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さらに今回乗った車両は地元の不動産業者の協賛で、車内に水族館のようなラッピングが施してありました。これ以外にも上毛電鉄では、利用区間を限定しない「マイレール回数乗車券」、65歳以上の高齢者を対象とした「寿回数乗車券」 などさまざまな対策を講じています。パーク&ライド駐車場も6駅に用意しています。

沿線には住宅が建ち並んでおり、いわゆる過疎地域ではありません。それを考えると1時間に2本という本数は少ないかもしれませんが、並行するJR東日本両毛線桐生駅はさらに少なく昼間は1時間1本です。にもかかわらず利用者数が減少の一途を辿るのはなぜか。理由のひとつに交通結節点があると感じました。

私が訪れた地方鉄道の中で、ひたちなか海浜鉄道、いすみ鉄道、福井鉄道、和歌山電鐵は再生の成功例として取り上げられることが多いですが、この4つの鉄道には共通点があります。始発駅がJR駅と直結していることです。さらに福井鉄道と和歌山電鉄の起点は県庁所在地です。一方のいすみ鉄道は終着駅で小湊鉄道という別の地方鉄道とも連絡しています。

上毛電鉄も途中の赤城駅で東武鉄道桐生線と接続しており、ここからは浅草行きの特急りょうもう号が出ています。しかし赤城駅があるみどり市は平成の大合併で生まれた都市であり、地域拠点と呼べるほどの規模ではありません。拠点となり得るのはやはり県庁所在地の前橋市、織物産業で発展した桐生市でしょう。しかし駅名で分かるように、上毛電鉄の駅はどちらもJRの駅から離れているのです。

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1928年開業当時の駅舎が残る西桐生駅はJR桐生駅から300mほどなので、多くの人が楽に歩いて行けます。JRの駅とつなげるには駅舎を取り壊す可能性も出てきます。約5km西には赤城駅もあり、そこまでして両駅をつなげる必要性は薄いという認識です。しかし前橋中央駅と前橋駅は約1km離れており、バスで移動することになります。多くの人が面倒だと感じるでしょう。

そこで前橋・桐生・みどり3市で作る上電沿線市連絡協議会では以前から、上毛電鉄をLRT化してJR駅まで延伸する計画を検討していました。ところが同会は5月8日、コンサルタントに調査を委託した結果、中央前橋〜前橋駅間でも118億円の整備費用が必要との結果を明らかにしました。

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2006年に開業した富山市の富山ライトレールは、やはりJR富山駅周辺の約1kmを路面電車化しつつ、車両や駅を含めた整備費用は58億円で済んでいます。同じ距離の整備に2倍の費用を計上したことに唖然としています。この結果を受けて前橋市長は早期のLRT化は難しいと述べていますが、上毛電鉄の存続には前橋側の結節点構築は絶対条件だと考えています。求められるのは早期の判断です。

今回のテーマはシンガポールです。この地を訪れた目的は現地で運行している三菱重工業の新交通システムの視察で、記事にもなりましたのでご興味がある方はご覧ください。ここでは記事でも触れた、シンガポール独自の大胆な交通政策について紹介していきます。

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東洋経済オンラインの記事=http://toyokeizai.net/articles/-/169570

シンガポールで自動車を買う際には、まずCOEと呼ばれる新車購入権を公開入札で取得する必要があります。さらに乗用車はすべて輸入ということもあり100%の税金がかかります。COEは専門業者に依頼する形となるので手数料も発生します。その結果、日本では約150万円で買えるトヨタ・カローラは1000万円、250万円のプリウスはおよそ1500万円にもなります。

シンガポールでは環境対策や渋滞防止などの観点から、国を挙げて自動車の台数を制限しているのです。その結果、国民ひとりあたりの自動車保有率は15%ほどに抑えられています。日本の都道府県でもっとも自動車保有率の低い東京都(33%)の半分以下です。COEの入札費用は状況に合わせてひんぱんに変更されており、環境負荷が小さい2輪車は小型乗用車の約1/8に抑えられています。

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その代わりシンガポールでは公共交通の整備を積極的に進めています。MRT(マス・ラピッド・トランジット)と呼ばれる鉄道の総延長距離は約170km。シンガポールの面積は東京23区と同等でありながら、東京メトロの195kmに近い長さを持っており、今も3本の新路線建設や既存路線の延伸工事が続いています。一方新交通システムのLRT(ライト・ラピッド・トランジットの略で通常のLRTとは位置付けが異なります)は、沿線のニュータウンとセットで建設されました。運賃も東京の鉄道より安価です。

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この政策のおかげで、シンガポールは世界第2位の人口過密国家でありながら、渋滞はほとんどありません。また公共交通を運行する側にとってみれば、安定した運賃収入を確保することが可能になります。

シンガポールは貧富の差が大きいことも有名ですが、私の目から見る限り、格差が原因の問題はあまり表面化していませんでした。英語・中国語・マレー語・タミール語の4つを公用語とするなど多民族国家としての姿勢を明確にしていることもありますが、万人に等しく移動の機能を与えていることも効果を上げているのではないでしょうか。

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自動車産業が社会に及ぼす影響が大きい日本やドイツなどでは、シンガポールの手法は受け入れられないでしょう。しかしこういう国もあることは記憶に留めておいて損はないと思います。

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