THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2017年06月

世界3大レースのひとつと言われるフランスのル・マン24時間レースを初めて観戦しました。レースが行われるサーキットは多くの場合、公共交通では行きにくい場所にあるのですが、ル・マンは2007年にトラム(LRT)が導入されたことで、数少ない例外となりました。私もトラムを使ってサーキットに向かいました。

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トラムはフランス国鉄ル・マン駅を中心に3路線が走っています。このうち3号線はバスを使ったBRTで、1・2号線が路面電車になっています。駅の南方にあるサーキットへ向かうのは1号線です。パリのモンパルナス駅からル・マン駅までは高速鉄道TGVで約1時間。駅のすぐ横にトラムの停留場があるので乗り換えは楽です。

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ル・マン24時間には2輪レースと4輪レースがあり、2輪はブガッティ・サーキットと呼ばれる専用コースで開催されるのに対し、今回観戦した4輪レースは周辺の一般道を含めたサルト・サーキットで行われます。終点のAntarès-MMArena停留場はこのサルト・サーキットの内側にあり、3分ほどで入口に着きます(上の写真の奥に入口が見えるかと思います)。

ル・マンの街にとって24時間レースは特別なイベントであり、街の各所にポスターが貼られ、レストランやショップにはレースをイメージした飾り付けがなされます。そしてトラムも「24時間仕様」になります。路線案内はレーシングドライバーのイラストが入った専用のものとなり、乗車券も同様のデザインになります。そしてレースが行われる土曜日から日曜日にかけては終夜運転が行われます。

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キャンピングカーやテントを持ち込んだ人以外は、スタートからゴールまでサーキットに居続ける人は少なく、どこかのタイミングで自宅やホテルに戻ります。長丁場ということでお酒を飲みながら観戦する人もいるでしょう。またサーキットに行ったことがある人の多くは、帰りの渋滞に悩まされた経験をお持ちだと思います。いろんな面でトラムの24時間運行はありがたい存在です。

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各時間帯の運転間隔は決まっていますが、帰り客が殺到した時間帯には次々に車両が送り込まれていました。阪神電鉄の甲子園駅を思わせる臨機応変な輸送を行っていました。またレース前日夕方には市内のジャコバン広場周辺でドライバーのパレードが行われましたが、このときはパレードのコースと重なる区間を運休としていました。

ヨーロッパにおけるトラムは、多くが都市問題の解決のために導入されています。しかしル・マンの場合はそれに加え、世界的に有名なモータースポーツ・イベントの成功を後押しする存在でもありました。自動車と鉄道を敵対関係に位置付ける人も多い中で、ここでは見事な共存が図れていました。

6年ぶりに上海に行ってきました。日本や欧米の都市と比べると時の流れが速いので、6年前には開通していなかった地下鉄に乗ったりということもあったのですが、もっとも驚いたのは以前は見かけなかったカラフルな自転車が群れをなして置いてあったことです。

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実はこれ、サイクルシェアなのです。しかし日本や欧州のサイクルシェアのような決められたステーションはありません。上海にも以前、ステーションを持つサイクルシェアがあったのですが、見つけることはできませんでした。短期間でこちらに置き換わってしまったようです。

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利用者はあらかじめスマートフォンにアプリを入れておき、アプリを立ち上げると近くの自転車が表示されるので予約。ロックを解除して乗ります。番号を入力する方式とQRコードで照合する方式があるようでした。使い終わったら借りる時と同じような操作で、好きな場所で返却するというものです。

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特定のステーションを持たないシェアリングサービスとしては、ダイムラーのcar2goがあります。しかしcar2goを含めて既存のカーシェア・サイクルシェアはスマートフォンとは別に専用のカードを使ってロックを解除する方式が主流です。中国のシェアサイクルはスマートフォンだけですべての操作ができるのですから、圧倒的にスマートです。感覚的としてはライドシェアに近いものがあります。

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噂によればこの新世代サイクルシェア、そう遠くない将来に日本に上陸するそうです。放置自転車の取り締まりに厳しい日本の自治体が、ステーションを持たないシェアサイクルをどう扱うのか興味はありますが、欧米などで展開が始まれば従来型のサイクルシェアに影響を与えそうな気がします。短期間で新しいサービスを実用化まで持って行った中国の行動力に驚かされました。

今回は昨年乗ったパリのバスの話題から始めます。パリのバスが2025年までにディーゼルエンジン車を全廃するなど、大胆な環境改革を進めていることは以前に紹介しましたが、現時点でもハイブリッドバスは各所で見かけます。

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昨年乗ったのもその1台で、ディーゼルエンジンで発電した電気で走行していました。日産ノートe-POWERやJR東日本HV-E201系に似たメカニズムですが、このメカニズムは都市環境だけでなく、利用者にとっても優しいというメリットを生み出していることが分かりました。

車内の写真を見ていただければ、後輪のさらに後ろまで床がフラットであることがお分かりでしょう。エンジンが発電に専念し、タイヤを回すのはモーターだけなので、このような構造が実現できたようです。おかげで高齢者、車いすやベビーカー利用者などのために広いスペースを用意できています。

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一方日本の路線バス車両は、多くが中扉から後方については従来と同じ構造を持つ、部分低床になっています。しかしこれは、日本のバスメーカーに技術がないからではなく、バスの運行事業者が全低床バスに興味がないわけでもないことを、先日関係者に教えられました。

日本のバス事業者は鉄道事業者と同じように、運賃収入を原資として運行しています。そのため設備投資に割く予算は限られており、車両を購入する際にも、なによりも安価であることを求めざるを得ないそうです。メーカーはその要望に沿って、可能な限り開発費用を抑えた車両しか供給できない状況とのことです。

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このブログで何度も書いてきたことですが、高齢化や過疎化が問題となっている先進諸国で、公共交通を公費で支えるという仕組みがないのは日本ぐらいです。欧米の公共交通は税金を導入した運営がなされているから、先進的なデザインやメカニズムの車両・インフラが積極的に導入できるのではないかと思っています。

日本は世界一の高齢化社会であり、地方の過疎化も進んでいます。多くのバス事業者が苦境に陥っています。このままでは近々実証実験が始まるという無人運転バスの導入もスムーズに進むか心配です。公共交通は公費で支えるという仕組みを一日も早く導入すべきであると、改めて記しておきます。

東京都中央卸売市場の築地市場を豊洲へ移転する計画が滞っている問題については、以前この地を通る環状2号線の開通が遅れており、東京五輪・パラリンピックに影響することを記しました。あれから2か月が経過しましたが、状況はほとんど進展していません。そんな中、環状2号線が通る予定の勝どき地区を訪れる機会があったので報告します。

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勝どきは3・4丁目と5・6丁目の間に新月島川が流れており、環状2号線は川のすぐ南側を通過しています。写真を見ればお分かりかと思いますが、築地とこの地を結ぶ築地大橋から、晴海との間の朝潮運河に架かる橋まで、道路はほぼ完成し、標識も取り付けてあります。自動車が走っていないのが不思議に思えるほどです。

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道路の脇には高層マンションが林立しています。しかしにぎわいはありません。マンションを眺めると生活感が希薄であることに気づきます。近所には分譲マンションの看板もありました。「空室につき即内覧可能」というフレーズから、販売がいまひとつであることが伺えます。

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勝どきには都営地下鉄大江戸線の駅があります。この場所からの距離は500mほどと、それほど遠くはありません。しかし環状2号線が開通すれば、脇を走る道からBRTに乗って虎ノ門などに行けることになります。マンションの販売業者やすでに生活を始めている人は、それを見越していたでしょう。しかし現状ではBRTがこの道を走るかどうかすら分かりません。

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都市と交通は一体となって計画され建設されます。道路も例外ではありません。しかし勝どきや晴海の場合は、建設はすでに終わっているのに、市場の移転問題に翻弄され、開通時期が不明という状況に陥っています。沿道にいち早く移り住んだ住民は、複雑な気持ちで現在の状況を見つめていると察します。

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市場移転の問題に沿道住民を巻き込むべきではありません。築地にするか豊洲にするか、この議論も早く結論を出してほしいと思いますが、何よりもまず解決すべきは、環状2号線に道路としての機能を与えることではないでしょうか。勝どきや晴海に住む人たちのためにも、1日も早い決着を望みます。

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