THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2017年07月

このブログでも何度か紹介した栃木県宇都宮市・芳賀町のLRT計画(以下宇都宮LRT)について、鉄道ジャーナル9月号に記事を掲載させていただきました。5年前からこの地に何度か通い、さまざまな関係者に話を伺いつつ沿線となる地域を訪ね歩いた記録をまとめたものです。
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宇都宮LRTのこれまでの道のりは雑誌にくわしく書いたので、ご興味のある方は読んでいただきたいのですが、 2012年の宇都宮市長選挙で現職の佐藤栄一氏が、以前から計画にあったLRT導入を争点に掲げて大差で三選。まず宇都宮駅東側の優先整備と芳賀町への延伸、公設型上下分離方式の導入を決めました。

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ところがその直後から反対派の声が目立つようになりました。当初は260億円としていた宇都宮駅東側の整備費が450億円以上に増大したことを問題視したのです。昨年の市長選でも佐藤氏は当選したものの、LRT反対を訴えた対立候補との票差は僅差と呼べる状況になっていました。

自治体の首長を決める選挙で交通が争点になることは良くあります。それ自体は問題ではありません。しかし昨年の選挙では、対立候補がLRT整備費用1000億円という数字を掲げました。実際には宇都宮駅西側を含めても整備費は700億円以内で収まり、すべてが宇都宮市の支出ではありません。一方対立候補のウェブサイトに1000億円の内訳についての説明はなく、「一説には」という表現に留めていました。

1000億円というインパクトのある数字が効いたとも言えますが、逆に現職側がLRTのメリットをしっかり説明しなかったことも辛勝につながったと見ています。

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そもそも宇都宮LRTは市の東部や芳賀町などに展開する工業地帯への通勤輸送として計画されました。当初の予定ルート図を見れば一目瞭然です。当時の宇都宮市の関係者は、通勤輸送だけで黒字になると説明し、沿線への公共施設誘致や住宅整備などには言及していませんでした。これでは多くの市民の支持はもちろん、興味も得られないはずです。

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しかし昨年から風向きが変わり始めました。ウェブサイトにLRTを説明するパンフレットや動画を相次いでアップし、6月に現地を訪れた際には県庁でLRTのオープンハウスを開催していました。市長選での辛勝を受けて、工業団地への通勤輸送から市民のための路線へ考えを改めたのでしょう。最新の予定ルート図から工業団地が消えていることでも、それは伝わってきます。

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宇都宮LRTは政治に揺り動かされつつ、結果的にはその揺れによって、市民路線という好ましい方向に絞り込まれつつあると感じています。交通と政治は密接な関係にあることを、今回の事例は教えてくれました。しかしそこに党利党略を持ち込むべきではないと考えます。すべての人に安全快適な移動を提供すること。これが交通分野における政治の使命だと思っています。

今週は京王電鉄の新型車両5000系の報道向け撮影会がありました。1963年に生まれた名車の数字を受け継ぐこの車両は、進行方向に向いて座るクロスシートと車体中央に向いて座るロングシートの両方に転換できる座席を採用することで、京王としては初めての座席指定列車でありながら、通常の通勤列車としても運行できることが特徴となっています。

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新型5000系は、運転席のガラスを傾斜させたスマートな先頭部、高尾山の木々の色や繊維の街・八王子の絹糸の感触をモチーフにしたシートなど、既存の同社の車両とは一線を画した個性的なデザインとなっています。ユニバーサルスペースをはじめ、無料公衆無線LAN、空気清浄機、電源コンセント、防犯カメラ、ステレオスピーカーなど装備も充実しています。

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また省エネ性能向上のために、やはり京王として初めて蓄電池を搭載。ブレーキ時の回生エネルギーを充電し、走行時に用いるとともに、停電時にはこの電力を使って近くの駅など安全な場所まで自力で移動する能力も備えています。この新型5000系、今年の9月からまず通常の列車として走り始め、来年春から座席指定列車としての運行を始めるということです。

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同様の車両はすでに東武鉄道や西武鉄道で走っており、以前からクロスシート車両を持っていた京浜急行は一部列車を同社初の座席指定とするなど、座って通勤できる列車が最近増えつつあります。もちろん「痛勤」とまで言われた過酷な通勤ラッシュを緩和するためです。

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今月は別の角度から同じ問題に向けたアクションも始まりました。東京都が通勤ラッシュ回避の働き方改革のひとつとして打ち出した「時差Biz」です。参加企業はフレックスタイムやテレワーク導入、シェアオフィス活用などを行い、鉄道事業者では東急電鉄が早朝に停車駅の少ない「時差Bizライナー」を走らせるなどの取り組みを行っています。

残念なのはこの時差Biz、7月25日までの期間限定政策となっていることです。前述したように新型5000系が座席指定サービスを始めるのは来年であり、東京都と企業・鉄道事業者の足並みが揃うには相応の時間が必要でしょう。粘り強く進めてこそ効果がある政策だと思っています。

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さらに以前のブログで書いたように、企業の地方移転への働きかけも希望します。大企業がここまで一都市に集中するのは先進国では珍しく、少子化問題などの原因になっていることは改めて書くまでもありません。通勤需要を抑えられれば座席指定通勤列車の活用範囲が広がり、多くの人が快適な移動を享受できます。東京都にとっては税収減につながるだけに気が進まないかもしれませんが、日本の中の東京という視点で考えてほしいところです。

自動車の燃費にちょっとした変化が起こっています。従来はモデルチェンジのたびにカタログ発表のJC08モード燃費が向上するのが当然でしたが、昨年末に発表されたマツダの新型「CX-5」は一部の車種で旧型よりモード燃費が低下しており、燃費競争の激しい軽自動車でも、今年5月に発表されたダイハツ工業の新型「ミライース」は旧型と同じ35.2km/Lとなっています。

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この件については東洋経済オンラインで記事にしたので、気になる方は目を通していただきたいのですが、従来のJC08モードに代わるWLTCモード燃費の存在が大きいと思っています。WLTCとは国連で議論されていた世界統一試験サイクルであり、日本では今年4月に導入が決定。来年10月以降に表示が義務化されます。

下は経済産業省と国土交通省が共同で作成した資料に掲載されていた、JC08モード(上)とWLTCモード(下)をグラフ化したものです。グラフのスケールがやや異なりますが、計測時間が長く、平均速度が高くなるとともに、加減速が多く、速度の上下幅が大きいことにも気づくのではないでしょうか。

JC08グラフ
WLTCグラフ
経済産業省のウェブサイト=http://www.meti.go.jp
国土交通省のウェブサイト=http://www.mlit.go.jp

つまりモード計測時にアクセルを踏み込む量が大きくなることを意味します。その結果ハイブリッド車や軽自動車、ダウンサイジングターボ車は現在より不利になるであろうというのが、複数の自動車業界関係者の予想です。必要以上にモード燃費を重視する傾向が、WLTCモードの導入によって薄れることが期待できます。

WLTCモードは市街地、郊外、高速道路という3つのパートに分かれており、トータルの数字とともに3つの数字が分けて表示されることも特徴です。先月発表されたマツダ「CX-3」のガソリン車はWLTCモード認可を先行して取得しており、カタログなどに掲載しています。個々のユーザーが使用状況に沿った選択をしやすくなるとともに、数字が4つになるので単純な数字競争も減っていくと予想されます。

CX-3燃費数値
マツダのウェイブサイト=http://www.mazda.co.jp

意外に思えるかもしれませんが、WLTCモードの制定を主導したのは日本だそうです。そういえば最近の我が国は、2輪車の排出ガス規制・騒音規制を欧州基準と同一とするなど、国際基準への同調が目立ちます。しかも新しい燃費モードは、従来のJC08と実燃費の中間ぐらいの数値になると言われています。世界統一基準への同調だけでなく、行き過ぎた燃費競争を是正する点でも歓迎できる動きです。

一見すると普通の大都市の公園。しかしこの場所はタイトルにあるように駅の上です。場所はパリの鉄道ターミナルのひとつモンパルナス駅です。ホームの上に人工地盤を築き、緑で埋め尽くしてしまったことになります。

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パリの他の鉄道駅が石造りの重厚な建物と大きな屋根を特徴とするのに対し、モンパルナス駅はいわゆる駅ビルとなっています。1960年代に駅の位置を南に移動させ、それまで駅がある場所に高層ビル(モンパルナスタワー)を建てるという再開発が実施されたためで、駅舎を含めて三方をビルで囲まれる姿となりました。

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しかしその後、パリでは行きすぎた再開発を見直す動きが起こり高層ビルの建設はストップ。逆に緑地を増やしていきます。この過程でラ・ヴィレットの食肉市場、ベルシーのワイン倉庫、シトロエンの自動車工場の跡地などが公園に姿を変えました。その流れでモンパルナス駅のホーム上も1994年に庭園化されたのです。

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名前はアトランティック庭園。モンパルナス駅を出るTGVが大西洋岸に向かうことが理由だそうです。たしかに照明のデザインは風になびく旗を思わせ、公園の中央にはギリシャ神話に出てくる西の楽園ヘスペリデスの園にちなんだ「ヘスペリデスの島」があり、温度計や風向計などを内蔵したオブジェが置いてあります。明確なコンセプトが空間をより魅力的に見せています。

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公園の中には子どものための遊園地、テニスコート、さらに美術館もあります。複合的な余暇施設であることが分かります。駅に早く着いたとき、こうした場所でも待ち時間を過ごすことができそうです。ちなみに敷地内にいくつかある通気口からは駅のアナウンスや電車の音、乗客の喧騒が聞こえてきます。

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東京で駅の上のスペースというと、ほぼ例外なく商業施設になります。モンパルナス駅にもカフェや売店はありますが、それ以上にこの公園のようなフリーな場所に多くの空間が割かれています。これは駅に限ったことではありません。近年のパリは空間があれば緑にするような雰囲気なのに対し、東京は空間があれば店を作るという印象があります。文化の違いを痛感しました。

下の写真は私が海外で使った公共交通の乗車券です。カード式が多いうえに、1日乗車券やプリペイド式乗車券を使う機会が多かったので手元に残っているようです。こうして海外で公共交通を使っていると、日本とくに東京との違いがよく分かります。少し前に東洋経済オンラインの記事にまとめたので、興味のある方はご覧ください。

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東洋経済オンラインの記事=http://toyokeizai.net/articles/-/176049

そこでも触れたのですが、 東京の鉄道が多くの事業者によって分割運営されていることは、1日乗車券を含め、国内外からの観光客にさまざまな悪影響を及ぼしています。その最たるものが、地下鉄の運営事業者が東京メトロと都営地下鉄の2つあることでしょう。駅へ行くと自分の路線網の料金表が中心に据えられ、もうひとつの地下鉄への乗り換えは連絡乗車券扱いになるというのは、なんとも理解しにくいものです。

海外にも複数の交通事業者が都市交通を運営する例はあります。そのひとつがシンガポールで、地下鉄に相当するMRT(マス・ラピッド・トランジット)と新交通システムのLRT(ライト・ラピッド・トランジット)が、SBSトランジットとSMRTトレインズの2社で運行されています。しかし運賃体系はひとつで、通常のきっぷで相手の鉄道会社の駅に行けます。フランスのパリもフランス国鉄とパリ交通公団が地下鉄や路面電車などを走らせていますが、運賃は一元化されています。

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東京メトロの山村明義社長が昨日の社長就任会見で、2020年をめどに都営地下鉄との運賃の一元化について協議していることを明らかにしました。お互いの路線を乗り継いだ際に発生する2度目の初乗り運賃をなくし、単純に距離に応じた料金とする方式が有力とのことです。その理由として外国人利用客などから「分かりにくい」との声が上がっていたことを挙げています。

東京の地下鉄一元化については、猪瀬直樹元都知事が積極的に取り組み、九段下駅の東京メトロ半蔵門線と都営地下鉄新宿線の間の壁を撤去するなどの実績を残しました。しかしその後の舛添要一都知事は問題に触れることもないまま辞任。小池百合子現都知事も東京メトロ社長の発言を受け、「効果や経営面への影響など分析を進めながら検討する必要がある」と言及するにとどめています。

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東京地下鉄一元化に慎重な立場を取ってきた東京メトロの新社長がこの問題に触れたのは、動かない自治体に業を煮やしたためもあると思っています。都市交通を前に進めるには自治体の力が重要であることは、国内外の多くの事例が証明してます。東京都が主導して問題解決を進めてほしいところですが、残念ながら明日投票が行われる東京都議会議員選挙で、この件に触れた候補者はほとんどいないようです。

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