THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2017年09月

自転車に続いて電動スクーターのシェアリングサービスがアジアから日本に上陸することになりました。一昨日、台湾の電動スクーター会社「Gogoro(ゴゴロ)」が大手商社の住友商事と組んで、沖縄県の石垣島で観光客向けに電動スクーターを貸し出すシェアリング事業を始めると表明しました。

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2015年に発表されたGogoroは、電動スクーターながら車両のみの販売としており、脱着可能なバッテリーを街中に設置したバッテリーステーション「GoStation」から取り出し、自分のスクーターに搭載して走る方式としています。スマートフォンを前提としている点は中国の自転車シェアリングと似ていて、スマホがキー代わりとなっており、交換用バッテリーの予約もできます。

2週間前のこのブログで紹介したベルリンの電動スクーターシェアリングもGogoroを使っています。ただし台湾とは違い車両もシェアする方式となっています。パリでも同様のサービスが始まっており、日本は4番目の国になります。日本もドイツと同じように、車両もバッテリーもシェアリングとする方式になるとのことで、石垣島内の市役所や空港など4カ所にステーションを設けるそうです。

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電動車両の最大のネックが充電時間の長さと航続距離の短さです。しかしGogoroなら途中でバッテリーを交換することができるので、この問題をおおむね解消できます。電気自動車にもこの方式を導入してほしい、スマートフォンなど他の電気製品にも応用してほしいと思った人がいるかもしれません。実はGogoroの狙いもそこにあるようです。モビリティではなくエネルギーの供給を行う企業というのが同社のビジョンだそうです。

日本は50cc以下の原付1種の販売台数が最盛期の10分の1にまで減っています。たしかに現在の原付1種のルールは問題ありだと思います。しかし観光地なら最高速度が30km/hでもさして問題はないと思いますし、普通自動車免許で乗れるので多くの人が使えます。自動車と比べれば環境負荷や道路占有面積は小さく、自転車と比べれば楽に移動できます。今月エリアプライシングの導入が発表された鎌倉市などでも効果がありそうです。

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ところで今回掲載したGogoroの展示写真はどちらも、欧米の家電見本市のパナソニックブースで撮影しました。同社のバッテリーを使用しているからです。つまりパナソニックは、電気自動車のテスラに続いて電動スクーターのバッテリーも手がけていることになります。電動車両への関わりは一部の車両メーカー以上と言えるでしょう。今後の電動モビリティの発展に日本を代表する総合電機企業がどう絡んでいくかも注目です。

トライク(2輪車の後輪または前輪を2輪とした3輪車)の人身事故が相次いでいるというニュースが今週ありました。北海道新聞によれば札幌市で8月、親子3人の乗ったトライクが下りカーブを曲がりきれず、道路を飛び出して約3m下の林に転落。後部座席の妻が死亡し、サイドカーに乗っていた次女は一時意識不明の重体となったそうです。

トライクは道路交通法では普通自動車に区分されます。昔は数多く目にしたオート3輪の流れを汲んでいるようです。自動2輪車に側車を付けたサイドカーは2輪車扱いとなりますが、2輪車の後輪と側車の車輪を直結して2輪駆動としたものはトライクになります。札幌の事故車もこの構造だったようです。ただし一部のスクーターで実用化されている、左右輪の間隔が460mm以下と狭く車体を傾けて曲がるタイプは2輪車とみなします。

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運転免許もトライクは普通自動車免許、サイドカーは自動2輪免許と異なり、サイドカーで義務付けられるヘルメットの着用もトライクは奨励レベルに留まります。前述の事故では3人とも被っていなかったそうです。一方道路運送車両法では2輪車扱いなので車庫証明は不要であり、250cc以下は車検もありません。昔の法律に当てはめた結果、分かりにくい状況になっていることがお分かりでしょう。 

筆者は中型自動車免許と大型自動2輪車免許を取得しており、トライクに乗ったことも何度かあります。その経験から言えば、見た目は2輪車の発展形という印象を受けるのに対し、ハンドルを切り車体を傾けずに曲がっていく操縦感覚は4輪車に近いものです。なので普通自動車免許が必要という現状には納得していますが、運転姿勢は2輪車に近く、コーナーの限界は低くなるので、4輪車のスキルがそのまま通用するわけではないという印象も持っています。

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さらにトライクは4輪車とは逆に、人間の体が車体の外側にあります。シートベルトやエアバッグはありません。この状況を考えればヘルメットをはじめ、2輪車に近い装備を身につけるべき乗り物であると考えるのは当然でしょう。サイドカータイプのトライクの側車に乗る人についても同じことが言えます。
 
トライクには2輪車の爽快感と4輪車の安定感を兼ね備えた魅力があります。それ自体を否定するつもりはないですが、双方の短所を持ち合わせているとも言えます。やはり現状に見合ったカテゴリーを新たに作り、運転免許試験場や自動車教習所で相応の技能試験を実施すべきではないでしょうか。それがこの独特の乗り物を育てるうえでプラスになると思っています。

ドイツの首都ベルリンを16年ぶりに訪れました。今回は市内2か所で開催していた見本市の視察が主な業務だったので、公共交通で動きました。そこで見たのは、多種多様な乗り物が人々の移動を支えているという事実でした。

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鉄道は日本のJRの通勤電車に相当するSバーンと地下鉄のUバーンがあります。10路線あるUバーンは市内で完結しているのに対し、Sバーンは郊外にも伸びています。Sバーンは中心市街地を環状に巡る路線と東西に貫く路線がメインで、路線図は東京を思わせます。この鉄道網を補完するようにバスもくまなく走っており、市の東側では路面電車のネットワークも発達しています。 

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Sバーンは独特の2トーンカラー、Uバーン・路面電車・バスはすべて黄色で統一しており、識別しやすいものでした。運賃は多くの欧州都市と同じゾーン制で、環状線内がゾーン1、環状線外のベルリン市内がゾーン2、市外がゾーン3という、こちらも分かりやすいルールでした。 

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シェアリングサービスも充実しており、自転車、自動車に加えて電動スクーターまであります。自転車はいくつかの事業者が競合している状態。一方自動車はダイムラー、スクーターはボッシュという大企業の関連会社が運営しています。ちなみに自転車レーンは写真のように、歩道に敷設するパターンが多いようでした。

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これ以外にタクシーも走っており、もちろん自家用車も多く目にします。しかしここまで多種多様な公共交通を用意しているためか、渋滞はほとんど目にしませんでした。

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さまざまな乗り物を組み合わせることで便利な移動環境を提供することを、モビリティミックスと呼ぶことがあります。このブログでも初めて紹介する言葉です。異なる種類の発電方法を組み合わせて理想的な電力供給を実現するエネルギーミックスと同じような意味です。

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ベルリンのような大都市では、すべての人が状況に応じて最適の移動を選択できることが、都市力の重要なポイントだと思っています。もちろんそこでは使う力も求められます。自動車産業が主力の国の首都でありながら公共交通を充実させ、誰もが環境に負荷を掛けず快適に移動できるモビリティシーンを作り出した姿勢に共感しました。

久しぶりに本を出すことになりました。写真でお分かりのとおり自動運転に関する書籍で、4年前の超小型モビリティの本と同じ秀和システムから、来週火曜日9月12日に発売となります。すでにAmazonなどでは予約を受け付けています。価格は1500円(税抜き)です。

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自動運転に関する書籍は多く出されていますが、本書はタイトルにもあるとおり、自動運転の導入によって社会はどうなるか?にフォーカスを当てている点が、やや違うのではないかと思っています。 歴史や技術の解説もしていますが、単なる技術書や経営書ではなく、もっと広い視野での「自動運転社会」を想像しながら、専門的にならず分かりやすく書いたつもりです。

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国内外の数多くの自動運転・無人運転に接してきた結果思ったのは、自動運転にはソーシャルとマーケティングの2つの側面があることです。個人的にはその中で、ソーシャル面を大事にすべきという結論に至りました。よって本書では自動車メーカーの自動運転とIT企業などが主導する無人運転車に同じ比重を置いています。どちらが勝つかではなくどちらも選べることが、安全快適な社会を作るからです。
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もうひとつ、自動運転の基礎技術はほぼ確立しており、そろそろ「どう作るか」から「どう使うか」に考えをシフトすべきと感じています。世界各地で普及しているライドシェアが、10年前に登場したスマートフォン前提のサービスであることを思い出してみてください。自動運転をより便利なものとするためには、ソフト面の発展が大切であると考えています。

このように一風変わった自動運転本ですが、気になった方はぜひお求めいただければと思っています。よろしくお願いいたします。

北アルプスを貫いて富山県と長野県を結ぶ観光ルート、立山黒部アルペンルートのうち、富山県の黒部ダムと長野県の扇沢を結ぶ関西電力運行の関電トンネルトロリーバスが2018年で運行を終了し、電動バスに切り替わるというニュースが入ってきました。日本でトロリーバスが走っているのは同じ立山黒部アルペンルートの立山トンネルとここだけです。そのひとつが消滅するということになります。

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日本ではかつて多くの都市にトロリーバスが走っていましたが、現在は2系統だけ。そのひとつが消えるわけで、絶滅危惧種扱いしている人もいるようです。ところが海外ではしばしば見ることができます。筆者はそのうちフランスのリヨンとスイスのローザンヌで乗ったことがあります。ともに内陸にある坂が多い街です。ディーゼルバスでは登り坂での排気ガスが気になり、しかも内陸ゆえそのガスが留まりやすいので好ましくないと考えているようです。

リヨンのトロリーバス

立山黒部アルペンルートも坂道が多いうえに、走行ルートの多くがトンネルなので、排気ガスを出さないトロリーバスを導入したそうです。しかしトロリーバスは電車と同じように架線が必要。長いトンネルの中の架線の保守点検は大変であると想像できます。加えて電気自動車に使うバッテリーが進化したことで、架線に頼る必要がなくなったことも大きいでしょう。

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そしてもうひとつ、日本でトロリーバスを走らせるには厄介な法律があります。車体まわりはどう見てもバスなのに鉄道扱いになることです。海外では同じ道をトロリーバスとディーゼルバスが交互に走るようなシーンをよく見かけますが、日本では鉄道とバス、2種類の申請をしなければならないことになります。信号システムなども別になります。 

実は電動バスも、最新型はNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)や東芝インフラシステムズなどがマレーシアで走らせはじめた車両のように、屋上から集電装置を伸ばして充電を行う、トロリーバスのような方式が多くなっています。乗務員がプラグを差したり抜いたりする必要がなく、路面から床下に電気を流すより安全です。黒部のバスにもこの方式が導入されるという噂があります。

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東芝インフラシステムズのウェブサイト=https://www.toshiba.co.jp/cs/

一方スウェーデンでは大型トラックの電動化に向けて、高速道路の車線上に架線を張り、トロリーバスのように上から集電することで長距離走行を可能とする技術の研究開発が進んでいます。充電が必要な一定区間だけ設置するなら、整備費用もそれほどかさまずに済みそうです。

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トロリーバスをバスの仲間としておけば、スウェーデンのように架線を張ることで、同じ集電装置で走行中も充電できるはずであり、バッテリー容量を抑えることが可能となります。以前このブログで紹介した、JR東日本烏山線を走る蓄電池駆動電車に似た方式です。バスの電動化を進めるためにも、そろそろルールを変えて良いのではないかと思っています。

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