THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2019年04月

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「地方はクルマなしでは生活できない」は本当か

東京池袋で起きた高齢ドライバーによる暴走死亡事故を契機に、再び運転免許返納についての議論が高まっています。その中でよく見られる意見に、東京のような大都市ならともかく、地方ではクルマがないと生活できないので簡単には返納できないというものがあります。

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さまざまな地方の交通事情を見てきたひとりとして書けば、そうではない地域も多くあり、最近取り上げた青森県八戸市や京都府京丹後市のように、独自の工夫でマイカー以外の移動の選択肢を充実させている自治体もあります。つまり最初の意見はすべての地方に当てはまるわけではなく、現場を知らない人がイメージだけで語った主張だと考えています。

今回の一件で良く取り上げられるデータに、都道府県別の運転免許返納率があります。このデータに対しても、昨年のデータでは東京都がトップで茨城県が最下位だったことから、ここでも大都市はクルマがなくても生活できるが地方はそうはいかないという意見が出ています。

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ただしこのデータ、母数が少ないことから、年ごとに順位が大きく変わることはあまり知られていません。そこで3年前のデータとともに、上位と下位の10都道府県を表にしてみました。上位が大都市で下位が地方という画一的な結果でないことがお分かりでしょう。2015年には大都市名古屋を擁する愛知県が39位になっている一方、上位には北陸・中国・四国・九州地方の県も入っています。

個人的に注目したいのはどちらの年にもベスト10入りしている富山県と香川県です。両県の特徴として公共交通が発達していることが挙げられます。JRのほか富山県には富山地方鉄道の鉄道・路面電車・バスと富山ライトレール、香川県にはことでんグループの高松琴平電気鉄道・ことでんバスなどが走っています。県庁所在地の富山市・高松市がともにコンパクトシティを目標としているところも共通です。

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ただ走らせるだけでなく、高齢者対策も充実しています。富山市では満65歳以上の人を対象に、市内の公共交通を1回100円で乗れるうえに、中心市街地にある協賛店で粗品の進呈や商品の割引が受けられ、市の体育施設や文化施設を半額または無料で利用できる「おでかけ定期券」を用意しています。

ことでんグループのICカード「IruCa(イルカ)」はショッピングのほか一部のレンタサイクルやフェリーも利用可能で、うち満65歳以上の人が使えるシニアIruCaでは公共交通を多く利用した際の割引率がさらに高くなり、高松市または隣接する綾川町在住で満70歳以上の人向けのゴールドIruCaは鉄道・バスの運賃が半額になります。

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運転免許の返納を考える際、マイカー以外の交通手段があるか否かは重要な判断材料になるでしょう。それが両県の結果につながっていると思います。ただし交通利用券や各種割引などを用意する自治体も多くあります。それを考えれば「クルマなしでは生活できない」という意見には、物理的な理由のみならず、「楽だから」「慣れだから」といった感情的な理由が多く含まれている感じもします。

運転免許返納を年齢で区切るのは、人間には個人差があるので反対の立場ですが、私たちが移動のためにクルマを走らせるのは公道、つまり公の道であり、多くの人が共用する場です。他人に迷惑をかけないことは鉄則であり、感情を安全より優先させるべきではないと思っています。

ウーバーアプリを活用した地域交通の今

人口減少と少子高齢化が加速する日本で地域の移動をどうするかは、ますます切実な問題になっています。国内外のさまざまな都市や地方を訪れて感じたのは、その自治体が交通についてどれだけ理解し、どれだけの情熱を持って取り組むかで、結果が大きく変わるという事実です。先日の東京池袋での87歳の高齢ドライバーによる暴走事故の報道を見て、国内の好ましい例を紹介し、多くの人に参考にしてもらいたいという気持ちを新たにしました。

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今回は京都府最北端に位置する京丹後市の交通政策の中から、日本で初めてウーバーのアプリを地域交通に導入したことで知られる旧丹後町地区で展開する「ささえ合い交通」を取り上げます。ちなみに京丹後市は2004年に網野町、大宮町、久美浜町、丹後町、峰山町、弥栄町が合併して生まれましたが、合併直前は約6.5万人だった人口は2018年には5.5万人に減少。中でも旧丹後町地区人口減少と高齢化が著しく、2008年にはタクシーが撤退しました。

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旧丹後町地区には丹後海陸交通の丹海バスが、ほぼ国道178号線に沿って走っていますが、東西2か所の集落内は公共交通がないことから、タクシー撤退の翌年設立されたNPO法人「気張る!ふるさと丹後町」が2014年からオンデマンドバスを運行しています。しかしバスが1台なので各集落にとっては隔日運行となるうえに、乗車前日までに予約が必要であるなど不便だったため、京都府や京丹後市の協力を受け、2016年からは自家用有償旅客運送制度とウーバーのアプリを活用した「ささえ合い交通」も導入したのです。

自家用有償旅客運送制度とは、公共交通の整備が行き届いていない過疎地域に、自家用車を用い一般ドライバーの運転で旅客の移動を支える制度で、市町村運営有償旅客運送の交通空白輸送と市町村福祉輸送、NPO法人などが行う公共交通空白地有償運送と福祉有償運送があります。ささえ合い交通は公共交通空白地有償運送に該当しています。

車両は地元住民のマイカーで、車体側面に表示があり、ドライバーはオレンジ色のベストを着用しています。自動車保険には独自の内容を盛り込んでおり、車両点検は半年に一度行っているそうです。ドライバーは2019年4月時点で18名います。住民数に対して多めなのは、多くのドライバーが仕事などの合間に輸送を担当するからです。ドライバーは国土交通省による自家用有償旅客運送制度の講習を受け、2年(無事故無違反の場合は3年)ごとにライセンス更新を行っており、乗務前は直接点呼を受け、アルコールチェッカーも使用しているそうです。

今回は旧丹後町の西側の集落である間人(たいざ)から、旧峰山町にあるホテルまで利用しました。ささえ合い交通の乗車地は旧丹後町内に限られますが、降車地は京丹後市全域で可能となっているからです。タクシーでも存在する営業地域のルールではありますが、旧丹後町地区には病院がないことなどを考えると、より柔軟な運用をしてもいいのではないかと思いました。

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車両の予約と行き先指定、料金決済はウーバーそのもので、あらかじめクレジットカードなどの登録を済ませていれば、簡単に予約ができます。しかし旧丹後町には、スマートフォンやクレジットカードを持っていない住民もいるため、途中でサポーターによる代理配車も採用し、決済は現金も可能としています。今回はこのシステムを使いました。運賃は国が定めたおおむねの目安をベースにした運賃案が、京丹後市地域公共交通会議で承認を得たもので、タクシーの半額ほどとなっています。

ウーバーアプリ利用のメリットは、外国人観光客でも言葉や通貨の苦労なしに移動ができることで、私を運んだドライバーも言葉が通じない外国人を乗せた経験があったそうです。さらに見逃せない利点として、ウーバーのデータが日報代わりとなるので、事務作業が軽減されていることを挙げていました。初期投資がほぼ不要であることもメリットとして数えられるでしょう。

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私を運んだドライバーの運転は、一部のタクシー運転手より信頼の置けるものでした。ドライバーになった理由を聞くと「地域の高齢者の移動を支えたいから」という答えが返ってきました。まさに「ささえ合い交通」です。多くのドライバーがパートタイムで移動を支える方式も、地方に合っていると感じました。そして自身の運転経験から、輸送行為に対しては相応の報酬を支払うべきであると思いました。

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少し前にこのブログで取り上げたように、政府の「未来創生会議」では自家用車による有償運送制度を利用しやすくするため、タクシー事業者との連携を容易にしていく法制度の整備を図っていくとしました。京丹後での実例を体験して、この方針に賛同する気持ちが増すとともに、タクシー業界の歩み寄りに期待したくなりました。ちなみにタクシー業界はことあるごとに「危険な白タク」とライドシェアを呼びますが、上に挙げた国土交通省の資料では、そうではないことが明らかになっています。

MaaSの独自解釈を危惧する

メディアの言うことは信じないでほしい。2018年9月にMaaSの調査のためにフィンランドを訪れた際に、現地の担当者が口にした言葉です。MaaSがさまざまなメディアで取り上げられていく中で、記者や編集者が本来の概念を勝手に書き換えた結果、当初の定義からかけ離れた例を見ることが、たしかに我が国でも多くなりました。

MaaSのルーツは2006年にフィンランドにあり、6年後にMaaSという言葉が考え出され、2014年に公の場で初めて発表。2015年にはMaaSアライアンスというグローバルな組織が形成され、翌年MaaSアプリの代表格であるWhimが生まれています。それぞれの場面でMaaSの概念は明確に記されています。にもかかわらず2019年の日本で、その概念を自在に書き換えようとする行為がメディアを中心に目立っています。

MaaS英国プレゼン

特定の交通に関するスマートフォンのアプリを開発すれば、それがMaaSだという人がいます。本来はモビリティではないショッピングやレストランの情報もMaaSに不可欠という人がいます。多くは利用者の立場ではなく、提供者側の都合で語っている感じがしています。ちなみに欧州では2018年、自動車メーカーBMWとダイムラーがモビリティサービス部門の統合を発表しましたが、発表資料でMaaSに言及しているのは1部門だけで、MaaSの概念をわきまえていることが伝わってきます。

個人的にはこのブログでも何度か触れたBRTに似た雰囲気を感じています。 BRTはバス高速輸送システムと訳されるのが一般的で、専用レーンの確保などにより定時性を高めるところに最大の目的がありますが、日本には連節バスの導入がBRTであると勘違いしている事業者があり、専用レーンの準備を後回しにしたことで、BRTそのものの評価を下げた例が存在します。タイの首都バンコクでも、写真のように完璧に近いBRTを導入している事実を知ってほしいところです。

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そもそも日本には「○○銀座」や「小京都」など、トレンドとなっている場所にあやかる命名は多く存在します。MaaSも今、トレンドワードなのかもしれませんが、MaaSではないものをMaaSと称することが、本来は明確な概念であるMaaSを分かりにくくしている要因ではないかと思います。なによりも利用者の立場になって発言してほしいと考えています。

もうひとつ気になるのは、本来は公共的な概念であるMaaSという表現を、特定の事業者が私物化しようとする動きです。たとえば首都圏で鉄道事業などを展開する小田急電鉄は2018年12月、ヴァル研究所やタイムズ24、ドコモ・バイクシェア、WHILLとともに、システム開発やデータ連携、サービスの検討を相互に連携・協力していく「小田急MaaS(仮称)」の検討について合意したと発表。自社名を冠したことに賛否両論が巻き起こりました。

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同社はその後、小田急MaaSという言葉をあまり使わなくなりましたが、今月にはヴァル研究所とともに、鉄道やバス、タクシーなどの交通データやフリーパス・割引優待などの電子チケットを提供するためのデータ基盤「MaaS Japan(仮称)」を共同で開発すると発表。ニュースリリースにはMaaS Japanは小田急電鉄が商標出願中であると記されています。

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類似の表現は国土交通省がすでに使用しています。昨年10月から今年3月まで開催した「都市と地方の新たなモビリティサービス懇談会」の中間とりまとめには「日本版MaaS(Japan MaaS・仮称)」という言葉が出ています。国の組織がこの言い回しを使うのは納得できますが、民間事業者が似たような言葉を商標出願までする行為には疑問を抱きます。

MaaSは数百兆円規模のマーケットになるという算出もあり、現在の日本は新規ビジネスという部分にばかり注目が集まっていることを危惧しています。MaaSは本来、都市や地方の不特定多数の移動者がより快適に、より便利に移動するための概念です。このことを今一度心に留めてほしいと思っています。

八戸バス改革に圧倒される

路線バスの改革で先進的な取り組みをしている青森県八戸市を訪れました。八戸市都市整備部都市政策課の方々のご案内で中心街や八戸駅周辺を視察しました。都市政策課の方々にはこの場を借りてお礼を申し上げます。中心街と八戸駅を分けて書いたのは、JR東日本東北新幹線などが発着する八戸駅は中心街からは6kmほど離れているからで、中心街にもっとも近いのは八戸線の本八戸駅になります。

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八戸市が改革を始めたきっかけは、2007年に施行された「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」でした。これを受けて八戸市地域公共交通会議が設置され、地域交通が専門の大学教授をアドバイザーに迎えて協議を進めた結果、2年後に「八戸市地域公共交通総合連携計画」が作成され、2010年以降実施に移されました。

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八戸市には八戸市交通部の市営バス、みちのりホールディングス傘下の岩手県北自動車が走らせる南部バス、十和田観光電鉄の十鉄バスが運行していますが、以前は各事業者が独自にバスを走らせていたので、日本の地方都市によくある例ですが、メインルートとなる八戸駅と中心街の間は本数が多すぎ、需要があるのに収益が悪いことが問題となっていました。

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そこで八戸駅~中心部は共同運行路線として10分ごとのダイヤを作成。さらに中心街を起点として方面別にアルファベットを系統番号の頭に付けました。アルファベットは欧州の都市交通を参考にしたそうで、市民病院方面はS、湊方面はMなどとなっています。バスマップは系統別に色分けがなされ、線の太さで運行頻度を示していました。運賃を50円刻みとしたことを含め、分かりやすさが印象的でした。

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*ダイヤ改正直前だったので時刻表は紙で示してありました

また中心街は方向別にバス停を5つにまとめターミナルとしていました。ターミナルといってもビルがあるわけではなく、中心街の通りのバス停5か所を総称したものですが、鉄道の駅名標をヒントにしたという大きく見やすい情報板のおかげもあって、すぐに使いこなすことができました。待合場所はバス停脇の商業施設などの協力を得て、軒先を使わせてもらうという合理的な発想でした。

前述したように八戸駅と中心部の間にはJR八戸線も走っていますが、両者は競合することなく、うまく棲み分けができているようでした。10分間隔で走るバスの所要時間が25分なのに対し、昼間は1時間に1本の鉄道は9分で結んでいるからです。それを裏付けるように、八戸線の車両は2年前に投入されたばかりの新型で、安定した需要があることが想像できました。

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驚いたのはバスの乗車率で、平日の昼間に座席がほぼ埋まるのは、自分が乗車した地方の路線バスとしては異例です。中心部を歩く人の数も、良い意味で日本の地方都市とは思えないほどで、商店や飲食店は当然のように営業しており、複合施設の「八戸ポータルミュージアムはっち」や「八戸まちなか広場マチニワ」は市民の憩いの場所として活用されていました。公共交通活性化によるまちづくりの成功例のひとつと言っていいでしょう。

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気になる点を挙げるとすれば、バスも鉄道も現金対応だけで、ICカードやアプリなどが使えないことかもしれません。ただしアドバイザーを務める先生は、フィンランドのMaaSなど国内外の交通事情に精通しているので、早々にデジタル化が進められるのではという期待はあります。なによりも市の主導でここまでの交通改革を成し遂げた経験と実力があるのですから、実現の可能性は高いと考えています。
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