THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2019年06月

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自動車以外の交通事故を通して見えること

交通事故というと多くの人は自動車事故を想像しますが、鉄道や選択、飛行機の事故もまた交通事故です。 今月21日に閣議決定され、公表されたばかりの令和元年版交通安全白書には、自動車以外の交通事故についてもデータを紹介しているので、今回はこのテーマを取り上げます。ただし航空事故は年間10〜30件と少ないので、鉄道と船舶について記します。

まず鉄道交通における運転事故は、長期的には減少傾向にあり、昨年は676件で前年比1.5%減でした。死者数は273人で前年比4.9%減、乗客の死者数はゼロでした。ちなみに運転事故とは、列車衝突・脱線・火災事故のほか、踏切障害・道路障害・人身障害・物損事故のことを言います。

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ただし踏切事故は、踏切保安設備の整備などで長期的には減少傾向にあるものの、昨年は247件で前年比4.2%増でした。死者数は97人で前年比4.0%減ですが、負傷者数を含めると前年を上回っています。また人身障害事故のうちホームから転落あるいはホーム上で列車と接触して死傷する事故(ホーム事故)は,昨年は191件で前年比7.3%増<死者数は36人で20.0%増でした。

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令和元年版交通安全白書のウェブサイト = https://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/index-t.html

日本の鉄道の踏切の数は少しずつ減っており、一方でホームドアは増えています。にもかかわらず事故数や死者数が横ばいなのです。ホーム事故の6〜7割は自殺と言われますが、近年は我が国の自殺者数は減少傾向です。踏切事故では遮断機や警報機を備えた踏切での事故率が多いという統計もあります。

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次に船舶事故の隻数を見ると、1976〜80年度の平均では3232隻だったのが、昨年は2178隻と約3割減少。海難事故による死者・行方不明者の数は同時期と比べ8割以上減った50人となっています。ただし船舶種類別で見ると、漁船や貨物船などの事故隻数が減少傾向なのに対し、プレジャーボートは増加傾向で、近年は漁船を上回って最多となっています。また発生状況では、漁船では衝突が最多なのに対し、プレジャーボートは機関故障や舵障害などの運行不能が多くなっています。

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鉄道事故と船舶事故の統計を見て思い浮かぶのは、利用者のマナーです。以前に比べれば隻数が減少しているプレジャーボートの事故が増えているのは、運航のための知識・技能の不足した運航者が増加しているためではないかと交通安全白書では記しています。鉄道における踏切事故やホーム事故の状況も、個々の利用者がどれだけ安全な移動を心がけているかを示しているのではないでしょうか。

立体交差や地下化による踏切の廃止、ホームドアの設置などによって、事故を減らしていくことは大切ですが、インフラが対策するから利用者は漫然としていて良いというわけではありません。これは自動車交通にも言えることですが、安全は人と乗り物がいっしょに作り上げていくものであることを、忘れてはいけないと思っています。

日本のMaaSは実証実験を脱するか

今週18日、国土交通省と経済産業省が今年4月に始めた「スマートモビリティチャレンジ」について、具体的な支援対象地域・事業が発表されました。昨年から両省では独自に、MaaSに代表されるIoT・AI活用による新しいモビリティサービスの研究会や懇談会を開催していたのですが、テーマが近いことから2019年4月に両省合同で新プロジェクトを開始。このほど支援対象を選定したものです。

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スマートモビリティチャレンジのウェブサイト = https://www.mobilitychallenge.go.jp

選ばれたのは合計28の地域・事業で、経産省が採択したパイロット地域分析事業が13、国交省が採択した新モビリティサービス推進事業が19で、それぞれのうち4つは両省採択事業となっています。我が国は欧州に比べるとMaaSの取り組みは遅れていると言われていますが、両省が動き始めてからわずか1年後に、省庁の枠を超えたプロジェクトを共同で形にしたことは注目に値します。

ただこれで欧州に並んだと考えるのは早計です。いずれも実証実験だからです。本格サービスを導入する前に実験を行うのは大切ですが、我が国のモビリティシーンでは過去にも、国や自治体の支援を受けてさまざまな実証実験を行なったものの、本格導入に結びつかなかった例がいくつもあります。

理由のひとつに、我が国ではモビリティをビジネスとして見る人が多いことがあります。特にMaaSをはじめとする新しいモビリティサービスについては、新規ビジネスとして取り組む企業が多くあります。ビジネス視点で見れば、需要のある場所に投資を行い、需要が減れば供給を打ち切るという判断が自然です。だから本格サービスに移行する前に終了となる実証実験があるのでしょう。

ヘルシンキのトラム

ここで何度も書いてきたことですが、欧米ではモビリティは社会サービスのひとつであり、税金や補助金を主体とした運営がなされています。なので赤字だからすぐに減便廃止という判断になることはあまり目にしません。MaaSを生んだフィンランドは、大都市への人口集中による交通問題解消という社会目的のために10年かけてこの概念を練り上げたもので、お金儲けのために始めた事業ではありません。

スマートモビリティチャレンジの支援対象になった地域・事業に取り組む自治体や企業は、目先の損得に左右されず、長い目でモビリティサービスの理想像を追求していってほしいと思います。そして国はその挑戦を実のあるものとするためにも、欧米のようなモビリティは公が支える体制への移行を進めていくべきではないかと考えています。

国産バスの安全性強化に注目

連日のように交通事故の報道が飛び込んできます。多くが乗用車によるものですが、バスが関わったニュースを目にすることもあります。かつて関越自動車道や碓氷バイパスで起きたような大惨事には至っていないようですが、運転ミスだけでなく、ドライバーが突然意識を失うことで発生した事故もあるようです。

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そんな中、先月から今月にかけて、安全性能を高めた日本製新型バスが相次いで登場しました。5月に発表された国産初のハイブリッド連節バスであるいすゞ自動車「エルガデュオ」と日野自動車「ブルーリボンハイブリッド連節バス」、6月にマイナーチェンジを受けた日野の大型観光バス「セレガ」です。ちなみにいすゞと日野は現在、バスについては共同開発生産を行っています。

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まずエルガデュオとブルーリボンハイブリッド連節バスは、昨年商用車として世界で初めて両社の大型観光バスに搭載したEDSS(ドライバー異常時対応システム)を、今度は路線バスとして世界で初めて採用した点が注目です。ブレーキボタンは運転席と前後車室の3カ所にあり(運転席ボタンのみ解除モードあり)、前後車室には作動中に点滅するランプも用意しています。

いすゞはその後、連節タイプではない大型路線バス「エルガ」および中型路線バス「エルガミオ」にもEDSSを導入しており、同社が販売する路線バス全車への装備を完了しています。

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いすゞエルガデュオのウェブサイト = https://www.isuzu.co.jp/product/bus/ergaduo/

一方の日野セレガは、ドライバーの状態を自動検知する「ドライバーモニターⅡ」や車両の挙動をチェックする「車線逸脱警報」とEDSSを組み合わせ、ドライバーの異常な状態を自動検知して、車両を徐々に減速、停止するシステムに進化させています。システム作動時には、あらかじめ設定したメールアドレスに対象車両・作動時刻・位置情報が通知されるようになっており、迅速な対応ができるようにもなっています。

乗用車のアダプティブクルーズコントロールに相当する機能も備えており、ミリ波レーダーで先行車を検出し、車間距離を維持することに加え、先行車が停止した場合には追従して停車し、ステアリングに設置したスイッチあるいはアクセル操作により再発進するという内容を持っています。高速道路渋滞走行時の運転負荷軽減にも貢献するでしょう。

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日野セレガのウェブサイト = https://www.hino.co.jp/selega/index.html

バスは多くの人を載せて移動する公共交通であり、乗用車以上に安全性が求められると思っています。その一部はドライバーが担うわけですが、以前書いたようにバスのドライバーの労働環境は、乗用車以上に過酷であると想像できます。そんな中で日本のメーカーが最先端の安全対策を盛り込んできたことは、利用者のひとりとしても歓迎できます。

近年、電動バスやフルフラット低床バスのジャンルでは、外国製バスの進出が目立っています。しかし安全装備についてはここまで書いてきたように、日本製は世界トップレベルにあります。海外展開の際のアピールポイントにもなるでしょう。さらに最近の事故報道を見ると、バスだけでなく乗用車への採用も考えていいのではないかと思っています。

シーサイドラインの無人運転復活を望む

横浜市を走るAGT(無人運転新交通システム)の「金沢シーサイドライン」で逆走事故が起こり、10人以上の負傷者を出したことは、多くの人がご存知でしょう。以前から国内外の新交通システムを取材・視察してきたこともあり、今週はこの件でテレビの報道番組にコメントを出したり、インターネットメディアに記事を書いたりしました。

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シーサイドライン逆走事故についての記事 = https://citrus-net.jp/article/82793

記事にも書いたのですが、自動運転(無人運転を含む)になったからといって事故がゼロになるわけではありません。乗り物の事故の原因の多くは人間のミスと言われますが、自動運転の車両やインフラもまた人間が設計し製造するわけで、そこでのミスも起こるからです。ただ設計や製造は、認知・判断・操作を一瞬で行う運転に比べれば、時間をかけてじっくり取り組むことが可能で、それぞれの場面でテストもできます。自動運転のミスが少なくなる理由はここにあると考えます。

それでも事故直後は原因が解明されていなかったこともあり、自動運転の信頼性や安全性に疑問を投げかける声が目立ち、専門家の記事にもそのような内容がありました。しかし事故から1週間が経過して、状況は変わってきたと感じています。

ひとつは原因が明らかになってきたことです。現時点での情報によると、今回の事故はATO(自動列車運転装置)が原因ではなく、運転士の代わりに安全を見守る集中監理室と車両との間の情報伝達も正常だったそうで、車上のATOから制御装置に信号を送る配線が切れてモーターが逆回転に切り替わらなかったということです。自動運転の中枢部分のトラブルとは言えません。

ただ断線を警告するシステムが備わっていなかったこと、列車が止まる位置から車止めまでの間にATOなどのセンサーがなかったことは落ち度だと思います。逆走など起こらないと信じていたのかもしれませんが、この部分は早急に考えを改めるべきでしょう。

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もうひとつ、今回の事故の見方が変わってきた理由として、手動での運転を再開した6月4日に、福岡市で高齢者が運転する車両が暴走して数台を巻き込み、運転者と同乗者が死亡した事故が起きたことがあります。これに限らず、今年も交通事故で多くの命が失われているのに対し、我が国でのAGTでの事故では今回のシーサイドラインはもちろん、1993年に大阪市の「ニュートラム」が終点で停車せず車止めに衝突した際も、負傷者は200名以上になりましたが死者は出していません。

AGTが自動車の自動運転と同じぐらいの歴史しか持たず、開発途上の技術であると思い込んでいて、それを理由に危険視している人もいそうです。しかし実際は、1981年に開業した神戸市の「ポートライナー」以来、40年近い歴史があります。日本以外では北米や欧州に開発企業がありますが、信頼性は日本がトップと言われており、写真で紹介しているシンガポールや米国アトランタをはじめ、世界各地で我が国のAGTが受け入れられています。モビリティでは数少ない、日本が主導権を握る分野なのです。

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前にも書いたように自動運転は完璧ではありません。しかしシーサイドラインが有人運転だったとしても、突然の逆走に運転士が驚いてパニックになり、そのまま激突した可能性があります。バスでは運転士の急病により事故を起こした事例もいくつかあります。やはり人間の運転のほうがミスは多いと考えるのが自然でしょう。事故原因が解明されつつある今、上記のような対策をしっかり施したうえで、早急に無人運転に戻すべきだと思います。

南仏ニースの交通まちづくり

フランス観光開発機構の紹介で、ニース・コート・ダジュール地域圏観光局の局長にお会いする機会がありました。先方にとっては畑違いであることを承知で、当方がモビリティジャーナリストであることを告げると、「モビリティは今ニースでもっとも力を入れている分野です」という答えが返ってきて最初は驚きましたが、おかげで予想以上に話が弾みました。

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ニースというと観光都市のイメージを持つ人が多いでしょう。たしかに年間観光客は500万人に上るそうです。一方でニースはフランス第5の都市であり、国際空港はパリに次ぐ発着回数を誇り、コンベンションの拠点としてもパリに続く規模となっています。 ただ地域圏全体での人口は約56万人に達するのに対し、土地の80%は山地で、海沿いの限られた場所に多くの人が住むこともあり、交通渋滞に悩まされてきたそうです。

話の中で局長が特に強調していたのがLRT(トラム)でした。ニースのLRTについては3年前のこのブログで紹介していますが、現在さらに2路線が建設中です。2号線は空港から中心市街地を抜けて港に至る11.3kmの路線で、中心市街地はトンネルで抜けることになります。完成すれば空港と中心市街地が直接結ばれることになります。

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LRTが開通すればマイカー利用者はもちろん、バス路線の多くがLRTに転換するため、交通が集中する海沿いの道の渋滞減少が期待されます。さらに一部と地下化するので、世界的な観光地として有名な海沿いの遊歩道はそのまま残ります。ここに電車を走らせるのが好ましいとは鉄道好きでも思わないでしょう。

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一方の3号線は国際空港から北へ伸びる7kmの路線です。ヴァール川沿いのこの地域は現在、「ニース・エコバレー」という名称で国家レベルでの開発が進んでおり、すでにサッカースタジアムは完成していますが、それ以外にも6つのホテル、床面積6.5万m2の国際展示場などが建設される予定です。

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今年秋に開業予定という2本の新路線が、いずれも都市問題の解決や都市計画の進展とリンクしていることがお分かりでしょう。LRTを走らせることそれ自体が目的ではなく、まちづくりのためのツールのひとつであることを、ニースの計画は改めて教えてくれます。

LRTの停留場からはフィーダーバスの運行も予定しているそうです。以前から用意している自転車シェアリングも、自転車レーンともども拡充されるとのことです。またニースはパリに先駆けて電気自動車のシェアリングサービスを導入した都市でもあり、現在も稼働中です。環境に優しいモビリティを提供しようという姿勢がこれらからも伝わってきます。

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上の資料は今回お会いした観光局の局長からいただいたものです。観光用の資料であるにもかかわらずLRTのことが記してありました。それだけ現地の人たちにとって、モビリティ=移動できることは大切な要素なのでしょう。機会があれば開通後にニースに足を運び、交通まちづくりの成果を確かめてきたいと思いました。 
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