THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2019年08月

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グリーンスローモビリティが活きる場所

昨年6月に国土交通省が概要を発表したグリーンスローモビリティ(以下グリスロ)は、今年4月にはIoTと組み合わせた活用方法の実証事業を公募。6月に7地域が選ばれました。そんな中、昨年度の実証実験からひと足先に、本格的なタクシー事業に移行した事例があります。現場を見るべく、観光地として知られる広島県福山市の鞆の浦に行きました。

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鞆の浦のグリスロは地域のタクシー会社、アサヒタクシーが走らせており、「グリスロ潮待ちタクシー」と名付けられました。鞆の浦は瀬戸内海で潮の流れが変わる場所であり、昔は潮が変わるのを待つ船でにぎわったそうです。運賃は他のタクシーと同じ初乗り630円。そのほか30分単位で貸切での観光利用も可能で、自分は鞆の浦初訪問だったこともあり、鞆港発着の30分コースを電話で予約しました。

福山駅から出るバスの終点、鞆港に着くとすぐに、ヤマハ発動機の電動カートを使ったグリスロタクシーがやって来ました。以前、石川県輪島市で乗った車両に似ていますが、最大の違いは軽自動車の黄色いナンバープレートではなく、他のタクシーと同じ緑ナンバーであることです。ここからも本格導入であることが分かります。

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走り出したグリスロは、いきなり細い路地に入ります。鞆の浦の市街地は、軽自動車でもギリギリという幅の道ばかりでした。範囲は狭いので元気な人は徒歩で巡れますが、快適に観光したい人にこのグリスロタクシーは最適です。ドアや窓がなく、ゆっくり走ることも観光向きです。道が細いので左右のお店に手が届きそうなほどであり、街の一部になって移動している感覚です。見たい場所があればさっと降りて目的地に行くこともありがたかったです。

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いくつかの観光スポットを回ったあと、運転手さんお勧めの絶景ポイント、医王寺に向かいます。道は先ほどより狭く、急な登り坂です。これまで観光客は徒歩でしかアクセスできなかったそうですが、この坂道で断念する人が多かったそうです。しかし今回はグリスロタクシーのおかげで楽に到達できました。山の中腹にある寺からは、ランドマークの常夜燈をはじめ鞆の浦が一望できました。

グリスロは最高速度19km/hなので、すべての道に適しているとは言えません。どんな乗り物にも言えることですが、ふさわしい場所でふさわしい使い方をすれば魅力が数倍にもなります。鞆の浦はグリスロを走らせるのに最適な街でした。ただ自分が知るだけでも、似たような観光地はいくつもあります。そういう場所でもサービスを始めてほしいと思いました。

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あとは予約や支払いをスムーズにできればさらに好ましいところですが、私が訪問した直後、アサヒタクシーはUberと提携し、スマートフォンアプリで配車や決済が可能になったそうです。グリスロタクシーがここに含まれれば、外国人観光客もこの乗り物を利用することで、鞆の浦をより奥深く知ることができるのではないでしょうか。今後の発展に期待します。

東京2020のユニバーサルデザインは?

明日8月25日で、2020東京パラリンピック開催まで残り1年になります。そこで今週は、国内外のモビリティデザインを見てきたひとりとして、今の東京のモビリティ分野におけるユニバーサルデザインについて考えたいと思います。

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まず海外からの来日者の玄関口となる国際空港は、ユニバーサルデザインでは世界的に高い評価を受けています。世界の空港やエアラインを評価しているSKYTRAXという組織が今年から制定したWorld's Best Airport for PRM and Accessible Facilities(高齢者、障害のある方や怪我をされた方に配慮された施設の評価/PRMはPersons with Reduced Mobilityの略)では、1位が羽田(写真)、2位が成田、3位が関西で、10位までに中部、福岡、伊丹と合計6空港が入っているのです。

先日、私が所属する日本福祉のまちづくり学会の公開講座で、これらの空港の設計に関わった方、この分野を研究している方の話を聞く機会がありました。我が国では中部を皮切りに、羽田国際線、成田、新千歳空港国際線の建築や改修において障害当事者が参加をしており、それが世界的な評価につながっているとのことでした。

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ただし空港以外のモビリティシーンでみると、海外にも注目すべき実例がいくつかあります。最初はタイの首都バンコクの高架鉄道BTSの改札口です。健常者は左側の自動改札機を使いますが、高齢者や妊娠している人などは係員がいる右側のゲートを使えます。日本でも通路が幅広い自動改札機がありますが、車いす利用者や大きな荷物を持った人にとって自動改札機は使いにくいはずであり、BTSの改札はそういう人向けの配慮が感じられます。

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続いてはドイツの首都ベルリンを走るSバーン(通勤電車)です。優先席が車いす利用者だけでなく、ベビーカー利用者や怪我をした人なども対象としていることは、最近日本の鉄道も対応していますが、自転車をそのまま載せることができるのはまだ少数です。またホームとの隙間を最小限に保つべく、車体下部に短いステップを装着しており、段差もほとんどありません。さすがドイツと唸らされます。日本でも最近、国土交通省がこの課題について検討を始めたようなので、今後に期待です。

そんな中トヨタ自動車が、東京五輪・パラリンピック用に専用開発した車両APM(Accessible People Mover)を発表しました。高齢者や障害者などアクセシビリティに配慮が必要な来場者に対し、ラストマイルの移動を提供するために開発された車両で、JPN TAXIより簡単な車いす対応、ドライバーが乗り降りしやすい中央運転席など、さまざまな部分に工夫が凝らされており、ユニバーサル性能はかなり高いレベルにあると感じました。

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残り1年でやれることは限られるかもしれませんが、私は2020年がゴールではないと考えます。むしろ2020年をスタートとして、世界トップレベルのユニバーサルモビリティを目指していきたいものです。もちろん車両やインフラの整備だけではダメで、私たち健常者の理解と行動もまた大切です。障害者自身ではなく、彼らを受け入れる社会の側に障害があるわけで、そこには人も含まれることを、忘れてはいけないと思っています。

宇都宮LRTのプロモーションに感心

2022年に開業予定の栃木県宇都宮市・芳賀町LRT(宇都宮ライトレール)については、このブログでも何度か取り上げてきました。昨年5月に工事が開始していますが、昨年暮からはプロモーション活動がいままで以上に活発になってきました。

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まず紹介するのは、今年1月に発行されたLRT START BOOKです。導入予定車両のデザインとカラーをかたどった小冊子で、電車の乗り方、路線図、所要時間、運賃、交差点での信号表示、バリアフリー対策、バスターミナルや駐輪場を併設したトランジットセンター、 LRT導入の理由、収支予測、西側への延伸予定、車両寸法と乗車定員などが、イラストともに分かりやすく解説してあります。

またひと月前の昨年12月には、起点となるJR東日本宇都宮駅の東西自由通路で、ラッピングシートによるLRT情報発信が始まりました。小冊子ほどではありませんが、こちらも主な情報を分かりやすく掲示してあり、人通りが多い場所ということもあり、足を止めて見る人が多くいました。なお上記2つは宇都宮市のウェブサイトでダウンロード可能なので、気になる方はアクセスしてみてください。

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その宇都宮市では、以前から市役所1階ホールでLRTのプロモーションビデオを流すなどしていましたが、先日訪れた際には、工事情報を記したパンフレットを置いてもいました。地図とともに工事期間や時間などを示してあり、バスやマイカーなどで現場周辺の道路を使う市民にとっては有益な情報でしょう。

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宇都宮市LRTのウェブサイト = https://www.city.utsunomiya.tochigi.jp/kurashi/kotsu/lrt/index.html

いずれのプロモーションにも共通するのは、「雷都」と呼ばれるほど雷が多い土地にちなんだシンボルカラーの黄色を効果的に使い、洗練されたグラフィックと目立つコピーで分かりやすくまとめてあることです。少し前から宇都宮市ではLRTへの理解を深めてもらうべく、ビデオやパンフレットを作成してきましたが、今回はデザイン面でも評価できるレベルで、手法も多彩であり、注目度は上がりそうです。

それ以外の情報発信も積極的です。7月31日には宇都宮地域における「地域連携ICカード」を利用した IC乗車券サービスの提供について、地元の協議会とJR東日本が合意しました 。LRTやバスをJR東日本のIC乗車券Suicaで乗れるだけでなく、高齢者割引などの行政サービス導入も検討しているそうで、MaaSのひとつとしても注目できます。LRT開業前年の2021年に導入される予定で、JR東日本によれば地域連携ICカードを利用した地域交通事業者への具体的なサービス提供に向けた初のケースになるそうです。
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宇都宮市にはこれまでLRTのような公共交通が走ったことがないので、市民に対してさまざまな説明が必要となりますが、それを過剰にならず、地味にもならず、スマートな手法で周知していこうとする姿勢は好感が持てるものです。地域連携ICカードの導入など、乗りやすく使いやすいLRTにしていこうという姿勢も伝わってきます。公共交通導入前のプロモーションデザインとしては優れた部類に入るのではないかと思っています。

羽田空港新飛行ルートは必要か

羽田空港の国際線を大幅に増やすための新たな飛行ルートについて、国土交通省が関係自治体や有識者と協議会を開催した結果、東京五輪パラリンピックを前にした2020年3月から運用することを正式に決めたとのことで、石井国土交通相が8日の会見で発表しました。

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経緯や内容については同省のウェブサイト「羽田空港のこれから」に出ているので、詳しく知りたい人はご覧いただきたいのですが、現在は南風時と北風時で、4本の滑走路を図のように使い分けています。空港の東側に広がる東京湾から着陸し、東京湾に向けて離陸していることが分かります。

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新ルートでは、南風時で国際線が多く離着陸する15時から19時までに限り、都心を縦断して着陸することになります。東京五輪パラリンピックを前に、今後の訪日客の増加に対応するためには国際線の増便が不可欠。しかし現在のルートでは限界であることから、このルートを考え出したそうですが、飛行ルート周辺の住民からは騒音や落下物などに対する懸念が出ています。

世界の主な空港のレイアウトを見てみると、「世界一忙しい空港」として知られる米国アトランタ国際空港を含め、風向きに沿ってターミナルを挟むように2本の滑走路を並行に配置する例が多くなっています。羽田は滑走路を4本も持ちますが、飛行路が交差しているので効率は良くありません。風向きを考えれば新ルートのように、南北方向の2本の並行滑走路を活用するのがたしかに理に適っています。

私の事務所も新しい飛行ルートの近くにあります。東京23区生まれの自分は、そもそもこの地に静かさは求めておらず、また落下物は空港周辺でなくても存在するはずであり、この2点はあまり問題視していないのですが、2020年を理由にして新しい飛行ルートを承認してもらい、羽田の離着陸回数を増やそうというプロセスには納得しきれない部分があります。

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そもそも国際空港として首都圏に作られた成田はどうするのかという疑問が湧きます。同様に新空港を作った大阪は、伊丹は国内線、関西(関空)は国際線中心と使い分けています。複数の空港を持つ海外の大都市でも、これに近い運用をしています。騒音の大きい大型機を使うことが多い国際線を都心から遠ざけよう。そんな配慮を感じます。

都心に近い羽田に機能を集中させると、成田や関空より羽田のほうが便利と思う人が増えるのは当然で、さらに離着陸数が増えるでしょう。そうすると当初の15〜19時限定、南風時限定という規定はいつしか消滅し、朝から夜まで飛行機が都心上空を飛ぶことになるかもしれません。逆に成田は次第に閑散としていく可能性があります。東京への一極集中と同じ構図を見ているような気がしますし、この一件で東京への一極集中がさらに進む恐れもあります。

たしかに成田は東京都心から50キロ以上と遠くにあります。ただし京成電鉄スカイライナーを使えば日暮里まで最速36分で行けます。特急料金が必要にはなりますが、この数字は海外の大都市の空港とさほど遜色はありません。一方のJR東日本成田エクスプレスは東京駅まで約60分と、運賃がはるかに安い高速バスとさほど変わらず、同社の気持ちは新線を建設する羽田のほうに向いているのではないかと感じます。

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成田を発展させていくなら、スカイライナーを都営地下鉄乗り入れ可能として、押上から浅草、日本橋、銀座、品川、そして羽田空港を結ぶ軸として位置付けることが重要になりそうです。東京スカイツリーがある押上まで約30分、羽田まで約1時間で到達できるはずで、利便性はかなり高まります。その補完としてJRや高速バスを各地に走らせるという形になるでしょう。

ただそれも羽田と成田、首都圏の2空港の今後をどうするのかという国としてのビジョンが見えない限りは手をつけられません。自宅や会社から近いからという近視眼的な目ではなく、日本を代表する大都市の空港をどうするかという視点で、多くの人が考えてほしいテーマだと思っています。

車載温度計の高温自慢に思う

東海、関東甲信越、東北地方も梅雨明けし、今年も猛暑の季節がやってきました。今回のブログは例年この時期に気になっているSNSなどの投稿について触れたいと思います。それは自動車の車載温度計をアップすることによる「高温自慢」です。今回はブログのテーマにするので下のような写真を撮影しましたが、ふだんはこのような写真はアップしないようにしています。

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車載温度計の数字は多くの場合、外気温より高い数字になります。だからSNSなどでアップしたくなるのかもしれません。しかしそういう行動を取っている人たちは、路面のアスファルトが黒色なので熱を吸収しやすいという理由以外に、自分が乗る自動車そのものが熱源になっていることを知っているのでしょうか。

自分を含めて多くの人が乗る内燃機関自動車は、燃焼によって生まれる熱の多くを捨てています。最新の研究ではガソリン/ディーゼルエンジンともに熱効率50%を達成したそうですが、それでも半分はなんらかの形で大気中に放出しているわけです。

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自動車が発生する熱が相当のレベルにあることは、大都市内の地下トンネル、東京で言えば首都高速道路の山手トンネルを通ると分かります。直射日光が当たらず、周囲に建造物もなく、一部区間ではミストを噴射しているにもかかわらず、地上の道路より高い温度を表示することが多いからです。

こういうことを書くと、現在の日本は電力の多くを火力発電でまかなっているので、電気自動車に置き換えても発生する熱量は変わらないという理由を掲げ、内燃機関自動車を擁護する意見が出てきそうです。しかし日本の火力発電所の熱効率は世界トップレベルで、ガスタービンを併用したコンバインドサイクル発電では約60%を実用化しており、自動車用エンジンを上回ります。

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しかも火力発電所は水を多く使い、燃料の多くを輸入に頼ることから、多くが海辺に設置されます。大都市から離れた風通しの良い場所にあり、写真のように熱の多くは背の高い煙突によって地表から離れた場所に放出されます。理想は再生可能エネルギーへの転換ですが、ヒートアイランド防止という点では大都市を走る自動車よりはるかに環境に配慮した存在と言えます。

自動車が社会にもたらす熱の影響としては、ここまで書いてきた直接的なもののほかに、CO2などの温室効果ガス排出という間接的なものもあります。近年は「Well to Wheel」、つまり燃料採掘から走行時排出までのトータルで考える見方が主流になっていますが、これもまた、電気自動車と内燃機関自動車の環境性能が同一であることを示す指標ではありません。

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先日、自動車メーカーの執行役員の方に聞いたところ、ノルウェーのように再生可能エネルギーで発電のほとんどをまかなう地域だけでなく、発電所から離れていて交通が集中する大都市でも、電気自動車導入による環境性能向上が期待できるとのことでした。前述のように火力発電所の多くはCO2が滞留しにくい環境にあるわけで、適材適所で考えるべきであるという主張に納得しました。

ではどうすればいいか。電動の公共交通、つまり電車を活用することではないでしょうか。もちろん物流には自動車が不可欠ですし、車いすやベビーカー利用者など自動車がなければ移動が難しい人もいます。しかし東京などの大都市なら、自動車でなくても移動できる人はたくさんいるはずです。自分の移動だけでなく、その周囲で働き暮らす人のことを思いやることを考えられるなら、車載温度計の高温自慢などしないのではないでしょうか。

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上の図はウェザーニュースが発表した8月3日の最高気温です。南に行くほど暑いのではなく、人が多い場所ほど暑いことが分かります。かといって住宅や職場のエアコンをオフにするわけにはいきません。できるところから発熱を抑制する。そのひとつが大都市における不要不急の内燃機関自動車移動を控えることではないかと思っています。
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