THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2019年11月

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日本のモータウン再興に期待

前回の富山と順序が逆になりましたが、今回は2週間前に特別講座のために伺った浜松について感じたことを書きます。特別講座の会場は静岡文化芸術大学。浜松駅から1.2kmほどの場所なので、前回訪れたときは徒歩で向かいましたが、今回は路線バスを使い、帰りは大学の先生方と歩いて駅を目指しました。

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そのときに気付いたのは、歩道の広さでした。浜松市は以前からユニバーサルデザインに注力しており、大学周辺は2000年の開学に先駆けて区画整理事業が行われたためもありますが、車道に対して歩道が広く取ってあり、土地勘がない自分のような人間でも安心して歩くことができました。

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今回の特別講座では隣の磐田市に本社があるヤマハ発動機デザイン本部長の長屋明浩氏に同席していただきました。また浜松市に本拠を置くスズキの方々にも参加していただきました。この2社は、先月から今月にかけて開催された第46回東京モーターショーで、ともに歩道領域の電動パーソナルモビリティを展示したことでも共通しています。

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新しいモビリティを導入するためには、一定条件での実証実験が必要です。もちろんその後、本格的な導入につなげていくことが大切ではありますが、車両の製造企業が地元にあり、ふさわしい道路もある浜松は、歩道領域の電動パーソナルモビリティの実証実験を進めるのに最適なフィールドではないかと思います。

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この種のモビリティは個人所有のほか、たとえば東京や名古屋から静岡文化芸術大学に行きたいが足腰が弱く歩く自信がないという人などのために、シェアリングの可能性も考えられます。幸いにして浜松市などで鉄道やバスを運行している遠州鉄道は、小田急電鉄が今秋サービス開始したMaaSアプリ「EMot」を導入しました。これのサービス範囲をパーソナルモビリティにも広げれば、浜松市内での行動範囲がさらに広がることでしょう。

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もちろんこれは大手メーカーに限った話ではありません。浜松市は第二次世界大戦直後、多くの二輪車メーカーが誕生したことから日本のモータウンと言われています。現在も関連企業が多く存在しており、技術力を生かして車いすの製造などを行っています。スモール&スローなモビリティに注目が集まる今だからこそ、豊富なものづくり経験を持ち、走らせる場にも恵まれた浜松で、普及に向け先陣を切ってほしいと、久々にこの街を訪れて感じました。

富山路面電車南北直通が意味すること

最近のブログでも紹介してきたように、先週末から浜松、富山、神戸の3箇所で講座を持つ機会に恵まれました。参加していただいた方には、この場を借りてお礼を申し上げます。今回はその中から、2011年に書籍「富山から拡がる交通革命」を執筆以来6度目の訪問になる富山から、富山駅周辺の最新情報をお届けします。

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上の写真で、2015年の北陸新幹線開通と同時に駅下に乗り入れを始めた市内電車の富山駅停留場の奥が、明るくなっていることがお分かりでしょうか。富山では2006年、廃止が議論されていたJR西日本富山港線が第3セクターの富山ライトレール運営によるLRTに生まれ変わりましたが、この計画時点で富山駅南側を走る富山地方鉄道の市内電車(富山軌道線)との直通運転を行う構想はありました。それが実現に近づきつつあるのです。

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市内電車の富山駅停留場が営業を開始した頃、在来線のホームはまだ地平にありました。そこでまずこれらのホームを高架化し、続いて市内電車と富山ライトレールの線路をつなげるというプロセスで工事が進んでいます。合わせて従来は地下だった南北連絡通路も地平になり、かなり楽になりました。富山ライトレールの富山駅北停留場は仮設ホームになっていましたが、直通後は撤去され、新幹線ホーム下の停留場に統一されることになります。

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また今年5月には、富山ライトレールと富山地方鉄道が合併し、富山地方鉄道が存続会社になることを発表しており、10月には運行ルートと運賃が明らかになりました。富山ライトレールの電車はすべて市内電車に乗り入れ、朝のラッシュ時は市内電車の終着駅まで直通運転。昼間は環状線への直通運転も行います。そして運賃(大人)は現金が210円、ICカードが180円で据え置かれます。つまり単なる直通運転ではなく、欧米の都市交通のような運営と運賃の一元化が実現するのです。

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地元の人に話を聞くと、環状線開通以来にぎわいが戻ってきている中心部の繁華街は、富山ライトレール沿線から乗り換えなしで行けることになるわけで、お客さんの増加が期待できるとのことでした。逆に市内電車沿線の住民が、富山ライトレール沿線の観光地にスムーズに行けるメリットもあります。いずれの場合も余計な出費はありません。これは沿線の企業や学校、公園など多くの施設について言えることです。市民の行動範囲が拡大し、まちが活性化することは間違いありません。

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富山ライトレールの成功を機に、福井では路面電車の改革が実行に移され、利用者増加などの効果を上げています。宇都宮ではLRT新設の工事が始まり、岡山では富山と同じようにJR線転換の動きがあります。しかし先駆者である富山は、さらに一歩先を目指そうとしていることがお分かりでしょう。やはりこの都市の交通改革からは今後も目が離せません。

走りはじめるか電動キックボードシェア

先月のブログで取り上げた電動キックボードシェアに、その後動きがありました。政府の成長戦略のひとつである「規制のサンドボックス制度」にLuupとmobby rideの2社が10月17日に認定され、大学構内の一部区域を道路と位置づけ、規制改革を行うための情報を収集していくことになったのです。この件についてはウェブメディア「現代ビジネス」で記事を書いていますので、気になる方はお読みいただければと思います。

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ひと口に電動キックボードシェアと言っても、事業者によってビジョンに違いがあります。先月取り上げた、ドイツWind Mobilityの日本法人が運営しているWindは、原付のナンバープレートや灯火類を車両に装着し、ヘルメットを袋に入って用意してありました。つまり原付扱いとなります。一方、今回制度認定された2つの事業者は、ナンバーなしで自由に乗れること目指しており、公園や河川敷、イベント会場などで実証実験を重ねています。

規制のサンドボックス制度とは、新しい技術やビジネスモデルの導入が現行の規制では難しい場合に、事業者の申請に基づいて、規制官庁の認定を受けた実証を行い、そこで得られた情報やデータを用いて規制の見直しにつなげていく制度です。資料に目を通すと、「まずやってみる!」という、これまでの日本ではあまり見られなかった文言を見ることができます。

同制度はモビリティのスタートアップに限ったものではなく、医療、金融、不動産などの分野が該当しており、パナソニックなどの大企業も名を連ねています。モビリティ領域では電動キックボードのほか、人力モードと電動モードを切替可能なハイブリッドバイクの自転車レーン走行実証、キャンピングカーの移動できない状態での空間活用に関する実証も選ばれています。

電動キックボードシェアの場合、事業所管省庁は経済産業省、規制所管省庁は国家公安委員会と国土交通省となっています。警察庁を管理する国家公安委員会が関係していることは、新たなルール制定に向けた希望を抱かせます。経産省では適切な形で電動キックボードを公道で走行できる環境を実現し、短距離移動の効率化や観光客誘致などに貢献したいとしています。

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先日、実証を行っている大学を訪れてみると、構内の車道を使ってシェアリングを行なっており、学生などが利用をしていました。今月4日まで開催していた第46回東京モーターショーで、2つの会場間を4社の電動キックボードで移動ができるメニューが用意されたことは以前報告しました。あのときほどではないですが、多くの学生が行き交う場所での試乗メニューは、従来の実証実験とは注目度が違っており、事業者にとっては貴重な経験になるはずです。

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新しいモビリティに対しては厳しい態度を取り続けてきたこの国が、電動キックボードシェアに関しては導入に前向きになっているような気がします。本格的に公道を走れるのはまだ先かもしれません。しかし海外では認められた乗り物やモビリティサービスを、前例がないからという理由で否定する姿勢ではないことはたしかです。人々の移動の自由を切り拓いていくためにも、今回の制度などが契機となって、門戸が開いていくことを期待しています。

富山と神戸でモビリティデザイン講座に出ます

芸術の秋ということで、各所でアートやデザインに関する催し物が開かれていますが、私も以前告知したものに加え、富山と神戸で開催されるイベントに参加することになりました。今回はそのお知らせをさせていただきます。

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ひとつは11月6日から12月27日まで開催されているとやまD'DAYS2019の中で、11月20日にイノベーション講座を持たせていただきます。富山は2011年に「富山から拡がる交通革命」という本を書いた土地であり、自分の中ではまずモビリティ改革を思い浮かべますが、昔からものづくりで定評があり、近年はデザインにも力を入れています。今回のD'DAYSではその強みを生かして、テクノロジーとデザインの融合による社会変革の可能性を探っていくことをテーマに掲げています。

私の講座のテーマは「モビリティデザインもコト+モノへ」。気づいた方がいるかもしれませんが、ひと月前にこのブログで紹介した、今年度のグッドデザイン賞の審査結果について書いたブログのタイトルそのものです。あのとき書いた内容がベースになりますが、グッドデザイン賞に限らず、さまざまなモビリティデザインを見てきた者として、テーマにあるような近年の変化を中心にお話しするつもりです。場所は富山県高岡市にある富山県総合デザインセンターで、入場は無料です。

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もうひとつは11月22日から12月8日まで、神戸市のデザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)で開催されるグッドデザイン神戸展です。神戸は昔から洗練された街として国内外の多くの人に知られていますが、近年さらに都市の資源や魅力をデザインの視点で見つめなおし磨きをかけることで魅力と活力を創出し、くらしの豊かさを創造するべく、都市戦略「デザイン都市・神戸」に取り組んでおり、その一環としてこのイベントを開催しています。

名前で想像できるとおり、私も審査委員を務めているグッドデザイン賞の、東京以外で唯一の展示会でもあります。この中で11月23日、グッドデザイン連続講座のトップバッターとして、「コミュニティを育むモビリティのデザイン」というテーマで、今年度グッドデザイン賞でグッドフォーカス賞を受賞したアイシン精機株式会社イノベーションセンター部長の加藤博巳氏とともに登壇します。こちらも参加は無料です。

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2つの講座はいずれも、このブログの中で紹介しているウェブサイトからの事前申し込みが必要となります。なお以前も紹介したように、11月16日には静岡県浜松市の静岡文化芸術大学の公開講座にも出ます。こちらはヤマハ発動機デザイン本部長の長屋明浩氏が出演することになり、それぞれのプレゼンテーションのあとトークセッションも行う予定となっています。こちらも入場無料ですので、興味のある方は下のリンクより申し込んでください。

1週間のあいだに3つの地域で、モビリティのデザインについて話をすることになったわけで、普段なかなかお会いすることができない方々と触れ合える貴重な機会と期待しています、多くの方々と現地でお会いできることを楽しみにしております。よろしくお願いいたします。 

羽田空港の車いす自動運転試験を見る

車いすの自動運転。一昔前までは想像すらしなかった技術が、国内で相次いでテストを始めています。10月9日から11月28日まで、ANA(全日空)とパナソニックが成田空港で自動追従電動車いすの実証実験を始めたのに続き、羽田空港では11月2日と3日、JAL(日本航空)とWHILLによる試験走行が行われています。後者に取材に行ったので、その模様を報告しつつ、車いすの自動化について記していきます。

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2つの実証実験は、電動車いすの自動化という点では共通していますが、内容はやや違います。前者はターミナルでの国際線から国際線への乗り継ぎ客に提供するもので、自動追従と書いたように、高速道路上で実証実験を進めている大型トラックの自動追従走行に似たものです。後者はターミナルで保安検査場通過後の利用者に電動車いすを貸し出し、搭乗口まで行って役目を終えると自動で貸し出し位置に戻ってくるというものです。
 
空港ターミナルは移動距離が長いことが多く、JALによれば羽田空港第一ターミナルは全長約800mで、利用者の約半数は長距離移動ができないそうです。つまり日常生活で車いすを使っていない人でも、空港ターミナルでは車いすが欲しいという人が多いのです。こうした利用者の移動を助けるとともに、電動化によって介助者を不要とすることで精神的なストレスフリーを実現。合わせて空港管理者にとってのコスト削減を狙うために、今回の試験を行ったそうです。成田空港の場合も状況は似ていると想像しています。

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今回取材したWHILLの自動運転車いすは、左右のアームレストの先に1組ずつのステレオカメラを使用しており、座席にはシートベルトが付いていました。車いすの直前約1m以内で歩行者が横切ったりすると、アームレスト先端のステレオカメラ周囲のインジケーターが青から赤に変わり停止。左側のアームレストに装着されているモニターにも緊急停止という表示が出ます。

行きは通常の電動車いすとして移動します。ここを自動としなかったのは自由な移動を提供するためとのことです。今回の試験走行中は地上係員などがついていくことになっていました。最高速度は電動車いすの制限速度である時速6kmの半分になる時速3kmで、羽田空港第一ターミナルは出発と到着の利用者が混在することを考慮して、ゆっくりに設定したそうです。

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利用者が搭乗口近くで降りた後の自動運転は、オペレーターがタッチパネルを押すと動き出し、所定のルートを通って貸し出し場所まで自動で戻ります。今日は土曜日ということで空港利用者が多く、最初は人の多さに戸惑っていたようでしたが、状況が把握できると動き出し、人の手を一切借りずに貸し出し場所まで帰っていきました。

本格サービスは成田空港・羽田空港ともに2020年度を目指しているそうです。一方WHILLでは羽田以外にオランダのアムステルダム・スキポール、英国ロンドン・ヒースロー、米国ダラス・フォートワースなどでも同様のサービス導入を進めているそうで、空港以外では病院や美術館、遊園地などで同様の展開を目指しているとのことでした。

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ちなみに成田空港で使用するのはパナソニックとWHILLが共同開発した「WHEEL NEXT」とDoogが開発した「Garoo」で、羽田空港ではWHILLが独自開発した自動運転車いすを使います。いずれも日本製であり、世界屈指の高齢化社会である我が国が、車いすの自動化でも最先端にあることが分かりました。日本ならではのおもてなしをハイテクによって世界にアピールできる分野でもあり、今後の展開に期待を抱きました。