THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2019年12月

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TOKYO 2020の年を迎えて

今年最後のブログなので、来年開催される東京オリンピック・パラリンピック関連の話題を取り上げます。東京五輪ではマラソンと競歩が札幌開催に変わるという波乱もありましたが、先日新国立競技場が完成するなど、パラリンピックを含めて準備は着々と進んでいるようです。それとともに会期中の交通対策の検討も進んでいることが、TOKYO 2020のオフィシャルサイトを見ると分かります。

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その内容について、世界を代表するメガシティでの開催という点で共通する2012年ロンドン大会と比較をまじえながら、自動車メディアMOTAで執筆しました。詳しくは記事を見ていただきたいのですが、ロンドンの公共交通は他の多くの欧州都市と同じようにロンドン交通局が一括して運営しているうえに、同じ組織が道路交通も管轄するという優位性はあります。またロンドン大会では観戦チケットに公共交通の1日乗車券が付いていました。これは東京でも実現してほしいサービスです。

一方で東京にも強みはあります。そのひとつが首都高速道路です。欧州の都市は一般的に首都高速のような道路は持たないので、ロンドンでは一般道路の一部をオリンピック・ルート・ネットワークに指定し、専用レーンや優先レーンなどを用意して対処したそうです。首都高速は有料であり、交差点がなく、歩行者や自転車が通らないので、交通のコントロールがはるかにしやすいことは誰でも予想できます。個人的にも首都高速の活用には賛成します。

組織委員会では一般道路で大会前の交通量の10%減、首都高速は競技会場が集中したり通過交通が多く混雑したりする重点取組地区とともに30%減を目指しているそうです。ところが今年の夏に行った実験では、一部の入口閉鎖や料金所ゲート制限、環状7号線内側の一般道の通行制限などの規制を行ったうえに、企業などに混雑緩和に向けた取り組みのお願いをしたにもかかわらず、結果は約7%減に留まりました。

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この数字、移動者のほうにも原因があると思っています。今年、関東地方を相次いで襲った台風で、交通事業者が計画運休を発表したのに、出勤しようとする人々で各地の駅が大混雑しました。事前に運休が分かっているのに会社に行く。あるいは出社を命じる。こうした考え方が来年も引き続き残るようでは、どんな素晴らしい対策を行っても混乱は間違いないでしょう。

ロンドン大会のモビリティマネジメントは多くの人が評価していますが、資料を調べると、1日乗車券の用意や自転車レーンの整備などに加え、多くの住民がオリンピック・ロード・ネットワークの存在を理解し、約150万人がテレワークに切り替えたという記録が残っています。多くの人々が、選手や関係者とは違う形で大会に参加しようという気持ちだったのではないでしょうか。東京大会のモビリティシーンもこのような雰囲気になってほしいと願っています。

*次回は2020年1月11日更新予定です。良いお年をお迎えください。

顔認証とモビリティの相性

12月10日から大阪メトロで、日本の鉄道では初めて顔認証を用いた次世代改札機の実証実験が始まりました。実験期間は2020年9月30日までの予定で、長堀鶴見緑地線ドーム前千代崎駅、中央線森ノ宮駅、堺筋線動物園前駅、御堂筋線大国町駅の一部の改札口付近で、大阪メトロ社員を対象としたものです。

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大阪メトロでは2024年度に全駅で顔認証によるチケットレス改札の導入を目指しているそうで、今回は実用化に向けた課題抽出や検討基礎データを取得するとのことです。4駅としたのは、協力企業が4社あるからで、4駅それぞれで異なる改札機を試験導入することで、機能性や利便性でデザインについて比較検証していくとしています。

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導入目標時期から考えても、2025年の万博開催を視野に入れていることはあるかと思いますが、大阪は日本で初めて自動改札機を導入した地でもあります。交通分野に関して先進的な考えを持っている人が多いのかもしれません。

私はまだ実験現場を見たことがなく、そもそも大阪メトロ社員ではないので利用できないですが、11月27〜29日に千葉県の幕張メッセで開催された鉄道技術展に、今回大阪メトロの実験に協力した企業を含め、いくつかの企業が顔認証の展示を行っていたので、展示物を見るとともに担当者に話を伺いました。

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顔認証は米国や中国などが進んでいるようですが、わが国でも近年、オフィスや空港のセキュリティゲートで導入が進んでいます。今回の大阪メトロの実証実験は、こうした場での経験を応用したもので、改札口をオフィスや空港のゲートのに見立てて稼働させるものです。

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個人情報漏洩が気になる人もいるでしょう。実際わが国でも、大手タクシー配車アプリが乗客の顔を無断で撮影し、広告配信に利用していたうえに、政府の個人情報保護委員会からの指導に迅速に対応しなかったために、再度指導を受けるという事例がありました。顔認証先進国と言える米国や中国でも、情報漏洩による問題が起きており、日本はデータセンターの信頼性やハッカー対策で弱い面があるので、心配はしています。

しかしながら、私たちが家から一歩外に出ただけでも顔情報は外部に漏洩しており、スマートフォンでアプリを使用すればその情報は通信会社が把握しています。現代社会で一般的な生活を送る限り、何かしらの情報が流出するのは当然のことと考えるべきでしょう。大切なのは、パブリックな情報とプライベートな情報を線引きし、後者については厳重に保護をしたうえで、パブリックな情報は利便性や快適性のために活用していくことではないでしょうか。

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個人的には現在使っているiPhoneが顔認証なので、抵抗感はありません。むしろ利便性を感じています。指操作なしに操作できるのは便利だからです。鉄道の改札口についても、従来は切符やIC乗車券などを取り出す必要がありましたが、顔を見せるだけで通過できるようになれば、両手に荷物を持っている際など便利に感じるでしょう。車いすやベビーカー、松葉づえなどの利用者にとっては大きなバリアを除去する働きがあることも見逃せないと思っています。

人が主役の神戸都心まちづくり

先月は浜松、富山、そして神戸で講演があったので、短時間でしたが各都心を散策してきました。今回は12月8日まで開催されたグッドデザイン神戸展で訪れた神戸の都心・三宮に触れます。当日は神戸市役所の方々も多く来ていただき、情報交換の中で再整備を進めていることを教えていただきましたが、実際に三宮からウォーターフロントの会場に向かう道でも、いくつか発見がありました。

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まずはJR神戸線三ノ宮駅通路に掲げられていたイラストから紹介します。今は下の写真のように広い車道が交わる交差点を、歩行者中心の空間「三宮クロススクエア」に生まれ変わらせる計画があるようです。歩行者空間にはBRTあるいはLRTが乗り入れ、トランジットモールを形成する様子が描かれています。日本の大都市の中心部がここまで歩行者優先というのは例がなく、実現すれば画期的な場になることは間違いありません。

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一部の道ではすでに改革が実行されていました。メインストリートのフラワーロードに並行して三宮からウォーターフロントに伸びる「葺合南54号線」では、車線や停車帯を減らし、車道は細くカーブさせることで自動車の速度を落とす一方、新たに生まれた空間を歩行者のために配分していました。広がった歩行者空間にはベンチも置かれ、憩いの空間になっていました。

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グッドデザイン神戸展の会場だったデザイン・クリエイティブセンター神戸は「KIITO」という愛称が示しているように、1927年に輸出生糸の品質検査を行う施設として作られた建物を用いています。隣には同じ1927年に完成した神戸税関もあり、長い歴史を持つ港町らしい趣のある地域でした。いずれも三宮からは1km近い距離がありますが、だからこそ単なる歩道ではなく、休みながら目的地を目指すことができるこのような道はありがたいと思いました。

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三宮へ乗り入れる既存の鉄道にも動きがあります。新幹線新神戸駅と六甲山北側の神戸電鉄谷上駅を結ぶ北神急行電鉄が、来年から神戸市営地下鉄と一体化されます。これまでも列車の乗り入れはしてきましたが、来年からは運賃も一体となるので、谷上〜三宮駅間は大幅値下げになります。さらに阪急電鉄の神戸三宮駅周辺が地下化され、地下鉄と乗り入れる構想もあります。実現すれば市北西部のニュータウンから大阪まで乗り換えなしで行けることになりそうです。

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神戸市は近年人口減少に悩んでおり、2015年には福岡市、今年は川崎市に抜かれました。前述の交通網整備はそれが理由であることは明らかですが、一方で都心ではタワーマンションの規制に乗り出すなど、闇雲に発展を目指しているわけではないようです。むしろ三宮周辺の動きを見ると、暮らしやすさ、居心地のよさを第一に考えている感じを受けます。「人が主役のまち」を目指す神戸の動きに、これからも注目していきたいと思います。

イケバスに乗る

11月27日から東京都豊島区の池袋エリアで走り始めた低速電動バス「イケバス(IKEBUS)」に乗ってきました。イケバスは豊島区と高速バス運行で有名なWILLERの共同事業で、デザインは池袋近郊に事務所を構え、国内各地の観光鉄道のデザインでおなじみの水戸岡鋭治氏が担当し、以前このブログでも紹介した群馬県桐生市のシンクトゥギャザーが開発した車両をベースとしています。

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イケバスは単なる公共交通ではなく、豊島区がまちづくりの一環として導入したものです。同区ではこの秋、区役所旧庁舎・旧公会堂跡地を活用して複合施設「Hareza(ハレザ)池袋」を一部オープンしており、テレビドラマ「池袋ウエストゲートパーク」の舞台としても知られる池袋西口公園は「劇場公園」としてリニューアルしました。来年はサンシャインシティ裏の造幣局跡地に防災公園が開園します。イケバスはこれらの拠点をめぐるモビリティとして導入されたのです。路線バスとして使いつつ、保育園送迎などの貸切利用に対応している点も注目です。

運行ルートや時刻表は専用ウェブサイトに載っているので、それを頼りに平日乗りに行きました。特に調べもせずに池袋駅西口に降り立ったのですが、真っ赤なバス停のおかげで乗り場はすぐにわかりました。車体も同じ赤色で、遠くからでも識別可能でした。新しいモビリティでは大事なことです。車内はまさに水戸岡ワールドで、天然素材を多用し、手作り感にあふれた、凝った作りでした。また車体後部には車いす用リフトを用意しているので、車いすでのアクセスは既存の多くの路線バスよりもスムーズにこなせそうです。

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イケバスは国土交通省が制定したグリーンスローモビリティの車両を使っており、最高速度は時速19キロとなります。東京都内の道でこのスピードが他の交通の邪魔にならないか気になりましたが、そもそも駅前や繁華街の狭い道では、時速20キロ以上出せるような状況ではありませんでした。むしろ電動なので静かに進めるメリットの方が印象に残りました。

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一方大通りは、多くの場所が複数の車線を持つので追い越し可能であり、グリーンスローモビリティが走っていることが知られれば、問題にはならなそうでした。ひとつ気になったのは池袋駅東口と西口を結ぶ陸橋で、片側1車線なので後方に車列を作りがちでしたが、この道路の制限速度は30キロであり、近くに大きな陸橋があるので、急ぐ人はそちらを使えば良いと思いました。

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料金は大人200円、子供・高齢者・障害者は100円で、多くのコミュニティバスが大人100円で乗れることを考えると割高に感じる人がいるでしょう。水戸岡デザインの特別仕立てのバスであることを、もっとアピールする必要がありそうです。さらに各種経路案内でのルートで紹介されれば、池袋駅から歩いて10分ほどかかるサンシャインシティに行く人の利用が増えるでしょう。

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池袋は、今年4月に起きた高齢ドライバーによる暴走死亡事故が起こった場でもあります。イケバスも事故現場の交差点がルートに含まれています。計画時点では想定しなかったことですが、あの事故が起きたことで、ゆっくり走る乗り物、高齢者の移動を補助する乗り物に対する好感度が増していることが予想されますし、そうであれば池袋はイケバスのような低速電動モビリティ導入の舞台としてふさわしいと感じました。