THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2020年06月

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セグウェイ生産中止の理由

米国生まれのパーソナルモビリティ、セグウェイが生産終了というニュースが今週ありました。発表が2001年だったので、ちょうど20年で製品としての生涯を終えることになります。

セグウェイのデビューは画期的でした。当時は電動のパーソナルモビリティは車いすタイプぐらいしかない中で、立ち乗りというスタイルを提案。しかも加減速を乗る人の体重移動で行うという、高度な技術に圧倒されました。私が初めて出会ったのは2002年のパリモーターショーで、タイヤを供給しているミシュランのブースで試すことができました。 自分はすぐに乗りこなせましたが、なかなか自立できなかった人がいたことも覚えています。

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ではなぜセグウェイは普及しなかったのか。理由として交通ルールを挙げる人がいます。たしかに日本は新種の乗り物やモビリティサービスに厳しい態度を取る国なので、公道走行は講習を受けたインストラクターによるガイドツアーに限定されていました。ただ生まれ故郷の米国は多くの州で自由に乗れ、ドイツでは自転車レーンを走らせるようにするなど、公道走行を認めている国もけっこうありました。

個人的にはそれよりも、車両価格が原因のひとつだと考えています。1台100万円前後というのは、富裕層の趣味としては受け入れられますが、多くの人はそのぐらいの予算があればはるかに便利な自動車を選ぶはずで、同等の出費の趣味的な乗り物なら公道を走れる2輪車、逆に同等の機能であれば10分の1以下の予算で手に入る自転車に行くでしょう。

価格の高さは公的機関の導入でも障壁になります。セグウェイは国内外の警察や警備で使われていますが、こうした組織が導入する場合には税金が使われます。公的機関のお金の使い方に納税者である私たちが目を光らせるのは当然のことで、ひとり乗りの移動手段に約100万円を出費するのは理解し難いと思う人が多いのは当然です。

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しかもセグウェイは前に書いたように、誰でも簡単に乗ることができるユニバーサルな乗り物とは言えませんでした。 この面では高齢者や障害者の移動手段として以前から使われている電動車いすのほうが、はるかに使いやすいものです。最近は我が国のWHILLのようなスタイリッシュな製品が登場してきたことで、健常者が疲れた時などに利用する乗り物という位置付けへの理解度が高まっています。

決め手になったのはやはり、電動キックボードのシェアリングでしょう。こちらの強みは何と言っても、安いものでは1台数万円という車両価格の安さです。しかもセグウェイと違って軽いので持ち運び可能であり、充電担当という新たなサービスも可能にしました。電動キックボードシェアが生まれたのもまた米国です。20年の間にモビリティを取り巻く状況が大きく変わったことを教えられます。

セグウェイのデビューに触発され、似たようなパーソナルモビリティがいくつも登場しました。日本でも自動車メーカーなどが参入しました。しかしいずれも普及はしませんでした。セグウェイも2015年に後発企業のひとつ中国ナインポットに買収されました。とはいえその後もセグウェイ由来のパーソナルモビリティは普及せず、ナインボットも現在は電動キックボードのラインナップを充実させています。

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何度か乗った経験から言えば、セグウェイはモーターサイクルやスポーツカーのような存在でした。高価でありながらひとりしか乗れず、荷物の置き場所もありません。高度な技術がもたらす操縦感覚には相応の慣れが必要でした。しかし操る歓びは他のどんな乗り物でも味わえないものでした。ひとことで言えばファン・トゥ・ライドでした。

20世紀は優れた技術がしばしば社会を変えてきました。しかし21世紀は社会の要求に見合ったデザインと技術、サービスのミックスを提供することが求められていると感じています。スマートフォンはその典型です。セグウェイはそんな時代の変化を踏まえて、レジャービークルに転換したほうが、独創的な技術を後世に伝えられたのではないでしょうか。逆に社会的な乗り物には、やはりリーズナブルとユニバーサルという条件が大事になることを教えられました。

地域交通に市民と行政の支えは不可欠

3月下旬、以前このブログでも紹介した富山市の富山駅路面電車南北接続を取材しに行く途中で、長野県上田市を訪れました。この地を走る上田電鉄別所線が千曲川を渡る通称「赤い鉄橋」が昨年10月の台風19号で一部崩落したことを覚えていて、現場を見に行ったのです。

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このときは現場を含めた沿線の一部を訪ねただけでしたが、東京に戻って調べると、崩落直後から市民などの寄附や署名が驚くほど多く集まっていたうえに、上田市も別所線を残すべく積極的に動いていることを知りました。そこで市の担当者に話を伺い、「東洋経済オンライン」で記事を掲載していただきました。



記事をまとめながらまず感じたのは、上田市が公共交通を大切に考えていることです。自治体のウェブサイトを見れば、公共交通に対する姿勢がある程度想像できるのですが、上田市では別所線電車存続期成同盟会が立ち上げた「別所線にのろう!」が市のサイトの一部になっており、観光情報などとともに存続運動の様子も記載しています。

ここではかつて別所線を走っていた「丸窓電車」をキャラクターに仕立て、愛着を持ってもらおうという取り組みも目立ちます。現在使っている新型車両の一部も丸窓電車風のラッピングを施しています。しかも3両あった丸窓電車はすべて現存しており、終点の別所温泉駅のほか、市内の学校や企業で保存されています。市内の人々が別所線に愛着を持っている証拠でしょう。



上田市の資料には、鉄橋が崩落してからの市民活動が記録してあります。学校・会社・組合などさまざまな組織が署名や募金など多彩な活動を繰り広げていて驚きます。これを受けて上田市では今年1月、台風19号災害が非常災害に指定されたことで適用可能になった「特定大規模災害等鉄道施設災害復旧事業費補助」を適用すべく、市が赤い鉄橋を保有することを選択。復旧費用の97.5%を国の補助でまかなえるようになりました。

上田市は鉄道以外の公共交通維持にも真剣に取り組んでいます。記事でも紹介したように路線バスでは欧州のゾーン制を思わせるエリア分けを設定し、同一エリア内は最高300円、隣接エリア間は最高500円としています。違う方からの情報では、ここでも取り上げた京都府京丹後市を参考にしたそうです。前述の補助金もそうですが、交通に関して幅広い知識を持つ組織であることも重要と教えられます。

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記事では2017年7月の九州北部豪雨で一部区間が不通になり、BRTでの復活という方向性になったJR九州の日田彦山線にも触れました。別所線とは不通区間の長さ、復旧費用、沿線自治体の数、災害指定のレベルなどの違いはありますが、鉄道での復旧には財政支援が必要としたJR九州と、財政負担なしでの復旧を望んだ自治体との間で意見がまとまらず、約3年を要した末、自治体側の負担がないBRT転換で決着しました。

鉄道よりもBRTのほうが今の地域の実情には合っているかもしれませんが、モビリティには財政支援はしないという姿勢を貫いていると、BRTが立ち行かなくなったときにどうするのか、転不安が募ります。人口減少局面に入った今の日本で、公共交通を運賃収入だけで運行するのは、大都市の限られた地域以外は無理です。上田市は富山市や京丹後市のように、自治体が住民に丁寧に現状を説明し、住民がそれを理解してきたからこそ、全市を挙げて別所線を支えようという動きになるのでしょう。

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国の責任に言及する人もいますが、現状でも上田市や富山市や京丹後市は地域に見合った交通改革を着実に進めているわけで、自治体と住民を含めた地域の力次第ではないかと思います。そもそも民主主義は私たち1人ひとりが政治の主役なのですから。新型コロナウイルスを恐れて大都市から地方へ暮らしの拠点を移そうと考える人が出てきている中で、「地方力」がさらに試される状況になっていると感じています。

コロナがMaaSを研ぎ澄ませる

新型コロナウイルス感染拡大とともに、一気に沈静化した分野のひとつにMaaSがあります。昨年まではモビリティに直接関わっていない人々を含め、多くの人がこの概念に注目していましたが、MaaSの基本になる日々の移動そのものが制限あるいは自粛になったこともあり、すっかりこの4文字を見ることが少なくなりました。

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では今後のMaaSはどうなるのか? SBクリエイティブのウェブメディア「ビジネス+IT」で書かせていただきましたが、コロナ禍はMaaSにとって悪いことばかりではないと考えています。理由のひとつはこれまで「MaaSで儲ける」「MaaSは万能」などの軽い気持ちで考えていた人々が、稼ぎが出そうな大都市の移動総量の激減で参入を控えつつあるからです。MaaSという言葉を見る機会が少なくなったこと自体が、それを証明しているのではないでしょうか。



つまりMaaSにおいては、新型コロナウイルスがフィルターの役目を果たしてくれそうです。本気で都市や地方のモビリティを良くしたいと考える人たちだけが残るのであれば、それは良い傾向です。実際、3月25日には東京メトロが「my! 東京MaaS」を発表し、5月20日には東日本旅客鉄道(JR東日本)が「MaaS・Suica推進本部」を新設するなど、最近は交通事業者の発表が目立ってきています。

ただしテレワークの普及や郊外・地方移住という流れの中では、今までの都市型MaaSの考えがそのまま通用しないことは明らかです。たとえばフィンランドのWhimが導入して話題になったサブスクは、定期券より回数券のようなスタイルのほうが使いやすいでしょう。そしていわゆる三密を避けるための自転車などパーソナルモビリティのシェアリングとの連携が、今まで以上に重要になりそうです。

もうひとつ日々の移動で気になるのは鉄道や駅の混雑状況です。JR東日本、東京メトロ、東京都交通局などアプリで見ることができる事業者もありますが、これをMaaSアプリと紐づけて空いている経路を選べるようにし、必要に応じて自転車シェアなどに切り替えられるようにすれば、都市全体での混雑の平準化に貢献できるのではないかと考えています。

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では地方はどうでしょうか。これまでも私は、MaaSはモビリティが弱い地方こそ大切だと思ってきましたが、今は重要度がさらに増していると思っています。経営体力の弱い地域交通の利用者を取り戻す効果があるのはもちろん、公共交通の移動に慣れた大都市からの移住者を引きつける役目もあり、自分たちの地域を選んでもらうきっかけにもなるはずです。

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地方は大都市に比べれば鉄道やバスの本数だけでなく、商店や飲食店も限られていますが、逆に言えばそれらの連携は楽であるはずで、すべてをシームレスに使える仕組みができれば、大都市に暮らす人たちをも惹きつけるツールになりそうです。いずれにしても新型コロナウイルスによって、MaaSはサービスとしてのモビリティという本来の意味を問われる状況になったと考えています。

オープンカフェ緩和 だからこそ必要なこと

国土交通省が昨日、新型コロナウイルスの影響を受けているレストランやカフェなどを支援する緊急措置として、路上でテイクアウトやテラス営業などのサービスを提供する際の許可基準を緩和すると発表しました。

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緊急事態宣言は解除されたとはいえ、飲食店ではいわゆる「三密」を防ぐために、席を離したり間引いたりという対策を強いられています。収入減は確実です。そこで対策のひとつとして、路上に席を置いたりテイクアウトを提供したりしやすくすべく、今回の緩和に行き着いたようです。同様の取り組みは少し前から仙台市や佐賀市などで社会実験などの形で行っており、それを全国展開した形です。
道路占用許可緩和
国土交通省 = https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/senyo/senyo.html

日本でこれまで飲食店の路上利用ができなかったわけではありません。しかし原則として道路管理者(国道事務所や都道府県土木事務所など)の道路占用許可、警察の道路使用認可、地方公共団体の食品営業許可の3つが必要でした。とりわけ警察の認可は他の分野を見る限り、個々の飲食店が申請を出すにはハードルが高かったと想像しています。

それが今回は、地方公共団体や協議会などが個別の飲食店の要望を受けて一括申請すれば、許可基準が緩和されるそうです。資料の中には警察庁交通局と調整済みという文言もあります。地方公共団体にも取り組みを要請という言葉もあり、積極的な姿勢が伝わってきます。しかも周辺の清掃などに協力をしてもらえれば占用料は免除、つまり無料という特典もあります。

空間については原則として、歩行者が多い場所では3.5m以上、その他の場所では2m以上を確保したうえでの設置とあります。期間は11月末までとなっていますが、12月以降は今回の実状を踏まえて検討としてあり、延長の可能性もあります。地方の財政を考えれば、占用料は地域の裁量に委ねたうえで有料が妥当と考えますが、申請の簡略化は続けてほしいところです。

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オープンカフェというとまず思い出すフランスのパリは、路上営業はパリ市が管理しており、ルールを守れば奨励という立場を取っていますが、料金は有料で、シャンゼリゼなどの大通りに行くほど高くなります。歩行空間は1.6m以上あれば良いとのことですが、景観や音を含めて周囲の環境を妨げないというパリらしいルールもあります。こうして見ると今回の国交省の緩和措置はかなりフレンドリーな内容だと思います。

となると問題は、オープンカフェを展開できるだけの広いスペースがあるかどうかです。やはりまちづくりが絡んでくるわけです。たとえば富山市のように、歩いて暮らせるまちづくりを目指し、公共交通の整備を進めながら歩道を広くとる整備を進めてきた都市であれば、今回の緩和をすぐに受け入れ、展開できるでしょう。それが都市の価値を上げることにもつながります。

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少し前のブログでは、欧米の都市がコロナとの共存を見据え、歩行者や自転車を重視したまちづくりを進めていることを書きました。今回の国交省の発表が、この路線に通じる方向であるのは興味深いと感じています。