THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2020年10月

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地域輸送のための電動3輪車という選択

第2次世界大戦前から戦後にかけて、「オート3輪」の呼び名とともに日本の物流を支えた3輪自動車が、ここへきて地域輸送に投入されはじめています。タイのトゥクトゥクなど東南アジアや南アジアで見られる3輪タクシーを電動化したような成り立ちで、グリーンスローモビリティへの登録を見据えているのか、最高速度を20km/h未満としていることも特徴です。

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先日乗りに行ったのは、富山県の氷見市まちなか回遊促進モビリティ「ヒミカ(HIMICA)」と射水市新湊地区の新たな地域公共交通「べいぐるん」です。富山がモビリティ感度の高い地域であることを改めて教えられます。電動3輪車を使うことは同じですが、ヒミカは観光客向けレンタカー、べいぐるんは平日は地域住民向けオンデマンド交通、休日は主として観光客向け定時定路線運行とした点が異なります。

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ヒミカの車両は富山市の光岡自動車が販売している物流用電動3輪車「Like-T3」を乗用にコンバート、べいぐるんの「立山」はインドの3輪タクシーをベースに富山市のアール&スポーツ ディベロップメントが電動化したもので、いずれも地産地消型モビリティと言えます。なお立山のほうは、実証運行終了後は車体を延長して乗車定員を3人から4人(運転手を除く)に改造するそうです。

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ヒミカは自分で運転、べいぐるんは乗客として利用という違いはありましたが、共通して言えるのは、狭い道が多い市街地を巡るのに超小型の3輪自動車はとても適していることです。Like-T3のボディサイズは2485x1075x1575mmと軽乗用車よりさらにひとまわり小柄で、最小回転半径は2.3mと軽乗用車の約半分にすぎません。

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4輪車に比べればたしかに安定性は劣ります。とはいえ最高速度が20km/h未満に抑えられているうえに、前面窓や屋根、シートベルトが装備してあるので、トライクに比べれば安全と言えます。逆に20km/h未満しか出ないことを気にする人がいるかもしれませんが、幹線道路を避ければ交通の妨げにはならず、狭い路地ではむしろ遅いことに好感を持たれるのではないかと感じました。

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一方車両の開発や運行を担当する側のメリットとしては、開発費や維持費の安さがあります。道路運送車両法ではどちらも側車付2輪車(ヒミカは軽2輪、べいぐるんは小型2輪)登録であり、保安基準は軽自動車ほど厳しくはなく、税金も安くなります。電動車両なのでランニングコストも抑えられます。それでいて道路交通法では普通自動車となるので、2輪免許がなくても運転できます。

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3輪車が4輪車より優遇されるのは日本に限ったことではありませんが、我が国は乗り物全般について厳しいルールがある中で3輪車は例外的であり、安全面で問題がないなら再注目して良いと考えています。気になる方は海の幸を味わうついでに乗りに行ってはいかがでしょうか。ただしヒミカは12月~3月初旬は冬季休業、べいぐるんの実証運行期間は11月29日までですのでご注意ください。

東御市電気バス実証実験に関わって

東御市という長野県の自治体を知っているでしょうか。長野県東部にあり、東部町と北御牧村が合併して2004年に誕生しました。第3セクターのしなの鉄道が通り、上信越自動車道のインターチェンジがあります。ここで今週月曜日から小型電気バスによる公共交通の実証実験が始まりました。私はアドバイザーとして関わってきたので、内側から見た地方のモビリティ改革の様子をお伝えします。

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今回紹介する実証実験は、東御市と同市に本拠を置くカクイチ建材工業との連携協定のもとで行うもので、同市の商工会や観光協会などとともに東御市先端MaaS協議会を結成し、高齢者がいきいきと元気に生きる社会を目指したまちづくり改革を進めることになりました。その一環として小型電気バスによる公共交通の実証実験を始めたのです。

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東御市は多くの地方都市同様、人口減少と若者の流出に悩まされています。市が誕生した時の人口は約3.2万人でしたが、現在は3万人を割り込んでいます。多くの市民はマイカーを移動手段としているものの、最近は運転免許を返納する高齢者も増えています。とはいえ路線バスはいずれも1日数便、タクシー会社の所有車両は数台にすぎません。 そこで市ではオンデマンド方式のバスなどを走らせていますが、こちらも利用者が減少し、料金の値上げや土曜日の運休を余儀なくされています。

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こうした状況は、バスのルートが移動実態に合っていないためもあると感じていました。オンデマンド交通も2点間の移動が前提で、市内の回遊には向きません。これではお出かけの楽しみは生まれず、地域の活性化も望めません。そこでしなの鉄道田中駅と市民病院、スーパーマーケット、温泉施設を結ぶ循環型のルートとして、住民にも観光客にも東御市を楽しんでもらえるバスにしようと考えました。

バスの名前は「RIDE’N(ライデン)」で、この地で生まれた江戸時代の名力士・雷電関とRide onを掛け合わせたものです。一方モビリティサービス全体の名称は「CANVAS(キャンバス)」としました。名前が2つあるのは紛らわしいとも感じますが、こちらはラストマイルの移動を担うグリーンスローモビリティ、さらには病院や商店などの利用も可能としていく予定で、顔認証を導入したサービスを目指します。

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実はこの電気バス、当初は東京2020五輪パラリンピック競技大会のイベント輸送用で活躍する予定でした。しかし3月に大会が延期になり、急遽東御市に打診をして、今回の実証実験にこぎつけました。つまり準備期間は半年です。しかしバスは走り始めることができました。関係者の努力に感謝するしかありません。改善すべき部分はもちろんあります。でもそれは走りながら直していけばいいと思っています。完璧を求めるがゆえに、もっとも大切な利用者への提供が遅れることは避けたいと考えました。

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驚いたのは、事前告知をほとんどしていなかったのに、周辺自治体や関係企業などが情報を聞きつけて、話し合いの場を持つようになったことです。出発式の日も近隣の自治体の首長と面会し、車両の視察も行いました。東御市がある東信地域が今回の実証実験を機に、地域全体でのモビリティ改革を推進し、他の地域に影響を及ぼすような存在になればと思っています。気になる人はぜひ訪れてみてください。

東京BRTは真のBRTになれるか

今月、東京にまた新しい公共交通が誕生しました。その名も東京BRTです。以前から東京五輪パラリンピックの観客や関係者の移動、大会後は選手村が一般向けに分譲および賃貸される晴海地区などからの通勤通学の足として以前から計画されていたものです。先日一部区間に乗ってきたので、今後の展望を含めて取り上げます。

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オフィシャルサイトを見ていただければ分かりますが、今回走りはじめたのはプレ運行(一次)であり、運行区間は虎ノ門ヒルズと晴海BRTターミナルの間で、途中のバス停は新橋および勝どき BRTとなります。オフィシャルサイトによればこのあと東京五輪パラリンピック終了後にプレ運行(二次)に切り替わり、2022年度以降に本格運行に移行予定としています。

本格運行まで時間が空いている理由のひとつは、途中の汐留や築地地区を通過するトンネルが、築地市場の豊洲市場への移転を東京都知事が一時期凍結した影響で工事が遅れており、開通予定が本格運行と同じ2022年度となっているためでしょう。さらにBRTの意味はバス高速輸送システムであり、速達化のための環境整備に時間がかかるためもあると考えています。

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東京BRTオフィシャルサイト = https://tokyo-brt.co.jp

運行開始直後に乗った印象をひと言でいえば、停留所の少ない路線バスです。新開発の国産連節バスや燃料電池バスが配備され、停留所を含めてトータルデザインが施されている点は目立っており、停留所の間隔が地下鉄並みに長いので少し速いと感じますが、それ以外は大都市の道路を乗用車やトラックに混じって走る他の路線バスと同じで、BRTのR、つまりラビッド(速い)と呼べるレベルにはありません。

新橋バス停がJRや地下鉄の新橋駅から離れており、汐留に近い場所にあることも気になりました。新橋駅での乗り換えで東京BRTを使う人は、乗り換えに時間がかかることを頭に入れておいたほうがいいでしょう。上で記したトンネルの開通後は、虎ノ門ヒルズから勝どきBRT西側の築地大橋までトンネルで直行できるはずですが、残念ながらトンネル内にバス停は設置されず、本格運行後も一旦地上に出るようです。

となるとやはり、海外ではBRTの前提条件のひとつになっている専用レーンを期待したいところですが、東京BRTのオフィシャルサイトではBRTについて、連節バスの採用、走行空間の整備等により路面電車と比較して遜色のない輸送力と機能を有し、定時性・速達性を確保したバスをベースとした交通システムと書いており、走行空間の整備の具体的な内容には触れていません。

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東京都都市整備局のオフィシャルサイトにも、東京BRTについての記述があります。こちらでは本格運行時には全扉での乗り降りを図るとともに(信用乗車方式)、交差点でBRTの通過を優先させる公共車両優先システム(PTPS)等の導入を目指すと書いていますが、専用レーンや優先レーンについての言及はありません。PTPSも日々進歩していることは理解できますが、専用レーンや優先レーンに比べれば速達性の効果は限定的です。

プレ運行(二次)では晴海BRTターミナルから豊洲まで延伸されるとともに、勝どきBRTから豊洲市場、有明テニスの森、国際展示場を経由して東京テレポートに向かうルートが新設されます。本格運行後もこの2つの路線がメインになります。つまり東京メトロやゆりかもめと競合することになります。道路が空いていればBRTの名のとおり速達性が確保できるでしょう。しかし渋滞で遅れることもあるので定時性は難しそうです。

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まして現在は新型コロナウイルスの影響で都内の自動車交通量は増えていると感じており、この状況が続けば渋滞による遅延が恒常化する可能性もあります。なので現時点では湾岸地区を走るバスの新路線という認識であり、海外のBRTとは大差があると言わざるをえません。ただし事業者自身プレ運行と称しているので改善の余地は残っているはずであり、真のBRTに向けた動きが出てくることを期待しています。

コロナ禍でも注目「ニアミー」とは

新型コロナウイルスの影響で移動が制限されたり、移動の機会が減少したりする状況が続いていますが、一方でウィズコロナを見据えた新しいモビリティサービスも生まれています。そのひとつがニアミー(株式会社NearMe)が展開する「スマートシャトル」です。

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ニアミーという名前を初めて目にした人もいるでしょう。2017年に東京で創業した同社はまず、タクシーの稼働率を上げるべく利用者と車両をマッチングするプラットフォーム提供を開始しました。日本の法律では、タクシー事業者による乗合(相乗り)は許可されていません。そこでニアミーでは旅行会社としてタクシーに乗りたい人を事前にマッチングし1台に乗ってもらう形をとりました。

続いてこのプラットフォームを使い、成田空港と都内15区の指定場所を結ぶ空港シャトルをスタートします。ところがコロナ禍で空港需要が止まります。この状況を見て同社は空港向けの仕組みを使って公共交通の密を回避し、タクシーにも有益になる仕組みとして通勤シャトルを提案。東京都内で6月にトライアルを開始、翌月本格導入したのです。

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短期間でサービスを立ち上げ軌道に乗せただけでなく、コロナ禍で需要が減ると、逆に需要がありそうな分野に同じ技術を転用していく。ニアミーの大胆かつ柔軟な展開は以前から注目しており、代表取締役社長の高原幸一郎氏にテレビ会議で取材を行い、インターネットメディアの「ビジネス+IT」で公開しました。

そこでも一部書きましたが、その後も同社は展開を広げており、通勤シャトル導入と同時期には福岡県で、トヨタ自動車の工場と福岡空港や県内指定エリアを結ぶシャトルの実証実験を始め、7月からは空港シャトルを羽田空港および那覇空港にも導入。9月にはJAL、JTB上海、「乗換案内」でおなじみのジョルダンとの連携を次々に発表しました。今月は総額5億円もの資金調達を完了しています。



私自身は通勤電車や路線バスは感染の可能性が高いとは思っていません。現実にこの半年間利用を続けてきましたが感染はしていません。なので通勤の必要があっても通勤シャトルは使わないし、空港へは鉄道を利用するでしょう。ニアミーもJALという大量輸送サービス会社と連携しているわけですから公共交通を否定しているわけではなく、移動の選択肢を増やしているのだと理解しています。

そのなかで感心するのはタクシーという既存の交通機関を活用し、1台のタクシーに多くの人を乗せることで、以前から厳しい状況にあったタクシーの経営改善を図ろうとしていることです。さらに高原社長は取材で、今後は日々の移動に困っている地方の高齢者にもスポットを当てていきたいと語ってました。この点にも期待を寄せています。

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地方はタクシー会社があっても数台というところが多く、移動者の生活サイクルは似ているので利用が集中しがちという話を聞きます。1台で多くの利用者が移動できるシャトルサービスは有効でしょう。ただ逆にまったく利用者がいない時間帯が存在するのも事実であり、旅行会社としての登録なら白ナンバー車両も使えるはずなので、持ち前の柔軟性を生かした地域モビリティ構築を望んでいます。

新宿は新宿らしくあってほしい

1日の乗降客数が約380万人に達し、世界一利用者が多い駅としてギネスブックにも認定された東京のターミナル新宿駅。ここで再開発が始まろうとしています。すでに今年7月には東口と西口をつなぐ地下通路が開通しましたが、将来はホームの上にも自由通路が用意されるとのことです。現在レストランやショップが多く入る地下街も作り変えられるそうです。

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東口と西口の再開発も進みます。特に激変するのは西口で、昔は淀橋浄水場があるぐらいでしたが、1960年に副都心計画が決定し、地下広場、小田急百貨店、京王百貨店が作られるとともに、浄水場跡地には京王プラザホテルを皮切りに高層ビルが次々に作られていきました。甲州街道の宿場町から発展していった東口とはまったく異なる歴史を持つことが特筆されます。

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完成当時は日本でも群を抜く未来的な街並みだったことでしょう。しかし開発から半世紀が経過した今感じるのは、良くも悪くも高度経済成長時代の名残を色濃く感じる場所であり、再開発は必須だと感じています。ということで2016年に新宿駅周辺地域まちづくりガイドラインが策定され、プロジェクトがスタートしました。

すでに旧富士重工業のスバルビルは2019年に姿を消していますが、今後も小田急百貨店や新宿ミロードの場所が地上48階建の高層ビルに生まれ変わるなどの計画があります。一方駅前広場は2層構造で、現在は上下どちらにもマイカーが乗り入れていますが、再開発後は地上は歩行者と公共交通だけ、地下は次世代モビリティが乗り入れる構造になると示しています。

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新宿区の新宿駅周辺都市計画の資料 = https://www.city.shinjuku.lg.jp/content/000266483.pdf

新宿の近くには渋谷、池袋という同規模のターミナルがあり、新宿に先駆けて再開発が進んでいます。方向性は対照的で、渋谷は駅周辺に複数の高層ビルを林立させているのに対し、池袋は公園や文化施設が多くなっています。いずれも従来のまちづくりからの脱却を目指しているように感じます。対する新宿駅西口の再開発は、デッキ、地上、地下の3層からなる構造を生かそうとしていることが目立ちます。



だからこそ望みたいのは、文化的な面での新宿らしさを失わないでほしいことです。以前東洋経済オンラインで記事にしたように、新宿駅西口には副都心の誕生に合わせてオープンした老舗のカフェが複数ありますが、最近は閉店となったところがいくつかあります。そして先月は地下にあるメトロ食堂街が閉館となりました。

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新宿は銀座ほど洗練されてはいませんし、渋谷ほど若さにあふれているわけでもありません。ただこの街はメトロ食堂街が象徴していたように、雑然とはしているけれど名店ぞろいで気軽に利用でき、不思議と落ちつける店が多いのも事実です。今後の再開発に際しても、そんな新宿らしさを継承していってほしいと願っています。