THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2021年03月

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燃費と同じぐらい電費も大切

自動車専門誌CARトップの取材で、同じ車種のガソリン車・マイルドハイブリッド車と電気自動車(EV)を乗り比べる機会がありました。これまでEVの試乗はほとんど単独だったので、いろいろな発見がありました。掲載号は昨日発売されたので、気になる方は読んでいただければと思います(トヨタ自動車の実証都市ウーブンシティについても書きました)。

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試乗したのはマツダ「MX-30」とプジョー「2008」、ほぼ同じボディサイズを持つ日仏のSUVです。MX-30のEV仕様は2リッター自然吸気エンジンのマイルドハイブリッド仕様、「e-2008」と呼ばれる2008のEV仕様は1.2リッターターボエンジンを積むガソリン仕様との比較になりました。

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EV仕様の車両重量はほぼ同じだったので、満充電での航続距離はおおむねバッテリーの容量に比例しています。バッテリー容量はMX-30が35.5kWh、2008が50kWhと約2:3ぐらいの違いがあるので、同じJC 08モードでの満充電航続距離もMX-30は281km、2008は385kmとそれなりの差があります。

ただ今回はこの数字に合わせて、2車種で異なるルートを走ったこともあり、帰路の途中で一度急速充電をすれば余裕で往復可能でした。もちろん30分ぐらいの待ち時間は必要で、自宅の充電設備も必須ですが、一方でランニングコストはエンジン車の1/2〜1/3です。モビリティは選択肢が多いほど豊かになることを考えれば、どちらかを排除するのではなく、使用状況に合わせて選択できるほうが自然だと感じました。

走りの違いは雑誌を見ていただくとして、個人的に注目したのは電費、つまり電力消費率でした。JC08モードではMX-30が131kW/km、2008が140kW/kmとなっています。エンジン車の燃費がkm/リッターで表されるのに対し、こちらは欧州の燃費表示方法と同じで、燃費と同じkm/kWhとしたほうが分かりやすいと考えたので計算すると、MX-30が7.6km/kWh、2008が7.1km/kWhとなります。実電費は走行ルートに違いがあったためもあり、これ以上の差がつきました。

では他のEVはどうでしょうか。ここでは欧州のウェブサイトEV Databaseを紹介します。現在市販中あるいは市販予定のEVについて価格(cheapest)、電費(most efficient)、加速(quickest)、航続距離(longest)のランキングを見ることができます。電費の項をチェックすると、テスラがおおむね高効率であるなどメーカーによる性能差はあるものの、上位は小型車が占め、下位は大型の高級車や箱型ミニバンが並んでいます。

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EV Databaseのウェブサイトはこちら

EVはこれまで、走行中に排気ガスを出さないことから環境に優しいと言われてきましたが、そろそろEVの中での環境性能の優劣に目を向けるべきでしょう。電気を作り出す機器を作り、その機器を動かすためにも相応のエネルギーが必要になるわけですから。本気で環境性能に言及するのであれば、エンジン車の燃費と同じぐらい、電費にも注目すべきではないでしょうか。

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つまりエンジン車同様、EVもまた小さく軽いほうが環境に優しいと言えます。加えてモーターは超低回転で最大トルクを出すので、発進停止が多く低速で走るシティコミューターが向いています。逆に大量のバッテリーを搭載して航続距離の長さを売り物にしている大型高性能EVは、環境性能がさほど高くはないことを認識すべきでしょう。EVであればなんでも地球に優しいという風潮から、次のステップへの脱却が望まれます。

量から質の時代へ、移動を変えていくチャンス

レイルウェイ・デザイナーズ・イブニング(RDE)という集まりを知っているでしょうか。鉄道に関わりながら専門分野の違うさまざまなデザイナーが一堂に会し、所属や役職を超えて交流しながら、総合的視点で鉄道の未来を思考する夕べのことであり、これを提供する活動グループのことです。
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オフィシャルサイトはこちら

奇数年は千葉市の幕張メッセで開催される日本の鉄道技術の祭典「鉄道技術展」で、偶数年は単独でRDEフォーラムを開催し、鉄道デザインの重要性をアピールしてきました。昨年は新型コロナウイルス感染拡大で開催が危惧されましたが、継続が大事であるという方針から、感染対策を徹底し、形式を変え、人数を限定することで、12月上旬に東京都の日本鉄道車輌工業会で開催。今年2月には、これまでの活動などをまとめたオフィシャルウェブサイトが開設されました。

これまで何度か聴衆として参加していた私は、昨年のRDEフォーラムにはゲストスピーチをさせていただいたうえに、フォーラム全体のレポートも担当させていただきました。こちらもサイトで読むことができますので、興味がある方は見ていただければと思いますが、3時間以上にわたる長丁場の中で、多くの参加者から語られ、個人的にも印象に残ったのが、量から質への転換という提言でした。

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高度経済成長時代の鉄道は大量輸送が基本であり、機能性や合理性、生産性の向上がデザインの基本となっていたそうです。しかしそれは、人口も所得も右肩上がりという時代の話であり、人口減少に加えてコロナ禍で移動そのものが減少し、一極集中が一段落しつつある今後は、発想の転換が必要という意見がいくつか出されました。その中で提示された方向性が、量から質への転換でした。

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以前JR東日本の言葉で紹介したように、鉄道事業者は感染収束後も利用者の行動様式は元に戻ることはないと認識しています。たしかにテレワークやネットショッピングが衰退するとは思えず、東京への一極集中も緩和しつつあります。それに合わせて単純に運行を減らせば経営が厳しくなるわけで、付加価値を与えることで利用してもらいつつ収益を上げることが重要だと考えます。

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ここではRDEフォーラムで私が紹介した欧州での実例をいくつか写真で紹介しますが、先週の前橋市での講演でもこの話題を取り上げました。そこではわが国で広まりつつある具体例として通勤ライナー、通勤シャトル、MaaSを紹介しました。

通勤ライナーはコロナ禍を受けて増発に踏み切ったり、新規導入を検討したりする事業者が目立っています。通勤シャトルは以前ここで紹介したニアミーが展開地域を広げています。利用者の側がサービスの質を重視している証拠でしょう。MaaSは複数のモビリティを連携させ移動を快適にするだけでなく、鉄道や駅の混雑状況を知らせるなど多彩なサービスが可能であり、こちらも移動の質を高める役割を果たします。

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いずれにおいても言えるのは、デザインが大切だということです。料金を払ってでも乗りたくなる、使いたくなる存在が理想でしょう。私はデザイナーではないので実際に形や色を作り出すことはできませんが、国内外の素晴らしい事例を紹介するなどして、量から質への転換をお手伝いしていければと思っているところです。

長い間走り続けたから素晴らしいわけではない

3月13日のJR各社ダイヤ改正を受けて、昨日いっぱいで定期運行を終えた鉄道車両がいくつかありました。もっとも注目を集めたのはJR東日本が東京~伊豆急下田・修善寺間に走らせていた特急「踊り子」に使われていた185系で、テレビのニュースで取り上げられるほどでした。

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それ以外にも、同じJR東日本では185系も起用されていた通勤ライナーの代表格「湘南ライナー」終了を受け、日本の通勤用鉄道車両では初となるオール2階建ての215系も定期運行を終了しました。JR西日本では七尾線で使われてきた415系が新世代車両にバトンタッチしました。

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215系は1992年登場と鉄道車両としてはキャリアが浅く、415系はまだJR九州で現役を務めているうえに、どちらも特急などの花形的な運用がなかったために、185系ほどのトピックにはなっていないようですが、昨日仕事で金沢駅を利用したところ、この日で仕事を終える415系にカメラを向ける人がいました。

道路を走る乗り物に目を移すと、今年になって2車種が販売終了をアナウンスし、最後の限定車を出しました。ヤマハ発動機のモーターサイクル「SR400」と、本田技研工業のスポーツカー「S660」です。しかしこの2台についてはユーザーの受け止め方の違いを感じています。SR400は惜別と感謝の気持ちで溢れているのに対し、185系などのラストランと同日に発表されたS600は、短期間で生産を終えたことへの非難も見られます。

理由のひとつは185系と同じ、キャリアの違いかもしれません。SR400は1978年発表以来、40年以上作り続けてきたのに対し、S660は2015年発表ですから、来年生産が終了すると、現役期間は7年です。とはいえルーツである「S500」から「S800」までと同程度作り続けたことにはなります。

それに短期間しか作らなかった、走らなかった車両でも、エンジニアやデザイナーが必死になって生み出したものです。私はそこに込められたものづくりの心に敬意を払いたいと思います。まして軽自動車規格の中で本物のスポーツカーを生み出したことは、文化的な視点でも評価すべきものでしょう。

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私が20年近く乗っているルノー「アヴァンタイム」は、わずか2年しか作られませんでした。製造を担当していた会社マトラがルノーとの関係を解消し、自動車事業からの撤退を発表したことが原因で生産を終えました。これに限らず、ものづくりが突発的な事態でストップすることは多くあります。新型コロナウイルスでもそういう事例はいくつもありました。
 
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たしかに当時、両社の決断に全面的に賛同したわけではないですが、この車種のコンセプトやデザインに対する共感の気持ちは、それとは別です。なので一報を聞いて手に入れることを決意。今なお満足しています。人とモノとの付き合いは、現役が長いか短いか、人気があったか否かで測るものではないと思っています。

前橋版MaaSは広報も前橋流

3年ぐらい前から日本でも注目され始めたMaaS。経済産業省と国土交通省が実証実験への支援を行うスマートモビリティチャレンジは、新型コロナウイルスの感染が拡大した今年度も実施されており、着々と展開が進んでいることを実感しますが、一方でいまだにMaaSがどんなものかわからないという声も聞かれます。

MaaSの定義は、2015年のITS世界会議で設立されたMaaSアライアンスなどがきちんと示しています。しかし日本では一部の事業者やメディアがこれをビジネスチャンスと捉え、モビリティだけでは儲からないので商店や住宅などまでMaaSの一部という扱いを始めたことが、MaaSを分かりにくいものにしてしまった原因だと考えています。

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それはむしろスマートシティに近いわけであり、スマートシティという言葉が一般的になっていくにつれ、彼らは看板を架け替えていきました。個人的には騒ぎが収まった今こそ、MaaSへの理解を深める好機であると考えています。その点で注目したいのが、来週講演を持たせていただく群馬県前橋市であることを、講演に先立ち現地を事前視察して感じました。

前橋市では国土交通省「令和2年度日本版MaaS推進・支援事業対象地域」の採択を受け、昨年12月21日から今月12日まで、前橋版MaaS実証実験として「MaeMaaS(まえまーす)」を実施しています。まず目立つのは青猫のキャラクターです。猫ブームなのでこのキャラクターにしたわけではなく、前橋市出身の詩人、萩原朔太郎の詩集のタイトルから取ったそうです。

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さらに市役所やJR前橋駅には、MaaSへの理解を求めるコーナーも設けられており、前橋市が本気でMaaSを根付かせようとしていることが伝わってきます。名前のMaeMaaSも、前橋のMaaSであることを分かりやすく示すと同時に、交通改革を前へ回す、前進させていくという意味も込めているとのことです。

MaeMaaSの特徴として、JR東日本の「ググッとぐんMaaS」をベースとして前橋市民向けのサービス提供を行うとともに、新たな移動手段を導入していることがあります。すべてを自分たちで手掛けようとせず、大企業が確立したシステムを利用したうえで最適化を図るという手法は、コストを抑えられるだけでなく信頼性の面でも好ましいものです。

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もうひとつの特徴は、市民の利用を識別するためにマイナンバーカードとの連携をしていることです。今後マイナンバーの機能が運転免許証などさまざまな分野に広がっていく中で、いち早くMaaSとの連携を果たしたことも評価できます。しかもマイナンバーを取得していない人のために、市役所には特設の窓口が設けられており、普及への熱意が感じられます。

一連の取り組みは、国内で見てきた実例の中でも、高いレベルにあると評価できるものです。その中で11日(木曜日)に予定どおり講演を行うことになりました。開催前日まで申し込みを受け付けているとのことなので、興味のある方は参加していただければと思います。当日は前橋市の方から、MaeMaaSについての解説もあるそうです。会場あるいはオンラインでお会いできることを楽しみにしています。