THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2021年05月

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電動キックボードを路上で乗って感じたこと

これまでも何度か紹介してきた電動キックボードに、昨年から今年にかけて大きな動きがいくつかありました。昨年はシェアリング事業者のひとつLuupが東京都内で、第1種原動機付自転車(原付1種)登録で公道での実証実験を実施。今年3月に同じ原付1種登録の車両をドン・キホーテが一般向けに発売すると、翌月にはLuupら4社が登録を小型特殊自動車とすることでヘルメット装着を任意とする実証実験を始めました。

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一連の経緯は他のパーソナルモビリティともども、インターネットメディア「ビジネス+IT」で記事にさせていただきましたが、Luupの電動キックボードシェアは東京都内で実際に利用してもいるので、使った印象を含めて日本での電動キックボードはどうなのかを書いていきたいと思います。

欧米などでは電動キックボードは運転免許不要で、ヘルメット装着も義務付けられません。つまり自転車に近い位置付けで、走る場所も自転車レーンが一般的になっているようです。個人的にはそれが理想だと思いますが、日本は自転車が曖昧なルールを放置した結果、危険な事例が数多く報告されていることを考えると、運転者には運転免許、車両にはナンバー登録を義務づけたのは妥当と思いつつあります。



それでもこうした新種の車両に対して不安を覚える層は、いつの時代にも存在します。自動車が誕生してまもない頃、英国で施行された「赤旗法」が有名です。加えて今の日本は、新型コロナウイルスのワクチンにしても、接種後の一時的な発熱など軽微な副反応を大々的に報じ続ける国であり、政治や経済などあらゆる面で不利に働くこうしたマインドを変えるのは、残念ながら無理だとわきまえています。

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ただモビリティで言えば、新しい乗り物が加わるのは選択肢が増えることであり、歓迎できることです。それに運転免許やナンバー登録がルールとして確立されたことで、自転車とは違って違反かどうか判別しやすくなります。つまり自転車よりマナーの良い乗り物になる可能性は十分あるわけで、そのためにも警察にはナンバーなしの電動キックボードなどを徹底して取り締まってほしいものです。

私が電動キックボードに対して好意的なのは、エンジンやモーターだけで走る乗り物としては、軽くて小さくて安価だからです。Luupは同時にシェアリングしている電動アシスト自転車もコンパクトで好感が持てますが、限られたスペースでも快適なモビリティサービスが提供できる電動キックボードは、ただでさえ空間に限りがある大都市に適した乗り物であり、だからこそ世界各地で普及しているのだと思っています。

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ただこの優位性を、大都市の健常者だけに提供するのはもったいないとも思いました。コストとサイズのメリットを生かしつつ3輪あるいは4輪化し、電動車いすのカテゴリーでシンプルな乗り物ができないかと思ったのです。所有の際の負担は少なくて済みますし、シェアリングサービスの構築にもメリットになるはずです。世界最先端の高齢化国家としては、そういう発展も期待したいと思っています。

EV推進は欧州の戦略と考えるべき

自動車分野におけるカーボンニュートラルについては、今年初めにこのブログでも触れていますが、私自身ジャーナリストとして何度か記事を書かせていただいています。今回はその中から、インターネットメディア「BLOGOS」に初めて書かせていただいた記事を、ここで取り上げたいと思います。

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記事のテーマは、トヨタ自動車の社長でもある豊田章男氏が日本自動車工業会会長の立場として発言したカーボンニュートラルについてですが、調べるにあたり目に留まったのが「EU MAG」と名付けられた駐日欧州連合代表部の公式ウェブマガジンでした。そこには「欧州でのEVシフトの加速を後押ししているのはEUの戦略」という記述が見られました。これまでも、欧州のEV推進は戦略的な部分もあるという自分の考えを書いてきましたが、EU自身が戦略であると認めていることになります。

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EU MAGのEVシフトについての記事はこちら

カーボンニュートラルについて最近はLCA(ライフサイクルアセスメント)、つまり自動車で言えば生産から廃棄に至るまでのトータルで考えることが多くなっています。欧州でも最近はこの点を含めた主張をしており、豊田会長は昨年末の報道関係者とのオンライン懇談会で、同じ車種でも日本で作る場合とフランスで作る場合ではCO2排出量が大きく違うことに言及しています。

ここで気になったのは、欧州の自動車生産台数は世界全体の2割であり、販売台数はそれ以下ということです。その程度のシェアしかない地域の主張に世界が合わせるべきなのか?という疑問が湧き上がります。世界の中で優劣が生まれるのは、社会や経済の状況を考えれば仕方がないことだからです。たとえば新型コロナウイルス対策として、東京都のテレワーク普及率に他の道府県が合わせろと言われたら、あなたはどう考えるでしょうか。

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しかもLCAを含めて考えれば、欧州と同じようにEVを推進している中国と米国は、世界第1位と第2位のCO2排出国なので、一気に成績が悪くなります。日本製のハイブリッド車のほうが上になるかもしれません。なので欧州がLCAを絡めたカーボンニュートラルのルールを自動車に持ち込むことはおそらくないと考えています。2つの国からの対抗措置が発動されれば、多くの自動車会社が破綻に追い込まれてしまうからです。

 

というわけで個人的な考えは、欧州や一部のメディアの挑発に乗る必要はなく、日本という国に見合った、すべての人が安全快適に移動できるモビリティ社会を目指すことに尽きます。ただし我が国は、先進国ではモビリティの中で圧倒的にCO2排出量が少ない鉄道への行政の支援が少ないこと、物流におけるトラック輸送への依存度が高いことなど改善すべき点はあり、カーボンニュートラルへの道のりを継続していくことは大事だと思っています。

宇部線BRT化はなぜ凍結されたか

山口県宇部市と言えば、今は映画「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の聖地のひとつとして注目を集めていますが、少し前までこの街を走るJR西日本の宇部線について、沿線自治体のひとつであるこの宇部市では、線路を道路に作り替えてBRT(バス高速輸送システム)に転換するという計画がありました。ところが今年1月に凍結となりました。

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一連の顛末については、東洋経済が配信しているYahoo!の有料記事で読むことができます。くわしく知りたい方は購読していただきたいと思います。ここでは記事の内容とは別に、一連の取材を通して自治体の首長のリーダーシップとはどうあるべきかを考え直す機会となったので、それについて記していきます。

自治体の動きを読むには、議会の議事録を参照するのが役立ちます。今回もウェブサイトで公開している宇部市議会の議事録を参考にしました。それによれば2018年12月の市議会で、久保田后子前市長がJR西日本との間で宇部線の今後について非公式の対話を重ねていることを明かすとともに、BRTへの転換を提案したことが始まりになっています。

 

久保田前市長は市議会議員、県議会議員を経て2009年の市長選で初当選。4年後に再選を果たすと、2017年の市長選では対立候補が現れず、無投票当選となりました。それだけ市民の支持は厚かったことになります。

ところが宇部線BRT化のニュースは地元の新聞社などで報道されたものの、市民へ向けての説明はなかったようです。また宇部線は宇部市内で完結しているわけではなく山口市にも伸びており、JR西日本が車両などを共通運用している小野田線は大部分が山陽小野田市に属します。しかし発表は両市や山口県と共同ではなく、宇部市単独でのものでした。

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議事録を見ると、当初はさほどでもなかった市長への批判が、次第に大きくなっていくことがわかります。特に2020年9月の市議会では、交通以外の施策も含めて「市民に相談していない」「言葉だけ先走っている」など痛烈な批判を目にできます。久保田前市長は翌月、体調不良を理由に突然辞任。11月に市長選挙が行われ、篠崎圭二氏が前市長の路線継承を訴えた対立候補を破って当選。2か月後にBRT計画は凍結という報道が流れました。

新市長就任後に公開された報告書を見ると、BRTを含めた次世代公共交通システムの検討をしていたのは宇部市だけで、山口市と山陽小野田市は既存の鉄道やバスの活用を目指しており、方向性は対照的です。さらに宇部線のみBRT化し、小野田線は鉄道で残すと想定しており、両線を共通運用していたJR西日本の車両運用は根本から見直さざるを得ないことがわかります。

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宇部市次世代公共交通システム導入検討調査業務委託報告書はこちら

このブログでは公共交通計画推進について、自治体のリーダーシップが大切と何度か書いてきました。しかしそれは、独断専行を意味するものではありません。自治体の首長も議員などと同じように選挙で選ばれる住民の代表です。偉い人などではなく、字面の通り「代わりに表に立つ人」という認識を持っています。

民主主義の国では、国民1人ひとりが政治について最高の権利と義務を持つわけで、政治は政治家任せという考えは誤りですし、首長や議員が全権を掌握しているわけでもありません。このブログで何度か紹介した森雅志前富山市長は、LRT導入に際して自ら住民説明会に何度も参加するなど、その点を熟知していたようです。だからこそ一連のモビリティ改革を成功に導くことができたのかもしれません。

コロナが終息しても宅配ロボットは必要

かつては新しいモビリティをことごとく拒絶してきた印象がある日本ですが、近年は流れが変わりつつあるようです。そのひとつである宅配ロボットを今回は取り上げます。インターネットメディア「ビジネス+ IT」で記事も公開しておりますので、そちらもご覧ください。
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宅配ロボットというと、新型コロナウイルス感染症での接触防止という観点から注目されていますが、実際はそれより前から存在しています。このブログでも以前、インターネットショッピングの急増で宅配業者の労働環境が過酷になっていることを取り上げましたが、なにかと人手に頼る傾向が大きかった物流業界改革のために開発されたものです。

この分野のパイオニアといえるのは電子国家として有名なエストニアのスターシップ・テクノロジーズですが、日本では2019年9月に「自動走行ロボットを活用した配送の実現に向けた官民協議会」が設立され、翌年度からは「自動走行ロボットを活用した新たな配送サービス実現に向けた技術開発事業」をスタート。各地で実証実験が始まりました。

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記事では官民協議会の構成員に名を連ね、昨年から今年にかけて2度の実証実験を行ったパナソニックを取材しており、ここでも同社の写真を使用させていただいています。くわしくは記事を参照していただきたいのですが、あわせて約2か月にわたり、遠隔監視で公道を移動する複数のロボットを問題なく制御し、処方箋医薬品や冷蔵品の弁当を薬局や商業施設から注文者の自宅まで配送したそうです。

なので個人的には技術面は問題がないと思っており、宅配業者の労働環境改善など社会的なメリットも期待できるので、政府が宅配ロボットによる無人配送を2021年度中にも解禁する方針を固めたという報道には納得しています。



コロナ禍が終息すれば宅配ロボットなど不要ではないか、歩行者や自転車などに混じって移動するのは危険ではないかと思う人がいるかもしれません。しかしこれらはいずれも、大都市視点の考えであると思っています。

地方に住んでいる人は感じていると思いますが、中心市街地を外れると、歩道を歩いてる人はほとんどいません。マイカー移動が主流であるためですが、宅配ロボットの走行が危険という意識さえ抱かないでしょう。それよりも近年高齢ドライバーの事故が目立っており、運転免許を返納し、公共交通を含めた徒歩での買い物に切り替える人が増えていることに配慮すべきではないでしょうか。

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パナソニックのプレスリリース https://news.panasonic.com/jp/press/data/2021/03/jn210304-1/jn210304-1.html

商店までの距離が近ければ良いですが、そうでない場合は買い物そのものがひと仕事になってしまいます。外出することは健康維持のためには大事ですが、毎日買い物に行くのはおっくう、体調や気分がすぐれるときに出かけたいという人もいるでしょう。そういう人にとっての買い物のアシスト役として、宅配ロボットは重要だと考えています。

これは宅配ロボットに限った話ではありません。自動運転による移動サービスやドローンによる配送サービスも、交通集中で渋滞が頻発している大都市よりも、地方のほうが向いています。問題は財源をどう確保するかですが、ここは国が、地方を支えるにはモビリティの維持が大前提という観点に立って、補助や支援をしていってほしいと思っています。

コロナ禍での鉄道減便は妥当か

大型連休が始まりました。昨年は日本全国に緊急事態宣言が出ていましたが、今年は現時点で東京都、大阪府、京都府、兵庫県にとどまっています。そんな中、JR東日本は首都圏の一部路線について、大型連休期間中のうち、平日ダイヤで運転する日の通勤時間帯の列車を削減すると発表しました。最初の実施日だった今週金曜日には、各所で混雑していたという報告がありました。

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同社のニュースリリースを見ると、今回の削減は発表が4月27日と実施の直前であり、国や関係自治体からの要請を踏まえたものとあります。しかしここまで直前での発表となると、それに合わせて仕事などの予定を変えるのは、自分の経験からしても難しいことです。しかも国や自治体よりJR東日本のほうが、公共交通の何たるかははるかに熟知しているはずです。それを考えれば要請に異議を唱えたうえで、通常のダイヤでの運行を続けるべきだったと思っています。

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東京都のテレワーク導入率調査結果 = https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2021/04/02/11.html

とはいえ利用者側を全面的に擁護する気持ちにはなれません。東京都の毎月1日現在の推計人口は、今年4月は前月比で久しぶりに増加となりましたが、それまでは8ヶ月連続で減少していました。一方で都が発表している従業員30人以上の都内企業のテレワーク導入率は、昨年4月以降は60%前後で大きく変わっていません。にもかかわらず最近の報道を見ると、首都圏の鉄道の乗車率は上がっているという報告をよく目にするからです。

テレワーク調査に対して虚偽の申告をしている会社、不要不急の外出をしている人が一定数いることを示しているような内容です。すでに多くの方が認識していることとは思いますが、感染防止の最高の対策は人との接触をできるだけ避けることです。もちろんそれは義務ではありませんが、社会を良くしようという行動を特に起こさず、国や自治体に責任を押し付ける人や会社が一定数いることになるわけで、これでは収束は当分先であろうと思ってしまいます。

一部の人は、交通事業者が前もって発表する減便についても異議を唱えていますが、こちらはその道の専門家が直近の需要をもとに作成するものであり、納得できる内容だと思っています。JR東日本が終電繰り上げなどを盛り込んだ今年3月のダイヤ改正はもちろん、地方の交通事業者についても言えることです。

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現在販売している鉄道専門誌「鉄道ジャーナル」最新号では、石川県を走る北陸鉄道をレポートしていますが、同社でも直近の需要の変化をもとにダイヤ改正を行なっており、バスについては増便もありますが、鉄道は2つの路線とも減便になっています。実際に話を聞くと、減便の理由は明確であり、事業者の回答として説得力のあるものでした。



乗客を逃がしてしまう可能性もある減便に交通事業者が踏み切るのは、多くのニュースで報じられているとおり、大幅な減収で厳しい立場に置かれているからです。カーボンニュートラルや高齢者の運転免許返納などにより、公共交通の重要性は今まで以上に増しています。こうした中で国や自治体が行うべきは減便の要請ではなく、補助や支援であることは明らかでしょう。