THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2021年08月

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米国の電動化戦略に感心

自動車の電動化についての国や企業の情報発信が続いています。今年の夏に限っても、欧州委員会が7月14日にEuropean Green Deal」の一環として、EUの気候、エネルギー、土地利用、交通、税制を適切にするための提案をしたのに対し、8月5日にはホワイトハウスがバイデン大統領の名前で、環境に優しい乗用車および商用車についてのリーダーシップを推進していくためのステップを発表しました。

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その中から米国側の発表を軸として、自動車専門インターネットメディア「AUTOCAR JAPAN」に記事を書かせていただきました。気になる方は読んでいただければと思います。私は別のメディアで欧州の電動化戦略についても取り上げ、このブログでも扱いましたが、今回はなぜ米国の戦略に注目するかを書いていきます。



双方の発表内容を見ていくと、欧州は乗用車および小型商用車の新車CO2排出量を2035年にゼロにすることを義務付けるというもので、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車も禁止し、電気自動車と燃料電池自動車のみにするという厳しい方針です。一方の米国は2030年に販売される新車の半数を電気自動車と燃料電池自動車、プラグインハイブリッド車にするというものです。

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米国の発表内容は、目標とする年こそ5年早いですが、50%はエンジン車やハイブリッド車でもいいことになります。不安を煽るニュースで耳目を集めるという悪しき旨味を覚えてしまった我が国のマスメディアは、米国の発表はあまり取り上げず、いまだに欧州の発表だけに注目していますが、個人的にはむしろこちらの内容に感心しています。

50%をハイブリッド車やエンジン車などとしたのは、欧州や日本に比べて鉄道網が貧弱であり、ある程度の距離は自動車で移動しなければならないという事情もありそうですが、同時に多様性を認めるこの国らしい判断だとも感じています。モビリティは多様な選択肢があるほど理想的という私の考えと一致するところです。

実は欧州の発表も、自動車以外の交通として取り上げた航空と船舶では、排出権取引を使うとともに、主要な港や空港でクリーンな電力供給を受けられるようにする、ジェット燃料にe-fuelとして知られる合成燃料を混合することなどが列記されており、多様な対策を考えています。自動車だけがゼロエミッション一本という方向性になっており、やはり戦略的な意図を強く感じます。

もうひとつ注目したのは、フォード、GM、ステランティスの旧ビッグ3と全米自動車労組が同席し、共同で目標を推進していくと発表したことです。行政の一方的な押し付けではなく、企業や労働者、そして国民とともに電動化を進めていこうという協調性が伝わってきます。それ以外のメッセージも、1台のクルマに乗る間に最大900ドルの燃料を節約できる、国内のサプライチェーンを強化し高給で待遇の良い雇用を増やすなどわかりやすく、発信のしかたに感心します。

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ところでこの発表内容には、中国という言葉が何度も出てきます。バイデン政権はことあるごとに中国を意識しているので納得できる部分でもありますが、中国が電気自動車とバッテリーでリードしていることを冷静に受け止めているとも感じます。逆に日本のマスメディアがひんぱんに取り上げる欧州には、まったく言及していません。



当然だと思います。国や地域によって気候や人口や地勢などは違うわけで、それぞれの国や地域が今ある状況の中で最善を尽くすことが、誰もが幸せになれる環境対策だと考えるからです。それに新型コロナウイルス感染拡大前の2019年の米国の自動車販売台数は世界の約19%で、中国の28%よりは下ですが、欧州も同じ19%です。同じ規模の相手に無条件で従う必要はないと考えたのでしょう。

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それに比べると日本は6%と市場規模が小さいので、こういう議論になるとどうしても劣勢になりますが、それなら米国のルールを適用するという手もあります。そこに豪州やインドが加われば、日本は中国さえ上回る勢力の一員になります。欧州の影響力は自然と低下していくはずです。コストの安い軽自動車を残すことができるなど、すべてを電動化する日本の方針より好ましい部分もあります。

日立駅が愛される理由

新型コロナウイルス感染症の影響で鉄道利用者が減少しています。当然ながら新たな投資も難しいと察していますが、以前も書いたように、これを機に量から質への発想の転換を図り、乗ってみたくなる車両、使ってみたくなる駅を提供することもまた大事と考えています。そんな気持ちから、建築家が手がけた鉄道車両と駅舎をテーマに、東洋経済オンラインで記事を書かせていただきました。ここではその中から、建築家の妹島和世氏デザイン監修のJR東日本常磐線日立駅を紹介します。

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日立駅は太平洋の海岸近くにあります。ほぼ南北に伸びるホームの上に駅舎があり、駅舎の端から東西に自由通路が伸びています。西側が中央口、東側が海岸口です。現駅舎の供用開始は2011年4月。2005年に、日立駅の橋上化を含む日立駅周辺地区整備構想がまとめられ、それに基づき整備されました。これ以外に駅南端に周辺の工場通勤者向けの橋上口があります。

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中央口はバスターミナルがある駅前広場につながっており、出入口脇には情報交流プラザ「ぷらっとひたち」、コンビニなどが並ぶ「まちステーション日立」もあります。妹島氏は駅舎のデザイン監修のほか、これら駅周辺全体の空間設計も担当したとのことです。一方の海岸口側は海に突き出すように通路が伸び、先端は展望デッキになっていて、脇にはカフェがあり、近くにはピアノも置いてあります。



とにかくほぼ全面ガラス張りの作りに圧倒されます。ほとんどの場所で太平洋が望めます。記事でも触れましたが、やはり同氏がデザイン監修した西武鉄道の特急用車両「ラビュー」、同じ建築家の西沢立衛氏とのユニットSANAA(サナア)による金沢21世紀美術館との共通項を感じます。SANAAがデザインしたFlower(フラワー)と呼ばれる花の形のベンチが置かれ、機能本位になりがちな駅に暖かさや柔らかさを添えているところも見逃せません。

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カフェや駅ピアノ、情報交流プラザなど、列車に乗り降りする以外の機能を取り入れたところも感心しました。駅がまちの顔であり、人々が集う場であるというメッセージが伝わってきます。一方で東日本大震災では震度6強という強い揺れに見舞われたにもかかわらず、翌月には供用開始したという逞しさも備えており、頼れる駅でもあるという印象を利用者に与えたのではないかと思います。

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この駅が各方面から高い評価を受けるようになったのは、もちろん妹島氏の才能によるところが大きいですが、同時に彼女が日立市出身であることも外せないでしょう。良さも悪さも知り尽くしているからこそ、海が見えるまちの素晴らしさをストレートにアピールすることで、市民が誇りを持ち、全国から注目してもらえる都市になってほしいという思いが伝わってきます。自分のような外からの目線も大事ではありますが、現場を熟知した人には勝てないということを痛感しました。

*来週は夏休みとさせていただきます。次回の更新は8月28日になります。

オンデマンド交通が最善ではない

地方に行くとよく目にする移動手段のひとつにオンデマンド交通があります。既存の鉄道やバスが定時定路線を基本としているのに対し、移動する人を電話などの予約で募り、集まった利用者を1台の車両でまとめて運ぶ公共交通です。呼び名はon-demand transportのほかdemand-responsive transportなどがあり、単にデマンドと呼ぶ人もいますが、英語のdemandの意味は「要求」なので、ここでは交通分野以外でも多く使われるオンデマンドを使います。

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ひと口にオンデマンド交通といっても、路線は決まっているが予約があった場合だけ走るもの、路線の一部を予約に応じて迂回するもの、すべてのバス停をオンデマンド対応にしたもの、走行経路や時刻まで利用者の予約に応じて変えるものなどいろいろあります。利用者の要望が多様であることから、早くからICTの導入が進んでおり、近年は運行経路や時間にAIを活用したAIオンデマンド交通もあります。

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日本では地方の過疎地などで、定時定路線バスでは「空気輸送」と呼ばれるほど利用者が少なく、採算が取れなくなってきた路線をオンデマンド交通に変える例が多くなっています。たしかに利用者が少なくなったことに対応して、必要な時間に必要な路線だけ走らせるというのは、理にかなっていると思う人もいるでしょう。しかし現実には課題がいろいろあります。

このブログでも取り上げた長野県東御市では、2006年度という比較的早い時期にオンデマンド交通を始めています。しかも利用者がそれなりにいる朝夕は定時定路線とし、日中のみオンデマンドとするという斬新なスタイルを導入しました。しかし当初は順調だったものの、その後利用者が減少しており、料金値上げなどを行っています。

東隣の小諸市でも2016年度から、東御市と同じ朝夕定時定路線、日中オンデマンドというスタイルで走り始めました。しかし近年、利用者数がやや減少しているのに対し、運行事業費は増大しているとのことです。午前中に利用が集中することに対応して、予備車両を用意したり、コールセンターの人員を増強したりしたためだそうです。今後は運転手をはじめとする人員不足も深刻になっていくでしょう。

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オンデマンド交通は好きな時間に好きな場所に行けるという点で、マイカーに近い移動を提供するものです。しかしその分、人材や資金はよけいに掛かるのです。小諸市の例を見ると、ある程度は定時定路線で賄えそうな印象を持ちます。それにドアtoドアの移動は、まちなかの活性化にはほとんど寄与しません。最近になって両市で実証実験したのがいずれも、中心市街地回遊型の交通であったことは、それを裏付けるものです。

10章扉のコピー

一連の経緯から見えてくるのは、利用者の減少に合わせて鉄道〜路線バス〜コミュニティバス〜オンデマンド交通と単純に輸送規模を縮小していくだけでは、最適なビジネス、最適なサービスにはならないということです。その土地のどこにどのように人が住み、どのように動くか。まちをどのようにしていきたいか。それによってモビリティの選択は柔軟に変えていくべきだと考えています。