THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2021年10月

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「環境を観光に」フランスの提案に感心

エールフランス航空とフランス観光開発機構が、持続可能な観光発展をテーマとしたメディア向けウェビナーを開催しました。私自身、フランスはしばらくごぶさたしており、現地のモビリティがどうなっているか、把握しきれていないところも多かったので参考になりました。ここで一部を紹介します。

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まずエールフランスでは、2030年までに旅客キロ当りのCO2排出量を2005年比で50%低減、廃棄物のリサイクル率2011年比で50%拡大、地上運航業務のCO2排出ゼロを目標に掲げています。そのために環境性能の高い航空機への置き換え、パイロット書類や機内誌のデジタル化、地上作業の電動化、使い捨てプラスチックの廃止、SAF(持続可能な航空燃料)の導入、鉄道との連携を進めているそうです。

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エールフランス航空のオフィシャルサイト(日本語)はこちら

鉄道との連携は、高速鉄道TGVの導入を契機に国内線航空会社エールアンテールがエールフランスに吸収されるなど、以前から動きはありましたが、持続可能性という新しいテーマを受け、鉄道で2時間半以内で行ける国内航空路線は列車に置き換えることが法律で決まりました。さらに航空券と乗車券のデジタル統合、シャルル・ド・ゴール空港駅から発車するエールフランス便名のTGV「TGV AIR」の拡充も進めています。

フランス観光開発機構からも、この2時間半ルールの実施について言及がありました。加えて一度は消滅した夜行列車を少しずつ復活させていることや、TGVのLCC版として人気のOUIGO(ウィゴー)の在来線版であるスーパーローコスト列車を、OUIGO Vitesse Classique(クラシックスピードの意味)という粋な名前とともに来春登場させることも紹介されました。

後者はTGVでは約2時間で到達するパリ〜リヨン間を4時間45分もかけて結ぶ代わりに、料金は10〜30ユーロで済むとのことです。日本では安価な長距離移動手段というと高速バスが幅を利かせていますが、当然ながらバスより鉄道のほうが環境負荷は少ないわけであり、日本でもこうした発想の転換が望まれるところです。

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OUIGO Vitesse Classiqueのオフィシャルサイトはこちら

自転車にも触れていました。長距離サイクリングルートが延伸予定である一方、都市内のシェアリングや観光地でのレンタサイクルも紹介し、鉄道と組み合わせての観光を紹介していました。ルート提案からレンタサイクルや宿泊の予約、荷物の回送、最終地での自転車乗り捨て、緊急アシスタントなどをオールインワンでパッケージングしたメニューもあるそうです。

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フランス観光開発機構のオフィシャルサイトはこちら

これ以外にホテルやレストラン向けのエコラベルおよび認証制度、地域ごとのサステイナブルツーリズムのウェブサイトも紹介し、ミシュランガイドでは2020年からサスティナブルなレストランにグリーンのクローバーを授けていることにも触れていました。持続可能というテーマをマイナスではなくプラスに捉え、観光のメニューとして提案した柔軟な発想に感心しました。

グッドデザイン賞に見るメーカーのビジョン

日本で唯一の総合的なデザイン評価・奨励の仕組みであるグッドデザイン賞。今年度の受賞結果が発表されました。2年ぶりに審査委員を務めたモビリティユニットでは81件が受賞し、うち8件がグッドデザイン・ベスト100、その中から4つがグッドデザイン金賞に選ばれました。今回は金賞受賞のうち、自動車メーカーが手がけた2件を紹介します。ただしそれは自動車での受賞ではありません。

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ひとつはスズキのクーポ(KUPO)です。車いすと歩行補助具の2つの役目を持つ電動モビリティです。年齢とともに足腰が弱っていくのは多くの人が体験することだと思いますが、こうした人たちの多くは、できればいつまでも自分の足で歩きたいという気持ちを持っています。その点に着目し、状況に応じて2つの機能を使い分けることができるモビリティを、スタイリッシュにまとめたものです。

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もうひとつは日野自動車の子会社であるNEXT Logistics Japanの「高効率幹線輸送シェアリングスキーム」です。こちらはトラックドライバー不足という社会課題の解決を目的としたもので、自動車メーカーがそのための組織を立ち上げ、荷主や運送業者に協働を呼びかけ、ダブル連結トラックに異なる種類の荷物を混載することでドライバーの労働環境を改善していくという取り組みです。

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個人的に注目したのは、2つのプロジェクトが長い時間をかけて形になったことです。クーポは2018年の超福祉展などでプロトタイプを展示し、反響を参考にデザインを磨き上げていきました。NEXT Logistics Japanが設立されたのも2018年で、次の年から事業化をスタート。1年間で幹線輸送の運送人員1/2、CO2排出量-32%という結果を出し、物流環境大賞「物流環境負荷軽減技術開発賞」を受賞しています。

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さらに感心するのは、自動車を作って売るという既存の事業だけでは、高齢者の増加や運転手不足といった課題には対応できないことを深刻に受け止め、違う形でのソリューションを提供したことです。どちらも乗用車やトラックの販売に影響を与える可能性があるわけです。にもかかわらず、移動や物流を支える企業としての社会的責任を第一に考えた姿勢には共感しました。



グッドデザイン賞では、このあと11月2日に発表予定のグッドデザイン大賞、今回取り上げた2件を含めたグッドデザイン金賞、グッドデザイン・ベスト100を受賞したデザインを展示するとともに、グッドデザイン賞全受賞対象を紹介する展示会を、新型コロナウイルス感染症対策の観点から事前予約制としたうえで、東京ミッドタウンで11月21日まで開催しています。興味のある方は予約してみてはいかがでしょうか。

ようやく日本でもハンプが広まりはじめた

横断歩道での交通事故を防止する物理的デバイスとして、このブログでも以前取り上げたことがあるハンプ。そのときは海外に比べて日本での普及が遅れていると書きましたが、最近になって国土交通省や警察庁などが動きはじめました。今年6月に千葉県八街市でトラックが下校中の小学生の列に突っ込み、児童5人が死傷した事故を受けたものと思われます。

これまでは国土交通省道路局でガードレールや狭さくなどの設置、警察庁交通局でゾーン30による速度規制などを進めてきましたが、今後は両者が検討段階から緊密に連携しながら、最高速度30km/hの区域規制と物理的デバイスとの組み合わせで安全向上を図る区域を「ゾーン30プラス」として設定し、生活道路における歩行者優先の通行空間整備に取り組んでいくと、8月26日に発表しました。

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その一環として、物理的デバイスのひとつである「スムーズ横断歩道」の全国での設置に取り組んでいくことにも触れています。聞き慣れない言葉ですが、実態は大型ハンプで、従来は横断歩道の手前に設置していたハンプを大型化し、横断歩道全体を盛り上げる形にしたものです。歩道と横断歩道の間の段差もなくすことができます。強化ゴム製の可搬型としたことで、騒音を抑えるとともに設置を容易にしていることも特徴で、今年の夏から全国20カ所以上に設置が進んでいます。

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東京都では港区に設けられたので、先日見に行ってきました。もともと横断歩道に接する縁石は下げてあったので、ハンプとの間はアスファルトで埋めていました。 ゴム製ということもあって通過音は静かでした。 車種による影響の違いにも気づきました。自転車は前後の車軸の間隔(ホイールベース)が短いので、小さい丘を上り下りするような感覚になり、ショックがあまりないのに対し、自動車はホイールベースが長く、前輪が乗り上げたあと後輪が登りはじめるので、揺れが複雑になるのです。

似たような効果をもたらすと言われるものに、イメージハンプがあります。路面に突起があるように錯覚させるペイントを施し減速を促すものです。しかし物理的なハンプとは効果に大きな違いがあると考えます。何度もここを通る人はペイントだと認識し、減速しなくなるからです。経年変化で色が消えてしまった事例も目にします。前述のゾーン30プラスでもイメージハンプは紹介されていません。

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これまで物理的デバイスの代表格だったガードレールも取り上げていません。これも感心するところです。先進国の都市内にこんなにガードレールを張り巡らしているのは日本ぐらいです。にもかかわらず交通事故死者中の歩行者の割合が高いわけで、生活道路ではなによりも自動車の速度を落とすことが事故防止につながることに、多くの人が気づくべきでしょう。

今回のゾーン30プラスは、1970年代にオランダで生まれたボンエルフの精神に沿ったものだと感じましたが、近年欧米ではさらに一歩進んで、歩行者と自動車が完全に共存するシェアドスペースの考え方が広まりつつあります。日本がそのレベルにまで行けるかはわかりませんが、スムーズ横断歩道を含めたハンプを主体に据えたのは好ましい方向転換であり、今後も推進してほしいと考えています。

地震→シェアサイクルの判断に感心

今週木曜日、東京都と埼玉県で震度5強を記録する地震がありました。公共交通では新交通システム日暮里・舎人ライナーの脱線以外は大きな被害は出なかったようですが、地震直後は鉄道のストップや高速道路の通行止めが相次ぎ、翌朝も一部の鉄道で減速運転などが行われ遅れが生じました。幸い私の自宅および事務所に被害はなく、翌日からいつもの生活に復帰しています。

地震発生が23時近くという遅い時間だったため、当日夜はいわゆる帰宅難民が発生し、翌朝は一部の駅で長蛇の列ができました。これを問題視した報道も一部にあったようですが、あれだけの地震があった直後は、一般家庭であっても各部の点検を行うはずで、非常時であっても交通事業者に平常運転を強いる言動には違和感を覚えました。

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一方で好感を抱いたのは、シェアサイクル(いろいろな呼び方がありますがこの言葉を使います)を活用した人がいたことです。東京都などで展開するドコモ・バイクシェアでは、地震発生直後から東京都心部のポートで自転車がなくなり、多くが住宅地のポートに移動しました。サイクルシェアの存在を知っていたかどうかで、当日の動きに大きな差が出たわけで、日頃から地域交通の情報収集をしておくことが大切だと痛感しました。

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このブログでもドコモ・バイクシェアについては何度か触れており、不満点も書いてきましたが、アプリはバージョンアップして電動アシスト自転車のバッテリー容量が確認できるようになり、東京23区での展開は12区に及ぶなど進化している部分もあります。理想を言えば他の事業者との乗り入れを可能にしてほしいところですが、こうした進化を見て「使える」と思い、乗り始めた人もいるでしょう。

しかもドコモ・バイクシェアは地震翌日、地震発生から翌朝5時までの間に利用を開始した料金について、基本料金を除く延長料金を無料とするという支援策を発表しました。恩恵を受けた利用者は、この先似たような状況になったときもここのサービスを思い出すはずで、普及や定着を促すというという点でも好ましいメッセージだと思いました。

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ドコモ・バイクシェアのニュースはこちら

10年前の東日本大震災のときには、都内にはまだシェアサイクルがなく、一部の人が自転車販売店に駆け込んで購入するという動きがありました。しかしその自転車は多くが一時利用であったはずで、売却に困った人もいるでしょう。そういう意味でシェアリングはありがたいサービスです。とはいえ台数には限りがあります。モビリティシーンに限らず、災害に備えて個々の判断力や対応力を磨いておくことが重要になりそうです。

もちろん地震の直後なので、道路に亀裂が入っている可能性もあります。利用の際には注意してほしいところです。それに他の災害、たとえば台風の時はシェアサイクルは向きません。状況に応じて動く、留まるを瞬時に判断したうえで、動くときには最適な乗り物を選ぶ力を身につけることも大事になるでしょう。そんな状況を踏まえたうえで今回、シェアサイクルを選択をしたことが多数いたことは、好ましい傾向だと感じました。

空飛ぶクルマという呼び名に違和感

本田技研工業(ホンダ)が今週木曜日、現在取り組んでいる技術開発の方向性を発信しました。その中にeVTOL(電動垂直離着陸機)がありました。私はこの5日前に発売された自動車専門誌「ENGINE」で「空飛ぶタクシー」がテーマのコラムを書き、世界各地で開発が進んでいることは知っていましたが、ホンダが参入するニュースを見て、新たな1ページが開かれようとしていると感じました。

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雑誌の記事では米国ジョビー・アビエーション、ドイツのボロコプター、欧州エアバス、日本のスカイドライブの4社の状況を紹介しました。乗車定員や操縦士の有無など、4社だけ見てもバラエティに飛んでいることを感じました。ただし自動車の自動運転と同じように、たとえ技術が問題のないレベルまで進化しても、実用化には多くのハードルが待ち構えているという思いも抱きました。



たとえば航続距離は、発表資料によればジョビーは240km以上ですが、それ以外は30〜50km程度となっています。つまり長距離移動はできません。バッテリーの大容量化がストレートに性能に響くので、ほどほどに抑えているのでしょう。ホンダはその点を改善すべく、ガスタービンエンジンとのハイブリッド方式を導入し、長距離移動を目指しているようです。

さらに当然ながら、飛行するには航空法を守らなければならず、自身が操縦する場合は専用の免許が必要になります。将来はドローンのように遠隔操作が一般的になる可能性もあり、コントロールセンターのスタッフが免許を持っていれば良いことになりそうですが、現状ではではそれなりにハードルが高いと感じます。離着陸の場所も、音や風を発するのでどこでも良いというわけではないでしょう。

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ジョビーではこの機体をエレクトリックエアクラフト、サービスはエアタクシーと呼んでいます。ボロコプターはアーバンエアモビリティ、エアバスはフライングタクシーと称しています。2人乗りのボロコプターとスカイドライブは個人ユースも想定しているようですが、それ以外は航続距離の問題もあってタクシー的な存在を見据えているようで、言葉の選び方に納得します。

それだけに日本の一部で使われている、空飛ぶクルマという表現には違和感を抱きます。クルマのように気軽に乗れる敷居の低い乗り物をイメージさせようという戦略かもしれませんが、上に書いたようなルールを含めて考えれば、自動車が発明された当時の状況に近いものであり、今の自動車社会と同等とはとても思えません。

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運転支援システムを自動運転と呼んだことで問題になっていた事例を思い出しました。長年日本の言葉を扱って仕事をしてきたジャーナリストのひとりとして、誤解を招く表現ではないかと心配しています。上に書いたように、海外ではクルマという表現は使っていないわけですし、ホンダに加え、ジョビーに出資しているトヨタ自動車も同様のスタンスだからです。

空飛ぶタクシーそのものを否定するわけではありません。山がちな過疎地や離島など、陸上交通が不便な場所には文句なく向いていますし、物流に目を向ければ、安全性に対する要求が移動ほどではなくなることもあるので、実現性が高いと考えています。現実にいくつかの事業者は、そちらに注力した活動を行っており、好感を抱いています。



先月上旬に放送されたNHKの解説番組でも、現在の開発状況や将来の利用シーンとともに、懸念される面を紹介していました。そこではアンケート結果も出しており、緊急時あるいは数時間から1日に1回程度を望む意見が合わせて3分の2を占めました。こうした数字が出る理由は、やはり説明不足でしょう。番組でも積極的な情報発信と丁寧な議論が必要と訴えて結んでいましたが、国民への説明なしに強引に導入することだけは避けてほしいものです。