THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2022年01月

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電動トライク注目の理由を考える

ひさしぶりに電動トライク(三輪スクーター)を取り上げることにします。これまでは長野県小諸市をはじめ富山県氷見市・射水市などで、地域公共交通やシェアモビリティとしての展開を紹介してきましたが(現在は冬季ということもありすべて運行停止中です)、東京では最近になって個人ユーザーも目にするようになってきました。さらに昨年12月からは大手家電量販店のヨドバシカメラが販売を開始しました。

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日本でもじわじわ浸透しつつある電動トライク。普及の理由はやはりコストでしょう。ヨドバシカメラで販売しているビークルファンの車両は3人乗りで66万円です。この車両を含めて、多くは側車付軽二輪登録なので、税金は軽自動車と比べても安いうえに車検がなく、法律上は車庫などの保管場所も不要です。それでいて普通自動車免許があれば運転可能であることも、敷居の低さにつながっているでしょう。

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たしかに三輪は四輪に比べて安定性が劣ります。特にカーブを曲がる際にブレーキを掛けたりすると転倒する可能性もあります。ただ自分でハンドルを握ったり、乗客として利用したりした経験から言えば、ドライバーがカーブで十分に速度を落とすなどすれば、さほど問題はないと思われますし、そもそも自動車や自転車を含め、すべての乗り物はそのような心構えで運転すべきではないかと考えています。

それ以外にもエアコンがなく、夏は走っていればさほど暑くないですが冬は冷えること、四輪の軽自動車と比べれば斜め方向の揺れが多いことなど、気になる点はあります。しかしいずれもラストマイルの移動なら問題にならないと思っています。今年発売予定の軽四輪の電気自動車が補助金込みで200万円あたりということを含めて考えれば、近場の移動はこれでいいと思う人もいるでしょう。

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個人的には軽自動車の下に位置する四輪車として規格が制定された超小型モビリティが、こうしたニーズの受け皿になると思っていました。日本が参考にしたという欧州の超小型モビリティはL6eとL7eの2クラスがありますが、その前のL1e〜L5eは二輪車や三輪車で、これらの延長線上にあるからです。ところが日本のそれは、新たに設けた型式指定車では衝突実験を課すようになるなど、むしろ軽自動車に近づきつつあるようなのが残念です。

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前にも書きましたが、現在の軽自動車は当初の精神から逸脱しつつあり、過剰な内容になっていると感じています。高度経済成長時代ならそれでも良かったかもしれません。しかし今の日本は、人口減少で公共交通の運営が厳しくなる一方で、庶民の平均年収は上がらないという状況です。そんな今の日本の状況に見合った、本来の軽自動車の立ち位置を受け持つのが、電動トライクなのだという結論に至りました。

金沢で地域交通のセミナーを担当します

今回はひさしぶりにセミナーのお知らせです。2月17日の14時から、石川県金沢市の北國銀行および北國総合研究所が主催し、北國新聞社の後援で開催される経営者セミナー 「MaaSが地方を変える ー地域交通を持続可能にする方法ー」で、講師として登壇することになりました。 場所は金沢駅西口駅前の北國銀行本店ビル3Fメインホール、参加は無料です。

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実はセミナーのタイトルは、昨年9月に発売した拙著とまったく同じです。北國銀行の方が「MaaSが地方を変える ー地域交通を持続可能にする方法ー」を読んでいただき、直接連絡をくださったことが、セミナーに結びつきました。出版社の了解ももらったので、このタイトルでの開催になりました。

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銀行が地域交通をテーマにするのは珍しいと思うかもしれませんが、地方銀行には地域経済の発展を後押しするという役目もあります。私もかつて、地方銀行協会の研修会でワークショップを開いた経験があります。とりわけ北國銀行はコンサルティング業務も積極的であるうえに、デジタルにも精通していることから、地域交通事業者にさまざまな形で支援や助言を行っているそうです。

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今週、北國銀行本店で事前の打ち合わせを行いました。北陸の地域交通というと富山県や福井県が取り上げられることが多く、石川県は輪島市のグリーンスローモビリティはあるものの、県庁所在地である金沢の交通改革はあまり目立たないという印象でした。しかしながら最近は、北國銀行をはじめこの分野に積極的な事業者のあと押しもあり、改革の機運が出てきたとのことです。

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申し込み期限は2月10日。経営者セミナーとありますが一般の方の参加も可能です。 新型コロナウイルス感染拡大中でもあり、開催方法は変更する場合もありますが、日時は確定しています。当日は出版後の最新情報の紹介、金沢の地域交通についての提案もできればと考えています。近隣の方々のご参加をお待ちしております。よろしくお願いいたします。

福祉車両にモビリティの原点を見た

健常者にとってはあまり触れることのない乗り物のひとつに、福祉車両があります。私は日本福祉のまちづくり学会会員ということもあり、この分野に以前から注目し、時間があれば関連イベントに顔を出してきました。先月本田技研工業(ホンダ)が東京都内で開催した報道関係者向け試乗会もそのひとつです。当日の様子は「マイナビニュース」で記事化しましたが、ここでも感想を綴っていきます。

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まず感じたのは、多彩な仕様が設定されていることです。自分で運転する運転補助装置(自操式)だけでも、両手だけで運転できるテックマチック、両足だけで運転できるフランツシステム、右半身が不自由な人用のシステムがあり、助手席や後部空間で移動するための介護車両(介護式)も車いす仕様車、サイドリフトアップシート、助手席リフトアップシート、助手席回転シートを用意していました。

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さらに自動車以外の福祉製品として、同社の新事業創出プログラムから生まれたベンチャー企業が開発した、目の不自由な方のための歩行ナビゲーションシステム「あしらせ」の体験や、車いすマラソンで世界新記録を樹立したこともある車いすレーサー「翔(KAKERU)」の展示もありました。 関連会社を含めれば、もっとも多くの福祉移動機器を製作している企業のひとつかもしれません。

個人的に感心したのは、他人に乗せてもらうのではなく、自分で運転したり歩いたりするための製品が多いことです。車いすのユーザーの多くは、自分の意思で自由に動きたいから車いすを使っていると理解しています。そういう人たちの気持ちに沿ったモビリティを構築していくことは大切なことであり、同社の姿勢は共感できるものです。

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製品が多彩になる分、事業として対応していくには資金や労力が必要となります。ホンダによると、現在日本での福祉車両全体での販売台数は年間4万台で、うち7割が車いすのまま後部空間に乗って移動するタイプであり、昨年10月に発売したフィットのフランツシステムは、取材時点で10人ぐらいの問い合わせだったそうです。たとえ少数であっても移動の自由を提供する姿勢に感心しました。

通常の自動車より好ましいと思えるものもありました。たとえばテックマチックは、シフトレバー脇のレバーで加減速を操作しますが、アクセルが手前、ブレーキが奥と動きがまったく逆なので、アクセルとブレーキの踏み間違いのようなことが起こりにくいと思いました。



一方で発展の可能性も感じました。フランツシステムの試乗時、「どうやってドアを開け、メインスイッチを押しますか」と質問され答えに困ってしまいました。先天的に手が不自由な人は器用なので足で扱うという説明でしたが、スライドドアやトランクの自動開閉機構、「あしらせ」のセンサーなどが現実になっているだけに、これらを活用すればより快適にアクセスできるのではないかと思いました。 

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この日最大の気づきは、ホンダの福祉車両は創業者本田宗一郎の「人の役にたちたい、喜ばせたい」という想いを形にしたものであり、最初の製品として送り出した自転車用補助エンジンにルーツがあるという説明でした。人々の移動を補助するという点では、福祉車両と共通しているわけです。福祉車両に限った話ではありません。既存の自動車や鉄道なども、私たちの移動を補助する機械です。

限られた人たちのために存在するプレミアムブランドも、文化的視点では必要な存在だと思いますが、社会的視点で見れば、あらゆる人の移動を分け隔てなく支え、安全快適にしていくことこそ重要です。日々の移動に困っている人たちに自由に動ける喜びをもたらすべく、知恵と工夫により生み出される福祉車両や福祉製品は、ある意味でモビリティの原点ではないかと感じたのでした。

雪の日は車を置いて帰ろう

2022年最初のブログとなります。本年もよろしくお願いいたします。最初のテーマとして木曜日、東京地方に雪が降ったときのことを取り上げます。都心の積雪は10cmとのことで、東京としてはまとまった量でした。交通への影響は、鉄道では多くの路線が列車の遅れ程度ですみましたが、道路は首都高速道路が多くの路線や出入口で通行止めとなり、各所でスリップ事故や立ち往生が相次ぎました。

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私も木曜日に所有車(シトロエンGS)の取材が予定されていました。しかし天気予報は数日前から雪となっており、撮影チームは関西が本拠地だったこともあって、 火曜日にその予報とともに、ノーマルタイヤなので雪の日は走行不可であることなどを伝えました。すぐに電話がかかってきて、当初は予備日として設けていた前日に走行シーンなどを撮影することになりました。

ただし車両の細部を撮影する場所は木曜午後に予約をしており、変更ができないとのことで、同じ日の午前中の事務所内での撮影ともども、予定どおり行うことになりました。この間、天気予報はしだいに詳細になり、木曜日は昼ぐらいから雪が降りはじめるということでした。台風や豪雨を含めて、最近の天気予報は当たることが多いと思っていたので、それを信じました。

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翌朝起きると、たしかに雪はまだ降っていません。私たちは事務所の撮影を早めに終わらせ、午前中のうちに撮影場所に向かいました。しかし午後になると雪が降り始め、周囲の家の屋根はすぐに白くなりました。私は車を置いて電車で帰る決断をしました。15時頃に電車に乗ると、まだ遅れなどは発生しておらず、車とほとんど変わらぬ所要時間で家に戻ることができました。

こうした決断をした理由として、所有車がノーマルタイヤでチェーンを持っていないことがありますが、仮にスタッドレスタイヤを装着していたりチェーンを用意していたりしても、同じ決断をしたような気がします。鉄道と道路では危機管理体制に大差があるからです。鉄道は事業者自身が危機管理を行うのに対し、道路は個々の利用者に多くが委ねられています。この差はあまりに大きいと思っています。

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それが証拠に、雪が降った翌日も高速道路は一部の通行止めや出入口閉鎖が続き、裏道はアイスバーン化している路面がいくつもあったのに対し、仕事で利用した鉄道の駅は線路だけでなくホームも除雪がなされており、安心して利用することができました。

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東京で生活をしていて感じるのは、災害級の悪天候であっても会社に行く、会社に来てもらうなど、日々の生活を崩したくないと考える人が一定数いることです。なので「朝降っていなかったからノーマルタイヤで帰宅した」と平然と口にする人がおり、その結果として各所で立ち往生が起こっています。

彼らは移動や物流を遮断しているわけで、踏切事故と同等の損害賠償や懲役刑を導入してもいいのではないかと考えていますが、一方で上に書いたような危機管理の状況を考えると、雪の日の東京の道路を移動に使うのは無理があるという結論にもなりつつあります。

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自分の所有車にスタッドレスタイヤを装着したこともありますが、3年間で雪道走行は一度だけということもあったうえに、スタッドレスとて完璧でないことは過去の雪上運転で何度も経験済みなので、上に書いた道路状況も踏まえ、無駄が多いという結論に達しました。もちろん取材の翌日は、駐車場に車を取りに行ったのですが、今の地に住む限り、雪の日は車に乗らない、降ったら置いて帰るという行動は続けようと思っています。