THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2022年03月

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モーターサイクルショーに見たモビリティの理想

明日まで東京ビッグサイトで開催されている東京モーターサイクルショーに行ってきました。去年とおととしは新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて中止になったので、第49回となる今年は2019年の第46回以来、3年ぶりの開催になりました。このあと複数の媒体で展示内容についての記事を書くつもりですが、その前にショー全体の感想をここで記します。

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昨年1月のブログで、コロナ禍で二輪車の販売台数が増えていることを書きました。それは現在も続いていて、昨年の小型二輪車(251cc以上)の販売台数は前年比124%、軽二輪車(126〜250cc)は106.1%となっています。同時期の軽乗用車は95.8%、軽自動車を除く乗用車は96.8%です。四輪車同様、半導体不足や新興国のコロナ禍の影響を受けていることを含めて考えれば、かなり注目されていると言えるでしょう。

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今年のショーでは展示スペースを拡大し、チケットの当日窓口販売を行わないなどの感染対策を施していますが、153の参加団体数、556台の展示車両は前回と同等です。なので以前よりゆったりしているように感じましたが、それ以外にも違いがいくつかありました。

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まずは電動バイクが増えたことです。老舗ブランドではヤマハ発動機やBMWが新型車を発表。それ以上に新興ブランドの車両が多く展示されていました。面白かったのは、エンジン車のブランドと電動バイクのブランドの両方を扱う会社がかなりあったことです。つまりエンジンとモーターのどちらが良いかと論じるような空気は、ここにはありませんでした。

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しかも老舗ブランドと新興ブランドのフロアは別ではなく、混在しており、その間にヘルメットやマフラーなどのメーカーのブースが入るという配置でした。工業製品としてではなく、モビリティの世界として見せようという気持ちが伝わってきました。しかもそこには、カーボンニュートラルや電動化といった堅苦しい言葉はほとんどありません。エンジン車も電動バイクも、それぞれの魅力を理屈抜きでストレートにアピールしているような気がしました。

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二輪車は四輪車に比べると趣味的な要素が強いためもあるでしょう。しかし多様なデザインやエンジニアリングを認める方向性は、前回のブログで取り上げたフランスに通じるものを感じました。モーターショーは世界的に岐路に立たされているようですが、それは移動の喜びとはあまり関係ない要素を掲げているからではないでしょうか。人間はこれからも移動を続けるはずであり、原点に戻ってアピールすることが大切ではないかと思いました。

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モーターサイクルショーは例年まず大阪で開催され、次に東京という順番で、それは今回も変わりませんでしたが、2022年はこのあと初めて愛知県で「第1回名古屋モーターサイクルショー 」が開催予定です。首都圏の方は明日、そして名古屋周辺の方は4月8〜10日に会場を訪れ、個性豊かなマシンたちから発せられる、モビリティの根源的な素晴らしさを感じとっていただきたいと思っています。

フランスの交通多様性に学ぶ

先週に続いてエネルギーの話をします。今回は私が何度も現地に足を運んだフランスにスポットを当てます。1年前の記事になりますが、欧州ブランドの電気自動車(EV)が増えてきた頃、インターネットメディア「マイナビニュース」で同国のエネルギー政策などに言及していますので、気になる方はこちらもご覧ください。

フランスが電力の約7割を原子力発電に依存していることは知っている人もいるでしょう。2020年の統計では残りの多くも水力や風力などの自然エネルギーで賄っており、火力などCO2を排出する発電は10%以下と、カーボンニュートラルに近い国のひとつになっています。

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フランスが原子力に舵を切ったのは、前回のブログでも触れたオイルショックが契機でした。それまでは多くの先進国同様、石油に依存してきたようですが、オイルショックを受けて自給こそ重要という機運が高まり、アンリ・ベクレルやピエール・キュリーなどの専門家を輩出した地でもあることから、原子力を選択したとのことです。

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その結果、当初はガスタービンエンジンを使う予定だった高速鉄道TGVは電車に切り替わり、絶滅寸前までいった路面電車がLRTとして復活する後押しにもなりました。EVの開発も始まりました。環境都市としても知られるラ・ロシェルではシェアリングサービスを行っており、私は20年近く前、ここで初めて電気自動車を運転して公道を走りました。

ただ当時は鉛電池を使っていたので、後席や荷室があった場所はすべて電池が敷き詰められ、車体はあきらかに重く、加速が活発なのは60km/hぐらいまででした。ゆえに限られた用途向けの供給に留まっていました。将来を見据えて路上に送り出した姿勢を評価しつつ、多くの人が便利で快適だと思うレベルではないものは量販しないという判断に納得しました。

新しい分野に積極的に挑戦しつつ、あくまで使い手の気持ちを尊重する姿勢は、カーボンニュートラルという新しい物差しが登場した近年も変わっていないと感じています。

自動車分野では、ルノーは2020年欧州ベストセラーEVになった「ゾエ」などを持っていますが、エンジン車のユーザーにも目を向け、ディーゼル車からの乗り換えとして、多くの欧州メーカーが敬遠するハイブリッド車を導入しています。イタリアのフィアットや米国クライスラーとともにステランティスの一員になったプジョーやシトロエンは、同じ車体でエンジン車とEVの両方を用意しています。

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一方でルノーはモビリティサービス専用の組織「モビライズ」を立ち上げ、プジョーやシトロエンはシェアリングやレンタルだけでなく駐車場や充電スポットの予約もできるアプリ「Free2Move」を提供。さらに公共交通に近い分野では、自動運転シャトルのナビヤ「アルマ」やイージーマイル「EZ10」がいち早く登場し、このカテゴリーの主役になっています。



こうした動きを見て思い出したのは、交通権という概念です。フランスは世界でいち早く、誰もが自由で快適に移動できることが国民の基本的権利であると法律で定めました。電力に余裕がありながら電動以外の選択肢も残し、既存の枠組みを超えたサービスを考案するなど、多様な移動の選択肢を提供していく姿勢が、交通権に通じていると思ったのです。

前回のブログでは、移動者1人ひとりが複数の移動手段を持てば、エネルギーショックは小さくできると書きましたが、それには選択肢が存在していることが前提です。便利だからとひとつの乗り物に固執せず、新しいモビリティを次々に創造し、でも既存の乗り物と共存させることで使い手に寄り添っていくフランスの姿勢は、これからも注目すべきだと思っています。

カーボンニュートラルより省エネが大切

ロシアがウクライナへの軍事侵攻を始めてから、2週間以上が過ぎました、その前段階であったウクライナ東部地域の一方的な国家承認を含め、ロシア政府の行動は到底許されるべきではありませんが、ここではモビリティにとって重要になるエネルギー問題に絞って取り上げます。

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日本ではレギュラーガソリンの価格が1リッターあたり170円を超え、ニュースになっています。これは世界的な傾向で、欧州ではリッター2ユーロ、つまり250円以上というレベルになっているようです。ただ振り返れば、エネルギー危機はこれまでにも何度かありました。もっとも有名なのは1973年と79年のオイルショックでしょう。

こうした状況に対して、日本をはじめ多くの国が社会全体で取り組んだのが、いわゆる省エネでした。私も幼い頃の記憶で、商業施設などの照明が減らされたことを覚えていますし、米国では小型で燃費の良い日本製乗用車に人気が集まり、自国のメーカーが小型車の開発にシフトしたというエピソードも知っています。

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ところで今回のロシアの蛮行が始まる前まで、エネルギー分野のトレンドはカーボンニュートラルでした。環境対策に貢献する点では省エネと共通していますが、中身は大きく違います。

省エネは文字どおり、石油や天然ガスだけでなく、そこから生まれた電気など、あらゆるエネルギーを節約することです。多くの人が実行できる、わかりやすい目標でしたが、ゆえに具体的な数値は定めにくかったようです。一方のカーボンニュートラルは、温室効果ガスをゼロにするという数値目標が前提です。なので生活者より事業者に向けた指標であると思っています。

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だからでしょう、カーボンニュートラルは分野ごとに論じるのが一般的になっています。省エネ視点、モビリティ視点では、石油依存の少ない移動・物流手段に切り替えることも考えられますが、カーボンニュートラルはあくまで自動車業界内での排出量ゼロを目標にしており、不足があれば金銭で埋め合わせする排出権取引を利用してまで、ゼロに近づけようとしていました。

エネルギー危機に直面した移動者にとって、どちらが重要かは言うまでもないでしょう。多くの人が望むのは、個々の移動のエネルギーコストを抑えることです。そのためには、マイカーから公共交通や自転車に切り替えることができるようにしておくなど、乗り物の選択肢を多く持っておくことが大事です。

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「地方は車がなければ生活できない」というフレーズが嘘であることは、これまでも立証してきました。住む場所を選べば、乗り物の選択肢は増やせます。今回もそうですが、エネルギー危機は突然やってきます。だからこそ日頃の備えが重要だと思っています。繰り返しになりますが、それがカーボンニュートラルとは違う視点での環境対策にもなるわけですから。

空のMaaSが映し出す日本の課題

先月17日、日本航空(JAL)がその名も「JAL MaaS」というモビリティサービスの提供を始めました。日本のエアラインでは全日空(ANA)が2019年から「ユニバーサルMaaS」を鉄道事業者や大学、自治体とともに立ち上げ、実証実験を重ねる一方で、翌年には「空港アクセスナビ」、2021年には「そらたび検索」を相次いで導入しており、国内二大エアラインのMaaSが出揃ったことになります。

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一連の経緯や内容については、インターネットメディア「ビジネス+ IT」で記事にしましたので、興味のある方は読んでいただきたいと思いますが、経路検索のみならず自社の航空券や地上交通の割引乗車券などの決済も可能ということなので、ここだけ見ればMaaSの概念には合致していると言えます。

しかしながら課題もあります。どちらのアプリにも相手のエアラインが反映されないことです。たとえば東京の品川駅から、JAL・ANAともに就航しており、私が先月訪れた石川県小松市の小松駅まで(どちらも市役所や大学などの検索はできませんでした)、8時出発と11時出発で経路検索すると、自身の便が飛ぶ時間帯では飛行機を提案するのですが、相手の便しかない時間帯では新幹線を示したり遅い時間の出発を勧めたりという結果になります。

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地上交通の割引チケットも、JALとANAでは対象の地域や事業者が違うので、事前に双方のサービス内容をチェックしないと、恩恵にあずかれない可能性があります。そもそも多くの利用者は航空機のライバルは新幹線だと思っているのに、アプリではその新幹線は紹介しつつ、相手のエアラインは表示しないわけで、航空会社の視野は私たちと随分違うことを教えられました。

JALもANAも民間企業であるうえに、なかなか感染が収束しない新型コロナウイルスの影響で、厳しい経営状況にあることは理解しています。昨年10月にはこうした状況も踏まえてでしょう、これまで別々に設置していた国内線チェックインシステムの共同利用に向けた取り組みを始めるという、一元化に向けた動きもあります。



MaaSもアプリを統一すれば、検索される航空機が飛躍的に増えるうえに、地上交通の割引チケットも充実し、間違いなくメリットになります。そのうえで機内サービスなどで独自性を発揮すればいいのではないでしょうか。現状はサービスよりビジネス、統合より競争という意識が伝わってくるのが残念です。少なくとも一方はユニバーサルという言葉を掲げたわけですから、ひとりでも多くの人が便利で快適だと感じるモビリティサービスを目指してほしいと思います。