THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2022年04月

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観光輸送の安全性について思うこと

北海道の知床半島沖で観光船が沈没して1週間がたちました。亡くなられた方々のご冥福をお祈りいたします。一方昨日は、関越自動車道でのツアーバス事故から10年を迎えた日でもありました。どちらも観光輸送の最中に起きた惨事で、原因は異なりますが、無理な運行が事故を誘発した可能性が高い点は一致していると考えています。

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たしかに観光は、初めて訪れる土地であることも多いので、個々の交通事業者がどれだけ安全を考えているか、判断は難しいと私も思います。しかしながら実際に移動するのは、私たちの身近にもある、海や川や道路といった場所です。事業者の対策はもちろん大事ですが、それとともに利用者もできる範囲で安全性をチェックし、双方向からレベルアップしていくことが大切だと考えます。

そもそも安全はお金の掛かる対策です。他のサービスについても言えることですが、度を越した低運賃や平常運航などをアピールする事業者は、100%信用しないほうがいいと思います。利用する側も、自分たちの命を乗せて移動しているということを肝に命じていただき、選択眼を養うとともに、運賃や運航面での理不尽な要求は慎んでいただきたいものです。

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観光業界は新型コロナウイルス感染症の影響を大きく受けた業界のひとつです。それが無理な運行・運航を誘発することがないよう、まずは国が積極的に支える姿勢が重要です。対策に不足がある事業者に処分などを行うことも必要でしょう。しかし国が民間事業者に順位をつけたりはできません。利用者個人の選ぶ目もまた大切になってきます。

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*今回使用した写真はすべてイメージです

昨日から大型連休が始まりました。3年ぶりに行動規制のない大型連休ということで、国内各所に観光客が訪れています。また個人的には良いことだとは考えていませんが、急激な円安によって、海外からの旅行客が再び増加する可能性もあります。この流れに水を差さないよう、事業者と利用者がいっしょになって、観光輸送における安全とは何かを、もう一度考えていただきたいと思います。

JR西日本のSOSは日本流鉄道運営のSOSだ

今月11日、JR西日本が「ローカル線に関する課題認識と情報開示について」というタイトルで、2019年度の輸送密度(平均通過人員)が1日2,000人未満の線区について収支率などを開示しました。多くのメディアで取り上げられたニュースであり、沿線自治体などから意見が相次いで出されたことを知っている人もいるでしょう。

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JR西日本のニュースリリースはこちら

新型コロナウイルス感染拡大によって公共交通が危機的状況にあるにことは、以前のブログでも書きました。そのときは欧州などで導入されている、税金や補助金を前提とした運営に切り替えるべきという主張をしました。今回の発表に際して、その気持ちがさらに強くなりました。ここでは数字を挙げて妥当性を説明したいと思います。

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令和4年度国土交通省予算配分のウェブサイトはこちら

まず国土交通省が発表した今年度の予算配分額から抜粋して紹介すると、道路整備は約1.76兆円に達しているのに対し、都市・幹線鉄道は約693億円と25分の1以下です。輸送担当比率もこのぐらいなら納得できますが、JR東日本の資料によると、鉄道の旅客輸送分担率は3割に達しています。もちろん道路は歩行者や自転車なども使いますが、それを勘定に入れても鉄道予算は少なすぎると感じます。

しかも道路は高速道路などを除けばすべて無料、つまり税金で作られています。一方、日本の多くの鉄道は、運賃収入を主体として運営しています。これも大きな違いです。では欧州はどうか。フィンランドの首都ヘルシンキ都市圏の公共交通を運営するHSLの資料を紹介すると、収入の約半分を自治体や国からの補助金で賄っていることがわかります。

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日本にも公共交通向けの補助金はありますが、多くは経営を支えるためであり、運営が改善すれば補助は打ち切られます。欧州の場合は運営状況にかかわらず、一定の補助金や税金が投入されます。なので経営努力が実を結べば、顧客サービス向上やスタッフの待遇改善につながるのです。

経営が厳しいならバスに転換すればいい、マイカーがあれば鉄道はいらないという意見もあります。ただし鉄道には定時性・速達性という長所があり、とりわけ日本の鉄道はこの面で世界に誇るレベルにあります。一方でこの国の道路交通のマナーが世界に誇るレベルにないことは、東京での降雪時の対応を見ても明らかです。信頼度が圧倒的に違うことは、私自身もメリットとして感じています。

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しかも大量輸送は当然ながらエネルギー効率でも有利です。JR東日本の資料によれば、同社の鉄道のひとり1kmあたりのCO2排出量はマイカーの10分の1以下です。ロシアのウクライナ侵攻によってエネルギー危機が訪れつつある今必要なのは、ガソリン車か電気自動車かという狭い議論ではなく、あらゆる面で省エネを心がけることであり、大量輸送が可能な鉄道はむしろ注目すべきモビリティです。

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JR東日本環境対策のウェブサイトはこちら

今回のJR西日本の発表には、既存の考え方ではこの問題は解決できないというメッセージが含まていると感じています。国レベルでの抜本的な改革が必要な時期にきていると感じており、国会などで迅速にこの分野の議論が活性化されることを望みます。

小諸MaaS 驚きの2年目

以前もこのブログで紹介した、長野県小諸市での交通まちづくりが、この春から新しいフェーズに入りました。本日4月16日からスタートしたもので、事業会社であるカクイチのアドバイザーを務めている私も出発式に立ち会いました。

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小諸市で交通分野の社会実験が始まったのは昨年4月のこと。「egg」と名づけた3輪と4輪の電動カートを、しなの鉄道/JR東日本小諸駅、市役所、旧北国街道の宿場町などを周回させ、予想以上の利用を記録しました。続いて8月には電動バス「こもこむ号」を使った市内巡回路線も運行開始。翌月には電動バス/カートのロケーションシステムや時刻表、QRコードによる乗車チケット、協賛店舗一覧情報などを提供するウェブサイトを開設しました。

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今回の社会実験は「縁JOY!小諸」と名付けられており、DX(デジタルトランスフォーメーション)とMaaSを組み合わせ、まちなか滞留・回遊を促進するという、一歩進んだ内容になっています。参加組織も小諸市とカクイチに、しなの鉄道、JRバス関東、都市再生機構(UR都市機構)、まちづくり小諸などが加わっており、格段に層が厚くなりました。

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縁JOY!小諸のウェブサイトはこちら

同名のポータルサイトが開設されたほか、小諸駅や観光名所の懐古園などには大型デジタルサイネージ「こもろタッチ」も設置。MaaSアプリ「信州こもろ・こま〜す」はLINEから入る形として、多くの人が気軽に利用できることに配慮しており、電動バス/カートのロケーション、飲食店/商店の位置やサービス内容などが見られるだけでなく、しなの鉄道の電子チケット購入も可能になりました。

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まちなか整備も着々と進んでいます。昨年8月には市役所の近くに複合施設「こもテラス」がオープンし、地元資本のスーパーマーケット「ツルヤ」が入りました。小諸駅脇の大手門広場にはイベントスペース「まちタネひろば」が開設。この日も多くの人で賑わっていました。北国街道沿いの古い建物をリノベーションして、サービスやビジネスの拠点として活用する例も目立ってきています。

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それにしても驚くのは、動きはじめて2年目で、ここまでの発展をしていることです。自分が見てきた国内の地域交通改革やまちづくりの中でも、かなりダイナミックな事例です。ひとえに小諸市やカクイチをはじめ、関係する組織の決断力と行動力の賜物でしょう。今後も駅前広場の改良などに手をつけたいとのこと。機会があればぜひ小諸を訪れて、改革の様子を肌で感じていただければと思っています。

境町自動運転バス安定運行の秘訣

このブログでも紹介したことがある茨城県境町の自動運転バスが、昨年11月末に1年間の安定運行を達成しました。偉業と呼べるこの結果に対しては、日本自動車会議所および日刊自動車新聞社が創設した「クルマ・社会・パートナーシップ大賞」で第一回の大賞に選ばれるなどの評価を受けています。

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一方、運行を担当しているソフトバンクグループのBOLDLY(ボードリー)では、「2021年度安定稼働レポート」を作成しています。ビジュアルを多用した48ページにわたる内容はとてもわかりやすいので、興味がある方は見ていただきたいと思いますが、ここではそのレポートを見て感じたことを取り上げていきます。

まずお伝えしたいのは、1年の間にサービスが着実に進化していることです。2020年11月25日に出発式を行った当初は1台だけでしたが、翌年1月になると2台が同時に走るようになり、2月にはバス停を追加。4月には乗務員を2人から1人に減らし、8月には2番目のルートを追加するとともに土日の運行も始め、10月からは新型コロナウイルス感染予防の観点から4人を上限としていた乗車人数を8名に緩和しています。

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ボードリーの2021年度安定稼働レポートはこちら


この結果、当初は5年で達成する予定だった走行ルート20kmを1年で実現。バス停については町民とのコミュニケーションによって、子育て支援センターのキッズハウス、スーパーマーケットのエコスなどが増設されました。1か月あたりの走行距離も、2021年6月の1156kmが、半年後の11月には2427kmと倍以上になっています。

境町の自動運転バスは現状ではレベル2であり、自動運転の続行が難しい場面では、乗務員が事前に手動運転に切り替えます。しかしながら年間平均での自動走行比率は73.5%に上ります。公道で一般車といっしょに走行していることを考えればかなり優秀です。ボードリーでは安定走行のために、道端ののぼり旗の撤去などをお願いしているそうで、こうした働きかけが効果を発揮しているようです。

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境町の自動運転バスは最高速度が20km/h未満のグリーンスローモビリティであり、ルートは幹線道路を避けていますが、それでも渋滞が発生しました。そこで短い間隔でバス停を設置し、追い越しのタイミングを増やすという対策を取りました。バス停の一部は町民から提供された私有地に設置しました。その結果、2021年4月は1便ごとに0.9回あった追い越しが、同年11月には 0.05回と劇的に削減したそうです。

地域の人たちは運行にも関わりはじめています。当初は運行スタッフはボードリーがすべて担当していましたが、現在は地域住民から8人を採用しており、遠隔監視センターも町内の施設内に設置しています。ボードリーでは今後、地域住民が運行に関わる割合を増やしていきたいとしています。

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町民が協力的である理由は、人口約2.4万人の小さな町に年間100件以上の視察陣が訪れ、テレビや新聞でたびたび扱われるなど、全国的に注目を集めていることが大きいでしょう。公共交通を軸としたコンパクトシティで注目された富山市同様、シビックプライドが育まれつつあると感じています。境町は自動運転バスの導入に際して、5年間で5.2億円という予算を組みましたが、経済効果は2020年1月からの2年間で総額6億円以上とのことです。

境町は自動運転バスだけをアピールしているわけではありません。昨年7月には東京駅と町内のバスターミナルを結ぶ高速バスが走りはじめ、町内には隈研吾氏が手がける建築物、国際大会基準を満たすスポーツ施設が次々に作られるなど、多角的にまちづくりを進めています。その結果、以前のブログでも触れたふるさと納税額は、さらに増えているそうです。

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一年間でこのレベルまで到達した理由として、やはり町長のリーダーシップは大きいと思いますが、行政・事業者・町民みんなが積極的に動いて、いい結果を目指していこうという熱意も感じました。今の日本の地域交通に大事なことが、この町にはあると感じています。日本を代表する「自動運転の町」として、これからも注目していきたいと考えています。

ソニーはモビリティの本質が見えている

2022年も3ヶ月が経過しました。この間のモビリティ分野での話題のひとつに、ソニーグループの動きがありました。まず1月に米国ラスベガスで開催したCES(家電見本市)で、2020年に続いて2台目となる電気自動車のコンセプトモデルを公開するとともに、新会社ソニーモビリティの立ち上げをアナウンスすると、3月には本田技研工業(ホンダ)との間で戦略的提携に向けて基本合意しました。

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この2つの出来事について、インターネットメディア「ビジネス+ IT」で記事を書かせていただきました。興味がある方はお読みいただければと思いますが、まず私は1月の発表を聞いて、ソニーは自分たちだけでゼロから自動車を開発するわけではなく、既存メーカーなどと組むだろうと予想していました。




自動車産業は長年、垂直統合型のものづくりが主流でした。これからもその手法は残るでしょう。しかしソニーも関わるICTの分野では、水平展開のものづくり、自社工場を持たないファブレス方式などが一般的になりつつあり、近年は自動車業界にもそれが浸透しつつあります。

たとえばグーグルの自動運転部門が独立したウェイモは、当初こそ車両も自社開発しようとしましたが、その後は既存の自動車メーカーの車両に自動運転技術を搭載し、自動運転タクシーの商用運行などに発展しています。車両はクライスラーやジャガーなどが使われているようですが、多くの人は「ウェイモの自動運転車」と呼んでいます。ソニーもこのスタイルを目指すものと思われます。

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SC-1共同開発についてのヤマハ発動機のニュースリリースはこちら

しかもソニーにはモビリティ分野での経験があります。ヤマハ発動機と共同開発したソーシャブルカート「SC-1」、タクシー配車アプリ「S.RIDE」、ニューステクノロジーとの連携による車内および車窓サイネージサービス「GROWTH」「Canvas」などです。ホンダが初の提携相手ではないわけです。さらに言えば、イメージセンサーは先進運転支援システム(ADAS)やドライブレコーダーでお馴染みになっています。

記事ではこれらが将来、ホンダとの連携で生まれる自動車などに搭載されるだろうと書きました。すると昨日、ソニーグループはソニーモビリティの設立を発表。モビリティ向けサービスプラットフォームの開発および事業化とともに、SC-1事業の展開、S.RIDEへのサポート継続を明記しました。現在のデジタル分野のものづくりなどを見れば、自分以外にもこうなるだろうと予想した人は多いはずです。

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昨日の発表で驚いたのは、事業展開の中に自律型エンタテインメントロボット「aibo(アイボ)」が含まれていたことです。ゲームや映画、音楽とともに移動時間を盛り上げてくれる存在になるのか、高度なロボティクス技術を自動運転の移動サービスや物流サービスなどに発展させていくのか、興味が湧きます。

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ソニーモビリティ株式会社設立のニュースリリースはこちら

CESでの発表がコンセプトカーの公開を兼ねていたので、ソニーが自動車を作るという部分だけに注目する人もいたようですが、同社はもっと広い目でモビリティシーンを見ており、自分たちの技術を移動に役立てたいというメッセージを感じます。移動可能性というモビリティ本来の意味に近いビジョンであり、あらためて注目すべき会社のひとつであると感じました。