THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2022年09月

JR九州(西日本旅客鉄道)の西九州新幹線が昨日開業しました。路線や運行などの情報はニュースを見ていただくとして、今回は開業に便乗する形で、私も何度か利用したことがあるJR九州のデザインを取り上げます。といっても、新幹線や特急列車、「ななつ星in九州」に代表される観光列車ではなく、地域輸送を支える通勤・近郊型車両にスポットを当てます。

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JR九州のデザインと言えば、鉄道にくわしくない人でも、ドーンデザイン研究所代表取締役を務める水戸岡鋭治氏が手がけていることを知っているのではないでしょうか。西九州新幹線を走りはじめたN700S系も、基本設計は東海道・山陽新幹線を走る車両と共通ですが、内外装のデザインは同氏が担当しています。

水戸岡氏は九州出身ではなく、岡山市生まれです。福岡県内のホテルのアートディレクションを担当し、お披露目式に参加した際に、当時のJR九州社長とつながりを持ったことがきっかけだそうです。その後このホテルの脇を走る香椎線用の観光列車を、既存のディーゼルカーの改造により実現。これが評価され、以降のJR九州の車両を一手に引き受けることになりました。

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個性的なデザインは他の地域でも注目を集め、地元岡山の両備グループが運営する岡山電気軌道や和歌山電鐵をはじめ、富士急行(富士山麓電気鐵道)や京都丹後鉄道など、全国各地の鉄道車両を担当。バスもこのブログでかつて紹介した、東京の池袋駅周辺を走るIKEBUSなどをデザインしています。

ここまで紹介してきたのは多くが観光向けです。メディアで紹介される車両もほとんどそうなので、水戸岡氏=観光車両のイメージが強いかもしれません。しかも多くの作品は、子どもが乗って喜ぶことを重視して、エンターテインメントを強調した仕立てなので、演出が過剰だと感じる人もいるでしょう。しかし九州に行くと、すべての水戸岡デザインがそういうテイストで統一されているわけではないことがわかります。

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写真で紹介するのは私が出会った車両です。外観は黒や赤を効果的に使いつつ、機能的に仕上げており、車内は木や金属を使ったり、座席のファブリックを変えたりして、モダンでクールな雰囲気が伝わってきます。とりわけ福岡市と佐賀県唐津市を結ぶ筑肥線は、福岡市営地下鉄と相互乗り入れを行っていて、両者の車両を乗り比べることができるので一目瞭然です。

駅舎についても同じことがいえます。ここでは鹿児島本線の上熊本駅を紹介しますが、通勤車両同様、木を多用しながら落ち着いた雰囲気でまとめられており、たま駅長をモチーフにした和歌山電鉄貴志川線の貴志駅とは対照的です。つまり水戸岡氏は移動と観光をしっかりわけて考え、それぞれに合ったデザインを与えているのです。

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現在の通勤車両は多くが基本構造を共用しており、ホームドアによって利用者が目にできる範囲も狭くなっているので、デザインの自由度は昔に比べると少なくなっています。それを考えれば、観光列車とは一線を画しつつ、その土地の車両であることを主張しているJR九州の通勤・近郊形車両は、もっと注目されていいと思います。たとえ通勤電車であっても、乗ってみたくなる気持ちになることは大事です。

今日は東京都世田谷区の世田谷公園で行われていた、「三宿みちまちフェア2022」を覗いてきました。ここでは昨年10月にも同様のイベントを開催していました。そのときはこのブログでは、現地で体験したヤマハ発動機「NeEMO(ニーモ)」を紹介しましたが、今回はイベントそのものにスポットを当てていきたいと思います。

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このイベントは地元の商店会「Mishuku R.420(世田谷公園に近い三宿通りが都道420号であることに由来)」が主催するもので、自治体、警察、大学などが協力し、ヤマハ発動機が協賛しています。交通安全教室および自転車教室を行うとともに、新しい電動パーソナルモビリティの試乗会も実施しており、私はモビリティ試乗会を訪れました。

用意されたのはNeEMOのほか、子供を前に載せられる外国製の電動アシスト3輪カーゴバイク、ヤマハ発動機の立ち乗り型電動3輪モビリティ「TRITOWN(トリタウン)」の3種類でした。NeEMOと3輪カーゴバイクは以前体験していたので、今回はTRITOWNに乗りました。電動キックボードの3輪版という成り立ちですが、足を乗せるステップがフレームの左右にあり、足への体重の掛け具合で曲がるというモーターサイクル的な走行感覚で、このカテゴリーでは珍しく操る実感が味わえるものでした。

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注目すべきはこの3車種がすべて、現時点では法律上日本の公道を走ることができず、市販もしていないことです。ヤマハ発動機の2車種はプロトタイプで、3輪カーゴバイクは日本の普通自転車の寸法基準を満たしていないためです。こうした車種の一般向けの試乗は、大きくてスピードも出る自動車では、到底できないことでしょう。小型軽量低速というモビリティの特性を活かした企画に好感を抱きました。

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しかもこのイベントでは、ただモビリティを体験してもらうだけでなく、近年世界各地で人中心のまちづくりが進んでおり、そこではこのような乗り物が重要になることを知ってもらうという意味も込めています。それを公園という場で実施することで、モビリティにさほど興味を持っていない人にも、乗車体験を通して新しいまちづくりを理解してもらうという目的があったようです。この日は天候に恵まれ、多くの人が体験していたので、相応の収穫はあったのではないでしょうか。

モビリティに限った話ではありませんが、近年の日本人の意識は世界レベルで見ても保守的・画一的であることが際立っていると感じています。地球温暖化や少子高齢化など、私たちの生活を取り巻く環境は変化しているわけで、モビリティもそれに合わせて変えていくことが必要です。そのための手段のひとつとして、このような草の根的な活動は価値があると感じました。

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モビリティ試乗会は明日18日も開催予定でしたが、台風14号が接近していることを受け、中止となりました。残念ではありますが、早めに中止を決断した判断には感心しました。ただしヤマハ発動機では並行して神奈川県鎌倉市で「ひとまちラボ鎌倉」を10月28日まで実施しているほか、今後もさまざまな地域で同種の催しを行っていくとのことなので、期待していきたいと思っています。

新型コロナウィルス感染症の流行が続く中、地方創生や公共交通活性化などを目的として、主に地方でMaaSの検討や導入が目立っています。今回はその中から、インターネットメディア「ビジネス+ IT」でも記事を掲載し、個人的にもレベルが高いと感じた栃木県日光市のNIKKO MaaSについて取り上げます。

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導入の経緯やMaaSの内容、使用感については、運営を担当する東武鉄道の担当者へのインタビューを含めて掲載していますので、気になる人は読んでいただければと思いますが、このMaaSでまず感心したのは、昨年10月の導入当初から通年での本格サービスを続けていることです。日本国内の多くのMaaSが実証実験止まりで期間も限られているという中で、本気を感じます。

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デザインも目を惹きました。四季を通じて日光に訪れてほしいという気持ちを4色で表し、それぞれにメニューを配したトップ画面は使いやすく、そこから先の操作感も快適です。これまでの日光は高齢の旅行客が多かったということで、コンテンツを絞り込み、扱いやすさにもこだわったそうですが、それが自分を含めたあらゆる人に便利だと感じさせてくれる、一種のユニバーサルデザインになっています。



すべてを東武鉄道自身で構築しようとせず、交通系フリーパスの発券機能などは小田急電鉄が開発したMaaS Japanを用い、観光系チケットについてはJTBのシステムと連携させたところも好感を抱きました。MaaSは多様な移動を単一のパッケージとして提供するものであり、多くの民間事業者が交通に携わる日本ではハードルが高いと感じていますが、東武鉄道は柔軟に対処しているようでした。

沿線への周知が行き届いていることにも評価すべき点です。今回は東武鉄道の特急列車と現地の路線バス、お使い、日光東照宮と金谷ホテル歴史館を訪ね、昼食にはフリーパスの特典がつく飲食店を訪れましたが、いずれもスマートフォンの画面を見せるだけでスムーズに対応してくれました。事前に説明会を開いたりして周知を徹底したことが、地域との一体化に結びついているようです。

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日光を訪れたのは久しぶりでしたが、若者の多さに驚きました。東武鉄道ではMaaS以外に、日光をテーマにしたインスタグラムを立ち上げるなど、デジタル世代に向けたコンテンツをいろいろ用意しており、それが功を奏しているようでした。そしてMaaSから得られたデータによれば、東武鉄道の走っていない神奈川県からの観光客が東京都に次いで多くなったそうです。これもデジタル展開のメリットと言えるでしょう。

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実際に使ってみても、オールインワンというMaaSで重要なポイントを高い次元で実現しており、国内のMaaSとしては完成度が高いと感じました。状況に応じて経由地を追加したり、帰りの列車の時間を決めたりという、紙のチケットでは難しい臨機応変なスケジュールを受け入れてくれることも助かりました。これから日光は紅葉の時期を迎えます。機会があれば足を運んでみてはいかがでしょうか。

ひさしぶりに名古屋で時間が取れたので、以前から気になっていた名古屋市交通局の基幹バスを利用してみました。基幹バスとは同市が市電の廃止を受け、代替交通手段として地下鉄とともに考えたもので、今から40年前の1982年に走りはじめました。バスに鉄道並みの定時性や速達性をもたらすべく、バス専用レーンを用意し、停留所の間隔も長くしたものです。

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つまり考え方としては、世界各地で普及が進んでいるBRT(バス高速輸送システム)に近いものです。ブラジルのクリチバで世界初のBRTが走りはじめたのは1974年であり、日本で最初にBRTの名を冠したと思われるJR東日本(東日本旅客鉄道)気仙沼線BRTが運行を始めたのは東日本大震災翌年の2012年ですから、驚くほど先進的な取り組みであったことがわかります。

計画段階では数路線が考えられていたようですが、現在運行しているのは2路線。それ以外に昔紹介した名古屋ガイドウェイバスも、基幹バスのひとつとして計画されたものだそうです。私が利用したのは基幹2系統で、LRTのように道路の中央にバスが走る、海外で目にしたBRTに限りなく近い光景です。市営バスだけでなく名鉄バスも基幹バスを走らせており、鉄道で言えば乗り入れをしているような状況です。

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乗ってみると、確かに通常の路線バスよりスピードが速く、停留所も少ないので、予想以上に早く目的地に着くことができました。にもかかわらず運賃は他の市営バスと同じなので、お得な感じがしました。地下鉄と違って地上を走るので、LRTと同じように上下移動なくアクセスができます。高齢者や子ども連れの利用者など、ありがたいと思う人が多いでしょう。

しかしながら日本国内で、このような交通システムを採用しているのは名古屋市ぐらいです。日本の多くのBRTは、連節バスを走らせ、停留所の間隔を空けたものという誤った解釈が目立っており、専用レーンを用意したものは前述の気仙沼線のように鉄道の廃線跡を使用したものが多く、道路の一部をレーンとして運行しているものはなかなか思い浮かびません。

だからでしょう、地元以外の人にとっては奇異に移るようです。先日も東京のテレビ局が、「ややこしい道路」というテーマのネタのひとつとして紹介していました。最初は公共交通を軽視した内容だと感じていましたが、番組を見ていくうちに、基幹バスのレーンがバス専用となるのは朝夕のラッシュ時だけで、それ以外の時間は一般車両が走れることも問題だと考えるようになりました。

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自分が名古屋市内を運転したのは数えるほどでもあり、基幹バスレーンに入ろうかどうか戸惑います。しかし海外でよく見るBRTでは、そういう印象を受けません。理由は常時バス専用レーンであり、一般車道の間を縁石などでしっかり区切っているところが多いからです。つまりLRTの電車をバスに置き換えたような感じです。これなら戸惑うことはありません。

名古屋市が基幹バスをどう考えているかによりますが、個人的には海外のように常時専用レーンにして、一般レーンとの間を明確に分ければ、LRTにおける富山のような、日本を代表する都市型BRTになれると考えています。名古屋という大都市で良いサンプルが生まれれば、当然ながら注目度は高く、それをお手本にして他の都市も追随することが期待できます。

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名古屋市は広い道幅を生かして歩道を広く取り、自転車レーンを充実させるなど、道路整備で言えば好ましいシーンを各所で目にします。環境問題やエネルギー問題などを考えれば、40年にわたり親しまれてきた基幹バスもブラッシュアップさせ、日本初の本格的都市型BRTに発展させてほしいと思いますし、基幹バスにはそのポテンシャルがあると感じています。

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