いま経済界でもっとも注目の人物が、フランスの経済学者トマ・ピケティ氏でしょう。2013年に母国で、そして昨年日本で発売された著書「21世紀の資本」は、約700ページというボリューム、6000円近い価格(いずれも日本版)にもかかわらず、世界的なベストセラーになっています。私も読者のひとりです。

彼の主張については、すでに多くのメディアで紹介されているので、著作を読む必要はないと考える人がいるかもしれません。また「◯分でわかる」などの参考書に目を通せば良いと思っている人も多いようです。安易に結果を求めたがる最近の日本らしい風潮です。

capital

この本の肝は、結果よりも過程にあるのではないかと思っています。産業革命から現在までの主要国の経済状況を、当時は存在しなかったコンピュータを活用して統計化し、結論を導き出したのです。つまり憶測や願望でモノを言っているのではなく、主張に裏付けがあるのです。それが世界中から評価を受けている理由でしょう。

そこから導かれた主張である「資本主義が発展すると格差は大きくなる」は、現在の我が国のモビリティの世界にも、ある程度当てはまります。JR九州の超豪華寝台列車「ななつ星」は予約が殺到し、料金値上げが実施されたのに対し、地方住民の足である鉄道やバスは廃止や減便が相次いでいます。自動車の世界では、新車で販売された4割が軽自動車でありながら、1000万円以上の超高級車も売れ行きを伸ばしています。

格差が小さくなれば、超豪華列車や超高級車は、一時的に需要が低下するかもしれません。しかしクオリティを大きく落とさない範囲で価格を下げれば、すぐに挽回するはずです。逆に格差が大きくなっても、同じ列車に乗る回数を増やしたり、同じ車種を何台も手に入れたりすることは、マニアでない限り稀有でしょう。そこで料金や価格の値上げとなります。逆に低所得者層では、所得がさらに減少し、移動に支障をきたす人が増える可能性があります。移動の格差もさらに拡大することになります。

格差を完全になくすことは不可能であり、すべきでもありません。背が高い、絵が上手、運動神経に優れるなど、人は生まれた時点で格差を持っているわけですし、ある程度の競争がなければ、たぶん人は怠けてしまって、新しい技術やデザインが登場しなくなり、やがては人間以外の生物に地球の主役を奪われてしまうでしょう。しかし我が国でも近年、格差が過大になりつつあるのは事実であり、どこかで歯止めをかけるべきではないかと考えます。


bentley

日本ではあまり話題になりませんが、彼は20世紀の100年間で格差が小さくなった時期として、二度の世界大戦を挙げています。戦争が起これば格差は縮小する。これが歴史の真実なのです。21世紀は戦争以外の手段で格差縮小をすべき。それが「世界的な資本税」という提案をしたピケティ氏の真意ではないかという気がしています。

格差拡大を人のせいにして放っておけば、過去のオウム真理教や現在の中東地域のような過激派が台頭し、やがて戦争に結び付くのではないかと危惧しています。そうならないためにも、1人ひとりが真剣にこの問題を考え、動くことに尽きるのではないかと思っています。