1か月前に自動運転の本を出したことは、このブログでも紹介させていただきましたが、実はあの本を出すにあたって、ひとつだけ心残りがありました。本を書く前に見ておきたかった現場があったからです。スイス南東部の都市シオンで2016年6月から始まっていた自動運転バスの運行がそれです。

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シオンで使われているのは、日本でも7月にソフトバンクグループのSBドライブなどが東京で実験走行を行った仏ナビヤ社のアルマです。しかし日本では他の通行を制限した公園内の道路を走ったのに対し、シオンでは旧市街の公道を歩行者や他の自動車に混じって運行しているとのことで、本当なら一般人を乗せて公道を走る初の自動運転車になるからです。

書籍の発売と前後して訪れたその模様については、東洋経済オンラインの記事にもまとめたので(動画もあります)、気になる方はお読みいただければ幸いですが、そこでは書かなかった感想として、本のタイトルにも掲げた「自動運転社会」を知るのに、シオンはとても良い場であると思いました。

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東洋経済オンラインの記事=http://toyokeizai.net/articles/-/190889

他の多くの国と同じように、スイスも運転者がいない無人運転での公道走行は認められず、シオンを走るアルマには2人のオペレーターが乗り、ひとりはゲームのコントローラーのような端末を持っていました。しかしその端末を操作したのは最初に発車した時だけで、それ以外は車幅ギリギリの狭い道を抜け、路地を曲がり、歩行者がいれば徐行や停止を行いながらスムーズに進んでいきました。

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その代わり道路には停留所だけでなく、自動運転バスが走ることを伝える道路標識が追加され、観光案内所にはパンフレットが置かれていました。おそらく市の広報紙にも明記してあり、日本よりも政治に関心が高い欧州ですから、多くの住民はそれを知っていたでしょう。LRTと同じように、まちづくりの一環としてのモビリティという姿勢が、導入や走行をスムーズに進めるうえで重要だと教えられました。

日本では交通を遮断した道路で実証実験を行う車両を、歩行者や自転車、他の自動車といっしょに走らせるのは危険だと思う人もいるでしょう。しかし自動運転の実用化において、公道での混合交通はいつかは通る道です。この課題を前に、本来は無人運転でも走るレベル4相当の車両を、あえてオペレーターを乗せたレベル3に格下げすることで公道走行を実現したシオンの手法には賛同したいと思います。

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シオンの自動運転バスは月曜日を除く毎日午後走っており、誰でも無料で乗れます。多くの日本人にとって、山に囲まれたこのスイスの小都市に足を運ぶのは容易ではないでしょう。しかし自動運転に興味を持つ人であれば、この現場を体感して損はないと思います。自動運転社会はどうあるべきか、を考えるうえで多くのヒントが詰まっていると感じています。