本田技研工業(ホンダ)の原動機付自転車(原付バイク)「スーパーカブ」が今年10月に累計生産台数1億台という偉業を達成。同時に最新の排出ガス規制をクリアすることを主目的としてマイナーチェンジが行われました。その新型に横浜で行われた試乗会で乗ることができました。試乗の印象については下記ウェブサイトを見ていただくとして、ここでは生産1億台に達し、来年で60周年を迎えることができた理由を考えました。

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スーパーカブの試乗記(webCG)http://www.webcg.net/articles/-/37629

偉業達成の第一の理由が「壊れにくさ」にあることは間違いないでしょう。これは13年ぶりに日本市場に復活したトヨタ自動車のピックアップトラック「ハイラックス」、先日マイナーチェンジした同じトヨタの「ハイエース」など、グローバル展開する我が国の実用車が共通して持つ特徴です。スクーターや乗用車とは比べ物にならないぐらい故障しないことが重視される分野で、日本製品ならではの信頼性や耐久性の高さが生きているのでしょう。

この信頼性を得るために、可能な限り簡単な構造を用いていることは特筆すべきではないかと思います。トランスミッションには遠心クラッチを用いることで、複雑な機構を使わずクラッチ操作を解放しました。燃料タンクの上に乗るシートのストッパーはなんとゴムの吸盤で、吸盤の端をタンク側のリブに引っかけることで固定しています。こうした柔軟な創意工夫がロングライフ、ロングセラーに貢献しているのだろうと感じました。

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スーパーカブは最新型でもセルモーターだけでなくキックスターターを装備しています。出先でバッテリーが弱ってもエンジンを掛けて帰ってくるようにできるためでしょう。これ以上排出ガス規制が厳しくなったら水冷化を考えるかもしれないが、可能な限り空冷でいきたいというエンジニアの言葉からも、シンプルさにこだわる精神が伝わってきます。

もうひとつは「乗りやすさ」です。先ほどの遠心クラッチはもちろん、フレーム構造はスクーターに近い乗り降りのしやすさで、当初から4ストロークにこだわったエンジンは力の出方が穏やかなので、2輪車に乗ったことがある人ならすぐに乗りこなせるでしょう。エンジンを水平に倒し、その上に燃料タンク、人間が乗るというパッケージングが重心変化を最小限に抑えていることも見逃せません。

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しかしそれは、つまらない乗り物であることを意味しません。遠心クラッチとシーソー式シフトペダルの連携操作は簡単ではありますが、スムーズに走らせるにはマニュアル・トランスミッション(MT)並みのコツが必要です。つまり乗りこなすプロセスが味わえます。エンジンを回してギアを変え、大径タイヤで支えられた車体をリーンして曲がる走りはモーターサイクルそのものです。これもまた愛着のある乗り物として育くまれた一因ではないかと思いました。

こうした基本構成を、レッグシールドからリアフェンダーにかけてのS字カーブが独特のスタイリングでまとめた技も感心します。スーパーカブは個性という点でも比類なき乗り物だと断言できます。そして今回のマイナーチェンジでは、角形ヘッドランプにスマートなスタイリングの従来型を海外向けとして残しつつ、日本製に戻った国内仕様は昔のスタイリングを取り戻すという、伝統を尊重する動きも見せています。

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デビューから約60年が経過しているのに現役の実用品として立派に通用し、なおかつ趣味的な面で見ても満足できるデザインと走りを備えている。このバイクの生みの親でもある本田宗一郎氏はやはり偉大な人なんだと実感しました。モビリティに興味を持つ日本人のひとりとして、スーパーカブの素晴らしさをしっかり国内外に伝えることも仕事のひとつであるという思いに至りました。