高速道路の制限速度を時速100キロから110キロに引き上げる試行が始まりました。今年11月からまず新東名高速道路、12月からは東北自動車道のそれぞれ一部区間で導入しています。この件について私はさまざまなメディアで発言や執筆をしてきましたが、今週もラジオ(ニッポン放送「高嶋ひでたけのあさラジ!」)でコメントを紹介していただいたので、そこでの内容を含めもう一度取り上げることにします。

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新東名高速道路110キロ区間を管轄する静岡県警察のウェブサイト=https://www.pref.shizuoka.jp/police/anzen/jiko/kiseka/sokudo110.html

昨年5月のブログでも書きましたが、今回の引き上げは多くの自動車が高速道路で出している速度、つまり実勢速度に制限速度を近づけることで速度のバラツキをなくし、追い越しを減らすことで事故の発生を抑えるという目的があります。近年、多くの国で制限速度の引き上げを実施しているのも同様の理由であり、その結果事故が減ったという報告も多く寄せられています。

しかしすべての車両が110キロとなるわけではなく、上のイラストで示しているように大型トラックなどは80キロのままです。トラックより乗用車の方が偉いということではありません。乗用車に比べて重く重心が高い大型トラックは、ブレーキ性能や操縦安定性で乗用車に大きく劣るためです。そして乗用車などと大型トラックなどの速度差をつけることで、大型トラックの追い越しによる重大事故を減らすという目的もあります。

今回感心したのは、いままで単一だった最高速度の表示を2種類に分けたことと、片側3車線の区間では大型トラックなどの通行帯をもっとも左側の車線に指定する交通規制を実施したことです。いずれも2種類の速度制限があることを明示した好ましい動きです。しかしインターネットを見ると、110キロ引き上げについて賛否両論が出ているようです。さまざまな理由が考えられますが、日本のドライバーが追い越しに慣れていないことも関係していると思っています。

日本の道路では、追い越しのための右側はみ出しを禁じた黄色い車線をよく見かけますが、欧米でここまではみ出し禁止の道路が多い国は記憶にありません。事故を減らすにははみ出しを禁止すれば良いという判断が主流だったのでしょう。その結果、日本の多くのドライバーが追い越しの経験が少ないまま高速道路を走り、追い越しが終わっても走行車線に戻らないなど、さまざまな問題を引き起こしているのではないかと思います。

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ついでに言えば上の写真で見える信号機はいずれも、主として横断歩道のために用意されていますが、これも欧米諸国ではほとんど目にしません。日本を含め、横断歩道を渡ろうとする歩行者がいれば自動車は停止するのがルールだからです。ところが我が国では、それでは事故が多くなるという判断なのか、信号による制御が一般的になってしまっています。

どちらも一見すると危険を遠ざける、好ましいルールに思えます。しかし人口10万人あたりの交通事故死者数で、日本は欧州諸国とほとんど変わりません。この数字から懸念するのは、ドライバーの「運転力」が低下しているのではないかということです。

ここでいう運転力とは速く走る能力ではありません。道路という公共空間のもとで、周囲の環境と協調し、状況に応じて的確な操作ができる能力を示すものです。近年の日本は一般道路でも制限速度の引き上げが行われる一方、生活道路ではゾーン30の導入が進み、信号のない環状交差点(ラウンドアバウト)も増えています。自動運転社会が目前に迫っているだけに戸惑うかもしれませんが、本来は移動者ひとりひとりがわきまえておくべき心得だと思っています。