3月18日、米国アリゾナ州テンピでウーバー・テクノロジーズ社が公道で実験走行中の自動運転車が、死亡事故を起こしたことは、多くの方がご存じだと思います。すでに現地の警察が映像とともにコメントを発表しており、現地のメディアもさまざまなニュースを配信しています。この場を借りて亡くなられた方にお悔やみを申し上げます。

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私は今月上旬、ペンシルバニア州ピッツバーグの公道で同社の自動運転車に乗ったばかりで、試乗に先駆けて説明も受けました。原因解明はしばらく先になりそうですが、これまでの自動運転車体験も踏まえ、今の時点で考えていることを記すことにします。

映像を見る限り、横断歩道ではない場所で暗闇の中から突然自転車を押した歩行者が飛び出してきており、避けることは難しいという警察のコメントには同意します。また歩行者の側からヘッドライトは見えていたはずであり、自分が歩行者として同じ状況にいたら、このような行動は取らないでしょう。 

誤解している人もいるようですが、自動運転車であってもエンジンやモーター、ステアリング、ブレーキなどのメカニズムは通常の自動車と基本的に共通です。よってブレーキを掛けてから停止するまでの距離は同一です。事故がゼロになるわけではなく、人間のミスを少なくすることで事故を減らす技術です。さらに言えば自動運転車も人間が作るので、開発生産時のミスも考えられます。

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またウーバーは現在全米4か所で200台以上の自動運転車の実験を行っており、2016年1月からの2年間の累計走行距離は320万kmに達するそうです。平均的な人間が一生の間に運転する距離の数倍の経験を積む中で起きた事故と言えます。

一方で今回の自動運転車は、衝突前にブレーキやステアリング操作がなかったという報告があります。センサーやAIが正規の機能を果たしていなかった可能性があります。このようなトラブルになった際、現在実験走行中の多くの自動運転車は、運転席に座るオペレーターに運転を代わってもらうメッセージを出すはずですが、オペレーターの様子から見る限り、そのような兆候がなかったようです。

さらにオペレーターは、自動運転技術で対応できない障害を発見したときには、自主的に運転を変わります。自分がウーバーを含め、今年公道で乗った3台の自動運転車は、路上駐車車両などを追い抜く際に手動に切り替えていました。映像を見る限り、今回のオペレーターはこうした対応もしなかったようです。

しかしこうした状況を理由に自動運転を否定することは早計だと思います。

事故報道を見ながら思い出したのはジェット旅客機の歴史です。世界初のジェット旅客機は英国デ・ハビランド社のコメットでしたが、与圧と減圧の繰り返しで機体の金属疲労が想定以上に進み、2度の空中分解事故を起こし多数の犠牲者を出しました。しかし現在、多くのジェット旅客機が世界の空を飛んでいます。コメットの教訓を安全対策に生かして進化を続け、社会の要求に応えたのです。

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自動運転が必要と考える社会もまた存在します。その代表はこのブログで何度も報告してきたように高齢化が進む過疎地で、公共交通は採算悪化のうえに運転手不足もあって廃止や減便が進み、多くの住民が日々の移動に困っているような場所です。注目したいのは、こうした場所で実験を重ねている車両の多くが最高速度約20km/hという低速で走行していることです。

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スイスのシオンで無人運転バスに乗車中、歩行者が直前に飛び出してきましたが、低速なので瞬時に停止し事なきを得ました。そして今回の死亡事故。現状の技術を考えれば、まず低速走行の公共交通として実用化するのが社会的にも理に叶っているのではないでしょうか。歩行者は永遠に自動化されません。だからこそ徐々に速度を上げつつ、人間とAIが力を合わせて歩行者との付き合い方を考えていくことが大事だと思います。