先月仕事で関西を訪れた際には、今年3月から京都市の叡山電鉄で走り始めた「ひえい」も見てきました。ひえいは叡山電鉄が属する京阪グループが比叡山・琵琶湖への観光ルート活性化の一環として製作した車両で、特別料金は取らず、他の車両に混じって出町柳〜八瀬比叡山口間を走っています。

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外観は何と言っても前面の金色の楕円形が目を引きます。沿線の神聖な空気感や大地の気などをイメージしたそうです。ただ車体の緑を含めて派手ではなく、実車は想像以上に落ち着きがありました。横の窓も楕円で統一してあり、こだわりが伝わってきました。車内のカラーコーディネートも外観と同様で、座席はひとり掛けとして座り心地にこだわり、優先スペースは色違いのヘッドレストと長めの吊り革で識別できます。ドアの上の乗り方案内や運賃表・路線図もスマートにまとめてありました。

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ところでこの車両を形式名ではなく「ひえい」という名前で紹介したのには理由があります。新型車ではなく改造車だからです。1987年に登場した700系をベースに1両だけ作られたもので、その700系は1950年代以前の旧型車の機器を用いて生まれました。700系になってから機器を入れ替え、今回車体を作り変えたという変遷を辿っているのです。

地方鉄道ではこうした形で新しい車両を生み出す例が多く見られます。JR九州の「或る列車」や「はやとの風」などののD&S(デザイン&ストーリー)列車は有名で、多くは特別料金を必要としますが、ひえいと同じように通常料金で乗れる車両も、猫の駅長たまをモチーフにした和歌山電鐵「たま電車」、0系新幹線をイメージしたJR四国「鉄道ホビートレイン」などがあります。

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なぜ新型車ではないのかは説明するまでもないでしょう。費用を出せないからです。欧州のように地方鉄道も自治体が運営主体となれば、税金などを投入して新型観光車両を導入できるでしょう。かつて訪れた南仏ニースのプロヴァンス鉄道はそうでした。それでも叡山電鉄は実績と経験のあるデザイン会社(GKデザイン総研広島)を起用しており、デザインにコストを掛けて良いものに仕上げようという姿勢は感心しますし、その気持ちは観光客に響くはずです。

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ただし現在の日本の観光車両は、多くが水戸岡鋭治氏のデザインであることも事実です。彼の作風を否定するわけではありませんが、似たような雰囲気の車両が増えているという印象を持つ人もいるでしょう。日本には数多くのデザイナーがいます。未知のクリエイターに形を委ねるのはたしかにリスクが伴うかもしれませんが、鉄道会社には勇気を出して新しい可能性に挑戦してもらいたいと思います。