私も所属している「日本福祉のまちづくり学会」第21回全国大会が、8月8日から今日まで神戸市で開かれました。今回は9日に「自動運転が地域交通に貢献する可能性」という題目で研究発表を行なった後、11日に 地域福祉交通特別研究委員会の一員として、「豊かな『くらしの足』を創り,育てる『のりしろ』を考える」というテーマで話題提供及び討論を行いました。

会場にお越しになった皆様、運営に携わった方々には、この場を借りてお礼を申し上げます。

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日本福祉のまちづくり学会ウェブサイト= http://www.fukumachi.net

自分にとって5年目となる全国大会参加は、まだまだ学ぶべきことが多いことを痛感しました。今回はまず、千葉県市原市の事例に驚きました。市原市は県庁所在地である千葉市の隣に位置しており、東京湾沿いは電車がひんぱんに走り工場や商店が並ぶのに対し、内陸部の市津地区は鉄道がないうえにバスが乗客減から廃止となり、地域住民が主体となってデマンドタクシーを走らせているというのです。

市津地区のデマンドタクシーは、実証運行から本格運行へと移行していく過程での内容改善が功を奏し、利用者数は増えているそうですが、東京都心から自動車で約1時間という場所が、日々の移動手段維持にも困っているという現実は、我が国の高齢化・過疎化の問題が大都市のすぐ近郊にまで迫っており、抜本的な対策が必要であるという気持ちになりました。

続いて本日の討論会では、私は近年我が国の地域交通に関連する制度改革に伴って誕生した新しいモビリティの技術やサービス、つまりこのブログで紹介してきた事例を報告したのですが、新しい技術やサービスが開発されれば問題が解決されるわけではないことは分かっています。高齢化や過疎化が進む現在では、これまでのように交通・福祉・コミュニティの取り組みを独立して進めていては問題は解決されず、のりしろを設けるように範囲を広げてみることが大事ではないかというメッセージが出されました。

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個人的には、交通は福祉の一部であるという認識を多くの人に持ってほしいと考えています。欧米ではすでに一般的な考えであり、福祉政策のひとつとして交通が位置付けられ、税金主体で整備や維持が行われます。しかし日本では住民のみならず、国会議員や地方議員でも選挙の際に交通に言及する人は稀であるばかりか、交通と福祉を対立軸に置き、赤字を計上する地域交通は無駄であり、同じ予算を高齢者に直接配分した方が有意義であるという主張さえ聞かれます。

たしかにそのほうが住民にとっては聞こえが良いでしょう。しかし人間は動物の一種であり、移動は人間の本能のひとつであると考えます。移動機会を増やすことで健康を取り戻したというエピソードは各所で目にします。世界屈指の高齢化社会であり、地方の過疎化も進む日本こそ、福祉の一部として交通を考え、積極的に整備と維持を進めていくべきではないか。全国大会が終わった今、改めてこの問題をアピールしていこうという気持ちになりました。