日本自動車工業会(以下自工会)が9月20日、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催直前となる7月6〜12日の1週間、自動運転の実証実験を公開するという発表をしました。この実証には自工会加盟会社10社(スズキ、SUBARU、ダイハツ工業、トヨタ自動車、日産自動車、日野自動車、本田技研工業、マツダ、三菱自動車工業、ヤマハ発動機)が用意する、合計80台もの車両が参画するそうです。

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使用する車両は、 SAEの自動運転レベルでレベル4に相当するようですが、安全性に配慮してドライバーが乗るとのことで、レベル3に近い状態になりそうです。場所は3か所を想定しており、羽田空港地域での公共交通機関であるバスをモデルケースとした実証・デモ、羽田と臨海副都心・都心を結ぶ首都高速道路でのインフラ連携の実証・デモ、臨海副都心での交通量の多い混合交通の公道における自動運転や緊急停止、乗用車や小型モビリティなど多様なタイプの自動運転車両による実証・デモを行うとしています。

日本政府は2020年に、自家用車でのレベル3と移動サービスでのレベル4実現を目標としており、この実証実験は目標どおりの結果を披露する場として、海外からも注目を集めそうです。一方で羽田空港、首都高速道路、 臨海副都心はいずれも外部からの交通流入が限られた場所であり、東京都内では比較的自動運転の実証が行いやすい場ではないかと考えています。

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ではなぜ本格的なサービスではなく実証実験に留まるのか。今年3月のウーバー自動運転車による死亡事故によって、不特定多数のドライバーが自動運転車に自由に乗る形態を不安視する意見が目立ってきたことがあるでしょう。また法整備が追い付いていないことも挙げられます。昨年、市販車初のレベル3を実現とアナウンスしたドイツの高級車アウディA8は、発表から1年経った今も、日本のみならずドイツでさえレベル3は認められず、一部の機器を搭載せずに販売しています。

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最近はレベル3、レベル4とひとつずつステップを上げていくのではなく、車両側は完全自動のレベル4を達成したうえで人間を乗せ、人間の介在度合いを変えていくことでレベルアップを図る方式が主流になりつつあるようです。シティモビル2から生まれた無人運転小型バスはそうですし、自工会が今回発表した内容もこの方式です。その場合、完全なレベル4に至るまでは実証実験扱いになるのは仕方がないでしょう。

ただし自動運転の研究開発を行なっているのは自工会に加盟するメーカーだけではありません。このブログでも紹介してきたDeNAやソフトバンクグループのSBドライブなど、新たな企業がこの分野に参入しています。米国におけるウェイモ(旧グーグル)やアップルなどに似た立場と言えるでしょう。石川県輪島市のように、自治体が主導して自動運転の実証を行なう例もあります。自動運転を多くの人に体験してもらうという点で、彼らの貢献度は大きいと思っています。

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既存のメーカーとこれら新興勢力を敵対関係に置く論調も見られますが、そもそもモビリティとは鉄道、バス、自動車、自転車などが力を合わせて理想の移動環境を作り上げていく世界ではないかと思っています。メーカーが得意な分野、ベンチャーが得意な分野があるはずです。競争ではなく共存の精神で、自動運転社会のいち早い実現という同じ目標に向けて進んでいってほしいと考えています。